第171話 森の違和感
ゾルデ姉ちゃんとの修行を何日も行った。そろそろ一週間くらいになるかも。
筋肉が増えたってことはないだろうけど、色々と考えて行動できるようになったから、それだけでも強くなったと思う。今度デュラハンさんと戦ったら、いい勝負が出来るんじゃないかな。
それはそれとしてアンリはアングリー。
フェル姉ちゃんが獣人さん達の国へ行ってから一週間くらい経つのに、連絡が来るのはアビスちゃんからだけ。フェル姉ちゃんからは全く連絡がこない。アンリはフェル姉ちゃんと約束したのに。
ここはアンリのほうから連絡を入れよう。アンリが怒っているということを伝えて、帰ってきたら気のすむまで遊んでもらう。あわよくば部下になってもらわないと。
午前中の勉強が終わって、スザンナ姉ちゃんと一緒にダンジョンへやってきた。
今日もこれから修行をするけど、まずはフェル姉ちゃんに連絡をする。
入口の小屋にいるバンシー姉ちゃんにジョゼちゃんを呼んでもらうようにお願いした。
フェル姉ちゃんが忙しいのは分かってるから直接念話を送るのは避けようと思う。まずは一緒に行ったヤト姉ちゃんに念話を送ろう。残念ながらヤト姉ちゃんの念話チャンネルが分からないからジョゼちゃん経由で連絡するつもり。
少し待つとジョゼちゃんがやってきた。でも、ちょっと不思議。ダンジョンからじゃなくて、森のほうからやってきた。
「アンリ様、スザンナ様、こんにちは。お呼びと聞きましたが?」
なんだろう? ジョゼちゃんの雰囲気がいつもと違うような気がする。
「こんにちは。急に呼び出してごめんね。もしかして忙しかった?」
「いえ、大丈夫です。ただ、今日は森に違和感がありましたので、私も見回りをしていました。今のところは何もないようですが……ただの勘違いかもしれませんね」
「そうなんだ? 実はアンリも今日は背筋がぞわぞわする感じ」
実はアンリも朝起きてから何となく嫌な感じがしてた。以前ニア姉ちゃんをさらわれたときみたいな感じ。
「アンリ様もそう思いますか。ならもう少し周囲を確認しておきましょう。でも、その前にアンリ様の用事ですね。どうされました?」
「フェル姉ちゃんに連絡をしたいんだけど、直接連絡するのは悪いからヤト姉ちゃんに連絡したいんだ。ジョゼちゃんならヤト姉ちゃんのチャンネルを知ってるよね?」
「そういうことでしたか。実は私も森の違和感をフェル様に連絡しておこうと思ってましたが、勘違いかもしれないのでヤト様に連絡しておこうかと思っていたところです」
ちょうどいいタイミングだったのかも。ジョゼちゃんに連絡してもらうという手もあるけど、ここはアンリの怒りを伝えてもらうためにも、アンリから直接ヤト姉ちゃんに念話を送ろう。本当はフェル姉ちゃんに直接言う方が効果的だけど、忙しいのは分かっているから、ここは我慢。
ジョゼちゃんにヤト姉ちゃんのチャンネルを教わって、ヴァイア姉ちゃんの魔道具に登録した。そして魔力を通してヤト姉ちゃんに念話を送る。
アンリの魔力は少ない。つなげていられるのも短い時間だけ。出来るだけ簡単にアンリの怒りを伝えよう。
「ヤト姉ちゃん?」
『もしかしてアンリニャ? よく私のチャンネルが分かったニャ』
「うん。ジョゼちゃんから教わった。実はフェル姉ちゃんに伝えて欲しいことがあるんだけど」
『いまフェル様はピラミッドのほうにいるからすぐには伝えられないニャ』
ピラミッドってアビスちゃんから送られてきた映像にあったあれかな? すごく三角の建物。王様のお墓だとか。でも、どこの王様なのかな? あと、アビスちゃんが最高で最強なのはお預けですって言ってたけど、どういう意味だろう?
