第157話 スキルの覚え方

 

 フェル姉ちゃんが帰った後、大部屋で皆とお昼ご飯を食べる。スザンナ姉ちゃんももちろん一緒。


 今日のお昼は川で取れたお魚だ。塩を軽く振って焼いただけのシンプルな焼き魚。でも、それがいい。


 昨日の宴や今日の朝はニア姉ちゃんの料理をいっぱい食べたから、今日のお昼はおかあさんの料理。ニア姉ちゃんの料理は最高だけど、おかあさんの料理だって負けてない。モリモリ食べよう。


 食べながら午後の予定を考えた。


 今日の午後は修行するための勉強をする。勉強は嫌だけど、修行のための勉強なら許容範囲。


 帰り際にそのことをフェル姉ちゃんに言ったらなぜかリンゴをくれた。これはもしかしたら「早く私のところまで登ってこい」という激励の意味があるのかも。これは頑張らないといけない。


 アンリはいままで闇雲に修行をしようとしていた。


 これは効率が悪いと思う。やるなら効率的に修行しないと。短い時間で強くならなくちゃいけないんだから、何となくやるんじゃなくて考えてやるべき。アンリはまた一つ大人になった。


 そのためにもここは先人の知恵を借りよう。平たく言うとおじいちゃんの知恵を借りる。


「おじいちゃん、強くなるためにどんな修業をすればいいかな?」


「アンリはまだ強くなる必要はないと思うよ。その年にしたらかなり強いからもう十分じゃないかな」


 それじゃお話が終わっちゃう。年の割に強かったとしても、フェル姉ちゃんについて行っちゃいけないって言ってるのはおじいちゃんなのに。


「それじゃアンリはいつまで経ってもフェル姉ちゃんについていけない。フェル姉ちゃんについて行っていいくらい強くなりたいからどんな修業がいいか教えて。そのためならピーマンだって食べてみせる」


 きざんだ上に鼻をつまんで食べれば何とかなる。明鏡止水の気持ちで飲み込めば大丈夫なはず。


「そもそもアンリはまだ小さいんだからフェルさんについて行くのは無理だよ。もう少し大人になってから連れて行ってもらいなさい。そうだね、成人したころならいいんじゃないかな……」


「なら早く大人になる方法を教えて。一日に一年くらい成長したい。十日で成人できる。その後は一日で半日くらいの成長でいいから」


「それはおじいちゃんもやり方を知らないね……アンリ、気持ちは分かるがフェルさんの邪魔をしちゃいけないよ。それに小さい時期なんてあっという間に過ぎ去っていくものだからね、もっと子供時代を満喫しなさい」


「その子供時代をものすごく勉強させられているから満喫できないんだけど……?」


 もしかしたらおじいちゃんに聞くこと自体が間違っているのかも。ならほかの皆に聞いてみよう。ヤト姉ちゃんとかメノウ姉ちゃんあたりに聞くと何か分かるかもしれない。


 スザンナ姉ちゃんも強いけど、これはユニークスキルの強さだからって言ってるからたぶん教えてもらえることは少ないかな。


 アンリもユニークスキルを持ってるみたいだけど、使い方が分からないから意味がない。使えるようになったら成人しなくてもフェル姉ちゃんについて行って大丈夫かな?


 そうだ、ユニークスキルで思い出したけど、デュラハンさんの武器破壊みたいなスキルを覚えようとしたんだっけ。これくらいならおじいちゃんも知ってるかな?


「おじいちゃん、攻撃に使えるスキルってどう覚えるの? これくらいなら聞いてもいいでしょ? 年齢制限はあるかもしれないけど、少しでも早く強くなりたいから教えて」


 熱耐性スキルは熱い食べ物を食べて覚えた。麻痺耐性は正座で。魔物言語スキルはジョゼちゃん達と話してたからだと思う。


 でも、攻撃に使えるスキルって覚えたことはない。毎日素振りをしてるのに。


「スキルか……それは色々複雑だからどう教えたものかな。よく言われているのは反復練習で覚えるというものだね。剣の素振りをしていればそのうちに剣の攻撃スキルを覚えると言ったものだよ」


「アンリは毎日のように素振りをしているけど覚えたことはないよ? 劣化版の紫電一閃は使えるけど」


「紫電一閃はスキルじゃなくて剣技だからね」


 違いがよく分からない。紫電一閃は剣技……? スキルじゃないの?


「えっと、なら武器破壊も剣技?」


「それはスキルだね」


 アンリはちょっと混乱中。おじいちゃんは何を言ってるんだろう? アンリにも分かりやすいように教えて欲しい。


「えっと、どこに違いがあるの? アンリはよく分からない」


「いや、それはそういう物だ、としか言えないよ。練習で覚えられるのが剣技で、何かのひらめきで使えるようになるのがスキルかな? 武器破壊は練習して使えるようになるものじゃないし、紫電一閃はひらめきで使えるものじゃないね」


 ひらめき? そんな曖昧な物なんだ?


 でもよく考えたら、熱耐性スキルとか麻痺耐性スキルはいつの間にか覚えていた気がする。これもひらめきなのかな?


「実はスキルを覚えることに関してはこれといった方法がないんだよ。偉い学者さんがずっと調べているんだけど、ちゃんとした答えを出した人はいまだかつていないね。それに本人が覚えたスキルを知らなかったという人も多い。鑑定スキルや分析魔法を使わないと分からないからね」


「そういうものなんだ? じゃあ、狙ってスキルを覚えることは出来ないの?」


「そう言われているね。それに別の人が同じことをしてたとしても覚えるスキルが違っていたとかいう話もあって、スキルを覚えるのは単に偶然ともいわれているね」


 そういう物なんだ? でもフェル姉ちゃんは勉強したらスキルを覚えるって言ってた気がする。ヴァイア姉ちゃんが魔道具を作れるようになったのは勉強していたからとか……もしかして嘘だった?


 ずっと黙っていたスザンナ姉ちゃんが控えめに手をあげた。なにか発言があるのかな?


「私の両親から教えてもらった内容があるんだけど聞く?」


「うん、聞かせて」


 スザンナ姉ちゃんのおとうさんとおかあさんは冒険者だったはず。おじいちゃんが知らないことを知ってたかも。


「スキルって色々なことをすると覚えやすいみたいだよ。剣の素振り以外でも、掃除とか料理とかでも覚えるみたい。そういう色々な経験が複雑に絡んでスキルを覚えられるって言ってた」


「そうなの?」


「うん。普通に生活しているレベルじゃ何も覚えないみたいだけど、かなり尖った感じでやると覚えるとか言ってたかな?」


 アンリの食べるご飯はいつも熱かったし、正座はイタズラで日常茶飯事。ジョゼちゃん達とも結構な頻度で話をした。こういうのが尖っているのかな?


 アンリとしてはいまいちよく分からない感じだけど、おじいちゃんは笑顔で頷いた。


「なるほど。それはなかなか面白い話だね。スザンナ君のご両親は経験的にそういう答えに行きついたのかな。確かにそういうことを言っている学者もいた気がするよ。スザンナ君は冒険者の最高ランクであるアダマンタイトになってるし、ご両親の育て方が良かったのかな。優秀な人達だったんだろうね」


 おじいちゃんがそう言うとスザンナ姉ちゃんは顔を赤くして照れた。


 うん、アンリもおかあさんやおとうさんのことを褒められたらうれしい。照れるどころかドヤ顔するつもり。


 でも、そうか。剣の素振りだけじゃなくてほかのことをしたほうがスキルは覚えやすいのかも。でも、覚えたのが分からないのは困る。デュラハンさんはどうやって武器破壊を覚えたんだろう? もう帰っちゃったから聞けないけど。


 よく考えたらフェル姉ちゃんはこういうことに詳しいのかも。ヴァイア姉ちゃんのことも色々教えてたみたいだし、フェル姉ちゃんはスキルが見えるとも言ってた。


 ここはフェル姉ちゃんのところへ突撃して色々聞かせてもらったほうがいいかも。


 よし、善は急げ。


「スザンナ姉ちゃん、フェル姉ちゃんのところへスキルのことを聞きに行こう。色々知っている感じだったから聞けば教えてもらえるかも」


「うん、そうだね。フェルちゃんは魔族だし、そういうことに詳しいかも……あれ?」


 スザンナ姉ちゃんが窓から外の様子を見てちょっと驚いた感じになった。アンリもスザンナ姉ちゃんの視線の先を見る。


 フェル姉ちゃんとジョゼちゃん達が広場に集まってる。どうしたのかな?

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