第142話 巻き込まれる体質
昨日の午後、色々と情報収集をした結果、第四階層の階層守護者はキラービーちゃんなのが分かった。
というか、アビス入口の小屋にいるバンシー姉ちゃんに聞いたら普通に教えてくれた。その代わり、バンシー姉ちゃんの愚痴を聞かされたけど、それは必要経費だと思う。
キラービーちゃんは人型の蜂……蜂型の人なのかな?
どっちなのかは分からないけど、蜂の弱点を突くことが有効だということでまた情報収集をした。
そして蜂の弱点。村のみんなに聞いてみると、雨に弱いみたい。雨の日は蜂を見ないとか。蜂の羽はすごくデリケートで、濡れると飛べなくなるという意見が多かった。
キラービーちゃんの背中に羽はあるし、空を飛ばれたらスザンナ姉ちゃんの魔法しか攻撃手段がなくなる。スザンナ姉ちゃんの魔法で雨を降らせてからアンリが地上で戦う作戦になった。
キラービーちゃんの機動力は侮れないけど、それは羽があってこその速さ。でも、羽が使えなければ、アンリとそう変わらないと思う。飛べなくなったところをガツンとやるつもり。
情報収集をした後は、ダンスの訓練をした。
ゴスロリ服を着て、フェル・デレを背負いながらのダンスだったからかなり大変。でも、そのおかげで筋力や体幹が鍛えられたかも。休息も大事って言われたけど、常に体は鍛えて強くならないと。
作戦も考えたし、体も鍛えたから今日はすぐにアビスちゃんのダンジョンへ行きたいけど、いつもの通り午前中はお勉強。でも、今日も昨日と同じ生活魔法の訓練。こういうのは好き。しっかり訓練しよう。
午前中の勉強を終えて、ダンジョンの入口までやってきた。
今日は第四階層を突破する予定。
作戦も立てたしアンリ達が負ける理由はない。問題があるとしたら、スザンナ姉ちゃんは雨を降らせたら結構魔力を消費しちゃって、その後の戦いに参加できない可能性があるってことかな。
その時はアンリとキラービーちゃんの一騎打ちなんだけど、そこでアンリが勝てるかどうかが問題。たぶんいけるとは思うんだけど楽観はできない。それにキラービーちゃんを倒してからもほかの魔物さんがいるかもしれない。そこもアンリが頑張らないといけないから責任重大だ。
「アンリ、先のことを不安に思っても仕方ない。できるだけ準備はしてきたんだから、自信を持っていこう」
スザンナ姉ちゃんはアンリを見つめながらそう言った。アンリの不安が顔にでていたのかも。
「うん、自信は大事。頑張る」
「頼りにしてるからね」
そういうとスザンナ姉ちゃんは微笑んだ。
頼りにされたならちゃんとそれに応えないと。それにスザンナ姉ちゃんに頼りにされると、テンションが上がる。
「アンリ様、スザンナ様、少々よろしいですか?」
ダンジョンに入ろうとしたら、バンシー姉ちゃんに止められた。どうしたんだろう?
「何か用事? アンリ達は今日、第四階層を突破するつもり」
「はい、それは頑張ってください。応援してます。それとは別件で伝えておきたいことがありまして」
「伝えておきたいこと?」
「はい、フェル様が大霊峰からお戻りになったようですよ。カブトムシを大霊峰の入口にあたる砦まで呼んで欲しいと念話がありました。その手配をしましたので」
「そうなんだ? ということはもうすぐ帰ってくるのかな?」
「詳しくは分かりませんが、今日はエルリガという町に宿泊すると思います。そしてそこからリーンへ向かってそこでも一泊。リーンからソドゴラ村へ一日なので、早ければ明後日の夕方くらいには戻るかもしれませんね」
明後日の夕方にフェル姉ちゃん達が帰ってくる。
なんて素敵な情報。さらにテンションが上がってきた。
「ありがとう、バンシー姉ちゃん。すごくいい情報だった。力が漲る感じ」
「言っておきますが、早ければ、ですよ。フェル様の場合、何かに巻き込まれて帰りが遅くなる。そんなことがよくありそうなので」
「わかる」
スザンナ姉ちゃんがバンシー姉ちゃんの言葉に頷きながら同意した。
アンリもわかる。フェル姉ちゃんは色々と面倒ごとに巻き込まれる体質。余裕を見て明々後日くらいを考えていた方がいいかもしれない。
「実はすでに色々と面倒ごとを抱えているみたいなんですよね」
「そうなの?」
「はい、ドラゴニュートを三人ほど連れてくるみたいです。あと、ドワーフが一人一緒についてくるとか。それに大霊峰で大狼のナガルに会ったみたいですし、色々と盛りだくさんですよね」
ドラゴニュートさんを村に連れてくるんだ? それにドワーフさんも来るし、修行に出たナガルちゃんに会ったんだ?
