第175話 不思議なダンジョン

 

 ヴァイア姉ちゃんが作った指輪っぽい魔道具をつけて、厨房にある裏口から外に出た。


 アンリ達はお互いに見えるけど、ほかの人からは見えないみたい。そう言われても本当に見えていないのか、ちょっとドキドキする。


 あと、この指輪の魔道具を持っている人同士で念話が出来るみたい。でも、それは無理じゃないかな? たしかこの結界の中じゃ念話ができないとかジョゼちゃんが言ってた。


『みんな聞こえるかな? 一応、防音空間も周囲に展開しているけど、大きな声を発すると場所がばれちゃうからここからは念話だけで行動してね!』


 ヴァイア姉ちゃんからの念話が聞こえた。なんで聞こえるんだろう?


『ヴァイア姉ちゃん。この破邪結界の中だと念話が使えないって言ってたけど、何で使えるの?』


『使えるように術式を組んだからだね。残念だけど破邪結界の術式全部は解析できてないから無効化は出来ないんだけど、念話を妨害している術式だけは解析したからそれを無効化してるんだ。でも、残念ながら村の外へはつなげられないね。あくまでも、同じ指輪を持っている人達だけの念話だよ』


 ヴァイア姉ちゃんは簡単に言ってるけど、知らない魔法の術式解析って簡単にできるんだっけ?


『それはどうでもいいから早くアビスへ行こう! あそこなら魔物さん達も大丈夫だろうし、籠城するならうってつけだと思う!』


『うむ、ヴァイア君の言う通りだな。姿を消しているとはいえ、普通の道を通るのは危険だ。少し遠回りになるが、森を抜けて畑のほうへ行き、アビスへ入ろう』


 おじいちゃんからの言葉に全員が返事をする。そして行動を開始した。


 先頭はおじいちゃん。その後ろにリエル姉ちゃん達だ。


 ヴァイア姉ちゃんとディア姉ちゃんの二人がリエル姉ちゃんの両脇から肩を貸して運んでいる。男の人のほうが運びやすいんだろうけど、何かあった時の戦力を残すためにヴァイア姉ちゃん達が運んでるみたいだ。


 それを護衛しているのがノスト兄ちゃんと司祭様。周囲を警戒しながらリエル姉ちゃん達のすぐそばで移動している。


 その後ろにはアンリとスザンナ姉ちゃん。アンリに戦闘力はないから、スザンナ姉ちゃんがアンリを護衛している感じだ。いつでも腰にある水筒から水を出せるようにしているみたい。すごく心強い。


 アンリ達の後ろはムクイ兄ちゃん達。ゾルデ姉ちゃんは意識がなくなっていたからムクイ兄ちゃんがおんぶしてる。斧は重すぎて持てなかったんだけど、それはヴァイア姉ちゃんの亜空間に入れて運んでいるから問題なし。


 最後尾はジョゼちゃんだ。「殿しんがりは任せてください」って言いだした。破邪結界の中だと弱体化しているから真ん中にいたほうがいいと言ったんだけど、聞き入れてくれなかった。


 押し問答している場合じゃないので、ジョゼちゃんのためにも早くアビスへ行こう。




 森の中をそーっとあるきながら、畑が広がっている場所まで来た。アビスの入口まであと三百メートルくらい。


 なのに、入口には女神教の人がたくさんいる。あの賢者シアスって人もいるみたいだ。


「バルトスを氷漬けにして逃げた? 魔物といい、住人といい、この村はなんなんじゃ? まさかとは思うが魔族から何か力を授かったんじゃなかろうな? ……いや、女神様じゃあるまいし、そんなことはないか。ところで、このダンジョンの中はどうじゃ?」


「はい。何人か中へ送りましたが、魔物達が防衛をしているようです。またトラップも多く、発動すると強制的に外へ出される仕組みのようで、攻略は難航しております。不思議なのは住人たちにはまったくトラップが発動しないことですね。我々をピンポイントに狙うトラップのようです。また、ダンジョンの中では破邪結界が無効化されています。魔物達に結界の影響がみられないとのことです」


「ダンジョンそのものが村の住人を守っておるのか? それに破邪結界の無効化じゃと? なんなんじゃこのダンジョンは……?」


「わかりません。最近になって遺跡機関に登録されたダンジョンであり、名前はアビスというらしいです。この村が管理を行っているようですが、いつ頃からあるダンジョンなのかは全く不明だそうで」


