第148話 反省会
工房からダンジョンのエントランスまで戻ってきたら、ジョゼちゃんとバンシー姉ちゃんとデュラハンさんがいた。
バンシー姉ちゃんとデュラハンさんはちょっとしゅんとしてる。どうしたんだろう?
アンリが不思議そうにしていたら、ジョゼちゃんが一歩前に出た。
「アンリ様、本日は申し訳ありません」
「えっと、なんのこと?」
「今日のダンジョン攻略でデュラハンが本気でアンリ様を撃退してしまいましたので。それだけならともかく、フェル様の名前を持つ、魔剣フェル・デレまで折ってしまうとは……デュラハンは昨日ここに着いたばかりで色々なルールを理解していなかったようです。それは魔物達を統括している私のせいでもあります。申し訳ありません」
ジョゼちゃんがそう言って頭を下げると、バンシー姉ちゃんも、デュラハンさんも、さらにはデュラハンさんが乗ってたお馬さんも頭を下げてきた。
やっぱり魔物の皆はアンリ達を気持ちよくダンジョン攻略させるために、手加減してくれていたんだと思う。それをデュラハンさんは知らなくて本気でアンリ達を止めちゃったんだ。
でも、謝る必要なんてない。これはちゃんと言っておかないと。
「フェル・デレが折れたのはアンリが弱かったせいだし、デュラハンさんが本気出したのは間違っていないと思う。アンリは強くなりたい。だから本気で戦ってくれて嬉しい。挫折があってこその成長。これを機会にアンリはもっと強くなる。だから気にしないでいいし、謝ることでもない。それにフェル・デレもさらに強くなって帰ってくる。次はリベンジするから覚悟して」
ダンジョン攻略は順調に進んでた。でも、アンリはそれで調子に乗っていたという気もする。慢心は駄目。デュラハンさんを見たとき、何の情報もないんだから引くべきだった。強引に戦ったのがそもそもの間違い。
「そうですか、フェル・デレは元に戻りそうですか。さすがはグラヴェですね……わかりました。アンリ様がそう言うなら、特に問題はないということで、おとがめなしにします。ただ、リベンジするということであれば、デュラハンにはまた来てもらったほうがいいですね。アンリ様がデュラハンに勝てると思ったら言ってください。またルハラの古城から来てもらいますので」
「いつでも呼んでください。えっと、次も本気でやっていいんですよね?」
「もちろん。デュラハンさんはアンリの壁として立ち塞がってもらう。もちろん、バンシー姉ちゃんも。でも、アンリはすぐにその壁を乗り越えて見せる。むしろ壁を破壊して進む勢い」
そういうと、皆が笑顔になる。そして、ジョゼちゃん達はもう一回だけ頭を下げてからダンジョンの奥の方へ戻っていった。
これで問題ないかな。謝罪されるようなことじゃないし、デュラハンさんも悪くないってことは伝わったと思う。
今度は勝てるようにもっと色々と対策を考えて、さらに強くならないと。
そうだ、デュラハンさんみたいにスキルを覚えるってどうだろう? アンリも同じように大車輪とか武器破壊とかのスキルを覚えたら強くなるんじゃないかな? 紫電一閃は一日一回しか使えないし、使うとちょっと体がだるくなるから、もっと手軽に使えるスキルを覚えよう。
うん、やることがいっぱいだ。遊んでいる場合じゃない。それにフェル姉ちゃんはもっともっと強い。あの強さの高みまで登らないと、フェル姉ちゃんを部下にできないんだ。
なんだかテンション上がってきた。
でも、そろそろ門限になりそう。残念だけど家に帰らないと。
「アンリ、今日は敗北記念に森の妖精亭で打ち上げをしようか?」
「敗北記念で打ち上げなの?」
「敗北記念じゃなくてもいいけど、しばらくはダンジョン攻略しないでしょ? なら一つの区切りとして打ち上げするのはいいと思うよ? 反省会っていってもいい」
「反省会。それは大事。でも、おかあさんがもうご飯を作っちゃったかも」
「森の妖精亭で料理を頼まなければいいんじゃないかな? 反省会は家でも出来るけど、こういう時は酒場で打ち上げをするのが冒険者」
「それは最高。うん、打ち上げしよう。フェル姉ちゃん達はいないけど、たまには夜更かししたい」
そうと決まれば早速行動だ。まずはおじいちゃんの許可を貰わないと。
おじいちゃんから許可が出た。
たぶん、アンリ達がダンジョンの攻略失敗したのをなんとなく察してくれたんだと思う。あまり遅くなっちゃいけないけど、とりあえずは打ち上げが出来ることになった。
夕食を食べてから、スザンナ姉ちゃんと一緒に森の妖精亭へ移動する。
ここへ夜に来るとまた格別なものがある。なんかこう、大人って感じ。
皆、アンリ達が来ると不思議そうな顔をしたけど、笑顔で迎えてくれた。そしていつもフェル姉ちゃん達が座っているテーブルにつく。
ちょっと待つと、ヤト姉ちゃんが水を持って来てくれた。
「いらっしゃいませニャ。今日は二人だけニャ?」
「うん、今日はダンジョン攻略を失敗したからその反省会も兼ねた打ち上げ。安心して、アンリはお金を持ってないからやけ食いはしない」
「そんな心配はしてないニャ。でも、お金を持ってないのに、お店に来たのかニャ……?」
いけない。もしかして冷やかしと思われた? でも、夕食を食べてきちゃったし、場所だけ借りるのはマナー違反かな?
