第83話 ユニークスキル

 

 おじいちゃんとディア姉ちゃんがいるところへ近づくと、オルウスおじさん達と話をしているのが分かった。


 どうやら、オルウスおじさん達はリーンの町へ帰るみたい。すでにクロウっていうオリン国の貴族さんには念話で連絡済みで、これから証拠を持って帰るとか。


「すぐにでもオリン国から声明が出るでしょう。これでフェルさんの正当性は認められると思いますので、ご安心ください。ですが、本当によろしいのですか? 今回の件は村がフェル様、つまり村が魔族に依頼したという形にしてしまっても。他国から変な目で見られる可能性がありますが」


「もちろん構いません。何も間違ってはいませんし、変な目で見られるほどの村でもありませんから。フェルさんは人族と友好的な関係を結ぼうとしている。私達がそれを邪魔するわけにはいきません。我々が魔族にお願いをして、それを聞いてもらった、という形にしてください。そうすれば、魔族への風当たりも多少は減るでしょう」


「かしこまりました。では、そのように手配しておきます。それと別件ですが、この村へ来ていた兵士たちを引き上げさせていただきます。兵士たちはクロウ様がこの村へ来るための先発隊でしたが、今回の件でいつ来れるか分からなくなりましたので、一旦引き上げさせていただきます」


 ノスト兄ちゃんのことだ。いま村にはノスト兄ちゃんを入れて四人の兵士さんがいる。みんなで帰るってことなんだ。あまりお話はしてないけど、人が減るのは寂しいな。


「その話は伺っておりましたが、本当にクロウ様はいらっしゃる予定だったのですか?」


「フェル様がいるなら必ず来たでしょう。しばらくはフェル様もお戻りにならないと思いますので、次に来るとしたら、もっと先になると思いますが」


「そうですか。分かりました。そうそう、お戻りになるとのことですが、今日は村にお泊りください。今から村を出ると変な場所で野営をすることになりますので」


 もうお昼が近い。今から村を出ると、休憩場所みたいな場所へ到着できないとか聞いたことがある。カブトムシさんがいればひとっ飛びなんだろうけど、フェル姉ちゃん達と一緒にニア姉ちゃんを迎えに行っちゃったから、いま村にある移動手段は徒歩だけ。オルウスおじさん達は強そうだけど、村に一泊するほうが安全かも。


「そうですね。それではお言葉に甘えさせていただきます」


「はい、宿は自由にお使いくださって結構です。食事に関してはこちらで用意させていただきますので、我が家にいらしてください」


「いえ、そこまでは――」


「ぜひともお願いします。大したもてなしは出来ませんが、これくらいはやらせてください。フェルさんへ味方してくれる方をもてなさなかったら、私は村長を辞めさせられてしまいますので」


 おじいちゃんが笑いながらそんなことを言っている。確かにその通りかも。フェル姉ちゃんの味方に失礼なことをしたら、村長をリコールされる。


 オルウスおじさんも笑顔になって頷いた。


「そういうことでしたら断れませんね。料理ならハインとヘルメも得意ですので、よろしければ台所をお貸しください。フェルさんの懇意にされている村とは良い縁を結びたいと思っておりますので」


 オルウスおじさんが笑顔でそう言うと、メイドのハイン姉ちゃんとヘルメ姉ちゃんも笑顔で頷いた。


 ここはアンリもなにかもてなすアピールをしておかないと。


「アンリは皿洗いを頑張る。ピカピカにするから、ガンガン汚してもいいよ」


 アンリがそういうと、なぜかみんなが笑った。どこに笑う要素があったか分からないけど、みんなで笑うのはいいことだから何の問題もなし。


 そうだ。それならスザンナ姉ちゃんとかユーリおじさんも招待したほうがいいんじゃないかな? 村の守りを頑張ってくれるわけだし、のけ者は良くない。


「おじいちゃん、スザンナ姉ちゃんとかユーリおじさんにも食事を振舞うべきじゃないかな?」


「確かにその通りだね。よし、それなら今日は森の妖精亭の厨房を借りよう。食事を作れない人もいるからね、しばらくはアーシャが森の妖精亭で食事を提供するようにしようか」


「村長、食事を作れない人って言いながら私を見るってどういうことですか?」


 ディア姉ちゃんが不満の声をあげている。それはアンリでも分かった。ここはフォローしておかないと。


「ディア姉ちゃん、大丈夫。アンリも料理はできない。でも、盛り付けは得意なほうだから一緒にはしないで」


「アンリちゃん、それは私より料理ができるって言ってるのかな? その挑戦は受けて立つよ?」


 みんなが笑ってる。うん、やっぱりこの村はこうじゃないと。


 ニア姉ちゃんがさらわれてから村全体が暗い感じだったけど、ちょっとだけ明るくなってきた。これも全部フェル姉ちゃんのおかげだ。よし、アンリはさらなるいい子を目指してもっと村を明るくしよう。




 おじいちゃんが村のみんなを森の妖精亭へ呼んだ。


 宴会じゃないけれど、村の活気を取り戻すためにも、皆で食事をして英気を養おうって話になった。


 フェル姉ちゃん達に大変なことを押し付けているのにこんなことをするのはどうかという意見もあったけど、ふさぎ込んでいても仕方ない、フェル姉ちゃん達の無事を祈りながら食べようってことになった。そもそも森の妖精亭にある食料が腐っちゃうという理由もあったみたいだけど。


