第23話 第二回魔物会議
ジョゼフィーヌちゃんに連れられて畑に来た。
周囲を見渡すと結構な数になっている。
ジョゼフィーヌちゃん、エリザベートちゃん、シャルロットちゃんのスライムちゃん達が三体。アルラウネちゃん、マンドラゴラちゃん、ヒマワリちゃんの代表者が一体ずつ。それにエルフの森からきたカブトムシさんが一体。
そして今日来た、牛さん、豚さん、ニワトリさんがそれぞれ二体ずつ。
全部で十三体もの魔物達がいることになる。畑に皆が座っていると結構壮観。
ジョゼフィーヌちゃんの話ではこれから村での注意事項を話すみたい。アンリには開会の宣言をしてほしいって言われた。
そういうのは大事。はりきって宣言しよう。
「第二回魔物会議を開催する」
右手を上げてそう宣言した。ジョゼフィーヌちゃん達から拍手が起きる。遅れて牛さん達からも拍手が起きた。うん、いい感じ。
会議は自己紹介から始まった。カブトムシさんも昨日来たばかりだから丁度よかったのかも。
まずはアンリから紹介。
「私の名はアンリ。この村のナンバースリーだけど、いつか人界を征服するつもり。よろしくおねがいします」
ジョゼフィーヌちゃん達や植物チームは拍手してくれたけど、新しく来た皆はボケっとしてる。でも、遅れて拍手してくれた。ちゃんとアンリの事を理解してくれたんだと思う。
そして次々に自己紹介をしていくとカブトムシさんの番になった。
「カブカブ」
……よく分からないけど、力仕事は任せて欲しいって言った気がする。あと、運送業を始める、とか。アンリも遠くまで運んでもらえるのかな?
次は牛さん。ミノタウロスという種族だってお母さんが言ってた。
それと二人は将来を誓い合った相手だって言ってる。
魔界でミノタウロス同士のトーナメントがあって決勝戦の相手だったとか。女性のミノタウロスが勝って、男性のミノタウロスがその場でつがいになろうと言ったみたい。これはロマンス。アンリの恋バナネタが増えた。あとでヴァイア姉ちゃんに教えてあげよう。
その次は豚さん。オークと言う種族だってお母さんが言ってた。
これまた二人とも将来を誓い合った相手。でも、こっちは幼馴染だとか。
こっちもオーク同士のトーナメントで最後まで残った。女性のオークが私に勝ったらつがいになってあげるって約束したけど、男性のオークは最後に負けちゃったとか。でも、結局はつがいになったって照れくさそうに言ってる。これもロマンスだ。
最後はニワトリさん。コカトリスと言う種族だって言ってたかな?
コカトリスさん達は別につがいじゃないみたい。将来的には分からないけど、今は違うって言ってる。ニワトリの頭同士は問題ないんだけど、蛇の頭同士が相性悪いみたい。本人同士は良くても、親同士の相性が悪いっていうアレに似てる。いつかちゃんと和解してほしい。
そんなこんなでつつがなく自己紹介は終わる。
そしてジョゼフィーヌちゃんが皆に説明が始まった。ジョゼフィーヌちゃんはメガネを取り出して装備する。普段メガネをしてないから、この説明の時だけだと思うけど、ものすごく知的に見える。これは効果的。アンリもメガネを装備しようかな。知力アップ効果があるかも。
ジョゼフィーヌちゃんは言葉だけじゃなく、木製の看板を使って、絵でも説明してる。
まず、第一にアンリがボスだって説明された。カブトムシさんや牛さん達が首を傾げているけど、色々説明したら納得してくれたみたい。
あと、村では働くことって説明していた。働かざる者、食うべからずの精神。アンリは働いていないけど、たまにゴッドハンドで皆の肩もみをしているからセーフ。
それと村の人を故意に傷つけたら、スライムちゃん達から鉄拳制裁されるみたい。そしてそのまま魔界へ強制送還。弁明の機会もないみたい。フェル姉ちゃんの部下なんだからそんなことしないと思うけど、暗黙の了解じゃなくてきちんと言葉にしておくのは確かにいいかも。
でも、絵でスライムちゃんのパンチが相手の胴体を貫いているけど、それは大丈夫なのかな? 死んじゃわない?
