第201話 空中都市と青い光
フェル姉ちゃんが師匠さんと大聖堂へ入っていく。
なぜか不安な気持ちでいっぱいだけど、フェル姉ちゃんなら大丈夫。いつだってフェル姉ちゃんはアンリの想像の斜め上を行く。すぐにリエル姉ちゃんを連れ帰ってくれるはずだ。
そっちはフェル姉ちゃんに任せてアンリは出来ることをやろう。
といってもできる事なんて今は何もない。とりあえず周りを見てみようかな。
オリスア姉ちゃん達は勇者と賢者を見張っている。
二人をアラクネ姉ちゃんの糸でぐるぐる巻きにして動けないようにしているみたいだ。オリスア姉ちゃんは脇腹の怪我も治っているみたいだし、サルガナおじさんもいるから、勇者と賢者が目を覚ましても大丈夫だと思う。
アムドゥアおじさんは女神教の人達と色々お話をしているみたいだ。
良くは聞こえないけど、女神は実は邪神で魔族とリエル姉ちゃんが手を組んで倒すって話になっているみたい。そして今回の魔族の襲撃を邪魔したのは女神にばれないようにするためで、勇者と賢者は魔族と戦った振りをしただけだと説明している。
勇者や賢者までそういう形にするって話だったっけ? 女神が邪神だってことは確かにそういう形にするって話だけど、勇者と賢者のことは初耳。
それでもいいけど、アンリとしては勇者と賢者にしっかりとケジメを付けてもらいたい。それが出来ないならアンリの魔剣フェル・デレを唸らせる。
ヴァイア姉ちゃんやディア姉ちゃんは大聖堂のほうを見て心配そうにしている。
アンリと同じだ。ヴァイア姉ちゃん達もフェル姉ちゃん達が心配なんだと思う。リエル姉ちゃんも心配だけど、アンリとしてはなぜかフェル姉ちゃんが心配。
でも、そんなことないって首を振った。アンリが信じなくて誰が信じるって話だ。
「ヴァイア姉ちゃん、ディア姉ちゃん。フェル姉ちゃんもリエル姉ちゃんも大丈夫だから心配する必要はない」
これはアンリ自身にもいい聞かしている。何となく不安な感じだけどフェル姉ちゃんならすぐに戻って来てくれるはず。アンリ達が心配することなんて何もない。
アンリの言葉にヴァイア姉ちゃんが頷いた。
「そうだよね。フェルちゃんなら絶対何とかしてくれるよね」
ヴァイア姉ちゃんがそう言った直後、フェル姉ちゃんから念話が届いた。
『村長、爺さん。大聖堂に来てくれ。教皇が気を失っている。ここから連れ出して介抱してやってほしい。私達はリエルを追うから後は頼んだぞ』
教皇が気を失っている? それにリエル姉ちゃんを追うって何だろう? この大聖堂からどこかへ行ったってこと?
おじいちゃん達が大聖堂へ向かうみたいだから、アンリも一緒に行こう。
おじいちゃんの後を追ってスザンナ姉ちゃんやヴァイア姉ちゃん達と一緒に大聖堂へ入った。
随分と広い場所だ。ほとんど真っ白い部屋に入口から奥にある祭壇のほうまで青い絨毯が敷かれている。そして天井付近の窓はステンドグラスとかいうたくさんの色が付いた窓がいくつもあった。
祭壇の近くに誰か倒れている。あれが教皇なのかな?
「ティマ!」
おじいちゃんがそう言って奥の方へ走っていった。司祭様と一緒にそれに続く。
祭壇の前でおじいちゃんが教皇を抱きかかえている。
教皇は額に血が付いているけど、今は止まっているみたい。
「司祭様、怪我を見てくれませんか?」
「うむ……いや、傷はふさがっておる。頭へ強い衝撃を受けた可能性もあるからそっとしておいた方がいいの。アミィ、何人かで運ぶからアムドゥア殿に行って信頼できそうな者を連れてくるようにお願いしてきてくれ」
「わかったよ、おじいちゃん!」
アミィ姉ちゃんはそう言うと急いで外のほうへ走っていった。
「これはフェルさんがしたのでしょうか……?」
「いや、傷の具合から見てリエル様が持っているメイスじゃろうな。だが、リエル様がそんなことをする訳がない。おそらくリエル様は操られておるのじゃろう。それが女神なのか邪神なのか、または別の何なのかは分からんがな……」
そういえば、フェル姉ちゃんはリエル姉ちゃんを追うって言ってた。それは女神に操られたリエル姉ちゃんのことなのかな?
教皇や勇者、それに賢者がリエル姉ちゃんを教皇にしようとしていたから三人を倒せば終わりかと思っていたんだけど、もしかしたら本当に女神がいるのかも。
勇者も女神から力を貰ったとか言っていたし、その女神――ううん、邪神がリエル姉ちゃんを操っているのかな?
でも、リエル姉ちゃんやフェル姉ちゃんはどこに? この場所からどこかへ行けるとは思えないんだけど?
そんなことを考えていたら、外からアムドゥアおじさんと複数の人が入って来た。
そしてこっちに近寄って来てから教皇のそばに片膝をつく。
「間違いなく教皇だな。だが、なぜこんなことになっているんだ? 教皇がリエルを操るんじゃないのか……? いや、それは後で聞き出せばいい。それじゃ教皇を貴族街にある俺の家へ運んでくれ」
アムドゥアおじさんが連れてきた人達がその言葉に頷く。そして数人がかりで運んで行った。
「アムドゥアさん、リエルさんやフェルさんはどこへ向かったのでしょう? ここからどこか別の場所へ行けるのですか?」
おじいちゃんがそう聞くと、アムドゥアおじさんは顎に手を当ててから上を見た。
「可能性があるとしたら、あそこしかない。空中都市へ行ったんだろう。あそこには教皇しか行けないが、リエルが誰かに操られているのなら行く方法を知っている可能性がある。もしかすると本当に女神がいるのか……?」
今この聖都の上空にある空中都市。
リエル姉ちゃんがそこへ行ったのなら、フェル姉ちゃんもそれを追って一緒に行ったってことかな?
