第158話 変な集団
広場にはフェル姉ちゃんとヤト姉ちゃん、ジョゼちゃん、シャルちゃん、カブトムシさん、それにアラクネ姉ちゃんが集まっていた。
なんだろう? すごく物々しい雰囲気。それにあそこにいる皆はこの村ではトップクラスの強さ。フェル姉ちゃんが集めたんだろうけど、これから何かするのかな?
おじいちゃんもスザンナ姉ちゃんも不思議そうにしている。何をするのかは誰も分からないみたいだ。
よし、ここはアンリが皆のボスとして聞いて来よう。上司への報連相は大事だと思う。
「おじいちゃん、ちょっとアンリが何をしているのか聞いてくるね。皆のボスとして」
「いやいや、おじいちゃんが聞いてくるよ。あの面子が広場で真面目な顔をしているのはただ事じゃないだろう。何かあったかもしれないから、アンリとスザンナ君は家の中にいなさい。スザンナ君、アンリを頼むよ」
「はい。分かりました」
「うん、頼んだよ。アーシャ、ウォルフ、家を頼むぞ」
おじいちゃんは、別の部屋にいるおかあさんとおとうさんに声を掛けてから家を出て、フェル姉ちゃんのほうへ歩いて行った。
おかあさんとおとうさんも大部屋へ来て、アンリ達と一緒に窓の外にいるフェル姉ちゃん達を見て不思議そうにしている。
近くにきたおかあさんが「うーん」と唸ってる。
「あまりいい雰囲気ではない感じね。なにかあったのかしら?」
「分かんないけど何か問題があったのかも。フェル姉ちゃん達がすごく真面目な顔をしてる。ちょっとだけ心配」
フェル姉ちゃん達がいれば何でもすぐに解決しちゃうだろうけど、それでも心配。せっかく村に帰って来たばかりなんだからもっとゆっくりしてほしい。
おじいちゃんはフェル姉ちゃんとの話が終わってこっちに向かって来てる。そしてフェル姉ちゃん達は村を出て行っちゃったみたい。村の外で何かあったのかな?
おじいちゃんは真面目な顔をして家に戻ってきた。ちょっとだけ眉間にしわが寄ってる。
「おじいちゃん、なにか問題でもあったの?」
「うむ。フェルさん達も詳しい状況は分かっていないみたいだよ。分かっている状況としては、ケルベロスのロスさんが森の中で変な集団を見つけたようだね。ただ、その報告があった後、念話が通じなくなったそうだ。これからその場所へ行って調べてくると言っていたよ」
ケルベロスのロスちゃん……村の四天王になれるほど強いのに何かあったんだ?
それに変な集団? ロスちゃんは大狼のナガルちゃんの代わりに森の中をずっと見回りしていたからその関係で集団を見つけたんだと思う。もしかしてその変な集団にやられちゃった?
ロスちゃんがそう簡単にやられるとは思わないけどすごく心配。
「魔物の皆さんが村の周囲を警戒してくれるみたいだけど、自分たちも警戒するように言われたよ。ウォルフ、手分けして村の皆に状況を説明しておこう。ニアをさらったような傭兵団とか、夜盗の可能性もあるから、警戒を怠らないようにしないとな」
「分かりました。ならさっそく行ってきます」
「うむ、アーシャは家でアンリとスザンナ君を頼む」
おかあさんが頷くと、おじいちゃんとおとうさんは外へ行っちゃった。
でも、ロスちゃんに勝てるような傭兵とか盗賊なんているかな? 変な集団というのがちょっと不気味。
「アンリ、スザンナちゃん、分かってると思うけど、今日はもうお外へ行っちゃダメよ?」
「うん。それは仕方ない。こういう緊急時はちゃんと大人しくしてる。でも、色々な情報は教えて欲しい」
「教えてあげたいのはやまやまだけど情報が全くないのよね。本当に何があったのかしら? フェルさん達なら大丈夫だとは思うけど、やっぱり心配ね」
それはアンリも同意。スザンナ姉ちゃんもうんうん頷いている。
フェル姉ちゃん達がどれだけ強くても色々心配しちゃう。そもそもあのメンバーで向かうというのは危険なことがありそうってわかっているからじゃないかな?
強さでいったら村のトップに位置する皆を連れて行っちゃったわけだし、フェル姉ちゃん達がすごく警戒しているのが分かる。変な集団とは言ってもある程度予測できているのかも。
「あれ? スライムちゃんが広場に来たよ。たしかマリーちゃんだっけ?」
スザンナ姉ちゃんの言葉を聞いて窓から外を見た。確かに緑色のスライムちゃん、マリーちゃんが広場の中央にデンと構えている。どうしたんだろう?
実はマリーちゃんとはあまりお話をしたことがない。というよりもアビスの中にずっといて村の方には来ないからお話する機会が少ない。
窓から眺めていたアンリ達に気づいたのか、マリーちゃんが家のほうへやってきた。そして扉をノックしてる。
扉を開けるとマリーちゃんがお辞儀をしてきた。
「こんにちは、アンリ様、スザンナ様、それにアーシャ様」
皆は言葉が分からないだろうけど、なんとなく挨拶をしたのは分かったみたいで、おかあさんもスザンナ姉ちゃんもお辞儀してる。
「マリーちゃん、いらっしゃい。村の外に来るのは珍しいよね? どうかしたの?」
「はい、実はフェル様達がいらっしゃらない間、村の防衛に関して全権を任されました。アビスの中では難しいので広場で対応しようと思っています。そうそう、申し訳ありませんが今日は家を出ないようにお願いします」
「うん、それは大丈夫。家の中にいるつもり――そうだ、マリーちゃんは状況を知ってる? ロスちゃんとの念話が切れたことと、変な集団がいるってことしか聞いていないから、なにか知っていたら教えて欲しいんだけど」
「そうでしたか。とくに情報制限はされていませんので、お教えできますよ。ただ、未確認の情報もあるので全部を鵜呑みにはしないでくださいね」
そういうとマリーちゃんは色々と教えてくれた。
変な集団と言うのは、魔族の人が一人と獣人さんが十人くらいで構成されているみたい。その集団がゾンビみたいにフラフラしているとか。
魔族の人は元々フェル姉ちゃんが魔界から呼んでいたレモって人の可能性が高いっぽい。ただ、獣人さんはまったく心当たりがない。村にいる獣人さんも全員いるし、どこから来たんだろうって話になってるみたいだ。
フェル姉ちゃんとしては魔族であるレモって人をそんな風に出来ることをすごく警戒している。だからあんな最強パーティを組んだみたいだ。
「フェル様は精神操作系のユニークスキルを使われたんじゃないかって思っているようですね。普通の魔法ならそう簡単に魔族の方には効きません。なのでかなり警戒しているようです」
「そうなんだ……そう聞くと、すごく心配になってくる」
「大丈夫です。ジョゼ達がいます。命に代えてもフェル様をお守りするでしょうから」
「えーと、フェル姉ちゃんだけじゃなくて、皆が心配ってこと。全員無事に帰ってきて欲しい」
そういうと、マリーちゃんは笑顔になった。
「そうでしたか。それはジョゼ達に伝えておきます。やる気が出るでしょうから。ご安心ください。ボスであるアンリ様を悲しませるようなことはしませんから、無事を信じてお待ちください。では私は広場に戻りますね。なにか連絡があればお伝えしますので」
「うん、ありがとう。マリーちゃんも気を付けてね」
マリーちゃんは笑顔で頷くと、広場のほうへ戻っていった。そしてまた広場の中央にデンと腕を組んで構えた。
「ねえ、アンリ、マリーちゃんは何を言ってたの? フェルちゃん達は危険な感じ?」
いけない。マリーちゃんの言葉は魔物言語だから、スザンナ姉ちゃんやおかあさんは分かってなかった。ちゃんと伝えておこう。
その後、おじいちゃんとおとうさんも帰って来たから、マリーちゃんから聞いた情報を伝えた。でも、みんな首を傾げるだけで状況はよく分からなかったみたい。もちろん、アンリもわからない。
分かっているのはフェル姉ちゃん達が頑張っていることくらい。無事に帰ってくるようにお祈りしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます