第204話 処遇会議
フェル姉ちゃんとリエル姉ちゃんを見つけてから三日かけて聖都まで戻ってきた。
三日も経っているけど、二人ともまだ目を覚ましていない。
空を飛んで運ぶのは危険かもしれないってことで、最初に聖都へ来た時と同じように地上を移動してきた。アビスちゃんは「大丈夫ですよ」って言っているけど、目を覚ますまではすごく心配。
でも、聖都までくればちゃんとした屋根のある場所に寝せてもらえるだろうし、もっと早く目を覚ましてくれると思う。
もう遅い時間だ。早くアムドゥアさんが用意したっていう家に行ってフェル姉ちゃん達を休ませたい。
普段は門を閉めている時間らしいけど、フェル姉ちゃんが南門を壊したからそこから入れるみたい。
南門まで来ると、アムドゥアおじさんが出迎えに来てくれていた。
女神教の人も何人かいるみたいだ。治癒魔法が使える人を用意しておくって言ってたからその関係の人達かな。
ここに来るまでは司祭様が治癒魔法を使ってくれたけど一日中使っていたからすごく疲れてる。アミィ姉ちゃんが付き添っているから大丈夫だとは思うけど、司祭様もゆっくり休ませないと。
「皆さん、よく戻って来てくれた。早速休めるところへ案内しよう。それと何人かの方にはこれからのことを話し合っておきたいのだが……」
何人か、ではなくて全員が聞くことになった。
ただ、司祭様とアミィ姉ちゃんだけはお疲れだし部屋に戻って休むみたいだ。
そしてジョゼちゃん達スライムちゃんだけが聖都の中に入りフェル姉ちゃんやリエル姉ちゃんの護衛をするみたい。他のみんなは聖都の外で待機することになった。
魔物のみんなと別れた後、アムドゥアおじさんの案内で聖都を歩く。
ものすごく静か。アンリ達の足音くらいしか聞こえない。遅い時間と言っても眠っちゃう時間じゃないと思うんだけど。
一応アムドゥアおじさんに聞いてみようかな。
「聖都の夜っていつもこんなに静かなの?」
「いや、そんなことはない。ただ、女神教に色々あったから騒ぐようなことが出来ないのだろう。女神教が洗脳による布教をしていたというのもあるが、空中都市が落ちたからな。それに女神は邪神だった。普段から何かを信仰している者は、その信仰をなくせばそうなるものだ」
「それって大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないな。だが、この三日間でリエルが邪神を討伐したという話を広めた。あとはリエルが目を覚まして新しい心の拠り所を示せれば皆も前と同じようになるだろう。そのことも踏まえてこれから会って貰いたい人達がいる」
「会ってもらいたい人達?」
「ああ、君達からすると会いたくない相手だとは思うが、どうしてもと言われてな。勇者と賢者、それに教皇だ。これから一緒に話をするつもりだ。もちろん謝罪も含めてな」
アムドゥアおじさんがそう言った直後に大きなお屋敷の前で立ち止まった。
「さあ、この家だ。三人はすでに中で待っている。もちろん武器などは持っていないし、拘束用の手錠もかけているから大丈夫だ。そもそもそちらの魔族さん達に俺達は勝てないから大丈夫だろ?」
アムドゥアおじさんはそう言って皆を中へ招き入れた。
大きな部屋に案内されると、そこには賢者と教皇って人が手錠をされた状態で椅子に座っていた。もう一人座っているのがたぶん勇者なんだと思う。ヘルメットを取った顔を始めてみたからたぶんとしか言いようがないけど、知らない人を座らせるわけがないから間違いないと思う。
アンリ達が部屋に入ると、三人がほとんど同時に立ち上がった。そして三人とも頭を下げる。
「ソドゴラ村の皆さんには大変なことをしてしまいました。もちろん魔族の方にも。女神教のトップとして謝罪いたします」
教皇って人が代表で謝罪してくれたみたいだ。
この場合、おじいちゃんがそれを受け入れるかどうかってことになるのかな。ソドゴラ村の村長だし。
「謝罪を受け入れるかどうかはこれからの話で決めたいと思います。アムドゥアさん、これからについて話をしたいとのことですが、どのようなお話なのですかな?」
「女神教の――リエルが立ち上げるという新しい宗教についてのこと、それにこの三人の処遇についてだ。リエルがまだ目を覚ましていないのだが、色々と決めておきたい。ただ、それには皆さんの了承を得ないといけないと思っている」
「我々の了承、ですか?」
「ああ、まずは椅子に座ってくれ。長くなりそうだからな」
長いテーブルの上座にアムドゥアおじさんが座り、そのテーブルの左右に皆が座った。
