第123話 オリン魔法国

 

 フェル姉ちゃんの見送りが終わって、家に戻ってきた。


 いつも勉強している大部屋でテーブルに座った。おじいちゃんと向かい合っていて、スザンナ姉ちゃんはアンリの隣。いつもの布陣だ。


 今日は勉強と言ってもオリン国の勉強だから算術みたいに考える物じゃない。結構楽だと思う。それにフェル姉ちゃん達が向かったところだからしっかり聞いておこう。


「さて、そろそろ始めようか。準備はいいかい?」


「うん。どんと来て」


「それじゃ、まずはどんなところなのかを説明しようか。オリン国は、オリン王国とかオリン魔法国とか言われていて、人界の中では一番平和な国だ。そして魔法国と言われるほど魔法が盛んな国でね、魔力が多いほど偉いとされている魔力至上主義の国だよ」


「魔力が多いだけで偉いの?」


「そうだね。私達からすると良く分からない価値観かもしれないが、王都へ行くほどその傾向は高い。それはおそらく初代国王だったヴァロンが相当な魔力量の持ち主だったからだろう」


 ヴァロンというのは王都の名前だったと思う。つまり初代国王の名前を都の名前にしたみたい。アンリも人界を支配したら、王都アンリって付けよう。王都フェルでもいいかな。


 そんなことを考えていたら、スザンナ姉ちゃんが手をあげた。


「私は王都へ行ったことがあるんだけど、その初代国王が魔法で作ったダンジョンがあるんだ。確か魔氷のダンジョンと言って、ダンジョンの中が全部氷で出来てるんだよ。そこに住んでいる鳥の魔物が美味しいとか言ってたかな?」


「魔法でダンジョンを作る?」


 鳥も気になるけど、魔法で作るってとこが気になる。フェル姉ちゃんはダンジョンコアっていうのを使ってアビスちゃんを作ったけど、魔法でもダンジョンを作れるんだ? アンリは魔力が少ないから無理っぽいけど、ヴァイア姉ちゃんなら出来る?


「スザンナ君は博識だね。そう、初代国王ヴァロンが禁呪ともいわれる魔法を使って大地に氷で穴をあけたと言われているね。その氷が長い年月で少しずつ溶けてダンジョンになったと言われているんだよ」


「そうなんだ? でも、フェル姉ちゃんもダンジョンを作れるから負けてないと思う」


「別に勝負をしているわけじゃないけど、確かにフェルさんも負けてないかな。そんな初代国王をあやかってオリン国は魔力が多いほど偉いとされているんだよ」


 ならアンリはあまり偉くないのかも。でも、ヴァイア姉ちゃんならものすごく偉いんじゃないかな?


「ヴァイア姉ちゃんならオリン国でも偉い?」


「そうだろうね。それに色々な所から引く手あまただろうね。さっきも言った通りオリン国は魔法の研究が盛んだ。私は専門外だが、ヴァイア君の術式理論は相当なものだというのは分かる。それがあの国でも判明したならさぞかしモテるだろうね」


「そうなんだ? ヴァイア姉ちゃん、以前は残念なお姉ちゃんだったのに、いつの間にかものすごくなってる」


 ヴァイア姉ちゃんがくれた金属の板を見た。


 こんなにすごい魔道具をくれたし、最近はいつも優し気にニコニコしてる。以前はちょっと儚い感じだったのに。そういえば、フェル姉ちゃんが来てからかな、ヴァイア姉ちゃんが元気になったのは。


「ヴァイア君に残念なお姉ちゃんとか言ってはいけないよ。アンリからしたら大人だろうけど、まだまだ多感なお年頃だからね」


「うん、言わないようにする。でも、残念だった時のヴァイア姉ちゃんも優しくて好き。今のちょっと恋愛ごとに暴走気味なところも好きだけど」


 ヴァイア姉ちゃんはお年頃。ノスト兄ちゃんが好きみたい。たまに魔力が暴走してる。あと、ノスト兄ちゃんの話題が尽きない。耳にクラーケンが出来るくらいお話を聞いた。アンリはノスト兄ちゃんのことなら大体答えられる感じになっちゃった。


「ヴァイア君はノストさんに会いに行ったようだね。王都にいるらしいから、ディア君のギルド会議に便乗した形だろう。リエルさんは――ついでかな。あの四人は仲がいいからね」


「そこにアンリやスザンナ姉ちゃんも入っているはずなんだけど、なぜかお留守番になった。ちょっと暴れそうな感じなのを必死に抑えてる」


「分かる。しかもそれにユーリが付いて行った。私はアンリ以上に暴れそう」


 スザンナ姉ちゃんも暴れそうなんだ。アンリよりも被害が多そうだからそこは耐えて欲しい。


「ユーリさんは冒険者ギルドのグランドマスター専属だからね。今回のギルド会議にも参加するんだろう。それにフェルさんへ討伐依頼をなくしてもらうための対応もあるから、ついて行くのは当然のことだよ」


