第84話 アダマンタイトの冒険者

 

 フェル姉ちゃん達が出発してから一日経ったけど、今はどの辺りかな。あとでディア姉ちゃんに聞いてみよう。でも、その前にお勉強だ。アンリはいい子だから優先順位を間違えない。


 昨日はなんだかんだあって勉強できなかったけど、今日からしっかり勉強して、アンリのいい子レベルを上げないと。


「おじいちゃん、さっそく勉強しよう。どんと来て」


「アンリがやる気になっているのは嬉しいけど、そんなに気合を入れて勉強しなくてもいいんだよ。まず、なんでハチマキに必勝って書いたんだい?」


「ディア姉ちゃんにいにしえの勉強方法がこれだって聞いた。アンリは形から入るタイプだからやってみた。でもちょっとだけ不満がある。ハチマキと頭の間にロウソクがない。二本立てれば完璧だった」


「それはオーガか何かなのかい? ディア君もアンリに変なことを教えてほしくないのだが……」


「そういう雑学を学ぶのも勉強のうちだと思う。さあ、おじいちゃん、時間がもったいない。しっかり勉強していこう」


 おじいちゃんは「ふむ」と言って、ちょっと考え込んじゃった。アンリは時間がもったいないって言ってるのに。


「今日はいつもと違った勉強をしようと思う。アンリが雑学を学ぶのも勉強のうちだと聞いて、ちょっと思いついたよ」


「そうなの? おじいちゃんがそれでいいならアンリも構わない。でも、何の雑学?」


 おじいちゃんは微笑むと「ちょっと待ってなさい」と言って家を出て行っちゃった。


 外から何かを持ってくるのかな? そもそも雑学って何を学ぶんだろう? アンリとしてはなんでもいいけど、早めに勉強を終わらせて、ディア姉ちゃんのところへ行きたい。


 ディア姉ちゃんはフェル姉ちゃんから念話番を任されているから、新しい情報があるかもしれないし、そういうのはリアルタイムで聞きたい……もしかしてディア姉ちゃんを呼びに行ったのかな? 内容は分からないけど、特別講師としてお招きするのかも。


 そんなことを考えていたら、おじいちゃんが帰ってきた。


「どうぞ、お入りください」


 そしておじいちゃんの後ろには、スザンナ姉ちゃんとユーリおじさんがいる。


「お邪魔します」


「えっと、失礼します」


 二人とも挨拶して家に入ってきた。もしかして二人ともアンリと一緒に勉強するのかな?


