第139話 三つの鍵

 

 アルラウネちゃんは進化した魔物だって聞いたことがある。


 名前もアルラウネ九八式とか、なんかへんな名前にかわってた。だから普通よりも強いはず。でも、ここは太陽の光が届かない鉱山らしきところ。シルキー姉ちゃんと違って弱体化しているはず。


 なら、アンリでも勝てるはずだ。


「アルラウネちゃん。悪いけど、最初から全力で行かせてもらう。この剣を見て生き残れる相手はいない」


「面白い。なら私がその最初になりましょう」


 うん、いいノリ。たぶんシルキー姉ちゃんが魔物の皆に広めてくれたんだと思う。


「アンリ、ちょっと待って」


「スザンナ姉ちゃん? これからバトルなんだけど、どうしたの? もしかしてここは私に任せて先に行けって言うやつ?」


「そうじゃなくて、魔物と戦う時は常に楽に勝てる方法を考えないとダメ」


 楽に勝てる方法?


 アルラウネちゃん相手に楽に勝てる方法なんてあるのかな?


「ほら、よく見て。アルラウネはそこから動けないでしょ。接近せずに離れて攻撃すればいい」


「スザンナ様、私を甘く見ましたね。確かに普通のアルラウネならあまり動けないでしょう。しかし、ジョゼフィーヌ様の豊穣の舞による効果と、進化を果たした私は歩けるのです! 行きますよ! 光合成フルパワー!」


 ……しばらく待ったけど、アルラウネちゃんは動けないみたい。


「しまった……太陽がなくて光合成の効果が減少している……もっと日光浴しておくべきでした」


「植物系の魔物には火が効果的だよ」


 スザンナ姉ちゃんはアルラウネちゃんの言葉が分からないから、動かないのを見てすぐに燃やそうって提案してきた。可哀想だけどこれも勝負。全力でも燃やそう。


「うん、発火の魔法が使える魔道具は持ってきたから遠くから魔法を使えば安全かな」


「あ、ちょ、待ってください! 燃えたら熱い!」


「それじゃ降参して」


「仕方ありません。参りました」


 ほとんど何にもせずに勝っちゃった。でも、何もしないで勝つ方が確かにいい。階層守護者は他にもいるみたいだし、物理的な戦いは最後にしたほうがいいのかな?


 ただ、強くなれないのは困るかも。どう考えてもフェル姉ちゃんに勝つには物理的な勝負しかない。弱みを握るというのはありだけど、フェル姉ちゃんにそんな弱みがあるとは思えないし。だいたい、右足を人質にとってもあまり効果がない。


 フェル姉ちゃんの弱点か……使えるかどうかは分からないけど調べたほうがいいかも。


「あの、アンリ様、聞いてます?」


「あ、ごめんなさい、聞いてなかった。何?」


「私に勝った証拠としてこれをお持ちください」


 アルラウネちゃんから何かの鍵を渡された。詳しくは分からないけど、小銅貨と似たような材質に見える。銅の鍵ってことかな?


「これは何?」


「三つ集めると鉱山にある特殊な扉を開けられますよ。ただ、使えるのは今日一日だけですので、気をつけてくださいね。明日になったらまた私に勝たないと鍵は渡しませんよ」


 他にもう二つあるってことなんだ? ということは他の階層守護者が持ってるってことなのかな?


 ……ピンときた。ほかの階層守護者の正体がなんとなくわかる。たぶん、ヒマワリちゃんとマンドラゴラちゃんだ。


 前は畑の縄張り争いで戦っていたけど、今は仲良しのはず。みんなで仲良くハチミツを作っているって聞いた。あのハチミツは最高。ロイヤルゼリーも大事にちびちび使ってる。次の販売時も並ばないと。


 おっと、いけない。ダンジョンで余計なことを考えるのは命とり。ちゃんと集中しないと。


「それじゃ私は負けたってことで、またつぼみに戻ります。攻略したらアビスさんに畑に戻してもらいますから私のほうは気にしなくていいですよー」


「うん、それじゃあね」


「はい、ご武運をー」


 アルラウネちゃんが花の中心に座るように縮こまると、花びらがアルラウネちゃんを包み込んでつぼみに戻った。どういう状況なのかは分からないけど、眠っちゃったのかな。


 とりあえず、鍵をゲットした。そしてどういう状況なのかをスザンナ姉ちゃんに話す。


 よし、残り二つも今日中に見つけるぞ。




 地図を描きながら、行ったことのない坑道を一つ一つ歩いていく。


 また大きな広場に出た。そして中央には、何かしらの葉っぱがぽつんと出ている。どう見てもマンドラゴラちゃんだ。


 マンドラゴラちゃんと言えば、葉っぱを引き抜くとものすごい叫び声を上げて、人を気絶させちゃう魔物さんだ。だから人の代わりにワンコに抜かせるとかいう方法があるみたいだけど、そんなことは可哀そうで出来ない。


