第104話 第七回魔物会議

 

 フェル姉ちゃんを待ってたと言うと、すぐに朝食を三人分頼んでくれた。


 料理をヤト姉ちゃんにお願いしたけど、来るまでにはちょっと時間がかかるので待機。その間にユーリおじさんがフェル姉ちゃんに色々質問することになった。


 最初は面倒そうな顔をしていたけど、ユーリおじさんはルハラから来た兵士たちを追い返したし、ギルドへの連絡もしてくれたから、そのお礼に質問に答えるみたい。


 スザンナ姉ちゃんも兵士たちを追い返したからフェル姉ちゃんに褒められた。すごく嬉しそう。そしてアンリもいい子にしていたからスザンナ姉ちゃんと一緒に朝食をおごってもらうことになった。セーフ、アンリは無銭飲食じゃない。


「ユーリには、お礼として質問に答えてやる。セラの何が聞きたい?」


「昨日聞いたのですが、セラをダンジョンに閉じ込めたのですか?」


「そうだな。アビスに頼んで出口のない階層に閉じ込めた。今は治療中だ」


 治療中? セラはそんなに怪我をしていたようには見えなかったけど、アンリが眠っている間に怪我をしたのかな? もしかしてフェル姉ちゃんがやった?


「意思を持つダンジョンにも驚きましたが、そういう事も出来るのですか。ちなみにセラは何の治療です? それに昨日の戦いを見た限り、フェルさんはセラに圧倒されていたと思いますが」


「私も詳しくは知らないが、精神的な制約を受けているらしいぞ。私に関することで正常な判断ができないとか。あと、感情的な部分が増幅されているとか言っておられたな」


「言っておられた……? 他に誰かいるのですか?」


「昨日の戦いを見たんじゃないのか? 魔王様がセラを倒しただろうが。今の話は魔王様からの受け売りだ」


 魔王様? 魔王がいるってこと? それにセラを倒したのは魔王? 昨日、ヴァイア姉ちゃんが言ってた誰か来たって魔王のことなんだ。


「魔王がいた? セラが貴方に襲い掛かって、急に苦しみだしたような気がしましたが」


「さっきも言ったが、セラを倒したのは魔王様だ」


「そうですか……」


 ユーリおじさんはアンリが眠った後も見ていたってことなのかな? ヴァイア姉ちゃんみたいに状態異常を無効化できたりするのかも。


「アンリも最後は分からなかった。気付いたらヴァイア姉ちゃんとリエル姉ちゃんに介抱されてた」


「うん、私も同じ」


 周囲にいたのはおじいちゃん達だったけど、治癒魔法を使ってくれたのがリエル姉ちゃんで、魔道具での魔力酔いを中和をしてくれたのがヴァイア姉ちゃんだったって聞いた。スザンナ姉ちゃんも同じだったみたい。


「お待ちどうさまですニャ」


 ヤト姉ちゃんが料理を持って来てくれた。お話はここまで。早速朝食を食べないと。そしてアンリは見切った。この朝食にピーマンの気配は感じない。アンリは無双できる。最高の朝食だ。




 朝食を食べ終わって、まったりしていたら、食堂の入口からディア姉ちゃんが駆け込んできた。ちょっと困り顔だ。もしかして何かのトラブル?


「フェルちゃん! 大変だよ!」


「どうした? また厄介ごとか?」


「分かんないけど、魔物の皆が言い争いをしてるみたい!」


 これは大事件。みんな仲がいいはずなのになんでそんなことに。ここはアンリがボスとして行くべき。こういうところからフェル姉ちゃんにアンリがボスであるという既成事実を作っていかないと。


 ディア姉ちゃんに連れられて食堂を出た。フェル姉ちゃんとスザンナ姉ちゃん、それにアンリの全部で四人パーティだ。ユーリおじさんは考え事があるからって来なかった。


 それはいいとして、フェル姉ちゃんの背中は無防備だ。これはチャンス。瞬間的にフェル姉ちゃんの背中によじ登った。強制的におんぶをしてもらう。


 フェル姉ちゃんはちょっとだけ嫌そうな顔をしたけど、「落ちるなよ」と言って普通におんぶしてくれた。スザンナ姉ちゃんから羨望のまなざしを受けている。でも、ここはアンリの場所。たとえスザンナ姉ちゃんでも渡すつもりはない。


 フェル姉ちゃんにおんぶされたまま畑に着くと、魔物のみんなが車座になって集まっていた。確かに言い争いかな。大狼のナガルちゃんと首が三つあるワンコが唸っている感じ。でも、あのワンコは誰だろう?


「従魔の中でジョゼフィーヌ殿が一番強いのは分かる。だが、ニ番目に強いのがナガル殿とはどういう事だ?」


「どうもこうもない。事実を述べているにすぎん」


「ちょっと待つクモ。それは聞き捨てならないクモ。私と戦ったわけでもないのに、ナガルがジョゼの次に強いと言うのは心外クモ」


 魔物の強さのことで揉めてるのかな?


 ジョゼちゃんはフェル姉ちゃん直属の従魔だし、エルフの森での戦いを見たら確かに強い気がする。でも、ほかのみんながどれくらいの強さなのかはアンリもよく知らない。


「お前達、何をしているんだ?」


 フェル姉ちゃんがそう言うと、皆がフェル姉ちゃんを見て頭を下げた。


 むむ? いつの間にか魔物のみんなはフェル姉ちゃんに対して敬意を払っている感じだ。フェル姉ちゃんがメーデイアから帰ってくる前はそうでもなかったんだけど、何かあったのかな?


 これはアンリのボスとしての立場が危ういかも。


 そんなことを考えていたら、三つ首のワンコが頭を上げた。


「いえ、大したことではございませぬ。従魔達の強さに関して疑問に思いまして、ちょっと問いただしていただけです」


 皆の強さに関する疑問なんだ。誰が一番強いとかそう言うことなのかな。でも、アンリが疑問に思っているのは別のこと。


「フェル姉ちゃん、この首が三つの魔物は誰?」


「ニアを取り返しに行ったとき、従魔になったロスだ。首が三つあるから三倍かわいい。あと、一緒にヘルハウンドも数匹いるぞ」


「分かった」


 ロスっていうワンコ、それにヘルハウンドっていう毛が無いワンコが新たにフェル姉ちゃんの従魔になった。ならやるべきことは一つ。


 フェル姉ちゃんの背中から飛び降りて、アンリの背中にある魔剣七難八苦を掲げる。


「第七回魔物会議を始める」


 魔物のみんなは拍手してくれた。ロスちゃんやヘルハウンドちゃん達は面食らっているけど。


 前回の第六回はこの間ニア姉ちゃんが帰ってきたときに獣人さん達とやったから今回は第七回。でも、あれはすぐに終わっちゃった。ヤト姉ちゃんが責任を持って指導すると言ってたし、ずっとこの村に住むわけじゃないからお客さん扱いみたい。だからちょっと不完全燃焼。


 でも、今回は違う。フェル姉ちゃんの従魔としてこの村に住むなら家族だ。絶対に会議をするべき。


「新しい家族が増えたから会議する」


「ほう、お主がアンリ殿か。お噂はかねがね。なるほど、素晴らしい力をお持ちだ。新参者の私を家族と呼んでくれるのか」


「うん。一緒の村に住む家族」


「魔物である私を家族と呼んでくれるのは嬉しく思う。だが、私は主であるフェル様の言う事しか聞かぬが、それでも構わぬか?」


「おい、ロス――」


「もちろん。フェル姉ちゃんの言うことを聞いてくれればいい。フェル姉ちゃんは敵が多いから守ってあげて」


 アンリがボスでフェル姉ちゃんは部下。命令系統は大事。アンリがロスちゃんに直接命令することはないと思う。お願いはするけど。


 それとあのセラって人は強かった。今は治療中みたいだけど、いつかまた襲って来るかもしれない。その時は皆でフェル姉ちゃんを守らないと。


 あの戦いについていけたのは、魔族の人以外だと、ヤト姉ちゃんとジョゼちゃんだけ。でも、魔族じゃなくてもあそこまでやれるのは分かった。いつかアンリもあの領域に行きついて見せる。それにアンリが行けるなら、魔物のみんなだって行けるはずだ。


 そんな決意をしていたら、ロスちゃんが腹を切ると言い出した。昨日のフェル姉ちゃんとセラとの戦いでふがいない思いをしたからとか。みんなもそれでちょっとショックを受けてたみたい。だから強さのことで口論になったのかな?


「情けないと思うならもっと強くなれ。それに重要なのは生き残ることだ。生きてさえいれば何度でもチャンスがあるはず。最後に勝てばいいんだ」


 フェル姉ちゃんがショックを受けている皆にそんなふうに言った。フェル姉ちゃんは腕を組んでふんぞり返ってる。ふてぶてしいって表現がよく似合う。


 たぶん、フェル姉ちゃんなりの励ましなんだと思う。でもアンリもそう思うから同意しよう。


「フェル姉ちゃん、いいこと言った」


「最後に勝てば勝者」


「そうだよね。生きてさえいればなんとでもなるよ」


 スザンナ姉ちゃんもディア姉ちゃんもフェル姉ちゃんの言葉に同意している。


「主の言葉、しかと心に刻みました。強さを求めて励みます」


 ロスちゃんも同意したみたい。ほかのみんなも頷いている。


 うん、皆で強くなってフェル姉ちゃんに追い付こう。何もできずに見ているだけなんてアンリのワンパクさから考えても無理。次は絶対に参戦するぞ。

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