「ふむ……儂は見たことはないんじゃが、昔、魔族はダンジョンを造れたという話があった。以前からあったのではなく、魔族のフェルが造ったのかもしれんな。なら、いたずらに入るのはやめておくか。バルトスが来るまで待とう。お前たちは逃げたリエルの嬢ちゃんを探してくれ。安定するまで時間がかかるだろうからな。それと入口に誰かが入るかもしれんから、その見張りも頼む」


「はっ!」


 シアスって人がほかの女神教の人と話をしている。


 でも、力を授かるって何だろう? 女神なら力を授けられるってこと? それに安定するまで時間がかかるって何のこと? 分かんない事ばっかり。


 色々分からないけど、ダンジョンに逃げ込めば何とかなると思う。ダンジョンでフェル姉ちゃん達が帰ってくるのを待てばアンリ達の勝ちだ。でも、フェル姉ちゃんはいつ頃帰って来れるかな……?


『みんな、地下へ降りる階段のあの場所は警備が手薄だ。あそこから入ろう』


 おじいちゃんが、ダンジョンへ降りる階段の南側を指した。地下へ降りる階段は結構広い。階段の一番南側部分は女神教の人が少ないから、気づかれなければそのまま中へ入れるはず。


『ジョゼフィーヌさん、まずは最初に貴方から。ジョゼフィーヌさんがダンジョンへ入れれば、中から支援が可能なはず。最初と言うことで危険ではありますが、お願いしてよろしいですか?』


『分かりました。では私が最初に行きます。中に入ったら支援を行いますが、皆さんも十分にお気をつけて』


『よろしくお願いします』


 ジョゼちゃんはまた水たまりみたいな形になって地面をずるずると移動し始めた。消えてはいるけど、万全を期して行動しているみたいだ。


 あれ? でも、さっきおじいちゃんがジョゼちゃんの言葉を分かった?


『おじいちゃん、ジョゼちゃんの言葉が分かるの?』


『うん? そういえば、普通に言ってることが分かったね』


『それはこの念話がバイリンガル対応だからだね! 魔物さんの言葉を共通語にして聞こえるようにしてあるよ!』


 さっきからヴァイア姉ちゃんのテンションが高い。それはそれとして、魔物言語を翻訳できるってこと? なんてこと、アンリのアイデンティティを奪う魔道具だった。


 でも仕方ない。アンリが通訳する必要がないならそれに越したことはないと思う。今はそんなことよりもちゃんとダンジョンへ行けることが先決。


 そうこうしているうちにジョゼちゃんがダンジョンの階段のところまで着いたみたい。そして気づかれずに階段を下りて行った。


『無事にアビスの中へ入れました。なるほど、アビスの中なら破邪結界も効かないようです。では、皆さんもアビスの中へ。もし見つかった場合は、全員ダッシュで駈け込んでください。私が何とかします』


 すごく頼もしい。フェル姉ちゃんがいるみたいな安心感。


『次はアンリとスザンナ君が行きなさい。中へ入ったら安全な場所で待機してるんだ』


 スザンナ姉ちゃんはともかく、アンリは足手まといと言っても過言じゃない。ここはすぐに安全地帯へ行って大人しくしてた方が皆のためになると思う。なら全力で静かに行く。


『うん、それじゃ行ってきます。スザンナ姉ちゃん、行こう』


 スザンナ姉ちゃんが頷いたのを確認してから、そーっと歩き出した。


 ダンジョンまでは大体三百メートル。かなり長いと言ってもいい。でも、落ち着くべき。慌てる必要はない。ゆっくり、慎重に、それでいて大胆に行動する。


 ヴァイア姉ちゃんの魔道具は完璧なんだから、アンリが落ち着いて行動すれば何の問題もない。自信を持って歩く。


 そしてダンジョンの階段まで来た。


 でも、まだまだ気は抜かない。階段をそーっと下りる。途中、ジョゼちゃんがいてここを守ってくれているみたいだ。完全な状態のジョゼちゃんがいるなら心配ない。このままゆっくり下りていこう。


 うん、到着。ダンジョンのエントランスのところまでやってきた。


『おじいちゃん、着いたよ。中には誰もいないみたい』


『よくやったね。まずはそこで大人しくしているんだ。いいね?』


『うん、大人しくしてる。皆も気を付けて入って来てね』


 そう言うと、皆から気を付ける旨の返事を貰えた。


 よし、ここなら安全。皆を待とう。

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