第132話 ユニークスキルと大霊峰

 

 強くなろうと決意して数日の間、アンリとスザンナ姉ちゃんはダンジョンに通った。


 午後の数時間だけなんだけど、アビスちゃんや魔物の皆が協力してくれて、模擬戦をよくやったからちょっとは強くなったと思う。スザンナ姉ちゃんも強くなったと言ってたし、これからもメキメキ強くなろう。


 でも、一気にパワーアップする方法ってないのかな? こうちまちま強くなるのも悪くないけど、どーんと強くなるのも好き。ぜひともその方向で強くなっていきたい。


 魔物の皆は進化という方法があるみたいだけど、アンリにはそれがない。アンリが進化したら、こう、すごいことになると思うんだけど。スーパーアンリとか。


 スザンナ姉ちゃんとダンジョンで休憩中にアビスちゃんに聞いてみた。こういう情報はアビスちゃんに聞いたほうが早い。


「アビスちゃん、お手軽に強くなる方法ってあったりする? こう魔物の皆みたく進化するとか。フェアリーアンリはクラスチェンジでランクアップじゃないから強くはならないんだよね」


 悪い子へのクラスチェンジも同じ。よく考えたら魔王になるのはランクアップ?


『アンリ様の場合ないこともないですが、おすすめはしません』


「え? 本当にあるの?」


『そうですね。アンリ様にはユニークスキルがあります。それを使えばかなりパワーアップできるでしょう。ですが、今の時点で本能的にそれが使えないということは、それを使うと肉体が持たないのでしょう。なので本能的にもリミッターがかかっている状態だと思います。パワーアップできるのはもう少し大人になってからですね』


 いつも思うんだけど、何をするにもアンリの年齢が枷になっている気がする。もっとこう早く成長しないかな?


 そんなことを考えていたけど、スザンナ姉ちゃんは驚きながらも喜んでくれた。ここまで喜んでくれるとアンリも嬉しい。


「すごい、アンリにもユニークスキルがあるんだ? なら私と一緒だ」


 スザンナ姉ちゃんは水を操るユニークスキルだ。アンリのユニークスキルはどんなのだろう?


「うん、アンリも初めて知った。アビスちゃん、それってどんなユニークスキル? フェル姉ちゃんみたいに超強くなる感じ? 頭に角が生えたりする?」


 フェル姉ちゃんがセラと戦ったときはものすごく強くなってた。あれはユニークスキルじゃなくてただのスキルみたいだけど、あんな感じに強くなりたい。


『角は生えませんが、イメージとしてはあんな感じです。爆発的に身体能力を上げるユニークスキルとなっています。驚いたことにそれを四つも持っていますね』


「四つ?」


『はい、アンリ様は四つのユニークスキルを持ってます。確率的に言えば相当低いのですが、ないこともないのでしょうね。ユニークスキルを使いこなすことができれば、アンリ様は誰にも負けないでしょう』


 なんかすごい感じになってる。


「それじゃ、四つのユニークスキルを使いこなせば、フェル姉ちゃんにも勝てる?」


 そうなれば、アンリの人界征服計画が早まるかも。


『いえ、それは無理ですね。フェル様に勝てるのは、セラか魔王様? くらいです。でも、いい勝負は出来ると思いますよ』


「残念。でも、ユニークスキルがあることが分かってよかった。おじいちゃん達に自慢する」


「アンリ、それはしないほうがいいと思う」


 スザンナ姉ちゃんが真面目な顔をしてアンリのほうを見ている。どうしてしないほうがいいんだろう? 自慢するとねたまれちゃう?


「フェルちゃんから教わったんだけど、ユニークスキルは生命線なんだって。出来るだけ人に教えないほうがいいみたい。私の場合、フェルちゃんにユニークスキルの性能を知られて負けちゃったからね」


「それはなんとなくわかる。戦いは情報戦。ババ抜きだって持ってるカードを知られたら負けちゃう」


「うん、そんな感じ。だからユニークスキルを持っていることさえ教えないほうがいいと思うよ。それにまだ使えないんだよね? ならないのと一緒だから」


 スザンナ姉ちゃんの言うことには一理ある。使えないスキルを持っていると自慢しても滑稽なだけ。


「分かった。内緒にしておくから、スザンナ姉ちゃんもアビスちゃんも内緒ね? お口にチャック」


「うん、誰にも言わない」


『私も言いません。たとえフェル様にも言わないようにしますので。そうそう一つだけ忠告を。そのスキルが使えるようになったとしても連発はしないほうがいいでしょう。肉体を極限まで強化するので、そのスキルが切れたときの反動がすごいはずです。ここぞという時だけに使ってくださいね』


