第110話 ロイヤルゼリーと修行

 

 まだ日も登りきっていない時間から、アンリはスザンナ姉ちゃんと一緒に森の妖精亭入口で待機している。ハチミツ、そしてロイヤルゼリーを手に入れるためだ。


 昨日の二次会はスザンナ姉ちゃんと踊って楽しかった。そのまま夜更かししたかったけど、今日のためにかなり早めに寝た。そのおかげで、アンリとスザンナ姉ちゃんが一番槍だ。ロイヤルゼリーは確定だ。


 お金に関しては、くれなきゃ家出すると言ったらすぐに出してくれた。今日のアンリは大商人も真っ青のブルジョワ。早くロイヤルゼリーを食べたいな。キラービーちゃんのオススメだし、たぶん、すごくおいしいはず。


 待ちながら、はーっと口から息を吐く。結構白い。そろそろ時期的に寒くなる。今日も結構寒い。でも、今はスザンナ姉ちゃんがアンリの背後から抱き着いているから実はポカポカ。


 これはたぶん、おしくらまんじゅうの亜種。でも、アンリはあったかいけど、スザンナ姉ちゃんは大丈夫かな?


「スザンナ姉ちゃんは寒くない? アンリはあったかいけど」


「大丈夫。空を飛んでいるときはもっと寒いからこれくらい平気。それにこの革の服はあったかいから余裕。それにアンリもあったかい」


「そうなんだ? ならこのままの姿勢でお願いします。スザンナ姉ちゃんがいなかったら、アンリは雪だるまになる」


「どういう理屈なのか分からないけど、分かった。販売が始まるまでこのままでいるよ」


 一人ではダメでも、二人なら頑張れる。うん、アンリは賢くなった。この寒い状況を二人で乗り越えよう。早く販売しないかな。




 ちょっと待ってたらエルフのお姉さんが来た。


 アンリ達が一番に並んでいるからびっくりしたみたい。まさか負けるとは思わなかったとか。


 エルフのお姉さんはミトル兄ちゃんからお金をふんだくったって言ってる。エルフさんはお金が流通してないから、お金を持っているのはエルフの森の外にいたミトル兄ちゃんだけだったみたい。


 激しい戦いの上に勝ち取ったみたいだ。それ以外にも色々な話を聞いた。


 最近、森の外から入ってくるものでエルフの森が活気づいているとか。男の人は木彫りの彫刻、女性の人は木彫りのアクセサリーで盛り上がることが多いみたい。


 それもこれもフェル姉ちゃんがお土産や贈り物として色々持って来てくれるからだとか。自分たちでも作ろうとかいう話も出ていて毎日楽しくしていると話してくれた。


 それにこの村での宴会も楽しみにしてくれているみたい。でも来るためにはものすごい倍率を勝ち抜かないといけないとか。


 アンリもまたエルフの森へ行きたいと言ったら、連絡をくれれば大丈夫って言ってくれた。でも、ジョゼちゃん達は連れてこないで言われた。前にエルフの森へ行ったときのことが、ちょっとトラウマになってるみたい。


 もっと大きくなってからだから、数年後に行くと言うと、そんなのあっという間よ、と言われた。エルフさんの感覚であっという間って結構あると思う。でも、大きくなったらスザンナ姉ちゃんと一緒に行こう。


 そんな話をしていたら、村のみんなが集まってきた。日も登ったし、そろそろ販売するかも。


 思った通り、キラービーちゃんがシルキー姉ちゃんとバンシー姉ちゃんを連れてやってきた。森の妖精亭の入口をふさがない形で木製の長細いテーブルを置く。そのテーブルの上にハチミツの瓶を置いた。それが大量に積まれる。キラービー印のハチミツだ。


 そしてちょっとだけ豪華な瓶に入っているハチミツ。あれがロイヤルゼリー。なんて神々しい。


 それらが綺麗に並べられたけど、まだ販売にならないみたい。まだかな?