勇者達はアムドゥアおじさんの後ろ側の椅子に三人で座っているだけだ。勇者も賢者もなんだか前に見たときと違って普通のおじいちゃんに見える。以前のような覇気がない。でも、目に力はある。毅然とした態度ってことなのかな。
そんな勇者たちのことをアムドゥアおじさんがちらっと見てから、みんなを見渡した。
「早速本題に入ろう。まず、この三人の処遇だがリエルと同じようにしたいと思う。それを了承してもらいたい」
「リエル君と同じように、とは?」
「邪神を倒すために女神教に従った振りをしていたということだな。そしてリエルと一緒に邪神を倒した勇者になってもらうつもりだ」
「馬鹿な!」
勇者が立ち上がってアムドゥアさんに近寄ろうとした。でも、足に鎖が繋がっているみたいで座っていた椅子から離れられないみたいだ。
「アムドゥア! 何を言っている! そんな嘘をついてどうするつもりだ!」
「理由は簡単だ。アンタらが女神に従っていましたじゃ、新しい宗教の立ち上げが難しくなる。アンタらも新しい宗教の象徴となってもらう必要があるんだよ。そうしないともっと大きな混乱がロモン国で起きる。今のところ死者はいないようだが、怪我人は多く出ているんだ。だからリエルと一緒に女神を倒したってことにしてくれ」
「儂に――儂らに生き恥を晒せと言うのか! 他人の手柄を自分の物にして偽りの称賛を受けながら生きろと!?」
「その通りだ。よく分かっているじゃないか」
「な、なに?」
「バルトス、シアス、ティマ、そして俺もだが、女神の暴走を止められなかった罪の罰を受けろと言っているんだ。本来受けることのない称賛を受けて残りの人生を生きるのは苦痛だろう? それが俺達への罰なんだ」
称賛を受けて生きるのが罰……自分の手柄じゃないのにそれを称賛されることは確かに苦痛かも。もちろん他人の手柄でも喜ぶ人はいるだろうけど、勇者には屈辱でしかないと思う。
「ティマを操り、バルトスやシアスに力を与えたのが何だったのかは分からない。だが、まともな奴じゃなかっただろう。それを倒したのはフェルと言う魔族だ。俺達はその手柄を貰う。魔族に情けをかけてもらう訳だな。バルトスやシアスにとっては死よりもつらいことだろう? だからこそ罰になる」
「だ、だが――!」
「俺達は女神教と言う名前で洗脳による人界征服と変わらないようなことをやっていたんだぞ? そして多くの女神教徒を騙していた。まさか死んだくらいで罪を償えるとは思っていないよな?」
「ぐっ……だが、手柄については本人の了承を得るべきだろう!? 空中都市を落とすほどのことをしたのだぞ!? 勝手に決めていいことではないはずだ!」
「フェル様を見くびるな」
オリスア姉ちゃんが腕を組んだまま答えた。そして勇者のほうを見る。
「お前たちの罪やら罰やらはどうでもいい。だが、フェル様はたとえ人族でも困っている人がいるなら手を差し伸べるだろう。手柄を譲ることで国の混乱が収まるならフェル様は喜んで手柄を譲るはずだ。いや、もしかしたら、女神ごときを倒したことなど手柄と思っていないかもしれん。つまりフェル様に了承を得る必要もないということだ」
オリスア姉ちゃんの言葉にドレアおじさんやサルガナおじさん、それにヤト姉ちゃんも頷いている。
そこで急に部屋の扉が開いた。
「俺もそう思う。フェルはそんなことなんでもないって言ってくれるはずだ。もちろん、フェルが目を覚ましたら俺が頭を下げて頼む。だからバルトスじいさん、アンタはその罰を受けろ。もちろんシアスじいさんもティマもな。もちろん、アムドゥアや俺もだ」
リエル姉ちゃんがアミィ姉ちゃんの肩を借りながら部屋に入って来た。
それを見たヴァイア姉ちゃんとディア姉ちゃんが駆け寄る。そしてアミィ姉ちゃんの代わりに肩を貸したみたい。
良かった。リエル姉ちゃんが目を覚ました。ちょっとフラフラしているけどものすごく目に力が入ってる。気力が漲っている感じだ。
「リエル、もう平気なのか?」
「平気なわけがあるか。でも、寝ている場合でもないだろ? それにとっとと終わらせてフェルのそばにいてやりたいんだよ。何でもやってやるから俺がやるべきことを教えてくれ――いや、その前に色々な情報収集だな。状況を教えてくれ」
リエル姉ちゃんはまだ足元がおぼつかない感じだけど、すごくやる気になってる。
よし、アンリも色々お手伝いをしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます