第91話 対策会議

 

 昨日、オルウスおじさんが持ってきた情報で村がてんやわんやになっている。でも、事前に教えてもらったから村のみんなは意外と落ち着いているかも。


 レオールって人が来た時とは違って今回はある程度情報があるからと、村のみんなで対策会議を始めた。村のみんながお家に集まってきている。


 そんな状況なのに、アンリはお勉強ときた。アンリは部屋で黙々と書き取りの練習をさせられている。こんなことやってる場合じゃないのに。


 これはアンリに闇落ちしろと言っているも同然。しかもスザンナ姉ちゃんは免除だ。スザンナ姉ちゃんはユーリおじさんと同じアダマンタイトの冒険者。つまり防衛力として期待されているから。


 人生を思うがままに生きるには力が必要なんだ……!


 そんな人生の真理に至ったら、部屋の扉をノックする音が聞こえた。もしかして、アンリにも意見を聞きに来たのかな?


「アンリ、勉強は終わった?」


 スザンナ姉ちゃんの声だ。


「まだ終わってないけど、いつだって終わらせることは可能。そもそもこんなことしている場合じゃないのに、おじいちゃんは横暴だと思う。アンリの悪い子へのカウントダウンは急速に早まった」


「えーと、村長が今日はもう勉強を終わりにしていいって。それを伝えに来たんだけど」


 即座に勉強道具をしまった。その間、約三秒。瞬殺だ。そして部屋の扉を開ける。そこには両手にそれぞれコップを持ったスザンナ姉ちゃんがいた。急に扉を開けたからびっくりさせちゃったみたい。


「リンゴジュースを持ってきた。一緒に飲もう」


「せっかくだから貰うけど、アンリはこんなんじゃ騙されない。スザンナ姉ちゃんのこと信じてたのに」


「うん。一緒に勉強しなかったのは悪いと思うけど、ほら、私はお姉ちゃんだからアンリのことを守らないと。アダマンタイトとして村の防衛戦力として期待されているからね。だからこれはお詫び」


 遠回しに自慢された。やっぱり力が必要なんだ。悪魔とかと契約すればパワーを貰えるかな。確かディア姉ちゃんが闇のパワーとか言ってた気がする。今度聞いてみよう。


 それにアンリのことを守ってくれるっていうのは嬉しい。スザンナ姉ちゃんはアンリのお姉ちゃんとして対策会議に出てくれたんだから、わがままを言っちゃいけなかった。


「よく考えたら、スザンナ姉ちゃんに怒るようなことじゃなかった。お詫びはいらないけど、リンゴジュースを二つ飲むのは飲みすぎだと思う。これは催促じゃないとだけ言っておく」


「お詫びじゃなくても一緒に飲もう。飲みながら対策会議で決まったことを説明するから」


「そうなの? それじゃアンリのベッドに座って。ご教示よろしくお願いします」


 朝から始めて夕方までやってた対策会議ではどんなことが決まったのかな。ものすごく興味があるから、しっかり教えてもらおう。




 スザンナ姉ちゃんのお話だと、ルハラ帝国から村へ軍隊を送ったのは間違いないみたい。二千人くらいの規模だとか。


 それを村で防衛するのは難しいから、村に来る前に軍隊を叩くって話になった。そもそも村には周囲を囲む柵しかないので守れないとか。それはアンリにも分かる。


 それと防衛拠点に適しているのは森の妖精亭なんだけど、村のみんなはアビスへ避難するみたい。


 軍隊を叩く部隊はスザンナ姉ちゃん、ユーリおじさん、オルウスおじさん、それにエルフの人たちも一緒に戦ってくれるみたい。


「実は朝、冒険者ギルドにフェルちゃんから連絡があってね、ルハラから二千くらいの軍隊が来ることが分かったんだ。本来の目的はエルフの村で、おまけにこの村を襲うとか言ってたらしいよ」


「フェル姉ちゃんから連絡があったのに、アンリには何も言わなかったということ?」


「う……それはそうなんだけど、昨日、ディアちゃんが言った通り、用件だけ言ってすぐ念話を切っちゃうからアンリを呼べなくて……ごめん」


「うん、今のは怒ったふり。冗談だからお話を聞かせて」


「冗談に見えなかったよ……まあ、そんなわけで、エルフの人たちにも連絡して共闘することになったんだ。でもエルフの人たちは村を離れられないし、荒らされるのも困るってことでもっと西のほうで戦うことになったんだ」


 色々あるみたい。でも、そっか、みんなで戦うんだ。うらやましいな。アンリが行っても足手まといになるし、アビスで大人しくしていよう。


 さらにスザンナ姉ちゃんの話を聞くと、フェル姉ちゃんはこのまま帝都のほうへ行って皇帝をぶん殴るみたい。それはディーン兄ちゃんのやることじゃないかな? というか、今日攻め込んだはずだけど?


「ディーンって人は帝都に攻め入って負けたっぽいよ。でも、それとは別件でフェルちゃんが帝都まで行くみたい。なんか、皇帝がこの村を襲うって言ったから、フェルちゃんが明確に敵認定したみたいだよ」


「フェル姉ちゃんならそうなりそう。でも、嬉しいな。フェル姉ちゃんもこの村のことが好きなんだと思う。だから怒ってくれた」


「うん、私も好きだから張り切るつもり。アダマンタイトとして誰よりも敵を倒すよ。ユーリには負けない」


 アダマンタイトか。いつかアンリもなりたいな。あれ、ならセラって人も戦ってくれるのかな?


「えっと、セラって人はどうなの? 村の防衛をしてくれるのかな?」


「その場にいなかったから何とも言えないね。ユーリの話だと宿で寝てるみたいだけど……戦力としては数えないほうがいいかも」


 なんとなく不安な感じがするし、何もしないでいてくれたほうがいい気がする。


 でも、軍隊二千人に対しての戦力としてはどうなんだろう? 実はみんなの実力を良く知らない。勝てるのかな?


「スザンナ姉ちゃん達だけで勝てる?」


「相手にアダマンタイトがいる訳でもないし、余裕だと思う。私一人だときついけど、ユーリもいるし、執事の人もいるから。エルフの人たちは良く分からないけど、聞いている話だと弱くはないはず」


「疑っているわけじゃないんだけど、スザンナ姉ちゃんもユーリおじさんも、強いところを見たことがないから良く分からない。でも、アンリのお姉ちゃんだし、大丈夫だよね?」


「もちろん。アンリは安心して村にいるといいよ」


 スザンナ姉ちゃんが座りながら胸を張った。ここは信じよう。


「うん、応援してるから頑張ってね。でも、危なくなったら逃げて」


「それは大丈夫。私が直接戦うことはあまりないから」


「えっと、どういう意味?」


「なんて言えばいいかな、私って水を操れるんだけど――そうだ、水のゴーレムで戦うと言えばいいかな? 直接戦うのはそのゴーレムで、私じゃないんだ。もちろん私が直接やっても強いけど、普段はそういう戦い方をしてるんだよね」


「そうなんだ? じゃあ、そのゴーレムが負けてもスザンナ姉ちゃんは怪我をしないってこと?」


「そのとおり。だから安心して待ってて」


 その言葉に頷いた。それなら安心。ユーリおじさんやオルウスおじさんは直接戦うんだろうけど、そっちはなんとなく強そうだから問題ないと思う。エルフの人たちは――弱かったけど、アレはジョゼちゃん達が強すぎたのかな? たぶん大丈夫だとは思う。


 大体のことはわかった。軍隊が来るのは危険だけど、スザンナ姉ちゃん達がいれば、大丈夫そうだ。


 そうだ、フェル姉ちゃんは他にも何か言ってなかったかな?


「フェル姉ちゃんとのお話はそれだけ? 他にもある?」


「うん、たしか、ニアって人とロンって人をこっちへ帰すとか言ってたよ。ヤトって人に護衛させるとか。あと獣人を五十人くらい送るとか言ってた」


「そうなんだ――獣人さんを五十人?」


「うん、理由は知らないけど」


 魔界にいた獣人さんなのかな? 村に住む人が増えるなら嬉しいな。


「あ、そうだ。もう一つ言ってたよ。何を言ってるかよく分からなかったけど」


「なんて言ってたの?」


「皇帝からズガルって町を貰ったとか言ってた……フェルちゃんはああいうジョークを言うの? 町なんてくれる訳ないよね?」


「フェル姉ちゃんがジョークを言うのはあまり聞いたことがないから、本当のことだと思う。ズガルって城塞都市のことだよね? 皇帝から貰ったんだ? ……なんで?」


「それも理由は言ってなかったね。魔族の人を呼んで治めるとか言ってたけど、あれも本気かな?」


 フェル姉ちゃんのことだからたぶん本気。何をしてるんだろうって感じだけど、フェル姉ちゃんらしいって思っちゃう。もう少しアンリが大人だったら一緒に行けたんだけどな。


 あ、そうか。フェル姉ちゃんは帝都へ行って皇帝をぶん殴るんだ。なら帰りはもっと遅くなるってことだ。


 ニア姉ちゃんとロンおじさんが帰ってくるのは嬉しいけど、皆が帰ってくるまでは嬉しさも半分かな。


 よし、これからもアンリはいい子にしてみんなの無事を祈ろうっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る