第65話 冒険者ギルド
「おじいちゃん、今日は冒険者ギルドのことを教えて」
今日の朝、思い出した。
魔物ギルドを設立するために冒険者ギルドの真似をしないといけない。冒険者ギルドのことを調べて、その情報をジョゼちゃん達に渡さないと。
こういうのはディア姉ちゃんに聞くのが一番だと思う。でも、ディア姉ちゃんの場合、情報の精度がちょっとだけ心配。ここはおじいちゃんに冒険者ギルドのことを聞こう。
「アンリ、冒険者ギルドのことを聞いてどうするんだい?」
「歴史勉強の一環。それに、もしかしたらアンリもディア姉ちゃんみたいに冒険者ギルドの受付嬢になるかもしれない。冒険者を裏で操る謎の受付嬢って最高だと思う。あと、ディア姉ちゃんのサボりっぷりが素敵」
「それは全力で止めるつもりだが、たまには趣向を変えてみるのもいいだろうね。それじゃ、今日はギルドの勉強をしようか」
「うん、お願いします」
おじいちゃんが色々説明してくれた。
冒険者ギルドは、その昔、魔族と戦うための組織だったみたい。五十年ほど前に魔族を見なくなってから、魔物討伐にシフトして、さらには討伐以外のいろいろな依頼を受けることになったとか。それが冒険者ギルドの始まり。
やってることは仕事の斡旋がメイン。それ以外にも、魔物暴走が起きたときに対処したり、町の治安維持をしたりと色々やってるとか。
……ソドゴラ村の冒険者ギルドでは全く想像できない内容なんだけど。でも、フェル姉ちゃんがドワーフの村に行ったのは、魔物暴走の対処。それにギルドの地下には牢屋があるから、これも治安維持の一環なのかな。
ソドゴラ村で仕事の斡旋はほとんどないと思う。少なくともアンリはギルドの掲示板に依頼の張り紙が出たのを見たことがない。フェル姉ちゃんが冒険者になってから、司祭様の依頼があったくらいかな? あとは森の妖精亭でのウェイトレス?
まあ、それは考えなくていいや。アンリが考えるべきは魔物ギルドのこと。まずは依頼票っていう仕組みが必要だと思う。ディア姉ちゃんに依頼票を貰おう。それを見本としてジョゼちゃんに渡す。いわゆる横流し。
次に教わったのは、ギルドの偉い人のこと。冒険者ギルドには各支部にギルドマスターっていう人がいて、ギルドの本部にはグランドマスターっていう人がいるみたい。
そういえば、ディア姉ちゃんもギルドマスターだって言ってた。つまり、ソドゴラの冒険者ギルドではディア姉ちゃんが一番偉い? ディア姉ちゃん一人しかいないから当然だと思う。だからサボりほうだいなのかな?
魔物ギルドは支部もなにも本部がないから、ソドゴラに作るしかない。アビスの中に作ってもらおうかな。みんなが住んでいるところでもあるし、アビスが本部なら便利だと思う。
「さて、次は冒険者のランクについて説明しようか」
「うん、それは大事」
みんなの不満を解消させるために必要なものがランク。これを真似ないと。
「冒険者のランクに関しては、金属の名前が使われているね。そしてランクはその金属の価値で順番が決められているんだ」
「金属の価値?」
「そう。一番下のランクはブロンズ。青銅のことだね。その次がアイアン。鉄のことだ。そして、シルバー、ゴールド、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトという順番でランクが上がっていくわけだ」
「えっと、ブロンズは一番価値がなくて、アダマンタイトは一番価値があるってこと?」
「ブロンズだって価値がないわけじゃないが、産出量から考えると価値は低いだろうね。そしてアダマンタイトの産出量は少ない上に金属として相当な硬さを誇る。価値はかなり高い」
「アダマンタイトが硬いって言うのは何となく知ってる。でも、すごく価値が高いんだ?」
そういえば、フェル姉ちゃんはミスリルの剣をお土産で持ってきてくれたけど、どれくらいの価値なんだろう? ランクから考えると価値が高そうなんだけど。
「もしかして、ミスリルってお高いもの? フェル姉ちゃんはアンリにくれたけど、お金にするとそれなりにしちゃう?」
おじいちゃんが、「え、いまさら?」って顔をした。
「アンリは知ってて無茶を言っていたのかと思っていたよ。フェルさんは何事もないようにお土産として渡すから、それにも驚いたけどね。あの剣で言えば、大金貨十枚の価値はあるだろう。フェルさんはあれをどこで手にいれたのやら」
大金貨十枚? えっと、大金貨一枚は小金貨十枚で、小金貨一枚は大銀貨十枚で……小銅貨だと何枚になるんだろう? 正確には分からないけど、いっぱいあるのは分かった。下手したら国が買えちゃう?