「そこは私がお金を払うから大丈夫。アンリ、好きなのを頼んでいいよ」
「スザンナ姉ちゃんに一生ついてく。えっと、リンゴジュースでもいい? お高い物だとは思うけど」
「もちろんいいよ。それじゃリンゴジュース二つとじゃがいも揚げを一つ。トマトソースで」
「リンゴジュース二つと、じゃがいも揚げのトマトソース一つニャ。分かったニャ。ちょっと待つニャ」
ヤト姉ちゃんはそういうと、厨房のほうへ戻っていった。
「ありがとう、スザンナ姉ちゃん。実はアンリのお腹もじゃがいも揚げの気分だった」
アンリは成長期。夕飯を食べてもまだまだ入る。
「たまにはね。それじゃ今日の反省会をしようか。まず、アンリは剣が折れてから冷静さを失いすぎ」
「うん。その時を明確には覚えてないけど、頭に血が上った気がする。無謀な特攻をしたって反省してる」
あの時は冷静に退却するべきだった。そもそもデュラハンさんが出てきた時点で引き返すっていう手もあったと思う。でも、いつかは戦わなきゃいけない。もし次に剣を折られても冷静でいられるかな?
あの剣はアンリにとって相棒といってもいい。それが折られて冷静にいられる自信がない。もちろんそれが七難八苦でも同じだし、スザンナ姉ちゃんが倒されても同じになると思う。
「お待たせしました! リンゴジュース二つにじゃがいも揚げです!」
いつの間にか、メノウ姉ちゃんが頼んだ物をテーブルまで持って来てくれた。でも、ちょっと違和感がある。すごく嬉しそうっていうか、浮足立ってる感じ。
「ありがとう、メノウ姉ちゃん。ところでなにかいいことでもあったの? その、なんというか、笑顔が眩しい」
「あ、聞いちゃいます? 聞いちゃいますか?」
なんだろう、ちょっとの違和感がものすごい違和感になった。メノウ姉ちゃんってこんな感じだったっけ。なんとなくディア姉ちゃんを彷彿とさせる。
「実は今日、フェルさんのお役に立てたんですよ!」
「フェル姉ちゃん?」
そういえば、ダンジョン攻略で忘れてたけどそろそろ帰ってくるのかな?
それはともかく、役に立てたって何だろう?
「えっと、詳しく聞いてもいい?」
「ええ、もちろんですよ! 実は――」
メノウ姉ちゃんも詳しいことは知らないけど、ラジット商会というところとフェル姉ちゃんが敵対したようで、ラジット商会に打撃を与えるお手伝いをしたみたい。
ラジット商会にいるメイドさん達を全員引き上げさせたり、鍛冶師ギルドのドワーフさんに連絡して契約を破棄してもらったり、色々なところへ連絡をしてフェル姉ちゃんの望みをかなえたとか。
それはそれで嬉しいみたいだけど、ほかにはお土産を買ってきてくれるとか、フェル姉ちゃんのことを主って言えたことが嬉しいみたい。
メノウ姉ちゃん曰く、「こうやって徐々に主人になってもらうんです」らしい。たぶん、長期計画。
「ふ、ふふ、ふふふふ……!」
メノウ姉ちゃんから、笑いを抑えきれないという感じが溢れ出てる。ちょっとどうかなって思うけど、嬉しさはよく分かるから特に指摘はしないでおこう。
それに実はアンリも嬉しい。
フェル姉ちゃんがリーンの町にいることが分かった。つまり、明日か、遅くても明後日には帰ってくるってことだ。その事実にアンリも笑顔になる。
明日は修業を休んで、フェル姉ちゃんを待とう。
よし、明日はそれでいいとして今日は反省会。夜はまだこれから。しっかり反省をしよう。でも、まずはジャガイモ揚げを熱いうちに食べようっと。
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