第136話 第二階層突破と家族会議

 

 シルキー姉ちゃんと戦いを始めてから五分。


 この五分はお互いに技を出し合って、相手の力量を測る感じだった。これからが本番と言ってもいいかも。


 戦って分かったことがある。武器の質に関しては同レベルと見た。なら勝敗を決めるのは技量の差。


 スザンナ姉ちゃんには手出し無用と伝えてあるから、これはアンリとシルキー姉ちゃんとのタイマン。絶対に負けられない。


 でも、意外とシルキー姉ちゃんは強い。


 あの包丁さばきは厄介。二刀流って格好いいけど、敵対するとこんなに面倒なんて。アンリも二刀流をしたいけど、さすがにフェル・デレを片手で持つことはできない。


 それに聞いたことがある。どんなに強い冒険者でも、厨房では料理人に勝てないとか。スザンナ姉ちゃんもニア姉ちゃんと厨房で戦ったら勝てないのかも。


 シルキー姉ちゃんが家の中では無類の強さを発揮するのはそれと同じ理由なのかもしれない。たぶん、そんなスキルがあるんだと思う。


 でも、アンリだってやれるはず。今のアンリは冒険者でダンジョンを攻略する探検家。エクスプローラーアンリの実力を見せるとき。ダンジョンの中ならアンリも強くなる、そう信じよう。


 アンリが大きく深呼吸して剣を構えると、シルキー姉ちゃんがニヤリと笑った。


「そろそろ決着を付けましょう。皆の夕飯を作る時間なので、間に合わないと怒られてしまいますから」


「それはアンリも同じこと。暗くなる前に帰らないと夕飯のピーマンが増える。それは何があっても避けるべき」


 一瞬、間があってからシルキー姉ちゃんが突っ込んできた。


「いきますよ! 【木端微塵斬り】!」


 調理で使うスキルみたいだけど、戦闘にも使える技っぽい。でも、それはさっき見た。アンリに同じ技は通用しない。包丁の弱点、それはリーチが短いこと。


「てい!」


「あいた!」


 魔剣フェル・デレをシルキー姉ちゃんに向かって投げた。当たりやすいように剣を立ててぶん投げたから、剣の腹部分がシルキー姉ちゃんにヒット。シルキー姉ちゃんは剣の下敷きになってもがいてる。そんなに重くないはずだけど、それなりに大きいから邪魔になって上手く立てないみたい。


 これはチャンス。もがいているシルキー姉ちゃんを見ながら、腰に差しているメインウェポンを抜く。紫電一閃は危ないから使わない。オーバーキルは良くない。


 魔剣七難八苦でシルキー姉ちゃんの頭をぽこって叩いた。これでアンリのほうが強いってわかってくれたと思う。


「みねうちだから安心して。でも、これでアンリの勝利。シルキー姉ちゃんは負けを認めて。認めないともっと大変な目に合うとだけ言っておく」


「まさか、剣を投げてくるなんて――分かりました。潔く負けを認めます」


 シルキー姉ちゃんは立ち上がって、魔剣フェル・デレを渡してくれた。


 それを受け取って背中に戻す。うん。しっくり。


「それじゃ、アンリ様もスザンナ様も第二階層突破ということでおめでとうございます」


「私はなにもしてないけど、いいの?」


「そもそもスザンナ様を止められるのはもっと強い魔物達だけですから。私じゃ歯が立ちませんから問題ないです。でも、覚えておいてください。私は魔物達の中でも最弱に位置する者……次の階層にはもっと強い魔物が待ち構えていますよ」


 これはたぶんあれ。四天王の中でも最弱っていうやつ。


 あ、でも、ソドゴラ村にはちゃんとした四天王がいるから、シルキー姉ちゃんは本当に最弱なんだ? でも、強かった気がする。


「はい、それじゃお二人とも一度第三階層まで行ってからアビスさんに話しかけて転移してください。明日からは第三階層から始められますよ」


「そういう仕組みなんだ? うん、わかった。階段を下りてから外へ転移してもらう」


「そろそろ暗くなる時間なので気を付けて帰ってくださいね。私もこれから血まみれになって料理を作らなくちゃいけないので。それではたまには第二階層へ来てくださいねー」


 シルキー姉ちゃんは手を振りながら階段を下りて行っちゃった。


 勝ったことは勝ったんだけどシルキー姉ちゃんは本気じゃなかったんだろうな。アンリに花を持たせてくれたんだと思う。慢心しないでもっと強くならないと。


「それじゃアンリ、第三階層へ行ってから帰ろうか。でも転移って何?」


「アビスちゃんにお願いすると、魔力を使って外へ出してもらえる。アンリは魔力が少ないからアビスちゃんの魔力を借りる感じなんだけど」


「それって第一階層へ戻る階段を気にしなくていいってこと? 魔石を地面に埋めてきたけど必要なかったかな……」


 スザンナ姉ちゃんがちょっとしょんぼりしている。そんなことないって説明しないと。


「あれはすごく勉強になった。本番のダンジョン攻略の時にはすごく必要な知識だと思う。だからこれからも色々教えて」


 そういうと、スザンナ姉ちゃんは笑顔になった。


「うん。そういう知識だけはいっぱいあるから知ってるだけ教えてあげる。私もお父さんやお母さんにたくさん教わったからね」


「ぜひお願いします。アンリのおじいちゃんはそういう大事な事は全然教えてくれないから――いけない、門限に遅れちゃう。急いで第三階層へ行ってアビスちゃんに転移してもらおう」


