第147話 ユニークアイテム
「アンリ、もう大丈夫だから剣を離して」
いつの間にかスザンナ姉ちゃんがアンリの目の前にいた。
アンリは墓地にいた気がするけど、ここは別の場所みたい。ここはダンジョンのエントランスかな?
「スザンナ姉ちゃん、えっと、アンリはどうなったの? いつの間にかここにいるんだけど?」
「覚えてないんだ? アンリはデュラハンと戦って負けたんだよ」
アンリが負けた? がむしゃらに戦った記憶はあるけど、いつの間に負けちゃったんだろう?
……そうだ、フェル・デレが折れたのを見てちょっと冷静でいられなかったから無謀にも特攻しちゃったんだ。スザンナ姉ちゃんがデュラハンさんの隙を作る間もなく特攻したから、そのまま負けたんだと思う。
手に持ってる折れたフェル・デレを見た。
剣の上半分がない。そのせいか、剣自体にも元気がないように感じる。
アンリが未熟だったから折れちゃった。なんてことをしちゃったんだろう。フェル姉ちゃんの名前を付けた剣が折れた上にデュラハンさんに敗北。フェル姉ちゃんに合わせる顔がない。
それにフェル・デレ自身にも申し訳ないことをしちゃった。アンリの力量に合わない優れた剣だったのに、アンリが弱かったから折れた。生涯大事にするって言ったのに。
「アンリ、冒険者をやってれば探索に失敗することもあるし、武器や防具を壊すこともある。次はそうならないように対策しよう」
「うん……でも、次と言っても剣が折れちゃってる。七難八苦だけじゃデュラハンさんには勝てないと思う」
「そうだね、だからグラヴェさんのところへ行こう。早く直してもらわないと」
直す? フェル・デレはまた元通りになる?
「こんなに真っ二つでも直るかな?」
「鍛冶のことは詳しく知らないけど、素材にまで戻せば、また同じ剣を作れるんじゃないかな?」
「でも、それって同じフェル・デレって言えるかな?」
「それは分からないけど、このままでも元に戻ったりしないから、まずは専門家に見せよう。今日はまだ門限まで時間があるから早速行くよ。早く診てもらったほうがいい」
手に持っている折れたフェル・デレを見た。
そうだ。まだあきらめるのは早い。同じ魂を受け継いだフェル・デレに戻るかもしれないんだから、ちゃんと診てもらわないと。
「うん、わかった。まずはグラヴェおじさんに診てもらおう。フェル・デレは強い子。これくらいすぐに直るはず」
そう言って、スザンナ姉ちゃんと一緒にグラヴェおじさんの工房へ走り出した。
グラヴェおじさんの工房へ突撃した。
勢いよく扉を開けると、工房にはグラヴェおじさんと、ズガルという町から来た獣人さんが二人いる。ちょうど休憩中だったのか、三人でお茶を飲んでいるみたい。
「おう、アンリとスザンナか。そんなに息を切らせてどうした?」
「グラヴェおじさん、まずは謝る。ごめんなさい。アンリが弱いせいでこんなことになっちゃった」
グラヴェおじさんに折れたフェル・デレを見せた。
グラヴェおじさんは右目を少しだけ大きくすると、次の瞬間に笑い出した。
「ずいぶんと派手に折れたのう! 渡したのは数日前なんじゃがなぁ」
「グラヴェおじさん、笑い事じゃない。これは大事な剣。鍛冶のことは詳しく知らないけど、これって直せる?」
「当然じゃ、鍛冶師が新品の武具しか作れんと思っておるのか? 修理することも鍛冶師の仕事じゃ」
よかった。でも、素材まで戻すって話なのかな? それだと、今のフェル・デレって言えるか分からない。同じ名前の別物じゃ意味がない。
「この子はこの子のまま直せる? 同じ形でも魂が違うなら意味がない」
「……なるほどのう。アンリはその年でそういうことを理解しておるのか……いや、その年だからこそ、か? それも安心するといい。それほどの剣がただの剣だと思うのか? ちゃんとユニーク名が付いた正真正銘のフェル・デレじゃ。木っ端みじんならともかく、そこまで原型が保てているなら、たとえ素材に戻したとしても同じ魂が受け継がれるわい」
グラヴェおじさんがそう言うと、スザンナ姉ちゃんがびっくりした声を上げた。
「それってユニークアイテムってこと? そういうのを初めて見た訳じゃないけど、最近作られたものというのは初めて見たよ」
「ユニークアイテムって何?」
「名前の付いた道具や武具をユニークアイテムっていうんだ。それは精霊とか神様に認められた物って言われていて、この世に一つしかない物って意味だよ。つまり、フェル・デレは、アンリが勝手にそう言ってるだけじゃなくて、ちゃんとフェル・デレって名前が付いている剣ってこと」
アンリがそう言っているだけじゃなくて、本当にフェル・デレって名前の剣なんだ?