いけない、考えすぎた。それは後にしよう。フェル姉ちゃんには後で伝えてもらえればいいから、今すぐでなくても問題なし。
「すぐに伝えなくていいから、戻ってきたら伝えてもらえる?」
『なんて伝えるニャ?』
「フェル姉ちゃんから映像が送られてこない。アンリはご立腹。信じてたのに」
『おう、恨みがましい感じが良く出ているニャ。分かったニャ。要件はそれだけニャ?』
「うん、でも、この後ジョゼちゃんからも連絡があると思うから、そっちはジョゼちゃんから聞いて」
『了解ニャ。そうそう、こっちでの対応はほとんど終わったからもう村へ帰ると思うニャ』
「そうなんだ? それじゃ気を付けて帰って来てね。でも、帰るときは全速力で帰って来て」
『難しいこと言うニャ……でも、一応分かったニャ』
ヤト姉ちゃんとの念話が切れた。それを見計らってジョゼちゃんが念話を開始したみたい。
ジョゼちゃんは何度か頷いてからこっちを見た。
「こちらの連絡も終わりました。それではまた見回りに行ってきます。アンリ様達はいつもの修行ですか?」
「うん、モリモリ強くなって今度はデュラハンさんに勝つ。首を洗って待つように言っておいて……デュラハンさんに首ってあるのかな? 頭でもいいかな?」
「確かに首はないですけど、伝えておきますね。アンリ様がデュラハンを倒す日を楽しみにして――」
ジョゼちゃんがそこまで言いかけて止まった。そしていきなり顔をぐるんと動かした。東の森をジッと見つめているみたい。
「バンシー! 森にいるすべての魔物を招集しろ! そして村の皆さんをアビスへ避難させるんだ!」
ジョゼちゃんが急にそう言うと、バンシー姉ちゃんは慌ててた感じでこめかみに指をあてた。念話をしているんだと思う。
「ジョゼちゃん、どうしたの?」
「周囲に相当な数の何者かが現れました! おそらく認識阻害をして村に近くまで来ていたのでしょう。隠れていた時点で敵対的な行動と思ったほうがいいです。しかし、ここまで接近を許すとは……! アンリ様達も急いでアビスへお逃げください――」
そこまで言ってから、またすぐにジョゼちゃんは森のほうを見た。その視線の先にある場所からローブを着たおじいさんが歩いてくる。
「ほう、少女の形をしたスライムか。どうやら村の者が襲われているようじゃな。どれ助けてやるか」
誰だろう? それにものすごく嫌な感じがする。あのニア姉ちゃんをさらった傭兵団の団長と同じ感覚だ。
「バンシー、アンリ様達を連れてアビスへ急げ」
バンシー姉ちゃんが小屋から出てくるとアンリ達のそばにやってきた。
「なんと。人かと思ったらバンシーか。この村は魔物に支配されておるのかの? ならば儂ら女神教がこの村を救ってやらんとな」
このおじいさんは何を言ってるんだろう? 魔物さん達はフェル姉ちゃんの従魔で支配なんかされていないのに。
でも、女神教? なんで女神教の人がこの村に?
「まずは、そこのスライムとバンシーからじゃ。【炎蛇】」
おじいさんが魔法を使うと、手のひらから炎の蛇がバンシー姉ちゃんのほうへ向かってきた。
でも、ジョゼちゃんがその炎の蛇の前に出て、体を張って止める。炎の蛇はジョゼちゃんの体の中で消えちゃったみたいだ。
「ほう? 儂の魔法をくらって無傷か。お主、タダのスライムではないな? やれやれ、面倒くさいの」
「バンシー、急げ。私が足止めする」
バンシー姉ちゃんは何も言わずに頷く。
それと同じタイミングで村のほうから大きな音がした。そして人の騒ぎ声が聞こえてくる。戦っている時の声みたいだ。
「すでに村まで入り込んでいたか」
ジョゼちゃんがおじいさんを悔しそうに睨んだ。
「何を言ったのかは分からんが、そんなに怖い顔をするな。リエルの嬢ちゃんを迎えに来ただけじゃが、村が魔物に襲われておるんじゃ、助けるのは当然じゃろう?」
リエル姉ちゃんを迎えに来た?
「アンリ様、スザンナ様、こっちです。急いで!」
「で、でも、村の皆が――」
「そちらにも魔物達が向かっています。皆を連れてアビスへ来るはずなので、まずはアンリ様達から避難を」
ここでアンリ達がもたもたしていたらもっと大変なことになるのかも。なら急いで中に入ろう。
「スザンナ姉ちゃん、状況はよく分からないけど行こう」
「そ、そうだね……あ!」
いつの間にかダンジョンの入口にも複数の人がいた。全体的に白い服装をした人たちが何人もいる。
「魔物達を殲滅せよ!」
その人達の一人がそう言うと、全員がバンシー姉ちゃんのほうへ向かってきた。
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