第131話 ファンクラブ

 

 ジョゼちゃん達に捕まった午後、森の妖精亭でスザンナ姉ちゃんと反省会をすることにした。


 でも、反省することなんてない。ジョゼちゃん達が相手なら勝てるわけがない。反省するとしたら、ジョゼちゃん達を最初からこちらへ引き込んでおかなかったことだけ。


「あれはどうしようもないと思う。絶対に勝てない勝負を挑まれたようなもの」


「やっぱりそうだよね? なんでこの村って皆強いの? もしかして村長も強い?」


「おじいちゃんも強いけど、スザンナ姉ちゃんほどじゃないかな? どちらかと言うと支援系タイプ。でも、そんなことはどうでも良くて、重要なのはアンリ達が村から逃げ出せないってこと」


 メノウ姉ちゃんやヤト姉ちゃんならまだチャンスはあった。でもあれは駄目。


 作戦通りスザンナ姉ちゃんは大量の水で目くらましをしたけど、その水をジョゼちゃんが全部飲みこんじゃった。仕方ないから別の水で小型の竜を作って逃げ出そうとしたら、村の周りにアラクネ姉ちゃんの糸が大量にあって捕まった。


 糸を切って逃げ出しても、今度はケルベロスのロスちゃんに捕まる。一気に上空へ飛ぼうとしたら、キラービーちゃんに捕まるし、参ったふりをして逃げ出そうとしてもバンシー姉ちゃんの叫び声で動けなくなるという始末。


 捕まるたびに広場の中心に移動させられて、ジョゼちゃんに「どうぞ逃げてください」と言われた。


 悪気はないんだろうけど、アンリ達の心を折りに来てると言ってもいい。結局思いつく限りの方法で逃げ出そうとしたけど全然ダメだった。


 こうなったらみんなに賄賂を贈るしかない。戦っても勝てず、逃げてもダメと言うならお金の力を借りる。


 ちょうど近くのテーブルに詳しい人がいる。聞いてみよう。


「ラスナおじさん。賄賂ってどれくらい必要? いくら渡せば見逃してもらえるかな?」


「なんですかな、いきなり?」


「皆に勝てないならお金の力に頼るしかない。何を隠そう、スザンナ姉ちゃんはお金持ち。賄賂をし放題」


 スザンナ姉ちゃんはびっくりしているけど、もうなりふり構っている場合じゃない。ゆっくりしていたら、フェル姉ちゃん達が帰ってきちゃう。いい子にしていたらお土産を貰えるけど、お土産よりも一緒に旅行のほうがいいに決まってる。


「ふむ、強さにも色々ありますからな。お金の力に頼るのも一つの手ではありましょう。ですが、この村では無理では? 私もお金の力でアビスを手に入れようとしましたが失敗しましたからなぁ。それにスザンナさんのお金と言うのも、今は使えないと思いますぞ?」


 スザンナ姉ちゃんが不思議そうに首を傾げた。


「えっと、どうして?」


「冒険者ギルドにディアさんがいないからですな。魔道金庫からお金を引き出せないのでは?」


「あ、そうだった。金庫があってもディアちゃんがいないからお金を引き出せない。代わりの受付嬢がいないってすごい支部だよね。完全に冒険者ギルドの機能が止まってるよ」


 この作戦もダメみたいだ。なら今度は情に訴えるとか?


「おじいちゃんを病気にして王都で薬を買ってこないといけないようにするとかはどうかな?」


「それは人としてどうかと思う」


「私もそれはどうかと思いますな」


 スザンナ姉ちゃんとラスナおじさんに真顔で否定された。実は一度同じ手を使っているんだけど、それは内緒にしておこう。


 その後も色々な案を出したけど、どれも人道的によろしくないみたい。


 ラスナおじさんは部屋へ戻っちゃったし、どうしようかな。


「アンリちゃん、スザンナちゃん、今日はもう諦めたんですか?」


 メノウ姉ちゃんがやってきた。そして椅子に座る。お仕事がひと段落して休憩時間なのかな。


「今日はもう諦めざるを得ない。ジョゼちゃん達は追いかけっこくらいの感覚でアンリ達を捕まえる。アンリ達が諦めた後に、いい運動になりました、とか言われてアンリ達のプライドはもうズタボロ」