それはすごくうれしい。でも、その分、ショック。アンリが弱いせいで剣を折られちゃった。剣そのものはすごいのに、アンリにはそれを使いこなせる力量が無いってことだ。
「アンリ、時間が惜しいからその剣を渡してくれ。折れた刀身のほうもあるんじゃろ? すぐに修理に取り掛かろう」
「それなら私が持ってる。亜空間に入れておいた」
スザンナ姉ちゃんが折れたほうの刀身をグラヴェおじさんに渡す。アンリも握っている剣を渡した。
グラヴェおじさんはそれを大事そうに受け取ってから、にかっと笑った。
「のう、アンリ。お主はさっきからしょんぼりしておるが、ちゃんとフェル・デレにお礼は言ったのか?」
「お礼? どうして? どちらかというと、フェル・デレに対してはごめんなさいという気持ちでいっぱい。アンリが弱いから剣が折れちゃったわけだし」
「そうかもしれん。だがのう、武器というのは敵を倒すものだが、突き詰めれば主人を守るための物と言える。この剣はアンリの代わりに折れた。それだけの事じゃ。命を守ってくれた剣に感謝するべきじゃぞ?」
アビスの中でアンリは怪我をしない。だからそれはちょっと違うような気がする。でも、本当の戦いだったら、アンリはフェル・デレのおかげで生き延びたってことになるのかな……?
「わかった。グラヴェおじさんの言う通り。ありがとう、フェル・デレ」
「うむ、儂もフェル・デレに感謝しながら直すことにしよう。とはいってもすぐには直らん。それまではダンジョン攻略も控えて別の修業をするんじゃな」
「うん、フェル・デレとはしばらくお別れ。アンリはそれまでにパワーアップしておく。次に会う時はもっと使いこなせるようになるから安心して」
「おう、フェル・デレもさらにパワーアップして渡してやるからな!」
折れたフェル・デレをしっかり目に焼き付けてから、グラヴェおじさんにお礼をして工房を出た。
「良かったね、アンリ。フェル・デレはちゃんと直るよ」
「うん、安心した。でも、このままだとフェル・デレはまた折れることになる。デュラハンさんがいる第五階層の攻略は一旦おいておこう。もっと修業しないと」
「そうだね、デュラハンは強い。対策うんぬんよりも、まずは強くならないと。攻略した階層で修行をしようか? 魔素で作った魔物をアビスに作ってもらってそれを倒そう」
「それはいい考え。第四階層までは上手くいってたけど、あれは魔物の皆が手加減してくれていたから。デュラハンさんは本当に本気で戦ってくれたからアンリは負けたんだと思う。本気のデュラハンさんを倒せるくらいの力を付けないと、第六階層へは行けない」
それに第六階層より先はみんな武闘派。生半可な力じゃ先へは行けない。ここは焦らずにじっくり修行だ。
よし、まずはデュラハンさんへのリベンジするのを目標にしよう。
村の方針「やられたらやり返す。徹底的に。禍根は残さない」に従って、デュラハンさんの槍を折った上で勝つぞ。
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