 ただ、お酒は飲まないことになった。畑仕事をしているベインおじさん達は、ニア姉ちゃんが帰ってくるまで禁酒をするみたい。ニア姉ちゃんが帰ってきたら、たらふく飲むって言ってる。いい心がけだと思う。


 アンリはフェル姉ちゃん達がいつも座っているテーブルに座る。スザンナ姉ちゃんとディア姉ちゃんも一緒のテーブルだ。


 スザンナ姉ちゃんは、そんな村のみんなを見てちょっとだけ嬉しそうにしている。


「この村っていいね。一つの場所に留まったことってないけど、ここなら楽しく住めそうな気がする」


「スザンナ姉ちゃんはあれなの? 根無し草ってやつ?」


「うん、そんな感じ。普段は野宿だし、宿に泊まるのもあまりしないかな。町へ行くのは冒険者ギルドの仕事をするためとか、食べ物を買うくらい」


「スザンナちゃん! 若いのにそんなんじゃ駄目だよ!」


 ディア姉ちゃんがいきなりそんなことを言ってスザンナ姉ちゃんに抱き着いた。


 スザンナ姉ちゃんはすごく瞬きをしている。かなり驚いているみたい。


「決めました。スザンナちゃんは今日からこの村の住人です。誰にも文句は言わせない!」


「もともと誰も文句は言ってないけど、アンリも同意見。スザンナ姉ちゃんはずっとこの村にいればいいと思う。村のことで分らないことがあったらアンリに聞いて」


「えっと、ありがと」


 スザンナ姉ちゃんが照れてる。耐性がないのかな。照れ耐性がマイナス?


 そんなことを考えていたら、ディア姉ちゃんはスザンナ姉ちゃんのことをジロジロみていた。


「スザンナちゃんは野宿していた割には肌ツヤがいいね? 若さがなせるワザなのかな? 私とそんなに変わらないと思うけど、いくつなの? ちなみに私は十八」


「私は十三だよ。冒険者には三年前になった」


「十三かー。それにしては大人っぽいよね。水色の長い髪はサラサラだし、肌もぴちぴち、野宿してたとは思えないよ。でも、その全身茶色の革装備ってどうして? 耳当てがある帽子をかぶってるし、首にかけてるのはゴーグルだよね? 雪国とかオリン国の王都から来たの?」


「私は空を飛べるから、こういう風を通さない服装じゃないと大変なんだ」


 スザンナ姉ちゃんがおかしなことを言った。空を飛べる?


 ディア姉ちゃんも驚いている感じだけど、何かに気づいたように「あー」と言った。


「もしかして、スザンナちゃんは魔物使い? 空を飛べる魔物を調教したの? グリフォンとかワイバーンとか?」


 そっか、カブトムシさん以外にも空を飛べる魔物はいる。スザンナ姉ちゃんはそういう魔物に乗っているのかな?


 スザンナ姉ちゃんは首を横に振った。


「私は水でドラゴンが作れるから、それに乗ってるんだ」


 スザンナ姉ちゃんの言ってることが良く分からなくて首を傾げちゃった。ディア姉ちゃんも首を傾げているから、アンリだけが分からなかったわけじゃないみたい。


「えっと、説明が難しいから見せてあげる。【造水】」


 スザンナ姉ちゃんが水を造る魔法を使った。普通ならそのままテーブルの上にバシャってなるはずだけど、なぜか水の塊が宙に浮いている。なんだろ、これ?


 その水の塊を見ていたら、グニグニと変形してドラゴンの形になった。後ろ足が大きくて前足が小さいタイプのドラゴン。そのドラゴンが羽をバサバサしながら浮いている。これは欲しい。全財産をはたいてもいい。


「これが私のユニークスキル。私は自分の魔力で作り出した水なら自由に操れるんだ」


 ユニークスキル? そういえば、ルネ姉ちゃんも人形庭園というスキルをユニークスキルって言ってたっけ? でも、それってなんだろう? 普通のスキルとは違うのかな?


「ユニークスキルってなに?」


「私も良く知らない。自分だけにしか使えないスキルってことらしいけど」


「それじゃ私が教えてあげるよ。簡単に言えば、人界、魔界、そして天界、この三つを合わせて世界っていうんだけど、その世界で一人だけが持ってるスキルだね。それをユニークスキルって言うんだよ」


「世界で一人だけなんだ?」


「そうだね。人族だけじゃなくて、魔族や獣人、エルフやドワーフ、さらには魔物も含めて一人だけしか使えないんだ。でも、そのスキルを使える人が亡くなったりすると、別の人がそのスキルを持って生まれてくる可能性があるんだって。それにスキルは遺伝しやすいって話でね、ご先祖様のユニークスキルを覚えて生まれてくる可能性が高いって話を聞いたことがあるよ」


 スザンナ姉ちゃんも知らなかったみたいで、「へー」って言ってる。


 もしかしたら、アンリもユニークスキルを持ってるのかな? でもどうやって持っているか調べるんだろう?

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