第146話 武器の無効化

 

 とりあえず、一時休戦してデュラハンさんのことを聞くことにした。何も知らない相手とは戦わない。情報収集も兼ねてデュラハンさんがどんな魔物さんなのか確認しておこう。そもそもどうして魔物ギルドに入っているのか会長として知っておきたい。


 話によると、デュラハンさんはジョゼちゃん達に負けて軍門に下ったみたい。それはいつのことかと言うと、フェル姉ちゃんがディーン兄ちゃんの帝位簒奪を手伝ったとき。


 あの時、魔物の皆はついて行ったけど、帝都ではほとんど何もできずに不完全燃焼だったとか。その憂さ晴らしみたいな感じで帝都のすぐ東にある森で暴れたみたい。


 もともとデュラハンさんはその森にある古城で生まれたみたいだけど、とくに何かをするわけでもなく、普通に古城を徘徊していただけだった。


 そこに周囲のアンデッドを浄化しながら近寄ってくる魔物達の群れがあったので一応迎撃してみたら、ジョゼちゃん達にボコボコにされちゃったとか。ちなみに浄化はリエル姉ちゃんがやってたみたい。デュラハンさんも危うく浄化されそうになったとか。


 負けてからは魔物ギルドに入って、周囲の魔物達を従えて森の治安維持をしているとか。しかもその治安維持はちゃんとお金になる。なんとルハラ帝国から魔物ギルドへ定期的にお金が支払われているみたい。つまり国公認のお仕事。


 いまのところデュラハンさんは魔物ギルドで一番の稼ぎ頭。


 そんなデュラハンさんをバンシー姉ちゃんは助っ人として呼んだ。なんでも今度お互いに魔物さん達を派遣しようとかいうことになっているみたい。今度はバンシー姉ちゃんがその古城に行くってことなのかな?


 とりあえず状況は分かった。デュラハンさんはソドゴラ村に住んではいないけど、同じ魔物ギルドの仲間ということ。なら家族。


「今日初めて知ったのはごめんなさいだけど、デュラハンさんもアンリの家族。一緒に魔物ギルドを盛り立てよう」


「はい、頑張ります」


「ちなみに、デュラハンさんって男? それとも女? 声からすると男かな?」


「アンデッドなのでよく分かりません。物心ついたときからずっとこの姿なので。鎧の中も空洞ですし」


「そうなんだ? ちなみになんで頭を手で抱えてるの?」


「なんででしょうね? こうすると落ち着くから、としか言えないのですが」


 本人も分からないんだ? まあ、アンリもなぜかトウモロコシが好きだし、本能的な物なのかな。


 とりあえず、これで情報収集は終わり。


「それじゃデュラハンさん。そろそろ勝負をしよう」


「あ、やっぱりやるんですか? 一応バンシーさんの助っ人として呼ばれたのでやれと言われればやりますが」


 バンシー姉ちゃんが「やってください」と言って、戦いを促した。


「分かりました。ならば、私も第五階層の階層守護者としてアンリ様、スザンナ様の前に立ち塞がりましょう。本気で止めますよ?」


「望むところ。そうしないとアンリは強くなれない」


 多分、フェル姉ちゃんがそろそろ帰ってくる。強くなったアンリを見てもらわないと。


「それじゃ、いざ尋常に――勝負!」


 とはいっても、まずはデュラハンさんと距離を取る。最初は分析しないと。


 武器は右手に持った槍だ。結構長そうだから懐に入ればそれなりに戦えるかな? 左手は頭を抱えているけど、邪魔じゃないのかな? 頭に当てればアンリの勝ちだからアレを狙えばいいんだけど、そもそも馬に乗ってるから頭の位置が高い。今のアンリじゃフェル・デレを使っても届かない。


 ということは馬から落とさないとダメ。


「スザンナ姉ちゃん、デュラハンさんを馬から落とせる?」


「わかんないけどやるしかないね。アンリの出番は後だから力を温存しておいて」


「うん、わかった」


 スザンナ姉ちゃんは右手を突き出して水鳥の魔法を使った。勢いよく水の鳥が飛んでいく。


 デュラハンさんは槍の真ん中を持って横にして突き出した。


「【大車輪】」


 横にしていた槍が持っていた部分を中心にして高速回転した。それが盾のようになって水の鳥を全部弾いちゃった。すごい、あれって槍のスキルだ。昔、お父さんから聞いたことがある。


