第53話 結婚式
ロミット兄ちゃんとオリエ姉ちゃんの準備が整ったみたい。
おじいちゃんと一緒に教会へやってきた。二人は教会で待機中だ。アンリも中に入って待機しないと。アンリがいないと結婚式が始まらないと言ってもいい。
入口から教会に入る。中には、ロミット兄ちゃん、リエル姉ちゃん、それに司祭様がいた。オリエ姉ちゃんはいないけど、奥の扉の向こうにいるのかな? 確か新郎はここで見ちゃダメだとか聞いた気がする。
ロミット兄ちゃんがアンリ達に気づくと微笑んだ。
「村長、今日はよろしくお願いします。それにアンリちゃんもよろしく……アンリちゃんはいつもよりも可愛らしい服を着てるね?」
「うん、今日のアンリは妖精役だから服の力で魅力を振りまいてる。結果として妖精よりも可愛くなっちゃった。ロミット兄ちゃんも、普段より格好良く見える。個人的にはいつもの迷彩服も格好いいと思ってるけど」
「はは、ありがとう。それじゃ、妖精さんの役をよろしくね」
「うん、まかせて。真の妖精というのをその辺にいる妖精に教えてあげるつもり」
ロミット兄ちゃんは白い服を着て結構格好いい。いつもは狩りに効果的な身軽で迷彩模様の服だけど、アンリとしてはそっちも好き。
よく見ると司祭様も普段よりちょっとよさげな服を着てる。結婚式とかお祭りとかで司祭様が何かするときはいつもそういう服を着てるけどこれもなかなか格好いい。
リエル姉ちゃんも司祭様と同じようなちょっと煌びやかな服を着ている。でも、問題はそこじゃない。リエル姉ちゃんがものすごく優し気に微笑んでる。いつもは目が吊り上がって不敵に笑ってる感じなのに。
「アンリさん、よく来てくれました。本日の妖精役、よろしくお願いしますね」
「……誰?」
「いやですわ、アンリさん。もちろんリエルです。今日の結婚式の進行を務めることになりました。いい結婚式にしましょうね?」
「アンリは騙されない。このリエル姉ちゃんは偽物。もしかしてドッペルゲンガーの誰かが化けてる? 本物のリエル姉ちゃんは他の人が結婚するのが嫌で逃げちゃった?」
「おう、アンリ。偽物とはどういう了見だ。どこからどう見ても俺だろうが。ドッペルゲンガーだって俺の美貌は真似できねぇよ」
「よかった、本物のリエル姉ちゃんだった。もしかして、何かの状態異常だった? 混乱とか……あ、でもまだ顔がおかしい。いつもはそんなに優しそうじゃない。普段はもっとこう、獲物を狙う狩人の顔をしてる」
「顔がおかしいって喧嘩売ってんのか。いいか、これは聖女スマイルだ」
「聖女スマイル?」
「聖都で誰かと面会するときはこの顔だったんだよ。なんかしらねぇけど、ボロが出るからこの顔で黙っててくれってよく言われたよ。ちゃんと喋り方も練習したんだけど、十分くらいしか持たねぇから色々諦められた。でも安心してくれ。この聖女スマイルは長持ちするぜ? 三十分はいける」
うん、リエル姉ちゃんだ。でも、今の顔でその喋り方はものすごく違和感がある。顔と口調は合わせて欲しい。アンリの脳が混乱しちゃう。
でも、リエル姉ちゃんもいい結婚式にしようと頑張っているって気がする。普段の顔だと悪者と言われても仕方ないから、結婚式の進行時は優し気な顔でやろうとしてるんだ。
「おっと、そろそろ時間だな。俺と爺さんはステージに行くが、段取りは分かってるな? まず、ロミットが来て、その後アンリ、その後にオリエと村長だ。オリエはそっちの扉の向こうにいるから、ロミットが教会を出たら、アンリが知らせて扉を開けるんだぞ? 一応ディアもオリエと一緒にいるが、これはアンリの仕事だからな?」
「うん、前にもやったことがあるから大丈夫。ところで、アンリが撒く花びらはどこ?」
「それはそこの椅子にある籠のなかだ。結構入ってるけど、ステージまで花びらが持つように最初でたくさん撒くなよ?」
「アンリはそんなミスをしないから安心して。ステージまでの距離から撒く回数、量を瞬時に計算して見せる」
「おう、任せたぞ。それじゃ行ってくるぜ!」
リエル姉ちゃんと司祭様が教会の扉を開けて外へ出て行った。
しばらく待つと、リエル姉ちゃんの声で「新郎新婦の入場」って聞こえた。そうすると、自動で教会の扉が開く。外から誰かが開けてくれたみたい。
ロミット兄ちゃんは大きく深呼吸してから、アンリに頷く。アンリも頷き返したら、ロミット兄ちゃんは外へ歩いて行った。
ここからはアンリの仕事。さっそくオリエ姉ちゃんがいる扉にノック。
「オリエ姉ちゃん、そろそろ出番だよ。開けるね」
