第26話 魔法の勉強とアピール
昨日食べたエルフさん達の食べ物は美味しかった。エルフの森で夜中に食べたものも美味しかったけど、今回食べたのもかなり美味しい。
リンゴジュースだけじゃなくて、ジャムとかも最高。おかあさんがお砂糖とジャムを交換していたみたいだから、食事の時の楽しみが増えたかも。
「さて、アンリ。昨日はお母さんと魔法の勉強をしたんだって? なら今日は実戦形式でやってみようか」
午前の勉強は魔法の勉強みたい。
結局あの後は勉強がお流れになった。アンリとしては勉強の時間が減って嬉しかったけど、魔法の実践ができなかったのはちょっとモヤモヤしてた。今日はおじいちゃん公認で魔法の実践をやれる。
「うん、バリバリ魔法を使う。将来は魔法剣士になるのも悪くない。もしくはリンゴジュース剣士」
「……それはどんな剣士なんだい?」
「リンゴジュースを作れる剣士。結構レアな感じの剣士だと思う」
戦いながらリンゴジュースを飲めるとか最高だと思う。
「ああ、造水の魔法でリンゴジュースを作るって言ってたことか……まあ、うん。出来るかもしれないから頑張りなさい。でも、物事は全て基本からだ。まずは普通の水をつくる生活魔法の造水から頑張ろうか」
「うん。基本は大事。最初はただの水を作る魔法から行く」
おじいちゃんは頷くと、台所からコップを持って来た。後、雑巾とバケツも。コップはテーブルの上に置いたけど、あの雑巾とバケツは床に置いたまま。何に使うのかな? コップは多分、あの中に水を入れるんだと思うんだけど。
「さあ、アンリ。造水の術式は覚えているね? このコップを造水の水で満たしてごらん」
「まかせて。美味しい水でコップを満たして見せる。【造水】」
コップの上に水の球体ができて、ドバドバとコップに流れてる。一瞬でコップの中を満たして、さらに溢れた。テーブルと床が水でびちゃびちゃだ。表面張力も真っ青な感じ。
ちょっと頑張り過ぎた。部屋の中が水浸しで大変な事になっている。そっか。ここで雑巾の出番なんだ。アンリが出した水だから仕方ない。ちゃんと掃除しよう。
ちょっと失敗したけど、おじいちゃんはなぜか笑顔で頷いている。もしかしてアンリの失敗を見越してた? それともアンリがいっぱい水を出したのが嬉しい?
「アンリはその年齢にしては魔力量が多い。魔法を使う前に魔力操作の鍛錬が必要かもしれないね」
「そうなの?」
「コップ一杯の水を作るのに必要な魔力というのはとても少ないんだ。こんなに水が作られたのは、必要以上に魔力を込めたからだろう。本当にわずかな魔力だけを込める、ということができないと危ないからね。これは水だからそれほど害はないけど、発火とかの魔法だったら危ないだろう?」
発火だったら巨大な炎が出るってことなのかな? 確かにそれは危ないかも。
アンリは普通に魔力を込めただけ――ちょっと頑張ったことは否定しないけど、あれは必要以上だったんだ。あれよりも少ない魔力を込めるってなかなか難しいかも。
ようやく雑巾がけが終わった。バケツの半分くらいまで水で満たされちゃった。
「それじゃ。引き続き造水の魔法で魔力操作を頑張ろうか」
「おじいちゃん、それならお外でやるべきだと思う。また水がたくさんでたら水浸しになっちゃう。雑巾がけが大変」
「だからこそだよ」
「だからこそ?」
「なにか罰みたいなものがないと真剣にやらないだろう? 失敗したら床の雑巾がけが待っていると思えば、真剣に取り組むからね。いいかげんに何回もやるよりも、一回一回を真剣にやる方が覚えはいい。時間をかけていいから、やる度によく考えて、意識しながら魔法を使いなさい」
単純に何回もやるだけじゃダメなんだ? なら一回一回、ちゃんと考えて魔法を使おう。よーし、頑張るぞ。