そういえば、勉強中にジョゼちゃんがおじいちゃんに何かを聞きに来てた気がする。よく聞き取れなかったけど、おじいちゃんは「フェルさんが大丈夫だと思うのなら構いませんぞ」って言ってた。
あれってジョゼちゃんに言ったんじゃなくて、フェル姉ちゃんと念話してた? そういう時はアンリに念話を送るべきなのに……フェル姉ちゃんは分かってない。
「ドワーフって言うのは誰? もしかしてアダマンタイトのドワーフのこと?」
スザンナ姉ちゃんがバンシー姉ちゃんにそう聞いたけど、それは分からないみたい。単にドワーフの人が付いてくるってことしか聞いていないとか。
それは会ってからのお楽しみかな。
なんていうか、フェル姉ちゃんが来てから村に人がいっぱい来る。ほんのちょっと前までは、もっと人が少なかったんだけど。
村の西側では、ロンおじさんがメイドギルドの支店やヴィロー商会の支店を作っているみたいだし、ミノタウロスさんやダンゴムシさんのおかげで畑も拡大しているってベインおじさんが言ってた。
そのうち、村じゃなくて町になるかも。将来、アンリはソドゴラ町の町長かな。うん、悪くない肩書。最終的には人界王アンリって名乗るつもりだけど。
よし、このテンションと勢いで、第四階層を突破するぞ。
ダンジョンに入って第四階層の荒野エリアを進む。ダンジョンの中なのにすごく明るい。天井も空っぽい感じだし、太陽っぽい物もある。アビスちゃんはすごい。
でも、本格的な荒野だから、目印になる物が岩くらいしかなくて地図を描くのが結構大変。
「こういう場合は魔石に頼るしかないね。小さい魔石ならいっぱい持ってるから、色々なところに埋めておこう。でも、魔石は移動する可能性があるから、動かない岩とかをちゃんと目印に描いておいて」
「うん。実は岩の形から発想を得て、色々名前を付けた。さっきの岩はグリフォン岩。岩の形がくちばしっぽいから。向こうに見えるのはドラゴン岩かな?」
「たしかにそれっぽいね。それじゃ未踏エリアをどんどん進んでいこう。視界を遮るものは無いから魔物が出ればすぐわかるけど、常に周囲を警戒してね」
「うん、ちゃんと警戒する」
さっきから結構魔物さんに襲われている。襲って来るのはちょっとだけ大きめの蜂だ。ジャイアントビーとかいう魔物さんみたい。倒すと魔石になるし、アビスちゃんが作り出した魔素の魔物さんだと思う。
出来るだけスザンナ姉ちゃんの魔力は温存したいので、アンリが魔剣七難八苦で倒す。そんなに強くないから、当たれば一撃だ。ちょっと素早いのが困るけど。
そんな感じで進んでいたら、やっと下へ行く階段を見つけた。
「スザンナ姉ちゃん、階段があったよ」
地面にある階段を見つけて指さしながらスザンナ姉ちゃんのほうを見た。
「アンリ、危ない!」
「え?」
すぐにスザンナ姉ちゃんが見ているほうを振り向くと、キラービーちゃんが高速でこっちに飛んできた。
とっさに七難八苦を抜いて攻撃する。
でも、躱されて体当たりされた。
「アンリ!」
ゴロゴロと地面を転がった……はずなんだけど、あれ? 結構な衝撃だと思ったんだけど、全然痛くない。
何事もなかったように立ち上がったら、スザンナ姉ちゃんが驚いている。
「アンリ、大丈夫なの?」
「うん、全然痛くない。地面を転がったからちょっと目が回っちゃったけど」
「アンリ様とスザンナ様は、ダンジョンの中で痛みを感じないようにしているみたいですよ。さらには怪我もしないみたいです。アビスがそんなことを言ってました」
キラービーちゃんが空中に浮かびながらそんなことを言い出した。
「そうなんだ? でも、それじゃ絶対にダンジョン攻略できちゃう気がするんだけど?」
痛みもなくて怪我もしないならどんな無茶も出来る。それはそれで緊張感がないかも。
「ええ、ですので、アンリ様は一日に三回、スザンナ様は六回攻撃を食らうと、その日のダンジョン攻略は失敗になるルールが追加されました」
「そうなの?」
「はい。なのでアンリ様は後二回攻撃されたら今日は失敗になりますよ。お二人ともなかなかお強いので、そろそろこちら側も本気を出していこうということになりました」
なんてこと。つまり今までは練習みたいなもの。ここからが本番なんだ。アンリは本気を出した魔物の皆に勝てるかな……?
「アンリ、冒険者ならどんな状況になってもやることは変わらない。魔物を倒して先に進む。逆に緊張感が出たから悪くないと思う。作戦通りに行くよ」
「こういう時のスザンナ姉ちゃんは精神的にすごく頼りになる。今日、キラービーちゃんに勝って次の階層へ行こう」
よし、スザンナ姉ちゃんがいれば何の問題もない。作戦通り頑張るぞ。
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