 でも、ケルベロスのロスちゃんなら強いから問題ないかな? 残念ながら、ロスちゃんは森のパトロールをしているから無理だけど。


 このまま待ってても勝手に出てくるとは思えないから、引っこ抜かなきゃいけないんだけど、どうすればいいかな? たぶん、ここは知力を試されていると思う。でも、正直分からない。


「スザンナ姉ちゃん、こういう時はどうすればいいかな? たぶん、マンドラゴラちゃんを引っこ抜くんだけど、うまい方法が思いつかない」


「耳栓をすればいいんじゃないかな? アンリは持ってる?」


「そういう便利な道具は持ってない。ヴァイア姉ちゃんの店で買っておくべきだった」


 ベインおじさんのいびきがすごいから周辺の家の人は皆持ってるって聞いたことがある。アンリの家からは遠いから買ってなかった。


「それじゃ自主的に出てきてもらおう。たしかそういう状態なら叫ばないって聞いたことがあるよ」


「それは初耳。でも自主的に出てくるかな? なにか賄賂を贈るとか?」


「いや、そんなことをしなくても――」


 スザンナ姉ちゃんが葉っぱに近づくと、造水の魔法を使った。


 ドボドボと葉っぱの上に水が流れ落ちて、しばらく待つと大きな水たまりが出来た。そこにマンドラゴラちゃんの葉っぱだけが浮かんでいるように見える。


 その葉っぱが震えだすと、マンドラゴラちゃんが出てきた。頭に小さな葉っぱを付けたお芋の小人って感じのマンドラゴラちゃん。そのマンドラゴラちゃんが水たまりから出てきたと同時にむせた。


「ゴホ、ゴホ! 水攻めとは恐れ入りました……少量の水なら最高なんですけど、これだけ多いと息ができませんね」


 どういうふうに息をしているのかは不思議だけど、それは後にしよう。まずは魔剣七難八苦を構える。マンドラゴラちゃんはすばしっこい感じだから小回りが利く武器で戦おう。


「あ、アンリ様。私は戦いませんよ。私を引き抜いた時点でアンリ様達の勝ちです。では、この鍵をどうぞ」


 マンドラゴラちゃんから鍵を渡された。さっきと同じ銅製の鍵だ。


「うん、ありがとう。ちょっと物足りないけど、もう一つ鍵を手に入れないといけないから、戦わないのは助かる」


「ええ、アビスさんもその辺りを考慮して色々考えているみたいですね。アンリ様達はだいたい四時間くらいしかいられないので、その時間で攻略できるくらいの難易度にしているみたいですよ」


「もしかしてこういう演出ってアビスちゃんがやってるの?」


「はい。それはもうノリノリで」


 本当に至れり尽くせりのダンジョンだ。あとでアビスちゃんになにかあげないとダメかも。


「それじゃ最後はヒマワリですね。アイツは強いから気を付けてください。それじゃご武運を」


 マンドラゴラちゃんはそういうと、水たまりじゃないところの土の中に潜っちゃった。


 そっか、最後はヒマワリちゃんか。確かに強いかも。畑の縄張り争いでもヒマワリ軍は優勢だったってジョゼフィーヌちゃんから聞いた気がする。


「最後はヒマワリちゃんみたい。強いから気を付けたほうがいいってアドバイスをもらった」


 そう言うと、スザンナ姉ちゃんは首を横に傾けた。


「アンリ、ちょっと聞いていい?」


 スザンナ姉ちゃんが神妙な顔をしてアンリを見つめている。どうしたのかな?


「スザンナ姉ちゃん、どうかした? アンリが答えられることならなんでも答えるよ?」


「ヒマワリが強いってどういうこと? 普通、ヒマワリって戦わないよね? 魔物じゃなくてただの植物だと思うんだけど?」


「ソドゴラ村のヒマワリは普通にウネウネ動くよ。シードショットっていうヒマワリの種を投げ飛ばす攻撃が強いって聞いたことがある」


「……私の知ってるヒマワリとは違うけど、この村ならなんとなく納得できるかな……うん、それじゃ進もうか。タイムリミットもあるしね」


「うん、それじゃ出発」


 よし、ヒマワリちゃんを倒して鍵を手に入れるぞ。

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