第109話 トーナメント終了と二次会
準決勝の第一試合が始まりそう。
それはそれとして、そろそろアンリの策略を実行するときがきた。
壁の映像を見ているスザンナ姉ちゃんにアイスを渡す。
「スザンナ姉ちゃん、デザート持ってきたけど食べる? お腹いっぱい?」
「ありがと。もらう」
え? いきなりアンリの策略が破綻しそう。ううん、まだ。まだ終わらない。
「大丈夫? 無理は良くない。お腹を壊したら大変」
「大丈夫。アイスなら別腹」
たまに聞く言葉だけど、スザンナ姉ちゃんは自分の意志で別のお腹に入れることができる? もうだめだ。アンリの策略は失敗。法律スレスレの合法だったからダメだったんだ。
「でも、アンリの言う通り。食べ過ぎは良くないから半分あげる。ただ、アンリも一気に食べちゃだめだよ。お腹が冷えちゃう」
アンリのスザンナ姉ちゃんに対する好感度が上限を突破した。なんていいお姉ちゃん。フェル姉ちゃんと同率一位。
「分かった。スザンナ姉ちゃんの言う通り時間をおいてゆっくり食べる」
いくら合法でも策略を使ってアイスを二つ食べようなんてダメだった。もっとまじめに生きよう。いつかスザンナ姉ちゃんみたいなお姉ちゃんになる。
「犬ごときが狼に勝てるつもりか?」
「くだらん。ナガル殿は種族の優劣で勝負する気か?」
壁の映像からお互い挑発するような声が聞こえてきた。
狼のナガルちゃんと、ワンコのロス。種族的には狼のほうが強そうだけど、実際はどうなんだろう? どっちも一回戦の戦いでは強かった。どっちが勝つか予想がつかない。
スザンナ姉ちゃんも同じだったみたいで、フェル姉ちゃんの服を引っ張って質問している。
「フェルちゃん、この勝負ならどっちが勝ちそう?」
「はっきり言うと分からん。大狼はユニークスキルが強いけど、ロスも手の内をまだ晒していないだろうからな」
なかなか判断が難しい戦いみたいだ。よし、じっくり見よう。でもアイスも忘れない。溶けても美味しいけど、冷たいうちに食べるのがマナー。
勝者はロスちゃんだった。
簡単に言うと、ナガルちゃんが使ったスキル「黄昏領域」をロスちゃんが超音波とかいう攻撃で無効化した。なんでも人族や魔族には聞こえない声を出す攻撃だとか。ヤト姉ちゃんも聞こえていたみたいで、すごく嫌そうな顔をしてた。
つまり姿を消したナガルちゃんに攻撃は届かないけど、声は届くということだと思う。スキルが解除されたナガルちゃんはロスちゃんと戦って、残念ながら負けちゃった。
でも、いい勝負だった。ところどころ速くて見えなかったけど、ああいう接近戦だと頭が多いロスちゃんのほうがやっぱり有利なのかな?
そして準決勝第二試合。シャルちゃんとカブトムシさん。
勝者はシャルちゃん。
一回戦とは違って押し合いの勝負じゃなかった。カブトムシさんは飛んだり雷を纏ったり色々やったんだけど、シャルちゃんにはほとんど効かなかった。そもそもシャルちゃんに有効な攻撃って何なんだろう?
準決勝も終わって、残すは三位決定戦と決勝戦のみ。
一度休憩を入れてからまた始まった。
三位決定戦は、ナガルちゃんとカブトムシさん。
これはカブトムシさんが勝利した。
ナガルちゃんはなぜかスキルを使わなかった。なんでもスキルに頼り過ぎているから、という理由だった。よく分からないけど、何か思うところがあるんだと思う。
カブトムシさんも同じように、飛ばない、という制限を付けて戦った。でも、カブトムシさんの体はすごく硬い。ナガルちゃんの爪や噛みつきじゃダメージを与えられなかったみたいだ。
いい試合だったんだけど、ナガルちゃんはしょんぼりしてた。帰り際に「我は弱かったようだな……」と言ってたし、自信を無くしちゃったのかも。あとでお見舞いにいこう。
そして決勝戦が始まりそう。
シャルちゃんとロスちゃん。二人がインタビューを受けている。どっちもやる気だ。でも、どっちが勝つかな?