「むう。それでもちょっとモヤっとする」


「まあまあ、村は村で楽しいことがたくさんあるはずだ。フェルさん達よりも面白いことをすればいいんじゃないかな?」


 おじいちゃんの言葉にも一理ある。フェル姉ちゃんはいないけど面白いことはあるかもしれない。それにアンリはもっと強くならないと。


 いま村にいるのは――メノウ姉ちゃんがいる。それにヤト姉ちゃんも。面白いかどうかは分からないけど、ラスナって人やローシャって人もいるから、その辺りを攻めてみようかな。


 そうだ、あとグラヴェおじさんにアンリの魔剣のことを聞かないと。そろそろ出来ていてもおかしくないと思う。


 うん、意外とやることがあった。


「さて、それじゃ勉強に戻るよ。オリン国に関してはだいたいこんな感じだ。次は地理に関して説明しようか」


 おじいちゃんの話だと、オリン国は結構寒い国みたい。王都ヴァロンでは年中雪が降っているとか。でも、森を抜けてすぐにあるリーンと言う町や、ドワーフさん達の村、それにメノウ姉ちゃんがいたメーデイアって町は比較的暖かいとか。


 ソドゴラ村もたまに雪が降るけど、冬の寒い時期だけ。雪が降った時は雪だるまを作って紫電一閃の練習をした思い出がある。なかなか手ごわかった。


 そしてオリン国は北に行くほど寒くなる。オリン国の一番北に王都ヴァロンがあるからすごく寒いみたい。


「一応、オリン国のさらに北にも大地が広がっているんだけどね、そこは危険地帯なんだ」


「危険地帯?」


「そう、王都ヴァロンの北には永久凍土と呼ばれる年中吹雪いている土地が広がっていて、とても人が住めるような場所じゃないらしいね」


「あ、それは聞いたことがあるよ。冒険者ギルドでもその永久凍土には絶対に行かないように言われてるんだ。すごく希少な魔物がいるから倒せれば素材とか高く売れるらしいけど、命を落とす確率のほうが高いんだって」


「そうなんだ? でも、それを聞くとアンリの冒険心に火が付く。いつか行ってみたい」


 そういうと、おじいちゃんが笑いながら首を横に振った。


「冒険心は分かるけど、危険なことをしてはダメだよ。それに永久凍土は神に見放された土地、と言われていてね。どんな加護も届かないと言われているんだ」


「神に見放された土地?」


「なぜそう言われているのかは知らないけどね、もともとオリン国には神がいないとされているんだ」


「そうなの? ならほかの国には神がいる?」


「そう言われているね。例えば、オリン国の南、ロモン聖国には女神がいるとされている。はるか上空にある空中都市にいると言われているね」


 そういえば、そんな話を聞いたことがある。フェル姉ちゃんと一緒におじいちゃんから教わった。


「ロモンにいるのは分かったけど、ほかには?」


「大霊峰には龍神がいると言われているし、ルハラにも神はいると言われているね。ウゲン共和国はちょっと分からないかな。それにこの境界の森にもいるかどうかは分からないね」


「それじゃ、トラン国は?」


「トラン国はいるよ。機神と呼ばれている神様だ」


「キシン? 鬼の神と書いて鬼神?」


「いや、こういう字を書くんだ」


 おじいちゃんは紙に「機神」と書いた。どういう意味なんだろう?


「えっと、おじいちゃん、これってどういう神様なの?」


「残念ながら分からない。昔からそう言われているんだ。ただ、今の第四世代が始まる前に今とは比べ物にならないくらいの高度な文明があったって話を覚えているかい?」


「うん、覚えてる。第三世代のことだよね?」


「えっと、私は知らない」


「そうか、スザンナ君には説明しないとダメだね。簡単に言うと、人界では何度か人族が滅亡しているんだ。今までに三回滅んでいて、今は四代目……第四世代と言われているんだよ」


 スザンナ姉ちゃんは首を傾げている。うん、アンリも最初にそれを聞いたとき同じ状態になった。


「えっと、人族が滅んでいたら、そこで終わりじゃないの? 次の世代に繋がることはないと思う」


「滅亡とは言っても何人かは生き残って次の世代へ受け継がれたんだろうね。まあ、それはどうでも良くて、一つ前の世代、第三世代では今よりもはるかに進んだ文明があった……らしい。学者さんがそう言っているという話だね」


「とりあえず、分かりました。それでそれが機神とかかわりがある?」


「その通り。第三世代には機械と呼ばれる魔力以外を動力とするものがあったらしい。トランにいる神はそういう機械を司る神様だと言われているね」


 おじいちゃんが紙に「機械」と書いてくれた。機械……魔力以外を動力にするならアンリにも使えるのかな? どんなものなのかは知らないけど、一度くらい機械を見てみたい。


「変な神様」


「ははは、スザンナ君からすれば確かに変な神様だね……話を戻すと、永久凍土にはそういった神がいない土地だから危ないよ、ということだ。アンリもスザンナ君も興味本位で行かないように」


「約束は出来ないけど、分かった」


「私も」


「……それは分かってないと思うのだけどね?」


 そんなこんなでおじいちゃんからオリン国のことを色々聞いた。いつの間にかほかの国のことも勉強させられていたけど。


 でも、とりあえずお勉強は終わった。お昼を食べたらスザンナ姉ちゃんと遊びに行こう。


 そうだ、オリン国と言えばメノウ姉ちゃんが詳しいかもしれない。午後は森の妖精亭に行って色々聞いてみようっと。

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