第85話 姉妹
今日のお勉強が終わったからスザンナ姉ちゃんと一緒に冒険者ギルドへやってきた。
もう夕方だけど、夕飯の時間までにフェル姉ちゃん達の状況を聞かないと。
おじいちゃんやユーリおじさんも来るかと思ったら、二人はまだアダマンタイトのことで話があるみたいで、引き続き勉強になっちゃった。勉強はメリハリが大事なのに。
でも、おじいちゃんは何が知りたいのかな? トラン国を縄張りとしているレオって人とジェイって人のことを詳しく聞いていたみたい。もしかしてトラン国へ行く用事でもあるのかな。
どういう理由なのかは分からないけど、それはどうでもいい。大事なのは今日のアンリの勉強が終わったこと。これからは自由時間。遊びまくっても悪い子にはならない。夕飯の時間まで徹底的に遊ぶ。
そんなわけで、冒険者ギルドへ突撃をかました。勢いよく冒険者ギルドの扉を開けると、ディア姉ちゃんがカウンターでびっくりしている。
「アンリ参上。ディア姉ちゃん、フェル姉ちゃん達の情報提供をお願いする」
「アンリ、そんなに勢いよく開けたら扉が壊れちゃうよ。気持ちは分かるけど」
「うん、ちょっとだけ興奮しちゃった。反省してる。ディア姉ちゃんごめんなさい」
いい子はいつでも反省出来る。そして謝ることも。
「二人ともいらっしゃい。アンリちゃん、ちょっと落ち着いてね。深呼吸しようか」
「うん、もう大丈夫。それじゃ早速で悪いけど、フェル姉ちゃん達のことを教えて」
「教えたいのはやまやまだけど、まだ一日だよ? 連絡もないし、まだ森の中じゃないかな?」
「ディア姉ちゃん、アンリにそんな嘘は通用しない。情報を隠してるでしょ? 吐いて。アンリはいい子だけど、暴力に訴えることもできる」
「アンリちゃん、いい子は暴力に訴えないよ……いや、本当に連絡はまだないんだってば。ああ、フェルちゃん達の情報はないけど、オリン国の状況はわかってるよ。冒険者ギルドを通して連絡をもらったからね。その情報でもいい?」
「そうなんだ。それじゃその情報を教えて」
フェル姉ちゃんの情報じゃないのはつまらないけど、色々な情報は持っていたほうがいいと思う。
「それじゃ、まずオリン国から声明が出たよ。ルハラ帝国の貴族が境界の森にある村から人をさらったって。それを取り返すのは当然の行為であり、それを支持するって感じの内容だったよ。これならフェルちゃんが暴れても魔族が人界へ侵攻してきたって話にはならないかな」
「そうなんだ。でも、オルウスおじさんが村を出たのは今日の朝。そんなすぐにオリン国へ帰れないよね? 執事さんとメイドさんだからやれそうな気はするけど」
「念話で連絡したんじゃないかな? 傭兵団が付けていた鎧の破片を証拠品として持っていったけど、オルウスさんは信用されているから前倒しで声明を出したのかもね」
さすがは執事さん。アンリも将来、有能な執事さんが欲しい。今のところフェル姉ちゃんが候補。執事服を着てるのはアンリに仕えてくれるためだと信じてる。
「それと冒険者ギルドからも同じような声明がでたね。これはユーリさんとスザンナちゃんのおかげだよ。二人のアダマンタイトがそれを伝えたから証拠品がなくても信頼されたんだと思うよ。それに冒険者ギルドの本部はオリン国の王都にあるからね、オルウスさん達の情報と合わせて信頼できるって思われたのかも」
ディア姉ちゃんがそう言うと、スザンナ姉ちゃんは嬉しそうに体をくねらせてる。でも、アンリ達の視線に気づいたら、咳払いをして真面目な顔になった。
「それくらい余裕。ユーリなんかいなくても私だけで十分だった」
「スザンナちゃんはユーリさんをライバル視してるよね。でも、ユーリさんはグランドマスター直属の専属冒険者だし、発言力と言うか信頼度は上だと思うよ?」
「む」
スザンナ姉ちゃんがむくれちゃった。アンリとしては今のディア姉ちゃんの言葉に物申したい。だいたい、ユーリおじさんは服装からしてうさん臭い。どっちが信頼できるかって言えば、当然スザンナ姉ちゃん。
「アンリはスザンナ姉ちゃんを支持する。ユーリおじさんは見た目がちょっとだけ……具体的には言わないけど、ぼかして言うと、マイナスな感じ。信頼度でいえば、スザンナ姉ちゃんだと思う」
「ありがとう、アンリ」
スザンナ姉ちゃんがアンリの後ろから腕を回して抱きついてきた。
これはいいフィット。フェル姉ちゃんの膝の上と甲乙つけがたい。
「二人とも仲いいね。本当の姉妹みたいだよ」
姉妹? つまり、アンリが妹で、スザンナ姉ちゃんがお姉ちゃん?
それはいい考え。スザンナ姉ちゃん、とは言ってるけど、それは皆も同じ。フェル姉ちゃんとかディア姉ちゃんとかと一緒だ。村にいるお姉ちゃんと言う意味。でも、姉妹ならニュアンスが違う。
一人っ子のアンリとしては、スザンナ姉ちゃんがお姉ちゃんになってくれたら素敵だと思う。
「ディア姉ちゃんの意見を採用する。スザンナ姉ちゃんはアンリのお姉ちゃんになって」
「別にいいけど、お姉ちゃんって何をすればいいの?」
「アンリを徹底的に甘やかす。そして姉は妹に絶対服従。リンゴジュース持ってきて」
「絶対にやだ」
「今のは冗談。アンリジョーク。普通にアンリのお姉ちゃんになってくれればいい。別に何かが変わるわけじゃないけど、そういう気持ちでいてくれると嬉しい」
「……それならいいよ。私には家族がいないから、私もアンリが妹になってくれたら嬉しい」
家族がいない? おとうさんとかおかあさんがいないってことなのかな?
ここは空気を読んで何も言わないでおこう。これからアンリと姉妹になるんだから何の問題もない。
「うん、アンリとスザンナ姉ちゃんは今日から姉妹。それじゃ盃でも交わす? そんなことをするって聞いたことがある。リンゴジュースを注いで飲めばいいのかな?」
ディア姉ちゃんにそれは違うよ、って言われた。よくわからないけど、違うならやめておこう。そんなことしないでも、スザンナ姉ちゃんとは姉妹なんだから問題ない。
「それじゃ手始めにアンリの家に泊る? アンリのベッドはそれなりに広いから一緒に寝られる」
「一緒に寝る? そっか姉妹だから一緒に寝てもいいよね。うん、それじゃ今日はアンリの家にお泊りしようかな」
「今日だけじゃなくて毎日がいい。そうだ、色々とお話を聞かせて。どんな冒険したのか気になる。アンリも大きくなったらいろんなところへ行くつもりだから参考にしたい。実は将来、フェル姉ちゃんと遺跡巡りの約束をしてる」
「そうなんだ。それは私も行きたいかな」
「うん、それじゃみんなで行こう。きっと楽しい」
アンリには分かる。それは最高に楽しい冒険になるはずだ。早く大人にならないかな。
「えっと、二人で盛り上がっているところ悪いんだけど、私もいるからね? あまり大きな声では言わないけど、かなり寂しいかな!」
大きな声では言わないって言ったのに、すごく大きな声で言った。
「ディア姉ちゃんは大人なのに寂しいの?」
「大人だから寂しいんだよ! まあ、アンリちゃん達も大きくなれば分かるよ。そんなことよりもね、まだ情報があるんだ。実はなぜかほかのギルドや組織からも声明が出てね、それを調べている最中なんだよ」
他のギルドやほかの組織? 冒険者ギルド以外のギルドってことかな?
「どこから出てるの?」
「メイドギルドとメノウ様ファンクラブってところだね。なんでだろうね?」
それはアンリにも分からない。でも、スザンナ姉ちゃんが「私、知ってる」って言いだした。
「なんでスザンナちゃんが知ってるの?」
「メーデイアからリーンへ移動するときにそんなことを言ってた。どっちもフェルちゃんの知り合いだから、お願いしてみるって言ってた気がする」
「お願いするのはいいんだけど、フェルちゃんはいつの間にそんなところと関係を築いたのかな? ただの知り合い程度なら声明を出すなんてしないけどね?」
確かに不思議。今回の声明はルハラという国を批判する内容だから、メイドギルドはともかく、小さい組織は危ないと思うんだけど。そもそもファンクラブって声明を出すような組織なのかな?
「フェルちゃんは結構気を使っていたみたいだよ。魔族が人族に対立したとは思われたくないみたい。ニアさんって人を取り戻すのは絶対だったみたいだけど」
「相変わらずだね。魔族なら人族同士の諍いに首を突っ込む必要もないのに。それだけニアさんの料理に胃袋を掴まれちゃったかな?」
やれやれ、ディア姉ちゃんは分かってない。ここはアンリが教えてあげよう。
「ディア姉ちゃんは間違ってる。フェル姉ちゃんは単に優しいだけ。ニア姉ちゃん以外の人がさらわれても同じように取り返しに行く。これは大事なことだから覚えておいたほうがいい」
「私もそう思う。だいたい、フェルちゃんはメーデイアでたいして知りもしない人達のために色々頑張ってた。住んでいる村の人のためならもっと頑張ると思う」
アンリとスザンナ姉ちゃんがそう言ったら、ディア姉ちゃんはちょっと驚いた後に笑顔になった。
「あはは、そうだね。うん、フェルちゃんならニアさんじゃなくても助けにいったよね。ちょっと勘違いしてたよ。あ、そうだ。スザンナちゃんはメーデイアにいたんだよね? 何があったか教えてくれないかな? どうせフェルちゃんが活躍したんだろうけど、詳細を知らないんだよね」
「それはアンリも知りたい」
「いいよ。でも、そろそろ夕食じゃないかな? 話をするなら食堂でする?」
「おお、そうだね。食事しながらフェルちゃんのことを聞かせてもらおうかな。アンリちゃんは大丈夫?」
「うん、いまおかあさんが森の妖精亭を切り盛りしているから、アンリやおじいちゃんも食事は宿で取ってる。さっそく食堂へ行こう。フェル姉ちゃんのことは早く聞きたい」
フェル姉ちゃんはメーデイアの町で何をしたのかな。聞くのが楽しみ。
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