「では、キラービー印のハチミツの販売を開始します! 数は十分にありますので慌てずにお願いします!」


 シルキー姉ちゃんが大きな声でそう言った。ハチミツは十分な数があるだろうけど、ロイヤルゼリーは別。でも、先着順ならアンリ達に優先権がある。


 アンリ達が買おうとしたらフェル姉ちゃんがやってきた。というよりも、森の妖精亭から出てきた。


 そして並んでいる人の数を見てちょっとへこんでいる。ロイヤルゼリーが買えないことを瞬時に理解したんだと思う。


「生きるか死ぬかのサバイバルなのに、こんな時間にくるなんてフェル姉ちゃんは甘い。ハチミツだけに」


「確かに欲しいけど、死なないよな? あと、なにがハチミツだけに、だ。ドヤ顔で言っても、特に上手くないからな?」


 フェル姉ちゃんには上手くないと言われたけど、スザンナ姉ちゃんには上手いと言われた。うん、いい気分でロイヤルゼリーが買えそう。


「それじゃシルキー姉ちゃん、ロイヤルゼリーとハチミツを一つずつください。期間限定でハチミツはもう一つ付くよね?」


「はい、もちろんですよ。大銀貨一枚と小銀貨一枚になります……はい、確かに。ではこちらがその瓶です」


 シルキー姉ちゃんからハチミツが入った瓶を二つと、ロイヤルゼリーが入った瓶を一つ渡された。ちょっとオシャレなカゴにワラと一緒に入ってる。


「カゴは私とバンシーで作ったんですよ。オシャレだと自負しています」


 何の素材かは分からないけど、小麦色のカゴだ。丁寧に編まれている感じの小さめなカゴ。小さな果物を模したものが付いているのがとても素敵。これはリンゴかな?


「確かにオシャレ。これはタダなんだよね? アンリは余計なお金を持ってないとだけ最初に言っておくけど」


「もちろんですよ。それは商品をお渡しするときに持ち運びやすいように作っただけなのでお金は取りません」


「そうなんだ? でもお金が取れる商品だと思う」


 そういうと、シルキー姉ちゃんは喜んでくれた。バンシー姉ちゃんも喜んでくれているみたいだ。


「はい、ではお買い上げありがとうございましたー」


 こうしてアンリはロイヤルゼリーとハチミツを手に入れた。スザンナ姉ちゃんも無事に買えたみたい。さっそく家に帰って朝食にしよう。




 スザンナ姉ちゃんも呼んでおじいちゃん達と朝食を食べた。


 キラービー印のハチミツは最高と言わざるを得ない。いつものパンが最高級のパンになった感覚。


 そして本命のロイヤルゼリー。まさにロイヤル。普通のパンが王室御用達的な何かに変わった気がする。ひれ伏すしかない。


 ハチミツを付けたパンがしばらく味わえるという幸福に浸りながらスザンナ姉ちゃんと一緒に休んでいると、おじいちゃんが笑顔でアンリのほうをみた。


「おじいちゃんは午前中に用事があるから、勉強は午後だけにしよう。午前中は遊んでいていいよ」


「そうなんだ? でも、アンリとしては午後まで遊ぶ覚悟だけど?」


「しばらく勉強を休んでいたからね、今日からしっかり取り戻すよ」


「おじいちゃん、アンリの決意をちゃんと聞いて」


「スザンナ君と一緒ならそんなに大変じゃないから安心だろう?」


 スザンナ姉ちゃんが、ものすごく驚いている。おじいちゃんの計画にはすでにスザンナ姉ちゃんも勉強することになっているみたい。


 確かにスザンナ姉ちゃんはフェル姉ちゃんがいない間、アンリと一緒に勉強してた。それは引き続き継続みたいだ。


 そしてスザンナ姉ちゃんはおかあさんに、昼食も夕食も家で食べるように誘われていた。それにお泊りも。アンリとしてもぜひお願いしたい。この間も聞いたけど、冒険的なことをもっと聞きたい。


 スザンナ姉ちゃんはそれを了承した。ちょっと嬉しそう。アンリも嬉しい。


 それはそれとして、午前中は遊んでいいわけだから、すぐに遊ばないと。午後なんてあっという間。


「スザンナ姉ちゃん、早く遊びに行こう。時間は待ってくれない」


「それはいいんだけど何をしようか?」


 それは大事。でも、遊ぶと言ってもアンリとしては修行したい。昨日のトーナメントを見て、アンリも強くなりたいと思った。こう、すぐにでも体を動かしたい。


「アンリとスザンナ姉ちゃんで模擬戦とかどうかな?」


「ちょっと実力差がありすぎるね……なら、私が水で出来た何かを動かすからそれと戦う感じにしようか? 私も水の操作の訓練になるし」


「うん、それでいこう」


 そうと決まればさっそく修行だ。部屋から魔剣を取ってこようっと。

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