第140話 地対空ヒマワリmk3
アルラウネちゃん、マンドラゴラちゃんを倒して、二つの鍵を手に入れた。
もう一つの鍵はヒマワリちゃんが持っている。今度は策を弄して勝てるような相手じゃない。注意して戦おう。
ヒマワリちゃんを探しつつ第三階層の鉱山エリアの地図を描いていく。結構分かれ道が多いし広いから一枚の紙に収まらない感じ。これは超大作になりそう。
探索中、大きな扉を見つけた。正直なところ、鉱山にこんな扉ってあるのかな、という疑問が沸いたけど、これはダンジョンの演出だから問題ないはず。
扉を調べたら、鍵穴が三つあった。鍵を三つ揃えたらここで使えばいいんだと思う。たぶんだけど、この先に第四階層への階段があるはず。門限の時間になる前に何とかヒマワリちゃんを見つけて勝利しないと。
さらに第三階層を歩き回った。どんどん未踏エリアが埋まっていく。
そして広場に出た。
ほかの場所と同じように、中央にヒマワリちゃんがデンと構えている。
『よくぞここまで来られた、アンリ殿、スザンナ殿。この第三階層を守る階層守護者として、お二人の前に立ち塞がろう。先に行きたければ、我が屍を越えていくがいい。いざ、尋常に勝負!』
「ヒマワリちゃん、ちょっとセリフが重い。というか、念話で喋れたんだ?」
『あ、はい。ちゃんと勉強しましたので。言っておきますが、手加減はしませんよ? アンリ様達を止めると、魔物ギルドの貢献ポイントが上がる仕組みになっているんです。ポイントを溜めればランクアップが出来るので本気出します』
いつの間にかそんなことになってたんだ?
アンリを足止めするとポイントがもらえる仕組み……アンリが手を抜けば皆にポイントが入るんだろうけど、それじゃ意味はないと思う。それにアンリが手を抜くなんて皆に失礼。本気でぶつからなきゃ。
「そういうことならアンリも本気を出す。お互い恨みっこなし」
『もちろんです。では、いきますよ!』
ヒマワリちゃんは動けるはずだけど、今は太陽がないダンジョンの中だからその場から動かないみたいだ。でも、葉っぱが付いている茎をのばして攻撃してきた。
アンリもスザンナ姉ちゃんもその茎を攻撃して弾いた。
「すごい。本当にヒマワリが動いてる。茎の部分が伸びてるし、鞭みたいで当たったら痛そうだね」
「ああいうのを鞭って言うんだ? 言葉は知ってたけど、見たのは初めて。変幻自在で軌道が読めないから危ない」
何度も襲ってくる茎の部分を魔剣七難八苦で弾いた。
それは出来るんだけど、ヒマワリちゃんの本体へ近づけないのは問題。茎をはじいているだけでヒマワリちゃんに勝てるわけないんだから、このままだとジリ貧だ。
ここはスザンナ姉ちゃんの力を借りよう。
「スザンナ姉ちゃん、水鳥の魔法で本体を攻撃して。それに合わせてアンリも攻撃する」
「分かった。【水鳥】」
スザンナ姉ちゃんがヒマワリちゃんに手をかざしながら魔法を使うと、水の形をした鳥がスザンナ姉ちゃんの手から放たれた。五匹の鳥がすごいスピードでヒマワリちゃんに襲い掛かる。
『甘い。【シードショット】』
ヒマワリちゃんの頭……花かな? そこから種が放出されると、水の鳥がみんなはじけちゃった。結構な威力と見た。あれに当たったら危ない。
「ヒ、ヒマワリに防がれるとは思わなかった……」
『私は進化して「地対空ヒマワリmk3」となったのです。私に飛び道具は効きませんよ!』
よく分からないけど、飛んでくるものを迎撃するのが得意ってことなのかな? でもヒマワリちゃんの名前を聞くといつも思う。マークスリーって何?
……いけない。そんなことを考えている場合じゃなかった。遠距離からの攻撃が効かないならどうすればいいんだろう?
ここはアンリが被弾覚悟で突っ込むしかないかな? 痛くても根性で耐える。
「ここはアンリが突っ込む。スザンナ姉ちゃんはサポートをお願い」
そう言ったんだけど、スザンナ姉ちゃんからの回答がなかった。目を逸らしている余裕がないからどういう状態か分からないけど、どうしたんだろう?