アンリは造水の魔法よりも雑巾がけの方が上手くなった気がする。家の中がピカピカな感じ。おかあさんがお掃除してなかった疑惑があるほど。
「ごちそうさまでした」
今日のお昼はパンとブドウのジャム。あと、カリカリベーコン。
「おかあさん、言わなくていいかもしれないけど、あえて言う。最高の昼食だった」
「あら、ありがとう。でも、ほとんど調理してないんだけど……」
ジャムのおかげかもしれないけど、カリカリベーコンの付け合わせが最高だった。甘さとしょっぱさを交互に楽しめる。今後もこの調子で食事をしたい。
よし、午後も魔法の実践だ。でも、ちょっとくらい剣の素振りをしておかないと。
「おじいちゃん、午後のお勉強が始まるまで剣の素振りをしてくる」
「ああ、構わないよ」
急いで部屋に戻って、魔剣七難八苦をベッドの下から取り出す。広場で素振りしよう。
ドアを開けて外に出たら、エルフさん達が帰る準備をしてた。もう帰っちゃうんだ。
「おじいちゃん、エルフさん達が帰るみたいだよ?」
家に戻ってからおじいちゃんに報告。報連相は大事。
「おっと、もうそんな時間か。ちょっと挨拶してこよう」
アンリも挨拶しておこう。リンゴジュースとジャムが最高だったことを伝えておかないと。
おじいちゃんと一緒にエルフさん達に近づく。よく見たらフェル姉ちゃん達もいた。
でも、気になることがある。ミトル兄ちゃんはなんで鼻にトマトソースを付けてるのかな? それにちょっとボロボロな感じ。誰かと戦った? もしかしたらこれがエルフ流のオシャレ? ちょっとどうかと思う。
「村長。それではありがとうございました。引き続き良い関係を結べるように努力させて頂きます」
「そうですな。こちらも頑張らせて頂きますぞ。それから、そちらの長老にもよろしくお伝えください」
「わかりました。では、また一か月後に!」
エルフさん達はカブトムシさんが引っ張る荷台に乗って村を出て行っちゃった。一ヶ月後なんて言わずに頻繁に来てほしいな。
エルフさん達のお見送りが終わったら、おじいちゃんとフェル姉ちゃんが話し始めた。エルフさん達と交流が出来たのはフェル姉ちゃんのおかげだとか言ってるみたい。アンリもそう思う。フェル姉ちゃんはすごい。
「冒険者の仕事で明日からリーンの町へ行くことになった。しばらく留守にするつもりだ」
フェル姉ちゃんが聞き捨てならないことを言ってる。
明日からリーンの町へ行く? リーンの町と言ったら、この森を東に抜けて最初にある町。一緒に行かないと。フェル姉ちゃんの事だから絶対なにかやらかすと思う。波乱万丈的な何かが。
でも、アンリはエルフの森へ行って無責任な事をやらかしてる。今は執行猶予中みたいなもの。アンリが勝手についていくのはダメかもしれない。
よく聞いたらヴァイア姉ちゃんも行くみたいだし、メインは人探しみたいだ。アンリみたいな子供は情報収集に適していると思う。アンリが行きたいって言うんじゃなくて、フェル姉ちゃんからアンリに付いてきてくれって言ってくれれば問題は解決。
ここは素振りでアピールだ。フェル姉ちゃん、アンリもリーンの町へ一緒に来てくれって言って。
「大丈夫だと思いますが、気を付けて行ってきてくだされ」
「ヴァイアも居るし無茶なことはしない。安全第一で行くから安心してくれ……アンリ、木剣で素振りして見せても、連れて行かないからな」
完全な拒否。素振りよりも造水魔法のアピールの方が良かったのかも。
ううん、まだ。まだチャンスはあるはず。諦めるのは早い。絶対にフェル姉ちゃんについていこう。
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