 メリットがあればデメリットもある。恩恵には対価が必要って言うのはよく聞く話。これはアンリの心に刻み込んでおこう。ユニークスキルを使えるようになっても、連発は駄目。


 それはそれとしてフェル姉ちゃんには自慢したい……そうだ、フェル姉ちゃんと戦ったときにはじめてお披露目しよう。それで度肝を抜いて畳みかける。これはいい作戦だと思う。


 よし、なら早くユニークスキルを使えるように修行あるのみ。年齢制限なんて修行の力でねじ伏せる。


「スザンナ姉ちゃん、休憩は終わり。修行を再開しよう」


「うん、それじゃまた、アビスが作った魔物と模擬戦を――」


 さっそく始めようとしたら、アンリとスザンナ姉ちゃんのポケットからピコーンと音がした。これはヴァイア姉ちゃんから貰った金属板に映像が届いたときの音だ。


 でも、ちょっとだけげんなり。スザンナ姉ちゃんのほうを見ると、アンリと同じようにげんなりしていた。


「えっと、スザンナ姉ちゃんからどうぞ」


「見なくても分かるけど万が一と言う可能性もあるからちゃんと見ておこうかな……あ、いつものだ。ヴァイアちゃんとノストさんの映像。なんで一つのコップから変な形のストローを使って二人で飲むのかな? 二つ頼めばいいのに」


「その映像を送ってくるのもすごく謎だと思う。でも、一番の謎はヴァイア姉ちゃんとノスト兄ちゃんの仲がすごくよくなっていることかな。向こうで何があったんだろう?」


 ここ数日、ヴァイア姉ちゃんとノスト兄ちゃんのツーショットしか送られてこない。アンリとしてはフェル姉ちゃんの映像が欲しいんだけど。メノウ姉ちゃんやスザンナ姉ちゃんもちょっとだけ微妙な顔をしているし、需要と供給のバランスが合ってないと思う。


 それはそれとして、フェル姉ちゃんからの連絡がないことにアンリはご立腹。もうちょっとこまめに連絡してほしい。こっちから連絡してもいいんだけど、色々と邪魔しちゃいけないから自重しているのに。


 ヴァイア姉ちゃんからの連絡だとそろそろ王都を出るとか言ってたかな。早く帰ってきて欲しい。強くなったアンリを見てもらって次は連れて行ってもらわないと。


 うん、そのためにも修行しよう。


「スザンナ姉ちゃん、それじゃ改めて修行を――」


 そう言ったら、地面が揺れた。アビスちゃんの新しい修行方法なのかな?


「アビスちゃん、これは体幹を鍛える訓練? アンリとしてはプランクをしたほうがいいと思うけど?」


『いえ、そうではないです。どうやら大霊峰で噴火の兆候があるようですね』


「噴火の兆候?」


『はい、しばらくしたら大霊峰が噴火します。この辺りに被害はありませんが、少しだけ地面が揺れるかもしれませんね。震度一くらいです』


 アビスちゃんはなんでも知ってるからすごい。そうえば、オリン国の王都って大霊峰に近くなかったっけ?


「フェル姉ちゃん達は大丈夫かな?」


『人族が住んでいるようなところへ被害は出ませんね。大霊峰に住んでいるドラゴニュートや、その周辺にいる魔物達が地震に悩まされるくらいでしょうか』


 フェル姉ちゃん達が無事ならとりあえずは問題ないかな。


「うん、なら大丈夫だね。フェル姉ちゃん達は問題なく帰って来れるってことだし」


『……多分ですが、大霊峰が噴火したら、フェル様はそこへ行くと思いますよ』


「そうなの? 寄り道しないですぐに帰るように言っておくべきだったかも。でも、噴火しなければいかないんだよね? ならそうならないように祈る」


 ちゃんと祈れば大丈夫だと思う。


 でもその前に修行だ、しっかり強くならないと。今日こそはオーガに勝つぞ。




 その日の夜、大霊峰が噴火した。


 村がちょっとだけ揺れたけど、被害はなかったみたい。


 それはそれでありがたいけど、噴火しないでっていうアンリの祈りは通じなかった。もう誰にも祈らない。運命は自分で切り開けっていう教訓だと思う。


 フェル姉ちゃんはやっぱり大霊峰へ行くのかな? 寄り道しないで早く帰ってきて欲しい。

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