「フェル姉ちゃんはどっちが勝つと思う? やっぱりシャルちゃん?」
「そうだな。ロスには悪いがシャルロットには勝てないと思う」
「どうして?」
「純粋に強い。シャルロットはパワータイプのスライムでな。力だけならジョゼフィーヌよりも強いと思うぞ。捕まったら抜け出せない」
そうなんだ。いままでそういう攻撃はしてなかったけど、それができるなら簡単に場外に投げ飛ばせちゃうのかな。よし、アンリはロスちゃんを応援しよう。
それにスザンナ姉ちゃんが同意してくれた。フェル姉ちゃんは付き合いが長いシャルちゃんを応援するみたいだ。
そして試合。
しばらくは普通に戦っていたんだけど、二人ともユニークスキルを繰り出した。
シャルちゃんは巨大な門に変化するスキル「凡人苦悩」。門が開くと周囲の物をすべて呑み込むみたい。
そしてロスちゃんは巨大な炎の柱を作り出すスキル「赤い絨毯」。
門が開く前にロスちゃんの炎で倒せればよかったんだけど、残念ながら倒しきる前に門が開いた。炎とロスちゃん自身も門の中に吸い込まれて、最終的にロスちゃんは気絶しちゃった。
トーナメントの優勝者はシャルちゃん。そして二位がロスちゃん、三位がカブトムシさんで決まった。これにジョゼちゃんを加えた四体の魔物が四天王だ。
そしてシャルちゃんにはトロフィーが渡された。それを掲げるシャルちゃんは、見た感じすごく嬉しそう。
みんなで拍手をして、その栄誉を称える感じになった。そうして大盛況のうちにトーナメントは終わった。
これからは二次会。場所を森の妖精亭に移す。まだまだ宴は終わらない……!
フェル姉ちゃんがいつもの席に座って、アンリがその膝の上に座る。そしてスザンナ姉ちゃんもフェル姉ちゃんの隣にくっつく感じで座った。
フェル姉ちゃんはちょっとだけ嫌そうな顔をしたけど、仕方ないな、って顔になって何も言わなかった。つまり膝の上はフェル姉ちゃん公認。
そして、ヴァイア姉ちゃん達も同じテーブルにつく。昨日と同じ布陣だ。
ディア姉ちゃんから森の妖精亭夕食無料チケットを貰った。シャルちゃんが優勝したから賭けに勝った。フェル姉ちゃんの予想が大当たりだ。ヴァイア姉ちゃん達は外れたみたい。
そしてリンゴジュースで乾杯。いつもなら牛乳なんだけど、リンゴジュースで乾杯できるのもフェル姉ちゃんのおかげだ。
「お前等ってしばらくどうするんだ? 予定あるのか?」
リエル姉ちゃんが身を乗り出してそんな質問をしてきた。
それぞれやることがあるみたい。アンリはお勉強だ。でも、脱走するつもり満々。もうアンリはいい子じゃない。普通の子。普通の子は勉強をサボる。
フェル姉ちゃんはしばらく村にいるみたい。ダンジョンに閉じ込めたセラって人の件があるからどこにも行けないみたいだ。セラって人にちょっとだけ感謝。
そしてヴァイア姉ちゃんの情報だと、村に商人さんがくるみたい。村の広場で市場が開かれるから楽しみ。アンリの魔剣七難八苦もそれで買ったから、またなにか掘り出し物があるかも。
皆で色々とお話するのは楽しい。あっという間に夕食の時間になった。早速チケットを使って夕食を食べよう。
いつものウェイトレス姿をしたヤト姉ちゃんがやってきたからチケットを渡す。
「確かに受け取ったニャ。そうそう、食事が終わったらそこのステージでニャントリオンのライブをするから体を温めておくニャ。練習はしてないけど、大丈夫ニャ?」
初耳だけど、アンリはいつだって常在戦場。いつでも踊れる。
「愚問。アンリはいつでもいける」
ヤト姉ちゃんがニヤリと笑ったので、アンリもニヤリと返す。ちゃんと笑えたかは分からないけど、練習したから大丈夫だと思う……そうだ、いいことを思いついた。
「スザンナ姉ちゃんも踊ろう。前にちょっとだけ教えたよね?」
「え? ここで踊るの? 練習もしてないのに?」
「大丈夫。アンリがサポートする。それに悔しいけどアンリ達はバックダンサー。つまりメインじゃないから、多少ミスしても問題なし。それにただの踊りなんだから間違えたっていい」
「人前で踊るのは初めてだからちょっと恥ずかしいけど、やってみようかな……?」
決まりだ。早速ディア姉ちゃんと調整しよう。
「おまえら、踊るのか?」
「うん。フェル姉ちゃんも踊る?」
「いや、私が踊ると魔力が吸い取られそうとか言われるから踊らない。それにこれからセラに会いに行かないといけないからな。まあ、アンリ達の踊りを見てから行くつもりだ」
魔力が吸い取られそうってどんな踊りなんだろう? 一度くらい見てみたい。
まあ、それは後でいいや。よーし、スザンナ姉ちゃんと一緒に最高の踊りを見せようっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます