第105話 新しい服
第七回魔物会議で魔物の皆によるトーナメントの開催が決まった。
強さによる序列に問題があるならそれを決めればいい。そんなわけでトーナメントの開催を宣言する。
上位三名に四天王の座を与えると言ったら皆がやる気になってくれた。四天王なのに、なぜ三名かというと、一名はジョゼちゃんで決まりだから。それをフェル姉ちゃんがジョゼちゃんに言ったら、ジョゼちゃんはものすごく落ち込んでた。トーナメントに出たかったみたい。
それとトーナメントはアビスちゃんにお願いしてコロシアムみたいなところでやることになった。ダンジョンの中に作ってくれる。しかもそれを村の広場で見ることができるとか。
今日のお祭りでは出し物がないみたいだから、それがあるだけでも結構楽しめると思う。それにディア姉ちゃんの提案で賭け事をするみたい。誰が勝つのかを予想するとか。
ギャンブル、それはすごく大人。何を賭けるかは分からないけど、アンリも参加したい。
とりあえず、トーナメントを行うことで魔物のみんなはそれで納得してくれたみたいだから、第七回の魔物会議は終了。
あとはお祭りが始まるまでのんびりしようかと思ったんだけど、ディア姉ちゃんがフェル姉ちゃんにやって欲しいことがあるって言いだした。
フェル姉ちゃんは忙しいと言って断ったけど、ディア姉ちゃんはそれが嘘だと見抜く。
フェル姉ちゃんはちょっとだけ嫌そうな顔をしてる。
「実は特にすることはない。何か用か? 面倒な事はやらんぞ。今日から私はゴロゴロするんだ。こんなに頑張ったんだ。ちょっとくらい休んでもいいはずだ。いや、休むべき」
「まあ、そうだね。ルハラに攻め込んでディーン君を皇帝にしちゃうぐらいだからね。しかも求婚されたとか? どれだけ波乱万丈なの?」
「……誰に聞いた?」
「昨日のガールズトークでフェルちゃんが言ったんだよ。眠そうな顔で」
おかしい。アンリは聞いてない。アンリも一緒にガールズトークに参加してたのに。
「アンリは聞いていない」
「私も聞いてない。ずるい」
「あはは、二人ともほとんど寝てたからね。簡単に言うと、ディーン君に求婚されたんだけど、殴って断ったみたいだよ?」
「曲解している。私に勝てたら結婚してやると言っただけだ。そして私が勝った。それだけだ」
「おおー」
アンリと一緒にスザンナ姉ちゃんも驚きの声を上げた。
そういうのをなんていうかアンリは知ってる。前に森の妖精亭でお酒を飲んで話しているベインおじさん達がそんな話をしていたのをこの耳でしかと聞いた。
「フェル姉ちゃんは悪女。男を惑わす小悪魔。サキュバスの才能がある」
「あんな露出狂の才能なんかいらない」
フェル姉ちゃんは本当に嫌そう。小悪魔って褒め言葉じゃないんだ? リエル姉ちゃんに言ったらすごく喜びそうだけど。
そんな大人な会話が終わったら、ディア姉ちゃんはフェル姉ちゃんに仮縫いの手伝いをしてほしいって言いだした。フェル姉ちゃんの服を色々調整したいとか。
フェル姉ちゃんもそれならってことで了承した。
これはアンリも行くしかない。お祭りまでにはまだ時間があるし、どんな服なのか見ておきたい。
みんなで色々な話しながら冒険者ギルドに向かうと、広場ではお祭りの準備が始まってた。
最近までフェル姉ちゃんがいなかったし、昨日のこともあったから今日はいっぱい楽しまないと。
村のみんなが準備しているのを横目に冒険者ギルドへ行くと、ディア姉ちゃんは早速フェル姉ちゃんの服を持ってきた。
マネキンに着せられている服は執事服だけど、フェル姉ちゃんがいつも着ている服よりは格好いい感じ。これがアンリのマントよりも先に作ったというニャントリオンブランドの第一号。うん、素敵。
フェル姉ちゃんは早速奥の部屋で着替えた。そして部屋から出てくると、こっちに見やすいようにしてくれる。
「どうだ?」
びっくりするほど似合ってる。アンリのマントを作ってくれた時もそう思ったけど、ディア姉ちゃんの裁縫の腕はすごい。裁縫の腕というよりもデザインセンスがいいのかな?
「格好いい」
「私も同じ服がほしい。お金なら出す」
アンリはお金がないから買えないけど、気持ちはスザンナ姉ちゃんと一緒。お金があったら同じものを買いたい。
その後、ディア姉ちゃんはフェル姉ちゃんに色々なポーズをお願いしたり、質問したりしている。服を作るのって大変そう。
三十分くらい色々やってようやく終わったみたい。フェル姉ちゃんは奥の部屋で着替えていつもの服で戻ってきた。
ディア姉ちゃんがいうには明日には服を渡せるみたい。
すごく早いと思ったらそれには理由があって、フェル姉ちゃんからお土産でもらったミスリルの針だとスイスイ縫えるとか。
それを聞いたフェル姉ちゃんはちょっと首を傾げてからアンリのほうを見た。
「アンリ、剣は作って貰ったのか?」
「まだ構想段階。でも昨日、フェル姉ちゃんを見て思いついた」
「私を? 何を思い付いたんだ?」
「魔力でフラフラだったからよく覚えてないけど、フェル姉ちゃんのグローブが変形した。あれは格好いい。グラヴェおじさんに相談」
そう、昨日、フェル姉ちゃんがセラと戦ったときに使っていたグローブ。光ったり、魔力をため込んだり、放出したり、殴る部分の金属に文字が浮かび上がったり、最後のほうではちょっと変形してた。
あれはたぶん、速い攻撃が出来るように空気抵抗を減らす感じの変形。全然見えなかったけど、フェル姉ちゃんは一瞬でセラをたくさん殴ったと思う。
アンリの剣もあんな感じで変形してほしい。あと、光ったりするのも捨てがたい。正直、フェル姉ちゃんのグローブと同じようになる方向で考えている。いわゆる全部盛り。
「そうか、なら格好いい剣を作って貰え」
「うん。最強の魔剣にする」
アンリの剣、魔剣フェル・デレ。これをメインウェポンにして、七難八苦をサブにする。セラみたいに二刀流も考えたけど、おっきい剣を作るから両手持ちかな。
七難八苦は腰に差す感じでいこう。今は背負っているけどアンリはこれからぐんぐん大きくなる。フェル姉ちゃんくらいの年頃になれば、腰に差してもたぶん大丈夫。
そんな話をした後に、フェル姉ちゃんからお土産を貰った。ルハラのお土産かと思ったら、疫病が発生した町、メーデイアのお土産だった。
そういえば、フェル姉ちゃんはメーデイアから帰って来てすぐにルハラへ行っちゃったんだっけ。
買ってきてくれたのは知恵の輪だ。力ではなく知恵で解かなくちゃいけない遊び道具。アンリとしては力で押し切る感じが好きなんだけど、せっかくのお土産だから知恵を使って遊ぼう。これも秘宝候補。
そしてディア姉ちゃんは指の部分に穴の開いている手袋を貰っていた。手袋としてそれはどうなのかと思うけど、ディア姉ちゃんはすごく嬉しそう。
残念ながらスザンナ姉ちゃんへのお土産は無かった。そもそもメーデイアに一緒にいたんだからお土産は無いってお話らしい。あとで知恵の輪を貸してあげよう。
いつの間にか外のほうが騒がしくなってきた。そろそろお祭りが始まるみたい。
そうだ、アンリはお泊りしたから一度家に帰っておじいちゃん達に報告しないと。もしかしたら、アンリの帰りを待ってるかもしれないし、お祭りの前に一度家へ戻ろう。
みんなで冒険者ギルドを出てから、フェル姉ちゃんのほうを見た。
「フェル姉ちゃん、アンリは家に帰って昨日のことを報告してくるから、一旦ここでお別れ」
「そうなのか? 確かに今日は村長たちにまだ会っていないだろうし、顔を見せにいったほうがいいだろうな」
うん、と頷くと、スザンナ姉ちゃんが「私は森の妖精亭へ行ってくる」と言った。ユーリおじさんにお祭りのことを知らせてくるみたい。
「それじゃまたお祭りで」
フェル姉ちゃんとスザンナ姉ちゃんの二人と別れて、さっそく家に向かう。
昨日のガールズトークが楽しかったことを伝えて、これからも頻繁にお泊りすることを宣言しようっと。
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