第153話 獣人さん達の国
フェル姉ちゃんとローシャ姉ちゃんのお話が続いている。さらにラスナおじさんも加わった。
さっきアンリ達に言ったようにドラゴンのお肉についてフェル姉ちゃんと話をしているみたい。でも今度は千年樹の木材を売るとか聞こえた。
詳しくは分からないけど、ラジット商会をフェル姉ちゃんが潰したから、その後釜というかフォローをヴィロー商会が請け負うみたい。その商売に手を抜かないように千年樹の木材を売ってあげるとかなんとか。
そういえば、一昨日にメノウ姉ちゃんがフェル姉ちゃんのお手伝いをしたって言ってたっけ。それがラジット商会とか聞いた気がする。
フェル姉ちゃんは潰した商会の後始末みたいなものもちゃんと考えているみたいだ。ラスナおじさんはお金の約束は絶対に守るという信念があるらしいから、千年樹の木材を安く売るからちゃんとラジット商会が抜けた穴をフォローしろって意味なのかな。
ラスナおじさんはホクホク顔、ローシャ姉ちゃんはちょっと呆れた感じで外へ出て行っちゃった。
そして疲れた感じのフェル姉ちゃんがテーブルに座った。
そこへヤト姉ちゃんとメノウ姉ちゃんがやってくる。
「フェル様、おはようございますニャ」
「フェルさん、おはようございます」
「二人ともおはよう。走ってこないだけで二人とも評価できるぞ。それじゃ朝食を頼む。そうそう、アンリとスザンナの分は私が払うから」
走ってこないだけで評価って何だろう? ヤト姉ちゃんとメノウ姉ちゃんはいつも争ってるから、その関係かな?
「アンリ達はもう食べ終わったのか?」
「うん、美味しかった。あの野菜スープならアンリでも全部飲める。ピーマンだって怖くない」
「この宿の料理っていつ食べても美味しい」
スザンナ姉ちゃんがそう言うと、フェル姉ちゃんはちょっとだけ誇らしげな感じになった。と言うよりも嬉しそうなのかな? なんでだろ?
「ねえねえ、フェルちゃんの今後の予定は? しばらく村にいるの?」
スザンナ姉ちゃんがそんな質問をした。そう、それ。それはすごく大事。アンリの希望としては二、三年くらい村にいて欲しい。
「二、三日はこの村に滞在するつもりだ。その後、獣人達の国へ行く予定だな」
惜しい。単位が違う。日じゃなくて年でお願いしたい。月でも可。でも、獣人さん達の国というと、ウゲン共和国……だった気がする。ヤト姉ちゃんみたいな獣人さんがたくさんいるところだ。アンリもぜひ行きたい。
「獣人達の国というとウゲン共和国のこと? 私は行ったことないけど、アンリは行ったことある?」
「アンリも行ったことない。フェル姉ちゃんはウゲン共和国に行くの?」
「そうだな。村やアビスの中でヤト以外の獣人を見ただろ? アイツらの故郷だな。恩返しがしたいとか言って村まで来たけど、そろそろいいかなと思ってな」
そういえば、グラヴェおじさんのところで鍛冶のお手伝いをしている獣人さんがいた気がする。村の方にはほとんど来てなくてずっとアビスの中だったはず。
もしかしたら、アンリ達に迫害されると思ってたのかな? 村にそんなことをする人はいないのに。
でも、今考えることはそれじゃない。
「分かった。アンリも準備しておく」
「いや、連れていかないぞ。なんで行く気になってる?」
「フェル姉ちゃんがいないと刺激が足りない」
スザンナ姉ちゃんとのダンジョン攻略は面白いけど、アンリの刺激キャパシティはこんなもんじゃない。もっとすごくても許容できる。フェル姉ちゃんみたいな規格外の刺激が欲しい。
「その歳で刺激を求めるんじゃない。大人しく村で留守番をしていてくれ。ええと、村の守りは任せたから」
「えー、連れってってよ。お金ならあるよ?」
「アンリにお金はないけど、九大秘宝の一つをあげてもいい。だから連れてって」
「だからダメだと言ってるだろ。お前たちは村でお留守番だ。大体、村長が許すわけないだろ」
「大丈夫、おじいちゃんを説得する。アンリはそろそろ反抗期だから大丈夫」
「実を言うと私はすでに反抗期」
「反抗期ってそういう物じゃないと思うぞ?」
色々粘ったけどダメだった。やっぱり道理を通すには力が必要なんだ。アンリ達は弱いから連れて行ってもらえない。世知辛い。
ちょっとへこんでいたら、ヤト姉ちゃんが料理を持ってやってきた。
「お待ちどうさまですニャ」
「ヤト、数日後に獣人達の国へ行く。一緒について来てくれ。ヤトがいてくれた方が話は早いだろうからな」
アンリ達はダメだけど、ヤト姉ちゃんはいいんだ? と言うよりもヤト姉ちゃんは獣人さんだから一緒に連れて行くみたい……アンリもニャントリオンの正装をすれば、獣人女王として一緒に行けるチャンスがあるのかな?
「ニャ? でも、ウェイトレスの仕事があるニャ」
ヤト姉ちゃんが断っちゃった。ならばここはアンリが獣人女王にクラスチェンジして一緒に行くべき。
あれ? 外からロンおじさんが入って来た。ロンおじさんは小屋で牛さんや鶏さんに朝食をあげる仕事をしてるはずだけど、今日はもう終わったのかな。
「おはよう。ロン、ちょっといいか?」
「おう、おはよう。昨日はドラゴンの肉をありがとうな、美味かったぞ。で、どうした?」
「ああ、ヤトを連れてウゲン共和国へ行こうと思っている。しばらくヤトを休ませてくれないか?」
「……フェルは俺に死ねと言っているのか?」
「そんな事、一言も言ってないだろうが。話を聞いてたか?」
アンリも聞いてたけど、ロンおじさんにそんなことは言ってないと思う。スザンナ姉ちゃんを見ると、首を横に振ってくれた。スザンナ姉ちゃんも聞いてなかったみたいだ。多数決で言うと、ロンおじさんの耳がおかしい結論になる。
「いいか、フェル。ヤトちゃんをよく見ろ」
ロンおじさんがそう言ったから、アンリ達もヤト姉ちゃんを見た。黒い髪が綺麗で素敵。猫耳もポイント高いし、しっぽが荒ぶるときはさらに良し。
フェル姉ちゃんもヤト姉ちゃんを上から下までちゃんと見たっぽい。
「見たけど、ヤトがどうした?」
「猫耳、猫しっぽ、語尾のニャ。全てにおいて完璧だろう? そんなヤトちゃんが一時的とは言え、食堂で働かなくなったら、俺は何を楽しみに生きればいいんだ! それは俺に死ねと言っているのと同じだ!」
「メノウ、ニアを連れて来てくれ。ロンじゃ話にならん」
フェル姉ちゃんはちょっと離れて掃除をしていたメノウ姉ちゃんに呼びかけた。
アンリとしてはロンおじさんの気持ちがちょっとだけ分かる。食堂にヤト姉ちゃんがいると華がある感じ。いないと寂しい。
その後もフェル姉ちゃんとロンおじさんの話し合いが続いた。
結果的にヤト姉ちゃんは獣人さん達の国へ行くことになった。ただ、ロンおじさんの要求で、ウェイトレスをしてくれそうな獣人さんを連れてくることになったみたい。それにはヤト姉ちゃんもロンおじさんの要求を援護してた。
ヤト姉ちゃんが言うには、獣人さん達の国ではなかなか食べ物が作れないとか。だから獣人さんをここで働かせて、その稼いだお金で食料を買って送るようにするみたい。ぜひともピーマンを大量に買って欲しい。むしろ無料で渡したい気持ち。
「無理やり連れて来るようなことはしないから、本当にここで働きたいという奴だけだぞ?」
「もちろんだ! 可能性があるだけで充分! ヤトちゃん! 任せたよ!」
「任されたニャ。獣人の地位向上のためにも頑張るニャ!」
フェル姉ちゃんはちょっと呆れている感じだけど、ロンおじさんとヤト姉ちゃんはちょっと燃えている感じだ。アンリとしてもこの村に獣人さんが増えたら嬉しい。
でも、結局ヤト姉ちゃんが行くから、アンリ達は行けなくなった。ここはもう少し駄々をこねよう。
行動に移そうと思ったところで、今度はメノウ姉ちゃんがやってきた。
「今回は私もお連れ下さい」
「ヤトを連れて行くから、メノウはいいぞ。それにウェイトレスが二人減ったらさすがに宿が大変だろ?」
「そんな! 連れて行ってください! メイドは主人が近くにいないと、タダのメイドなんですよ!」
タダのメイドじゃダメなのかな? というか主人の近くにいるメイドはなんていうメイドなんだろう? パーフェクトメイド?
結局、メノウ姉ちゃんは行けないことになった。作ったフェル姉ちゃんのファンクラブの存続を天秤にかけられたから、泣く泣く折れたっぽい。
その後、フェル姉ちゃんはメノウ姉ちゃんにお土産を渡した。こういうフォローがにくい。アンリ達にはそういうフォローがなかったけど。
お土産は胡蝶蘭のブローチ。
メノウ姉ちゃんはメイドギルドでファレノプシスというランクで、それは胡蝶蘭の意味だからそれを選んだみたい。メノウ姉ちゃんは両手で大事そうにそれを掲げて家宝にすると宣言した。
そしてアンリ達もファンクラブへの命令として大人しく村でお留守番と言われた。フェル姉ちゃんのファンだから仕方ない。大人しくお留守番をして他のファンの規範になろう。
それはそれとして、気になることがある。なぜかさっきからヤト姉ちゃんが震えているような?
「ヤト? どうかしたのか?」
「フェ、フェル様には負けないニャ! ファンクラブがあるからっていい気にならないで欲しいニャ!」
ヤト姉ちゃんは悔しそうに厨房へ走っていっちゃった。
「お前達のせいでヤトが悔しがっているじゃないか。私はアイドルじゃないんだからファンクラブはもう解散しろ。むしろヤトのファンクラブを作れ」
ファンクラブの幹部としてそれは認められないけど、それはそれとしてヤト姉ちゃんのファンクラブも作らないとダメかも。ベインおじさん達が作った猫耳同盟じゃダメかな? アンリも会員なんだけど。
それはまた後で考えよう。ようやくフェル姉ちゃんの周りに人がいなくなったんだから、もっとお話をしようっと。
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