絵について悩んでいたら、アンリに一言欲しいって言われた。最後の締めをやるということなら、やらざるを得ない。
立ち上がって、右拳を突き上げた。
「私達は姿形が異なるけど、村に住むなら運命を共にする同胞で家族。皆を歓迎する」
周りから拍手が起きた。うん。みんな分かってくれたみたい。良かった。
そして解散。うん、いい会議だった。
そろそろ遅い時間だし、アンリは帰ろうかな。ピーマン対策はしてないけど、仕方ない。今日は正面突破。
あれ? いつの間にか、フェル姉ちゃんが来てる。ちょっと遠い目をしてるけどどうしたんだろう?
でも、すぐに畑を耕している人達の方へ行ってなにか話を始めちゃった。遅い時間だけど、一勝負くらいはできそうだったのに。
話が終わったら、フェル姉ちゃんがこっちに近づいてきた。
「アンリ、遅くなってきたから帰るぞ。村長に用があるから私も一緒に行く」
そうなんだ。遊べないけど一緒に帰れるのは素敵。
「うん、一緒に帰る。そろそろ夕飯。今日はピーマンと勝負の日。必ず勝利してみせる」
フェル姉ちゃんは呆れた顔をしている。大人は皆そう。ピーマンはアンリにとって不倶戴天の敵なのに。
それはいいとして閃いた。フェル姉ちゃんの背中はいい感じ。おんぶマイスターのアンリとしては試しておかないと。
「おい? アンリ、なんで背中に――」
「あとちょっとだから待って」
フェル姉ちゃんの背中に登った。
うん。ジョセフィーヌちゃんの背中も良かったけど、フェル姉ちゃんの背中もいい感じ。力をいれてぶら下がっていないといけないからそこはマイナスポイントだけど。
「アンリ、首を絞めるな。そこは頸動脈だ」
「ならアンリを支えて。支えないと首が締まることになる」
フェル姉ちゃんは首が締まりながらもため息をつくという器用な事をしてから、両手でアンリの足を抱えてちゃんとしたおんぶの状態になった。うん、ベストフィット。
「フェル姉ちゃんの背中はいい感じ。アンリが保証する」
「何の保証だ。まあいい、帰るぞ。そんなに遠い訳じゃないのになんでおんぶなんか……」
フェル姉ちゃんが動き出すと、ジョゼフィーヌちゃん達が敬礼した。
そっか、アンリはボス。退場するときは敬礼しておかないと。あ、でももしかしたら、アンリじゃなくてフェル姉ちゃんにしたのかな?
フェル姉ちゃんに敬意を払っちゃいけないけど、アンリがいるからついでにやっておくとかそう言う理由かも。ならバレないようにこっちも敬礼しておかないと。
ビシッと右手を右こめかみ辺りに当てて敬礼……うん、これでよし。フェル姉ちゃんはため息をついているから、バレてはいないと思う。
歩き出したフェル姉ちゃんがちょっとだけこっちを振り向いた。
「アンリは魔物達と仲良くしているのか?」
「うん。村に住んでいるから同じ家族。仲良くするのは当然」
「そうか。アンリみたいな――いや、この村の皆みたいな奴ばかりなら、魔族もいつかは……」
そのままフェル姉ちゃんは黙っちゃった。
「いつかは、何?」
「なんでもない。そうなるように頑張るって話だ」
「なんのことか分からないけど、頑張って。アンリも勉強を頑張ってフェル姉ちゃんを倒そうとしているから」
「なんでアンリは私を倒そうとするんだ? ……いや、理由は言わなくていいけど。ほら、村長の家に着いたぞ。そろそろ降りろ」
「中までお願いします」
フェル姉ちゃんはため息をつきつつも、普通におんぶしてくれた。フェル姉ちゃんのこういうところはポイント高い。
さて、今日の夕食はピーマンだ。精神統一して対策を考えないと。
フェル姉ちゃんの背中から飛び降りて、アンリ専用の椅子に座る。
ピーマンを食べるのは避けられない。でも、数を減らすことはできるはず。ここはやっぱりおとうさんに――そうだ。アンリにはすごい援軍がいる。食事に関しては無敵艦隊とも言える援軍が。
おじいちゃんと話しているフェル姉ちゃんを見た。
「フェル姉ちゃん、今日は夕食を一緒に食べよう。ピーマンの戦力を分散して」
うん、起死回生の完璧な対策。それにフェル姉ちゃんと食べるならピーマンだって何とかなるはずだ。絶対に巻き込もう。
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