第194話 作戦の確認

 

 メーデイアを出て四日目、ディア姉ちゃんの案内で聖都の近くにある異端審問官の拠点にやってきた。


 ディア姉ちゃんが言うには全然使われていない拠点で今日はここに泊まるみたい。最近はずっと野宿だったから屋根のある場所で寝れるのはすごく嬉しい。


 一日目の野宿とかは結構楽しかったけど、三日目くらいになると結構大変。村に来る前のスザンナ姉ちゃんはいつもほとんど野宿だったというから驚き。


 それに本当なら夜寝るときに見張りとかをしなくちゃいけない。それは全部魔物のみんながやってくれたから、アンリは熟睡だった。普通に見張りをした場合、アンリは起きれるかな?


 おじいちゃんもスザンナ姉ちゃんもアンリはまだそんなことしなくていいからって言ってたけど、常在戦場の気持ちでいるアンリとしては今からでも練習したほうがいいと思う。リエル姉ちゃんを助けたらそういう訓練もしていこう。ソドゴラ村の広場でやろうかな。


 そんなことを考えながら拠点の中に入る。


 使ってなかったと言っていた通り、中はなんだかカビ臭い。くしゃみが出そう。それにここは地下にあるからジメジメして何となく嫌。今日はゆっくりできると思ったんだけど、これは駄目かな?


 フェル姉ちゃんも顔をしかめてる。


「ディア、ここって換気できないのか? 一晩だけでも、ちょっと辛いぞ?」


「それは盲点だったよ……ヴァイアちゃん、空気清浄の魔道具ってある?」


「うん、あるよ。毒とか撒かれた時のために作っておいたんだ。ちょっと待ってね」


 ヴァイア姉ちゃんが亜空間から大きい箱みたいなものを取り出した。それに魔力を込める。


 空気洗浄……あのゾンビマスクの上位魔道具かな? あのマスクは口元部分くらいしか空気を洗浄出来ないけどこの魔道具なら部屋全体を洗浄できるのかな?


 しばらくするとかび臭い空気は無くなって、さらにジメジメもなくなった。すごく爽快。


「どうかな? この地下くらいならもう大丈夫だと思うけど」


「十分だ。どんな原理で空気を清浄しているのか知らんが助かる」


「それはね、空気中の不要な――」


「いや、説明は要らない。明日のために早く食事をして寝よう」


 フェル姉ちゃんはヴァイア姉ちゃんの説明を止めた。それは正解だと思う。ヴァイア姉ちゃんは知識が豊富だから何かの説明をすると止まらない。原理は分からないけどすごいということが分かれば十分。


 ディア姉ちゃんが地上に通じる扉を閉めてから皆を見渡した。


「それじゃ、この後は食事をしながら簡単なミーティングをするよ。まあ、おさらいみたいなものかな。その後はすぐ休んだ方がいいかも。ちなみに一人一部屋あるからね。それとシャワーを浴びる場所もあるよ。明日に備えて英気を養ってね!」


 至れり尽くせり。シャワーを浴びれるって言うのは嬉しい。野宿の時はお風呂も全然入れない。水で濡らしたタオルで体を拭くくらい。スザンナ姉ちゃんは水を操作できるから色々出来るけどアンリはそんなことできないから普通に体を拭いてた。


 次にディア姉ちゃんはヤト姉ちゃんとメノウ姉ちゃんに料理をお願いした。


 野宿中でも料理に関してはいつも美味しかった。でも、おじいちゃん曰く、普通はこんなに食材を運べないみたい。これはヴァイア姉ちゃんの亜空間が付与された魔道具のおかげだとか。


 アンリも薄々分かっていたけど、これでもかなり快適なんだなって思う。普通に旅をしたらこんなに早く移動は出来ないし、食べ物はほとんど保存食、夜はぐっすり眠れないって感じになるみたい。旅をするって大変だ。


 料理ができるまで一度部屋で休憩することになった。アンリとおじいちゃんとスザンナ姉ちゃんは一緒の部屋だ。ベッドは二つしかないけど、アンリとスザンナ姉ちゃんは一緒に寝るから問題なし。


 荷物、と言ってもヴァイア姉ちゃんが渡してくれたポーチだけなんだけど、それを床に置いてベッドに座った。スザンナ姉ちゃんも横に座ってくれる。おじいちゃんは対面のベッドに腰かけた。