 スザンナ姉ちゃんと一緒に階段を下りる。


 第三階層は初めて見るけど、これは洞窟なのかな? でも、そんなことを考えている暇はない。まずは脱出だ。


「アビスちゃん、聞こえる? 外へ出たいんだけど?」


『はい、聞こえてます。アンリ様、お見事でした。あの魔剣を投げつけるところなど、普通の人にはなかなかできる事では――』


「えっと、アビスちゃん、今は急いでいるからそれは明日にしてもらっていい?」


『――はい、それでは外へ転移させますね。お気をつけておかえりください。明日もまたお待ちしております』


 アビスちゃんがそう言うと、ちょっとだけ浮遊感があってから、視界がいきなり変わった。畑にあるダンジョンの入口だ。


 スザンナ姉ちゃんはキョロキョロしながらびっくりしている。


「強制転移なんてすごいね。どう考えてもアビスっておかしいと思う」


「そうかもしれないけど、それは後にしよう。今は急いで帰らないと」


「うん、急ごう」


 スザンナ姉ちゃんと一緒に家に向かって駆け出した。




「おや、二人ともおかえり。ずいぶんと遅かったね」


「おじいちゃん、ただいま。ちょっと手が離せなかったから遅くなっちゃった」


「た、ただいま」


 家に帰るとおじいちゃんが大部屋にいて椅子に座っていた。テーブルに料理はないからまだ夕食は始まっていないみたい。でも、いい匂いがするからすぐに夕飯になりそう。


「それじゃ二人とも手を洗ってうがいを――アンリ、その背中にある剣はどうしたんだい?」


「これはグラヴェおじさんが作ってくれたアンリ専用の剣。魔剣フェル・デレ。まだお試し版というか試作品だけど。でも、ベースはこれになるみたいだから、今日からずっと一緒にいる」


「ああ、フェルさんのお土産だったミスリルの剣か……その、ずいぶんとすごそうに見えるのだが」


「魔剣だし、フェル姉ちゃんの名前が入ってるんだから、もちろんすごい。すべての剣を過去にする匠の一品」


 いつかちゃんと鑑定してもらいたい。鑑定スキルとか分析魔法を使うと、剣の詳細が分かるとか聞いたことがある。たぶん、この剣はすごいことになってるはず。


「そ、そうか。でも、ずいぶん大きい剣だから怪我をしないように気を付けるんだよ」


「大丈夫。これはアビスちゃんのダンジョン以外では使わないように言われているから。気を抜くと素振りしそうだけど、鉄の意志、ううん、アダマンタイトの意志で我慢してる。それじゃ手を洗ってうがいをしてくる。スザンナ姉ちゃん行こう」


 手を洗ってうがいをした後、部屋に鞄をおいて、魔剣七難八苦もベッドの下に格納した。ちょっとだけラフな服に着替えて大部屋に戻ってくる。


 おかあさんとおとうさんも大部屋にいてテーブルについていた。でも、アンリを見てちょっとびっくりしている感じ。


「アンリ? その剣を背負ったままご飯を食べるの?」


「うん、この魔剣に魂が宿るまで一緒にいる。大事にすれば魂が宿るってグラヴェおじさんが言ってた。今日の戦いでぶん投げたけど、この子なら分かってくれる」


 アンリのこの言葉が原因で家族会議が始まった。ダンジョンでシルキー姉ちゃんと戦ったのが問題だったみたい。というより、ダンジョンを探索しているのが問題だったのかも。


 最終的にアビスちゃんやジョゼフィーヌちゃん達まで呼んだ大会議になっちゃった。


 一応、アンリが絶対に怪我しないって条件でダンジョン探索の許可が下りた。アビスちゃんがすごく頑張って説得してくれたのが効いたんだと思う。


 うすうすそう思ってたけど、五歳でダンジョンに入るのは早かったみたい。でも、ノロノロやってたらフェル姉ちゃんに追い付けない。少しでも早く強くならないと。


 ちょっとうやむやになってたダンジョン攻略だけど、おじいちゃんの許可が出た。明日からは大手を振ってダンジョンを探索しようっと。

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