「今度はこちらの番ですね」


 デュラハンさんがそう言うと、馬に乗ってこっちに駆けてきた。そんなに速くはないけど、なんというか力を溜めている感じ。そしてスザンナ姉ちゃんのほうに向かって槍を突き出した。


 スザンナ姉ちゃんはそれを上手く躱す。


 デュラハンは躱されてもそこで止まったりせずに、そのまま駆け抜けて行っちゃった。でも、すぐにぐるっとこちらを向いた。馬のほうもやる気になっている感じで鼻息が荒い。


「スザンナ姉ちゃん、大丈夫?」


「大丈夫。でも、あの突きに当たったらタダじゃ済まなそう」


「スザンナ姉ちゃんは六回攻撃が当たっても大丈夫だから平気」


「アビスの中ならそうなんだけど、実際だったら一撃で死んじゃうよ。こんなに強い魔物がいるんだね……ここは本気を出そう」


 おお、スザンナ姉ちゃんの本気。これは見ておかないと。


「こんなこともあろうかと、昨日の雨を亜空間に入れておいたんだ」


 スザンナ姉ちゃんがそう言うと、何もないところから水が大量に流れ出てきた。水たまりになるかと思ったら、その水がグネグネ動き出す。たぶん、スザンナ姉ちゃんがスキルで動かしている。


 それが竜の姿になった。後ろ足が太くて前足がちょっと短い感じの翼があるドラゴン。それがアンリ達の前に立つ。


 そのドラゴンが大きく息を吸うモーションをすると、次の瞬間に大量の水を放出した。


「うおおおっ!」


 ドラゴンの水ブレスは当たらなかったけど、すごい威力で地面を削った。


「お、おっかないですね……! これは手加減出来ません」


「次は馬に当てる。アンリは馬から落ちたところを狙って」


「分かった」


 例え馬から落ちても、あの頭に届く攻撃ができるかどうか分からない。ならここはフェル・デレの出番。七難八苦よりは当てやすいはず。そう思いながら、背中のフェル・デレを両手で持って構えた。


 念のため聖水も振りかけておく。これで一時的に聖剣フェル・デレだ。


 デュラハンさんが馬に乗って駆けてきた。今度はアンリ狙いだ。


「スザンナ様を倒すよりもアンリ様を倒すほうが早いですね!」


 弱い相手から狙う。それは戦いのセオリー。でも、それが間違いだって気付かせる。アンリはスザンナ姉ちゃんよりも弱いけど、あきらめは悪いほう。


 突いてくる槍に向かって攻撃を放つ。


「てい!」


「むう!」


 ガンっていうすごい音がした。それに手がしびれてる。たぶん、槍と剣がお互いに弾かれたんだと思う。でも、向こうはさっきと同じようにそのまま駆け抜けて、ある程度距離を取ったらこちらを振り向いた。


「素晴らしい力量ですね。まさか私の攻撃を弾くとは」


「アンリの力量じゃない。この剣のおかげ」


「なるほど、素晴らしい剣ですね――おっと、そんな大モーションの攻撃は食らいませんよ」


 アンリが話をしている最中にスザンナ姉ちゃんのドラゴンがまた水ブレスをしたけど、当たらなかった。周囲に水溜まりがたくさんできてる。


 でも、そんな水たまりをものともせずにまたアンリのほうへ駆けてきた。ならもう一度迎撃だ。


「相手の武器を無効化する。それは戦いの基本」


「え?」


「【武器破壊】」


「アンリ! その攻撃を受けちゃダメ!」


 スザンナ姉ちゃんの声が響くと同時くらいに、フェル・デレと槍がぶつかった。


 さっきぶつかった音とは違い、キンっていう甲高い音が響いた。


「フェル・デレが……!」


 気づいたときにはフェル・デレの刀身が半分ほどなくなった。そして何かが地面に落ちる音がする。見ると、折れたフェル・デレの半分が地面に突き刺さっていた。

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