 おじいちゃんはメーデイアの町を出て以来、勉強しようとは言わなくなった。さすがに野宿中に勉強しようと言われたら暴れるつもりだったけど、そんなことなくて安心。


 ただ、気になる。おじいちゃんはなぜかアンリに優しくなった気がする。今までも優しかったけど、さらに倍って感じ。


「おじいちゃんはメーデイアを出てからちょっと変わったけど、何かあった?」


「そうだね、なにかあったと言えばあったかな。長年の悩みが解決したと言ってもいい」


「そうなんだ? フェル姉ちゃんとお話したときに解決したの?」


 おじいちゃんはちょっと驚いてから笑顔で頷いた。


「そうだよ。フェルさんに気づかされたと言ってもいいかな。それにここへ来る途中に夢を見た。笑顔のあの子を見たのは久しぶりでね、色々と救われたよ」


「あの子って?」


「おじいちゃんの大事な人だよ。アンリにもいつか教えてあげよう」


「ふーん? もしかしておばあちゃんのこと?」


 おばあちゃんはアンリが生まれるずっと前に亡くなったって聞いた。おばあちゃんはおじいちゃんの幼馴染で、アンリはおばあちゃんの子供の頃に似てるとか聞いたことがある。


「おばあちゃんか。ちょっと違うけど似たようなものかな……いつかすべてが終わったら墓参りに行かないといけないね」


「うん、その時はアンリも行く」


「そうだね……その時はもう一つの墓にも案内しよう」


「もう一つ?」


「気にしなくていいよ。その時になるまではね。それにそこまで行けるかどうか分からないからね」


 よく分からないけど、結構遠い場所にあるのかな? おじいちゃん達はトラン出身だって言ってたし、トラン国にあるのかも。


「村長、料理の準備ができました」


 部屋の外からディア姉ちゃんの声が聞こえた。


 みんなで外に出ると、大きな一つのテーブルにほかの人達が座っていた。アンリ達も空いている席に座る。


 テーブルの上には結構豪華な料理がたくさん置かれていた。ヤト姉ちゃんとメノウ姉ちゃんが腕によりをかけて作ってくれたんだと思う。


 フェル姉ちゃんがテーブルに座っていただきますをしたら、みんなもいただきますをして食べ始めた。


 うん、美味しい。このシチューとか最高。


「はい、それじゃみんな食べながら聞いてね。みんな、自分のやることは分かっていると思うけど、念のために最終確認しておくよ」


 ディア姉ちゃんがそう言うとみんなのやることを色々話し出した。この四日間で色々説明してもらったけど、最後にもう一回確認だ。


 明日の朝十時に女神教で降神の儀っていうのが行われるみたい。それを邪魔する形で乗り込む感じ。


 まず、朝十時になったらフェル姉ちゃんが聖都の南門を破壊。それと同時くらいにオリン国やルハラ帝国、それに冒険者ギルドから女神教は洗脳で信者を増やしている邪教という声明がでる。


 女神教の人たちが混乱している間に、魔物のみんなが破邪結界を作っている施設を四つすべて破壊する手はずだ。メイドさん達のおかげですでに場所は判明しているからジョゼちゃん達ならそんなに難しくはないかな。


 四つの施設が破壊されたらフェル姉ちゃんと魔族のみんなが正面から乗り込む。


 使徒アムドゥアって人にはサルガナおじさん、賢者シアスにはドレアおじさん、そして勇者バルトスにはオリスア姉ちゃんがそれぞれ相手をすることになってる。


 そしてフェル姉ちゃんは教皇と戦うみたい。もしかしたら今日お外に浮かんでいた空中都市まで行くのかな?


 あそこには女神がいるらしいから行ってみたいけどここは我慢。アンリにもやることがある。


 司祭様やアミィ姉ちゃん達は他の女神教の人達を避難。ヴァイア姉ちゃんやディア姉ちゃんは念話での作戦司令とか状況確認。そしてアンリ達はノスト兄ちゃんと一緒にヴァイア姉ちゃん達の護衛だ。


 フェル姉ちゃんがリエル姉ちゃんを助け出したら、リエル姉ちゃんが女神は邪神だったということを暴露してもらう。リエル姉ちゃんは邪教を内部から滅ぼすために聖女になって魔族のフェル姉ちゃんに助けを依頼したって形にするみたい。


 そして女神教は廃止して、別の宗教をリエル姉ちゃんが立ちあげる。たしか聖人教って名前。


 こんな流れだけど、問題が起きてもフェル姉ちゃんがいるんだしどうとでもなると思う。


 大体の作戦内容はアンリも頭に叩き込んだ。アンリは危険なことをしちゃいけないって約束があるから大人しくしてるつもりだけど、ヴァイア姉ちゃん達に何かあればフェル・デレが唸る。それくらいの気持ちでいないと。


 うん、気合を入れていこう。明日はみんなと力を合わせて絶対にリエル姉ちゃんを救い出すぞ。

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