「……スザンナちゃんの水竜ですらジョゼフィーヌさん達はおいかけっこですか。遊び感覚でやってますね。私は結構本気で止めましたけど」


「うん、だからアンリ達は傷ついている。だから情報を頂戴。明日は誰が担当?」


「明日はアビスさんですね。ダンジョンに閉じ込めると言ってましたけど」


 それは勝負ですらない気がする。どうやってダンジョンに閉じ込めるか知らないけど、アビスちゃんならやれそう。


「アンリ、もう諦めようか……? もっと強くなってからじゃないと村からは逃げられないよ。今は力を付けて、数年後に逃げ出すようにしよう」


「スザンナ姉ちゃん、目的を見失ってる。アンリ達が逃げ出したいのは、フェル姉ちゃんと一緒に旅行するため。村から逃げることが目的じゃない。数年経ったらフェル姉ちゃん達はすでに帰って来てる」


「あ、そっか」


「でも、スザンナ姉ちゃんのいう通りなのかも。今は無理だけど、力をつけて、この次はフェル姉ちゃん達と旅行に行こう」


 それが現実的な気がする。今はどうあがいても村から逃げることは出来ない。諦めた訳じゃない。次の機会を待つ。


 それにジョゼちゃん達に聞いた。


 大狼のナガルちゃんは修行の旅に出たみたい。北の大霊峰のほうへ向かうとか言ってたとか。なんでもすごく年寄りの竜がいるみたいで、進化のための知識を聞きに行ったって話。


 強くなるために修行。それは憧れるシチュエーション。アンリもナガルちゃんみたいに修行をするべきだと思う。


「スザンナ姉ちゃん、一緒に強くなろう。今日から強くなるための修行を開始しようと思う」


「うん、それは賛成。冒険者のアダマンタイトが最高に強いと思っていたけど、この村だと全然そんなことなかった。もっともっと強くなって誰にも負けない冒険者になるつもり」


 フェル姉ちゃん達が帰ってきたらびっくりするぐらい強くなっておこう。そうすれば、すぐに連れて行ってくれるかもしれない。


 ならさっそくアビスちゃんのダンジョンへ行こうかな? あそこなら色々戦えるし、修行にはうってつけかも。アビスちゃんに頼めば色々やってくれそうだし。


「アンリちゃん、スザンナちゃん、修行もいいですけど、その前にちょっといいですか?」


 メノウ姉ちゃんがニコニコ顔でアンリ達に尋ねてきた。もちろんいいけど、何だろう?


「メノウ姉ちゃんは何かいいことがあったの? すごく嬉しそう」


「分かりますか? 実はフェルさんのファンクラブを発足させまして、良かったらお二人もどうかな、と。今ならシングルナンバー、しかも一番と二番になれますよ! それに年会費はタダ! メイドギルド公認ですから安心ですよ! ちなみに会長は私です」


 フェル姉ちゃんのファンクラブ?


 しまった。アンリが作ろうと思っていたのに先を越された。でも内容を聞いて温いようならアンリが別のファンクラブを作る。その線で行こう。まずは調査だ。


「どんな活動をするの?」


「フェルさんを応援したり、フェルさんのことを語りあったりすることが目的です。あとは自慢大会でしょうか。今日は素敵な映像を送ってくれて――これは家宝ですが、ファンクラブでの集まりがあったら自慢するつもりです」


 サンダーバードと戦ったときの映像のことかな? ぼさぼさ頭で右手の親指を立てているあれ。確かにあれはいいもの。


 やる内容に問題はないと思う。でも、ファンクラブに入るなら絶対の条件がある。


「メノウ姉ちゃん、フェル姉ちゃんを一番好きなのはアンリ。これは譲れない。会長の座を譲って」


「いくらアンリちゃんでもそのお願いは聞けません。会長は私です」


「私だってフェルちゃんを好きなのは負けないよ。冒険者で言うならアダマンタイト級」


 スザンナ姉ちゃんも参戦してきた。これは負けられない。


 よし、アンリがどれくらいフェル姉ちゃんを好きか、これでもかと語ろう。恐れおののくがいい。




 そんなこんなでフェル姉ちゃんのいいところとかダメなところとか、いろんな話をした。


 最終的にはアンリ達が争うことをフェル姉ちゃんは望まないだろう言うことになって順番は関係なくなった。


 会長はメノウ姉ちゃんで、会員番号ナンバーワンはアンリ、ナンバーツーはスザンナ姉ちゃんだ。どっちも幹部待遇。ファンクラブの方針とかを決められるみたい。


 フェル姉ちゃんが帰ってきたら自慢しよう。


 よし、夕食までまだ時間がある。今度はフェル姉ちゃんと一緒に行けるように修行だ。まずはスザンナ姉ちゃんと一緒にアビスちゃんのところへ行こうっと。

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