第25話 魔法の歴史
午後、アンリは部屋で一人お勉強だったんだけど、おかあさんが来てくれた。
おかあさんもエルフの人達とのお話には参加しないみたい。
「それじゃ今日はお母さんが魔法の術式の事をおしえてあげる。おじいちゃんとエルフさん達の話がながくなりそうだから、代わりに、ね」
「エルフさん達の方はいいの?」
「おじいちゃんが対応しているから大丈夫よ。それにフェルさんやヴァイアちゃんもいるからね」
そうなんだ。それじゃ今日は魔法の勉強に切り替えよう。将来魔法剣士になるのも悪くない。
「なら、おかあさんに教わる。でも、アンリはまだ魔法を使っちゃダメなんだよね?」
やり方は教えてもらっているけど、使っちゃダメって言われてる。絶対にダメって言われてるから、これだけはどんな理由があってもやらない。魔道具を使った魔法ならちょっとだけやってもいいって言われてるけど。
「そうよ。魔力切れを起こすと危ないから子供には魔法を使わせないほうがいいって言われてるの……でも今日くらいは造水の魔法を使ってみましょうか?」
造水。水を作る魔法だ。頑張れば、将来リンゴジュースも作れるかな?
「うん、アンリは造水魔法を極める。そしていつか美味しい水を作って見せる。まずは砂糖味から。将来的にはリンゴジュースまで作る予定」
「……それができたら歴史に名前を残せるわね……そうそう、リンゴジュースで思い出したんだけど、エルフさんと交易できるように交渉するっておじいちゃんが言ってたわ。もしかしたら、村でリンゴジュースが飲めるようになるかもしれないわね」
「それは素敵。リンゴジュースはのど越しが最高。五臓六腑に染み渡る」
「……アンリはリンゴジュースを飲んだ事があるの?」
「うん。エルフの森へ行った時、ご馳走になった。あれは至高の一品」
「お母さん、飲んだことないんだけど……?」
おかあさんがちょっと拗ねてる。ここはフォローしておかないと。
「それじゃ、今度エルフの森へフェル姉ちゃんを助けに行くときは誘う。あ、でも、自己責任でお願いします。アンリは責任取れないから」
「フェルさんはもうエルフに捕まらないと思うけど……そうなったらお願いするわね。さて、それじゃ勉強を始めましょうか。今日は歴史の勉強をしているようだから、魔法の歴史を勉強して、その後、実践に移りましょ」
「うん。それじゃお願いします」
「はい。それじゃまずおさらいだけど、今は第何世代でしょうか?」
今が第何世代か? おじいちゃんから教わった話では、今は第四世代。詳しくは知らないけど、人族は三回滅んだとか聞いたことがある。ただ、人族以外の種族は第四世代から生まれたとかも言ってたかな?
魔族もエルフもドワーフも第四世代から誕生した説があるとか聞いた気がしたけど……いけない。まずは答えないと。
「第四世代」
「正解よ。そして魔法が生まれたのは第二世代。偉い学者さんが遺跡を調べて分かったらしいわよ」
「そうなんだ? 第二世代って兵器の遺跡がある世代?」
「偉いわ。アンリはちゃんと勉強して知識を得ているのね。そう、人族同士で戦争に明け暮れていた時代。そこで魔法が生まれたの。生まれたと言うよりは授けられたとも言われているけど」
授けられた? 人族に魔法を渡した人がいるって事かな?
「誰に授けて貰ったの?」
「もちろん神様よ。学者さんは神様が魔法という概念を授けてくれたって言ってるわね」
人界、魔界、天界を合わせて世界っていうけど、その世界にいるという七人の神様のことかな?