「もしかして……本当にもしかしてなんだけど、アンリはフェル姉ちゃんに結構な無茶を言ってた?」
「そうだね。かなりの無茶を言ったね。普通の人なら絶対に買ってこないお土産だったと思うよ」
フェル姉ちゃんはアンリのために無理してくれたんだ。これはアンリの肩たたき券を生涯フリーパスであげないとダメかも。もしくは出世払い。
でも、そっか、フェル姉ちゃんはアンリのためにかなり無理をしてミスリルの剣をお土産として持ってきてくれたんだ。
……なんだろう? アンリの胸がポカポカする感じ。あと、踊りだしたい。
「アンリ、ずいぶんと嬉しそうだね?」
「うん、なんかこう、居ても立っても居られない感じ。勉強は終わりにして素振りしていい? 今なら百本、三セットくらいいけそう。あと、紫電一閃も連発できると思う」
「やめなさい。さて、勉強の続きだよ。冒険者ギルド以外のギルドについても色々教えてあげよう。では、メイドギルドからだね。あれはメイドという名前だが、それは仮の姿で――」
おじいちゃんがその後も色々教えてくれたけど、あまり覚えてない。それどころじゃないって感じだったから。
フェル姉ちゃんに改めてお礼を言わないといけない。
早く帰って来てほしい。あまりにも遅いとアンリが爆発しそう。カブトムシさんに頼んでアンリのほうから行っちゃおうかな。
……でもそれをすると、アンリじゃない誰かが怒られるかもしれない。やっぱり待つしかないのかも。
とりあえず、勉強は終わったからディア姉ちゃんのところへ行こう。ジッとしてられないからダッシュでいこうっと。
勢いよく冒険者ギルドの建物へ入ると、ディア姉ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。
「アンリちゃん、今日も元気だね。このところ毎日来てくれてうれしいよ」
「うん。でも、目的はディア姉ちゃんじゃなくて、フェル姉ちゃんの情報。ごめんなさい」
「正直すぎるのはどうかと思うよ? ちょっとだけ傷ついたし。まあいいけど、フェルちゃんの情報だね? さっき向こうのギルドに聞いた話だと、魔物暴走はほとんど収束してるみたいだよ。明日か、明後日には帰ってくるんじゃないかな?」
「本当!?」
「たぶんだよ? 魔物の数は相当減ったみたいだし、大坑道への結界を解除するって話も出てるみたいだから魔物の討伐で稼ぐのはもう難しいんじゃないかな。そうなると、ドワーフの村にいる意味がないからね」
フェル姉ちゃんが帰ってくる。すごくうれしい。
よし、驚かせるためにも魔物ギルドを設立しておこう。
「ディア姉ちゃん、冒険者ギルドの依頼票って貰える?」
「それはいいけど、なにか依頼があるの?」
「ううん。実は魔物ギルドを設立することにしたから、依頼票のサンプルが欲しかった。魔物ギルドの依頼票を作る参考にするつもり」
ディア姉ちゃんが止まっちゃった。微動だにしてない。どうしたんだろう?
「ディア姉ちゃん?」
「えっと、もしかして魔物さん達が依頼を受けて解決するような感じなのかな?」
「うん、そんな感じ。お仕事の貢献度を決めて優劣を競いたいみたい。冒険者ギルドみたいにランク分けするつもり。金属じゃなくて、魔物の強さをランクにする提案をする予定。ゴブリンから始まってドラゴンへ至る感じ」
「面白そうだね。もしかしてこれから畑のほうへ行ったりするの?」
「うん、そのつもり……どうしてディア姉ちゃんはカウンターから出てきたの?」
良く分からないけど、ディア姉ちゃんが一緒に来ることになった。依頼票以外の紙を持ってるけど、一体どうしたんだろう?
まあいいや、まずは畑に行こう。
畑に着くとちょうどジョゼちゃん達がいた。もう夕方だから、お仕事が終わったのかな。
「こんにちは」
「アンリ様とディア様ですか。いらっしゃいませ。今日は珍しい組み合わせですね? どうかされましたか?」
「うん、アンリは魔物ギルドの件で色々と情報を仕入れたから報告にきたんだ」
「それはありがとうございます。えっと、ところで、ディア様はどうしてこちらへ? 冒険者ギルドの受付嬢としてアドバイスを頂けるのでしょうか?」
「それがアンリにもよく分かんない」
みんなでディア姉ちゃんのほうを見た。ディア姉ちゃんは不敵に笑っている。
「スライムちゃん達が何を言っているのか分からないけど、もしかして私がここにいる理由を知りたいのかな?」
そうだった。ディア姉ちゃんは魔物さんの言葉を理解できない。アンリが訳してあげないと。
「うん、ジョゼちゃんは、冒険者ギルドの受付嬢としてアドバイスをくれるのですかって聞いてる」
「ああ、そういう……まあ、そうじゃないね。それじゃここに来た理由を言うことにするよ……さあ、魂を震わせるがいい!」
ディア姉ちゃんはそう言いながら、依頼票じゃないほうの紙をジョゼちゃんに渡した。
「魔物ギルドの受付嬢として雇ってください! これ履歴書です! 第一印象で決めました! 大丈夫! 私も闇の中をうごめく様な魔物の心を持ってるから!」
ディア姉ちゃんは就職活動に来たみたい。正直、普段の仕事ぶりを見てると雇いたくない気がする。
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