そう思った瞬間、地震のように床が揺れて地響きみたいな音が聞こえてきた。
すぐにおじいちゃんがアンリとスザンナ姉ちゃんに覆いかぶさるようにしてくれる。
「おじいちゃん、この揺れって何?」
「いや、分からんが……まさか空中都市が動き出したのか?」
おじいちゃんの言葉にアムドゥアおじさんが頷く。
「そのまさかだ。だが、ずいぶんと慌てて動いた感じがする。空中都市で何かあったのは間違いないな。大丈夫だとは思うが、念のためここを出よう。外のほうが安全だ」
全員が頷く。そして大聖堂から外へ出た。
たくさんの人が上のほうを指さして声を上げている。
アンリもその指の先を見た。
アムドゥアおじさんが言った通り空中都市が動いていた。ならあそこにリエル姉ちゃんとフェル姉ちゃんがいる?
「おじいちゃん、フェル姉ちゃんは大丈夫かな? ちゃんと帰って来れる?」
「……分からない。一体あそこで何が起きているんだろうね。腕輪による念話は届くかもしれないが、いま余計な言葉をかけると危ないかもしれないから念話は使っちゃダメだよ。なにかあればフェルさんから連絡が来るだろうからね」
「……うん、心配だけど念話はしないようにする」
戦っている時に念話で大声をだして驚かせるっていう戦い方があるって聞いたことがある。それは味方の念話でも同じだって教わった。状況が分からないなら念話は厳禁だ。
「いつものコースじゃないな……?」
アムドゥアおじさんが独り言のようにそんなことを言った。
「いつものコースって?」
「うん? ああ、聞こえたか。あの空中都市だ。いつもここを離れるときは同じコースを通って戻るのだが、今日はまったく違う方向へ移動している。あのままだと外海のほうまで行ってしまうんじゃないか?」
外海――確か人界を覆っている巨大な海のこと。内海のように穏やかじゃなくてすごく荒くれた海だとか聞いたことがある。それにすごい魔物がいるとか。
でも、なんでそんなところへ行くんだろう?
『皆、聞いてくれ。これから空中庭――空中都市から白い球体が飛び出してレメト湖に落ちる。白い球体にはリエルがいるから、助けてやってくれ』
フェル姉ちゃんだ!
いきなりフェル姉ちゃんから念話が届いたけど、何を言ってるんだろう? 白い球体が飛び出してレメト湖に落ちる? その球体にリエル姉ちゃんがいる?
『ちょっとフェルちゃん! いきなり何言ってんの! 空中都市が動いているのはなに!?』
『ディア。いま詳しく説明している暇はない。リエルは気を失ったままになるだろうが、ちゃんと保護しておいてくれ。頼むぞ』
フェル姉ちゃんの説明は色々と足りない。みんながそれぞれフェル姉ちゃんに質問しているみたいだ。アンリも大丈夫なのか聞いた。
『皆様、落ち着いてください!』
ステア姉ちゃんの声だ。その一言で全員が黙る。
『フェル様は時間が無いとおっしゃっています。ならば、理由は後にして、すぐに取り掛かりましょう。フェル様、リエル様に関しては、私とナガル様が対応致します。おそらくレメト湖に一番近いのは私達ですので』
『そうだったな。よろしく頼む』
『はい。お任せを。メノウ、貴方はメイド達を連れてすぐにレメト湖へ来るのです。リエル様を無事に保護しなくてはいけません。今の私の手持ちでは心もとないので、食糧や医療器具などを持ってきてください』
『はい! すぐに参ります!』
『すまない。よろしく頼むぞ。また、連絡する』
フェル姉ちゃんからの連絡が切れた。
次の瞬間、空中都市から白い球みたいなものが放出される。それが北のほうへ飛んで行ったみたいだ。飛んで行ったというよりは落ちてるのかな。
あれにリエル姉ちゃんがいるってこと? でも、あんな高さから落ちたら大変だと思うんだけど――ああ、だからレメト湖に落とすって言ったのかな? 水の上なら大丈夫――かどうかは分からないけど普通の地面よりは平気っぽい気がする。
レメト湖はここからはカブトムシさんでも二日くらいかかるけど、パンドラ遺跡の近くにいるステア姉ちゃんならナガルちゃんもいるし一日以内に着けると思う。ナガルちゃんの足は速いからもしかしたらもっと早く着くかもしれない。
うん、これでリエル姉ちゃんは大丈夫……でも、フェル姉ちゃんは?
「え……? なにあれ?」
スザンナ姉ちゃんが不思議そうな声を出しながら空中都市のほうを見ている。
空中都市のほうを見上げると結構遠くまで移動していたみたい。よく見ると空中都市から上空の方へ青い光が立ち昇っていた。
その光が徐々に細くなり、その光が消えそうになった瞬間に雷のような音が轟く。そして空中都市から黒い煙が出ているのが見えた。あれって空中都市が攻撃された……?
もしかして空中都市から光が出てるんじゃなくて、さらにその上空から空中都市に光が当たってる?
あれはフェル姉ちゃんがやってるの? それともフェル姉ちゃんが攻撃されているの? どっち!?
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