第15話 突撃

 

 ヤト姉ちゃんもスライムちゃん達も凄く強い。


 こっちを偵察に来ていたエルフを一瞬で倒しちゃった。


 暗いからよく見えないと言うのもあるけど、速すぎて動きが全然見えない。気付いた時にはすべてが終わってる感じ。なんだか体がうずうずする。アンリも暴れたい。


 フェル姉ちゃんはさらに強いのかな? アンリと戦った時はどれくらい手加減してたんだろう? いつかフェル姉ちゃんの本気を見てみたい。そのためにはこれ以上に強くならなくちゃ。


「どうやらこれで近くにいるエルフ達は片付いたようニャ。他の見張りや偵察は植物チームとゴーレムが倒したから先に進むニャ」


 ヤト姉ちゃんがスライムちゃん達に命令している。


 これはいけない。アンリの影が薄くなってる。アンリがボスだってアピールしておかないと。


「ヤト姉ちゃん、戦いのときは口上が大切。目立つところから名乗りを上げよう。それが戦いの礼儀」


「それもそうニャ。でも、名乗りじゃなくて肩書で十分ニャ。名乗る時は相手を認めた時だけニャ。戦いの中で相手が強いと思ったら名乗りつつ、相手の名を聞くニャ」


 盲点だった。相手が強かった時に「名を聞いておこう」というのがテンプレだって分かっていたはずなのに。


「あ! それじゃ、ポーズをしながら肩書を言うのはどうかな!」


 ディア姉ちゃんが嬉しそうにそんなことを言って、ポーズを取った。両足を開いて、右手の手のひらをこちらに向けて、顔を隠す感じ。光が眩しいという状況をスタイリッシュにやる時のポーズって聞いたことがある。


「こんなに暗いんじゃどうせ見えないから意味ないニャ。やるなら止めないから存分にやって欲しいニャ」


「あ、うん。じゃあ、一人でやろうかな……」


 ディア姉ちゃんがちょっと寂しそうだ。


「ディア姉ちゃん、アンリが付き合う。こういうのは大事」


「アンリちゃんは分かってるね!」


「それじゃ目立つところはどこにしようか? フェルちゃんにも聞こえるような場所で言わないとダメだよね? 私達が来たって分かればフェルちゃんも一緒に暴れてくれるかもしれないし」


 ヴァイア姉ちゃんはいいことを言う。フェル姉ちゃんに助けに来たってことをアピールすることは大事。


「あ、でも、フェルちゃんを人質に取られたらどうしようか? と、投降する?」


「大丈夫ニャ。そもそもフェル様を人質にしてもエルフ達は髪の毛ほどの傷もつけられないニャ。フェル様ほど人質として役に立たない人はいないニャ」


 人質として役に立たない……さすがフェル姉ちゃんだ。


 皆で色々と提案を出していたら、ジョゼフィーヌちゃんがやってきた。そしてヤト姉ちゃんと何か話してる。


「どうやら少し先にエルフ達の集落があるらしいニャ。大きな木や広場もあるらしいから、そこでエルフ達へ宣戦布告ニャ」


「その集落にフェル姉ちゃんがいるの?」


「そこまでは調べられてないニャ。ただ、集落にかなり強めの結界が張られた場所があったらしいニャ」


 もしかしたら、フェル姉ちゃんはそこに捕まっているのかも。


「まあ、いいニャ。エルフ達を叩きのめして聞けばいいだけの話ニャ。みんなも気合を入れていくニャ!」


 そこはアンリが音頭を取りたかったけど仕方ない。次の機会にしよう。


 みんなで手を上げて「おー!」と声を上げた。みんなと気持ちを共有している感じで楽しい。


 色々と相談した結果、エルフの集落にある大きな木に登ることになった。そこから名乗りを上げるみたい。


 ヤト姉ちゃんとディア姉ちゃんは自力で登れるけど、ヴァイア姉ちゃんとアンリはスライムちゃんに助けを借りて登った。


 木の上から広場を見る。


 広場に沢山の光球がらせん状に動いているものがあった。あれがキャンプファイアみたいに明かりを作っているんだと思う。その周囲にはエルフの人達がたくさんいて慌てているみたい。


