第24話 いい子

 

 昨日の戦いはアンリが勝利した。


 フェル姉ちゃんという援軍のおかげでいつもよりは食べられた感じ。


 それに昨日はフェル姉ちゃんに魔界の事をちょっと教えてもらった。魔界で作れる食べ物にはあんまり味がないみたい。ピーマンみたいな苦い味でも、はっきりした味があるほうが羨ましいとか。


 苦いのに羨ましいというのはよく分からないけど、多分、食べ物を粗末にしちゃいけないって話だと思う。そう思うとピーマンも食べてあげるのがスジだと思う。


 でも、もうちょっと気合を入れて成長すれば甘くなると思う。畑に行って、ピーマンに頑張れって応援してあげた方がいいかも……ジョゼフィーヌちゃんの豊穣の舞をつかって貰おうかな?


 でも、その前におとうさんのお見送りをしないと。


 おじいちゃんがおとうさんに色々と渡している。多分、ルハラへ行くためのお金とか食糧とかだと思う。


「軽く話を聞いてくるだけで構わない。深入りはするな。必要なら影達を使え」


「分かりました」


 怪しげな会話をしている気がする。でも、何の話なのか分からない。大人になれば分かるかな?


 そうだ、そんな事よりも、おとうさんには大事な事を言わないと。


「おとうさん、お土産をお願いします。出来れば攻撃力の高そうな武器をお願い。ミスリルとかオリハルコン製。アダマンタイトでも可」


 牛さん、じゃなくてミノタウロスさんとかオークさんが持っていた武器は格好いい。アンリには重たそうだけど。


 おとうさんは笑って頭をなでてくれた。


「なにかお土産を買って来るよ。武器は難しいかもしれないけどね」


「うん。お土産のためなら、アンリはいい子でお留守番してる。お手伝いの種類を増やす。今回は食器洗いも視野に入れるつもり」


 あれは難度の高いお手伝い。高難度ミッションと言ってもいい。でも、今のアンリなら行けるはず。


 そんな熱意をアピールしていたら、おとうさんの準備が整ったみたい。皆でおとうさんのお見送りだ。


「それじゃ、行ってきます」


「おとうさん、いってらっしゃい」


「気を付けてな」


「アナタ、気を付けて」


 おとうさんが頷くと、おじいちゃんもおかあさんも頷いた。そしておとうさんは扉を開けて家の外へ出ていく。アンリ達も一緒に家の外へ出てから、おとうさんが村の入り口から出るのを見送った。おとうさんが手を振ったので、アンリもそれを返す。


 うん、お見送り完了。


「今回はどれくらいの期間なの?」


 おとうさんはたまにこうやって家を空ける。どんなお仕事をしているのか知らないけど、結構大変なんだと思う。長い時は二週間くらいの時もあった。おじいちゃん達はいるけど、おとうさんがいないのが長すぎると寂しい。


 おじいちゃんが笑顔でアンリの頭をなでてくれた。


「そんなには掛からないよ。四日くらいかな」


「そうなんだ。それじゃ、おとうさんが帰ってくるまでいい子にしてる。早速勉強をしよう。今日もバリバリ勉強して早めに終わらせるつもり」


「ふふ、おとうさんが帰って来てからもいい子にしてていいのよ?」


「それはおかあさん達しだい。アンリもタダではいい子にしない。いい子にして欲しいならそれなりのメリットを見せて」


 これが交渉術。ヤト姉ちゃんとの交渉で交渉スキルを身に着けたと思う。多分だけど。


 おじいちゃんもおかあさんもちょっと呆れている感じがする。しまった。足元を見過ぎた? 交渉決裂?


「アンリはそう言うのをどこで覚えて来るの? 頼もしいと言うか、空恐ろしいというか……お母さん、ちょっとアンリの将来が心配よ?」


「どう考えてもおじいちゃんの影響だと思う。八割はかたい」


 残り二割はアンリが持って生まれた才能だと思う。


 おかあさんがおじいちゃんの方を半眼で見てる。おじいちゃんはいきなり咳をし始めた。


「さ、さて、そろそろ今日の勉強を始めようか。アンリもやる気になっているみたいだからね」


 勉強は嫌だけど、やるからには本気でやらないと。アンリは気づいた。その方が早く終わるって昨日証明された。それに打倒フェル姉ちゃんという目標がある。頑張ろう。




 午前の勉強が終わってお昼を食べる。それも食べ終わって寛いでいたら、村の広場が騒がしくなってきた。


 これは事件の香り。窓から外を見てみる。


 あれはエルフさんだ。あのチャラそうなエルフは見たことがある。ジョゼフィーヌちゃんにふっ飛ばされたり、フェル姉ちゃんに一撃で倒されたり、耐久力の高いエルフだ。たしか、ミトル兄ちゃん、だったかな?


「あれは……エルフか?」


 おじいちゃんがアンリの頭の上から窓を見てそんなことを呟いた。アンリが教えてあげよう。


「うん、あのエルフさんは見たことある。リンゴを届けてくれるって言ってた」


 カブトムシさんが荷台を運んでいる。ピン来た。あれには美味しいものが乗っているに違いない。フェル姉ちゃんに持って来たものだろうけど、アンリも食べたい。


「フェルさんが宿から出て来たようだ。私も行って来よう……アーシャ、エルフの方達をここへ呼ぶと思うから、もてなしの用意をしておいてくれ」


 おかあさんはうなずくと台所の方へ行っちゃった。そしておじいちゃんは家を出て行った。


 ここでエルフさん達と話をするんだ……ならアンリもいないと!


 アンリ専用の椅子を用意してテーブルにセット。そして座る。入り口の正面に位置する場所だから、ここは議長席といっていい。


 少し待つと、おじいちゃんがエルフさん達とフェル姉ちゃん、それにヴァイア姉ちゃんを連れてきた。


 皆がアンリを見てる。これで今日の議長が誰だか分かってくれたと思う。


 でも、おじいちゃんがパンパンと二回手を叩いた。いけない、あれは大人の会話に混ざっちゃいけない時の合図。おかあさんが召喚される。


 案の定、台所からおかあさんがやってきた。おかあさんは何も言わずにアンリを抱きかかえる。


「おかあさん、待って。今の合図はおじいちゃんの間違いだと思う。ちゃんとおじいちゃんに聞いてみて。冤罪、冤罪だから」


 ダメだ、抜け出せない。おかあさんは本気だ。アンリはなんて無力なんだろう。おかあさんの拘束を振りほどけるくらいの力が欲しい。


 そしてアンリの部屋に連れてこられちゃった。


「おじいちゃん達は大事なお話があるから邪魔しちゃダメよ?」


「おかあさん、逆に考えて。アンリがあの場所にいない方が逆に邪魔になるかも。アンリが部屋で暴れてうるさくするかもしれない。宣言する、アンリはフルパワーで暴れる。アンリスタンピードという技を編み出したから」


 おかあさんは少しだけ笑うとアンリの頭をなでてくれた。今日は撫でられデーなのかな? アンリとしてはウェルカムだけど。


「アンリはいい子だからそんなことしないわよね?」


 そうだった。おとうさんが帰ってくるまで、アンリはいい子にしていないといけない。お土産を貰うためにそういう契約をした。ならそれに従わないと。


「うん、暴れたりはしない。お話は聞きたいけど我慢して部屋で勉強してる。アンリスタンピードも封印」


「いい子ね。それじゃ、おじいちゃん達の話が終わったらまた来るからね」


 そう言ってお母さんはアンリの部屋を出て行った。


 ……部屋には鍵を掛けなかったみたい。これはアンリを信頼しているって意味だと思う。それにはちゃんと応えないと。


 面白そうだけど今回は仕方ないかな。そうだ、あとでフェル姉ちゃんにどんな話だったか聞いてみよう。


 そうと決まれば、おじいちゃん達のお話が終わるまで大人しく勉強しよっと。

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