「七人の神様のこと?」
「神様を数える時はね、柱ってかぞえるのよ。七人じゃなくて、七柱。字で書くとこうね」
ななはしら? 人じゃなくて柱。変な単位。
「なんでそんな風に数えるの? 神様は長細い感じ?」
「さあ、お母さんも良く知らないの。聞いた話だと、神様には人のような体がなくて、なにか柱っぽいものだかららしいわ。ちょっと面白いわね」
「そうなんだ。倒れたら自分で起き上がれないのかな? アンリにも勝てる?」
ドラゴンスレイヤーよりもゴッドスレイヤーの方が強そう。
「勝てるかもしれないわね。まあ、それはいいわ。神様の話は後でおじいちゃんに聞いてね。今は魔法の事よ」
「うん。それじゃ続きをお願いします」
「第二世代で魔法を手に入れた人族は残念だけど戦争に使っちゃったのね。地形が変わるほどの魔法を使えたと言われているわ」
「すごい。アンリも使いたい。フェル姉ちゃんに勝てるかも」
「駄目よ、アンリ。地形を変えるほどの魔法を人に使ったら危ないでしょ。まあ、フェルさんなら耐えられそうだけど。それ以前に、その頃の魔法は私達には使えないわ」
「そうなの?」
「ええ、魔法という概念は、第二世代でも、第四世代でも変わらないんだけど、使い方が異なるのよ」
今の魔法の使い方は、術式を頭の中に想像して、それをイメージしながら魔力を乗せる、って教えてもらった気がする。魔力の乗せ方は色々あって、言葉に魔力を乗せたり、体内の魔素に直接魔力を乗せたりするって方法があるとかおじいちゃんが言ってた。
「えっと、魔力を乗せるって使い方じゃないって事?」
「おじいちゃんから習ってるのね? その通りよ、今は術式の構築、そのイメージに魔力を乗せる感じね。でも第二世代では、術式を構築して、詠唱して、魔法名を言うって方法だったらしいわ」
「術式の構築と、魔法名を言うって方法は今もそうだから分かるけど、詠唱って何?」
「魔法ごとに決められた詠唱というものがあって、それを唱えないと魔法が発動しなかったのよ。例えば、発火の魔法は『火よ灯れ』っていう詠唱が必要だったとか聞いたことがあるわ。当時は詠唱ではなくてパスワードって言われていたみたいだけど」
「ぱすわーど?」
「ごめんなさい、実は私も良くは知らないの。詠唱はパスワード、術式はプログラム、魔法名はアクセスコードって名前だったって話でね。まあ、それは気にしなくていいわ。学者さんしか使わない言葉よ」
おかあさんがそう言うなら忘れよう。
でも、第二世代は魔法を使うのに面倒な事をしていたんだ。だいたい、そんなことしてたら戦いで使えないと思う。斬った方が早い。
「ものすごく面倒な上に役に立たないような気がする」
「そうね。でも、当時は魔力が少なくても詠唱さえできれば、ほとんどの魔法が使えたらしいわ。今もある、暗黒球体の魔法。ヴァイアちゃんくらいの魔力が無ければ使えないけど、『我が敵は汝が敵、闇よ、過去から未来に至るまで、すべてを食らい尽くせ』って詠唱すれば誰でも使えたって文献があったそうよ?」
「詠唱は最高だと思った。役に立つ、立たない以前に恰好いい。ディア姉ちゃんなら分かってくれる」
それに食らい尽くせはフェル姉ちゃんに命令しているっぽくていい感じ。
「そ、そうね、私も若い頃にそれを聞いた時は、ちょっと詠唱したくなったわ。でも、残念ながら今の世代では詠唱で魔法が発動することはないの」
「そうなの?」
「ええ、偉い学者さんが言うには、世代が変わった時に、魔素の構成も変わってそういう風には使えなくなったって言ってたわ」
「魔素って目には見えないけど、どこにでもある魔素のことだよね? 構成が変わるってどういうこと?」
「魔素は魔法が発動する上で必要な物なのは知ってるわよね? その魔素だけど、世代ごとに違うんじゃないかって話があるのよ。第二世代の魔素と、第四世代の魔素が違うから詠唱では魔法が発動しないってことね」
残念。詠唱したかった。意味は無くても魔法を使う時は詠唱するべきかな?
そんなことを考えていたら、おかあさんがこめかみに右の人差し指を当てたみたい。
「あ、アンリ、ちょっと待って。おじいちゃんから念話が来たわ……どうやらエルフの人達が広場で食べ物を無料配布するみたい。勉強はこの辺にして広場にいきましょうか」
「早く行かないと。多分、争奪戦が起きる。ルール無用のデスマッチ」
「そうね! リンゴジュースがあったら飲ませてもらいましょう!」
「おかあさん、残念な知らせがある。たとえ肉親でもリンゴジュースを譲る気はない。アンリは今日、オーガになる。それでも飲めなかったら、アンリスタンピードの封印を解除するつもり」
お勉強はいったん中止。実践できなかったのは残念だけど、また、あとで教えて貰えばいい。
今はそんな事よりもリンゴジュースだ!
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