「さあ、アンリ、今日はユーリさんとスザンナ君に色々教わろう」


「教わるのはいいけど、何を教わるの? サバイバル技術?」


「いやいや、アダマンタイトの冒険者が二人も村にいるからね、今日はお二人にアダマンタイトのことを教わろうと思っただけだよ」


 スザンナ姉ちゃんがちょっと嬉しそうに頷いた。


「今日は私が特別講師としてアンリに色々教えてあげる。ユーリは帰っていいよ」


「そう言わないでくださいよ。オルウスさん達も帰ってしまったので、スザンナさんがいないと話し相手がいないんです」


「それは見た目がうさん臭いから誰も話しかけてこないだけ」


「ぐっ、いや、まあスザンナさんの言う通りではあるんですけどね。まあ、いいじゃないですか、邪魔したりはしませんから」


 どうやらアンリにアダマンタイトの冒険者について教えてくれるみたい。確かにちょっと興味がある。アンリの知識だとかなり強い人ってイメージしかないから色々教わろう。


「それじゃ、スザンナ先生、ユーリ先生、今日はよろしくお願いします」


 スザンナ姉ちゃんは体をソワソワさせながら嬉しそうにしている。ユーリおじさんもちょっとだけ嬉しそう。


 おじいちゃんがアンリの隣に座って、二人に頭を下げた。


「では、私もお願いします。今日はアンリと一緒に教わる側なので、色々とご教授願います」


 なんと今日はおじいちゃんも生徒だった。生徒としてはアンリのほうが先輩だから、先輩風を吹かせようかな。パンにチーズを挟んで持ってきてとか。


「それじゃ始めるね」


 そんなことをする前に勉強が始まっちゃった。先輩風を吹かせるのは後にしよう。


「えっと、冒険者ギルドのアダマンタイトは九人。みんなそれぞれ強くて一騎当千といわれてるんだ」


 そんなにいるんだ。一度くらい全員に会いたいな。


「最初はそこにいるユーリ。たしか武器庫って二つ名がついてる。ちょっとセンスがないと思う」


「気に入っているんですけどねぇ」


「武器庫? なんで武器庫? たくさん持ってるの?」


「いえいえ、それは私のユニークスキルが関係してましてね、私は一度見た武器を魔力で再現できるんですよ。例えばこんな感じです」


 ユーリおじさんはそう言うと、いきなり右手に剣が現れた。


「強い武器ほど多くの魔力を使いますが、普通の剣ならたいした魔力もなく作れるのです。もっとたくさんの武器も作れるので、武器庫って言われてるんですよ」


「すごい……でも、それなのにフェル姉ちゃんに負けたの? スザンナ姉ちゃんがそんなことを昨日言ってた」


「ぐっ、いや確かに負けましたけど、結構いいところまで追いつめたんですよ……本気じゃなかったみたいですけど」


「ふふん、フェルちゃんに勝てる奴なんているわけない」


 スザンナ姉ちゃんが嬉しそうにそんなことを言った。それに関してはアンリも同意。


「スザンナさんだってフェルさんに負けたのに悔しくないんですか?」


「最初は悔しかったけど、どうでも良くなった。フェルちゃんになら負けてもいい。ユーリとは後で決着をつける」


「だから、アダマンタイト同士が戦っちゃダメなんですよ」


 スザンナ姉ちゃんの言ってることはなんとなくわかる。フェル姉ちゃんに負けるのは当然って気持ちがある。でも、いつか追い付きたい。フェル姉ちゃんと肩を並べてみる景色はすごく楽しそう。いつかそうなる日が来るといいな。


 あれ? いつの間にアンリは打倒フェル姉ちゃんの気持ちを忘れてた?


 いけない。アンリはフェル姉ちゃんを倒して部下にする。そして一緒に人界を征服するんだ。この志を忘れちゃいけない。


「スザンナさんもアダマンタイトですから、二つ名があるのですか?」


 おじいちゃんがそう言うと、なぜかユーリおじさんがちょっと顔をしかめた。


「あ、いや、村長、スザンナさんの二つ名は――」


「別にいいよ。その二つ名のこともどうでも良くなった。私にそんな二つ名を付けた奴はフェルちゃんにぶっ飛ばされたし、今頃は鉱山で働かされているからすでにざまぁしてる」


 どういうことだか良く分からないけど、スザンナ姉ちゃんには二つ名があるのかな?


「私の二つ名は雨女っていうんだ。雨を降らせて戦うことが多いからそんなふうに言われてる。つい最近まで嫌だったけど、さっきも言った通り、今はどうでもいい。そんなことよりも別のアダマンタイトのことを知ってる限り教えるよ」


 スザンナ姉ちゃんとユーリおじさんが一緒に残りのアダマンタイトのことを教えてくれた。


 レッドラム「ウェンディ」

 掃除屋「レオ」

 アンデッド「ジェイ」

 神父「レオール」

 巨人「ゾルデ」

 狼舞「トゥーソ」

 黒髪「セラ」


 それぞれの二つ名と名前がこんな感じ。


 それぞれ活動地域が決まっているようで、ウェンディ、ゾルデ、トゥーソ、それにスザンナ姉ちゃんやユーリおじさんは主に大陸の東で活動しているとか。


 レオールはルハラ帝国、レオとジェイはトラン王国で活動しているみたい。


「このセラって人は?」


 そう聞いたら、スザンナ姉ちゃんもユーリおじさんも眉間にしわを寄せて困った顔になった。


「セラさんは良く分からないんですよ。いることは間違いないんですけど、いつごろからアダマンタイトなのか、どの辺りで活動しているのか、色々なことが不明でして。実は会ったこともないんです」


「そうなの?」


「少なくとも私がアダマンタイトになった時にはすでにいたらしいですけどね。もしかしたら結構な歳なので隠居してるかもしれません。ちなみにジェイってアダマンタイトも結構なお歳ですよ」


 歳をとっても強いってすごいことだと思う。アンリもそんなふうに歳をとりたい。それはいいとして、気になることがある。


「この中で一番強いのは誰?」


 みんなが同じ強さであるわけがない。アダマンタイトの中でも誰が一番強いのかは知っておきたい。


「それは難しい質問ですね。そういう話は良く出るのですが、アダマンタイト同士が戦うと周囲に被害を及ぼすので、直接的な戦闘行為をしてはいけないってルールがあるんです。それが破られると冒険者ギルドから除名ですね」


 スザンナ姉ちゃんは「ふふん」と鼻で笑った。


「別に除名されてもいい。いつかユーリと決着をつける」


「スザンナさん、めったなことを言うもんじゃないですよ。制限がある代わりに色々な免除もされているんですから、全体的に見ればメリットのほうが多いんですよ?」


「それはそうだけど……そうそう、そんなこともあって、冒険者ギルドからアダマンタイトの上のランクになれるっていう話があったんだ」


「アダマンタイトの上?」


「そう、ヒヒイロカネってランク。それはフェルちゃんを倒したアダマンタイトがなれるランク。だからみんなフェルちゃんを倒そうって躍起になってた。戦いを挑んだ奴は、私を含めてみんな負けちゃったけどね」


 そうなんだ。それならフェル姉ちゃんがみんなを倒したら、ヒヒイロカネのランクになっていいんじゃないかな。


 でも、いつかアンリがフェル姉ちゃんを倒すつもりだから、アンリがヒヒイロカネかも。うん、目標があるのはいいこと。アンリはヒヒイロカネのランクを目指そう。

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