「スザンナ姉ちゃん?」
「アンリ、ここは私がやるから、ヒマワリに隙ができたらとどめをお願い」
スザンナ姉ちゃんから決意に満ちた声が聞こえた。ならここはスザンナ姉ちゃんに任せよう。
「分かった。何をするか分からないけど、スザンナ姉ちゃんを信じる。いつでも飛び出せるようにしておくから」
「うん。アンリには当てないつもりだけど、この技はぶっつけ本番だから気を付けてね」
スザンナ姉ちゃんがそう言うと、アンリの前に出た。すると、ヒマワリちゃんの茎がスザンナ姉ちゃんに集中する。でも、スザンナ姉ちゃんが腰に付けていた水筒から水が八本、長い紐のように出てきて、茎を全部弾いちゃった。すごい。
「いくよ。どっちが先にへばるか勝負。【ショットガン】」
スザンナ姉ちゃんがそう言うと、水の紐の先端から水の塊が放出された。それがヒマワリちゃんに襲い掛かる。
『ぬ! 【シードショット】!』
スザンナ姉ちゃんの水に種をぶつけて相殺している感じになった。
すごい、ヒマワリちゃんもスザンナ姉ちゃんも似たような攻撃でお互いの攻撃を相殺している。スピードがあるからアンリには見えない攻撃もある。
こんな状態でヒマワリちゃんの隙をつくのは難しいかも。それにチャンスが何度もあるとは思えない。ここは一撃必殺の精神でやろう。
魔剣七難八苦は床に放り投げた。それに鞄も。少しでも身を軽くして飛び出さないと。
背中の魔剣フェル・デレを抜く。刀身を肩に担ぐようにしてすぐに攻撃できる状態にした。あとはスザンナ姉ちゃんがヒマワリちゃんの隙を作るまで待つ。
ずっと同じことをして疲れてきたのか、お互いのスピードが遅くなってきた。これくらいならアンリでも見える。
あ、ヒマワリちゃんの花部分から種がなくなりそう。これはチャンスが近いかも。でも、スザンナ姉ちゃんもすごく辛そう。魔力が切れそうなのかな?
『ぐぬぬ!』
ヒマワリちゃんが辛そうな声をあげた。あとちょっとで種が全部なくなる。そうなったら飛び出そう。
そして種がなくなった。スザンナ姉ちゃんが「アンリ!」って呼びかけてきた。
剣を肩に抱えたまま飛び出した。そしてヒマワリちゃんに近づいて、上段から思いっきり剣を叩きつける。
『あいた!』
茎の部分で防御はされたけど、花の部分にフェル・デレが当たった。
『やられました。降参します。まさかアンリ様に攻撃されるとは思ってなかったです。近寄ることはできないと思ってたんですけどね』
「スザンナ姉ちゃんのおかげ。アンリだけだったら無理だった。アンリは美味しいところだけ奪っただけ」
たぶん、あのままやってもスザンナ姉ちゃんが勝ってたと思う。
『それでも隙を突けるというだけで、強いと思いますけどね。それじゃ私に勝った証として鍵を渡します。おめでとうございます』
「うん、ありがとう。でも、剣が当たった場所は怪我してない? 大丈夫?」
『はい、大丈夫です。そもそもアビスの中ではちょっと痛いくらいで怪我はしないようになっているらしいので何の問題もないです。どういう原理なのかは知りませんけど』
「そうなんだ? でも、それなら安心」
『ええ、だから思いっきりやってくれて大丈夫ですよ。それじゃ早めに扉へ向かってください。そろそろ門限の時間になりますからね。私はこのまま休ませていただきます』
「うん、ゆっくり休んで」
ヒマワリちゃんのほうはこれでいいけど、スザンナ姉ちゃんは地面にすわりこんで、肩で息をしている。動けるかな?
「スザンナ姉ちゃん、大丈夫?」
「……ちょっと疲れた。私、アダマンタイトの冒険者なのにヒマワリと互角って……世の中は広い。というかヒマワリって弱い方なんだよね? この間のトーナメントにも出てなかったし」
「うん、もっと強い魔物さんはいっぱいいると思う」
「やっぱりソドゴラ村って変。面白いけどね」
「それは完全に同意。ほかの村のことは知らないけど、たぶん、この村以上に面白い村はないと思う。何年かしたら、誰もが知ってる村になるかも」
「たぶん、そうなるよ。それじゃ時間もないし、あの扉まで行こう。早く行かないと門限に間に合わないからね」
スザンナ姉ちゃんに頷いた。
よし、急に難易度が上がってきた感じではあるけど、いい修行になると思う。これからも頑張るぞ。
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