扉は両開きで内側に聞くタイプ。アンリが両手で扉を開くと、そこには白いドレスのオリエ姉ちゃんとディア姉ちゃんがいた。オリエ姉ちゃんは白い花の束、いわゆるブーケを持ってる。あれが結婚式の最後には凄惨なサバイバルを引き起こすけど、今はただの綺麗な花束。
でも、その花束よりも、オリエ姉ちゃんのほうが綺麗。こう、溜息が出ちゃう。
「オリエ姉ちゃん、すごく綺麗」
「ありがとう、アンリちゃん。今日はよろしくね」
「うん、歴史に残る妖精役をやるつもり。それじゃアンリの後について来て」
椅子においてある籠を手に持って、教会の入口に立つ。ここからが結婚式のメインイベント。妖精が花嫁を連れて行くシーン。
ステージに向かって歩き出す。そして籠の中の花びらをばら撒いた。カラフルな花びらがヒラヒラと舞い落ちる。この花びらが花嫁を花婿まで連れて行く道しるべになる。
そして歓声が上がった。でも、これはアンリへの歓声じゃない。多分、教会からオリエ姉ちゃんが出てきた。その綺麗な姿に歓声が上がったはず。
そういえば、おじいちゃんがオリエ姉ちゃんのエスコートをしてる。本当はオリエ姉ちゃんのお父さんがやるんだけど、オリエ姉ちゃんもロミット兄ちゃんも親は亡くなったって聞いた。だからおじいちゃんにエスコート役を頼んだとか。
おっと、いけない。余計なことを考えていたら失敗するかも。ここは花びらを撒くことに集中しないと。
花びらを撒きながらステージの階段を上がり、ロミット兄ちゃんのところまで花びらを撒く。うん、籠の中にある花びらは全部なくなった。計算通り。
後は気配を消してステージを下りる。今日の主役であるオリエ姉ちゃんより目立っちゃいけない。アンリの魅力を振りまくのもここまで。あとはステージの下で結婚式を見よう。
ステージ下のすぐ横にディア姉ちゃんがいた。ディア姉ちゃんもアンリと同じで裏方みたいなもの。一緒に見よう。
ディア姉ちゃんに近づくと、アンリに笑いかけてきた。
「アンリちゃん、お疲れ様。妖精役、見事だったよ」
「アンリの手にかかればお茶の子さいさい。そのうちアンリは結婚式で引っ張りだこになると思う。そうだ、オリエ姉ちゃんのドレス、すごく素敵だった。あれはディア姉ちゃんが作ったの?」
「まさか。あれはオリエさんのお母さんのものだよ。私はそれのサイズ直しをしただけ。でも最初はちょっとブカブカだったから丁度良くなったのは私の腕のおかげかな!」
「そうなんだ。今はオリエ姉ちゃん専用のドレスって言うくらいサイズが合ってるように見える」
「でしょ?」
ディア姉ちゃんがどや顔をしている。アビスの名前を付けたことといい、ディア姉ちゃんはセンスがある。アンリの帽子とマントを作ってもらっているけど、もっと大きくなったらオシャレな服を作ってもらおう。
その後、結婚式は何の問題もなく終わった。
問題があったとするなら、呼び出した精霊さんが光の精霊でちょっとまぶしかったくらい。でも、光の精霊はレア精霊。オリエ姉ちゃんはなかなかの運だと思う。もしかしたらリエル姉ちゃんの運なのかもしれないけど。
光の精霊さんが色々な誓約というか契約を述べて、それをロミット兄ちゃんとオリエ姉ちゃんは誓った。そして精霊さんから誓約の証として指輪を貰う。その後、二人はキスをして終わり。
みんなで拍手したんだけど、「おめでとう!」とか「幸せにな!」以外に「爆発しろ!」って聞こえた。あれはどういう祝福なのかな?
リエル姉ちゃんが、この後は宴会だって言ってみんなが色々用意を始めた。アンリには手伝えることがないから邪魔しないようにしないと。
邪魔にならないように広場の端っこへ移動しようとしたら、ディア姉ちゃんに止められた。
「アンリちゃん、どこへ行くの? そろそろ本番だよ?」
「本番? 結婚式のメインイベントは終わったと思うけど?」
「やだな。これから出し物をするんじゃない。言い忘れてたけど、一番にやるからね。最初にインパクトのあるダンスを見せて、みんなの度肝を抜くよ!」
「うっかりしてた。あんなに練習してたのに、そのことを忘れるなんて。一番なら早く準備しないと」
「うん、冒険者ギルドで準備しよう。お揃いの服を用意したからそれに着替えるよ。いま着てる服は冒険者ギルドで大事に預かるから安心して」
「そうなんだ。それじゃ急ごう。すぐに出し物が始まっちゃう」
アンリの仕事は終わってなかった。むしろこっちが本番といってもいい。今度は妖精じゃなく、バックダンサーとして頑張らないと。うん、さらにテンションが上がってきた。絶対に成功させるぞ。
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