「それじゃ皆、なんて肩書を名乗るか決めた? まだだったら、私の真似てもいいからね!」


 ディア姉ちゃんはいつもより生き生きしてる。冒険者ギルドの受付嬢じゃなくて冒険者になればいいのにって思う。


「さーて、スライムちゃん達も準備が整ったみたいだし、エルフに宣戦布告しようか? 私から言っていい?」


 本当はアンリがやりたいけど、ここはディア姉ちゃんに譲ろう。すごくやりたそう。


 みんなでディア姉ちゃんに頷くと、ディア姉ちゃんも頷いた。


「それじゃヴァイアちゃん、私が注目を集めたら光球の魔法を使って。背後から光が当たる感じで。こう、強そうな謎の人物がいるみたいに」


「う、うん、分かったよ」


「早くするニャ」


 ディア姉ちゃんはのどの調子を整えてから、大きく息を吸い込んだ。


「この辺りは完全に包囲したよ! 無駄な抵抗はやめなさーい!」


 ディア姉ちゃんの声が周囲にとどろいた。広場にいるエルフ達が一斉にこっちを見てる。誰かを見下ろすってちょっとぞくぞくする。


 エルフの誰かが「あそこだ!」って言った。


 ヴァイア姉ちゃんが光球の魔法を使うと、ものすごく眩しそうな光球がアンリ達の背中側にできたみたい。広場にいるエルフ達が眩しそうにしてる。


「私は謎の美少女受付嬢! ここに魔族の女の子が居ることは分かっているよ! すぐに解放しなさーい!」


 ディア姉ちゃんがそんなことを言った。謎の美少女受付嬢。よく聞くフレーズ。でも、ディア姉ちゃんしか言っているのを聞いたことがない。そしてスタイリッシュな眩しいポーズ。逆光で見えないんじゃないかな?


「私は謎の、び、美少女雑貨屋さん! フェルちゃんを返して!」


 ヴァイア姉ちゃんの肩書は初めて聞いた。雑貨屋さんは知ってるけど。でも、言い方にテレがある。これは悪い例。やる時は常に全力でやるべき。


「私は謎の美少女ウェイトレスニャ。フェル様を返すニャ。言うこと聞かないと、いらないほうの目を潰すニャ」


 ヤト姉ちゃんは肩書だけじゃなくて、エルフを脅す口上も入れてる。これはアンリも負けられない。


 アンリはいずれ人界を統べる女って言おうと思ったけど、みんな美少女って言ってる。ここでアンリがそれを言わないと、アンリだけが美少女じゃない。ならここは流れに乗るべき。


 さらにヤト姉ちゃんの口上よりもインパクトのあることを言わないと。


 ……よし、これだ!


「私は美少女。フェル姉ちゃんを返さないと森に火をつける。あと、おやつを要求する」


 そしてアンリは仁王立ちポーズ……決まった。みんなポカンとしてる。ディア姉ちゃん達も。これはアンリのインパクト勝ちだと思う。これでエルフにも誰がボスか分かったはず。


 あ! あそこにいるのフェル姉ちゃんかな? 赤い髪に角がある。その頭を抱えて「なにやってんだ」って顔をしてるけど。


「あ、フェルちゃんだ! おーい、助けに来たよ!」


 ディア姉ちゃんも見つけたみたい。フェル姉ちゃんに手を振ってる。


 エルフのみんながフェル姉ちゃんの方を見てる。どうしたんだろう? ものすごく居たたまれなさそう。


 フェル姉ちゃんは、隣にいたエルフと話をしてから広場の中心へ歩いた。あれ? 腕輪をしてない? 捕まっていたんじゃ?


「エルフ達には私が無実であることを証明した。明日には村に帰るから、お前たちも帰れ」


 自分で無罪を勝ち取った? 執行猶予もなし? ということは無罪放免?


「フェルちゃん……! 嘘をついて私たちを逃がそうとしてくれているんだね! 大丈夫! フェルちゃんが無実じゃないことは分かっているから! どんな手を使ってでも助けるよ!」


 ディア姉ちゃんの言葉……うん、アンリもそう思う。異議あり。フェル姉ちゃんが無実なんてありえない。あれはアンリ達のためにそう言っているだけ。


 なら、力づくでフェル姉ちゃんを取り戻す。


 ゆっくりと右手を上げる。そして人差し指で天を指した。


 アンリの行動にみんなが注目している。いまこの場はアンリが支配した。そして、みんなはアンリの言葉を待っている。ボスとして命令する。それがアンリの仕事。


 天を指した指をゆっくりとエルフ達の方へ向けた。


「突撃」


 周囲から雄叫びが聞こえて、スライムちゃん達がエルフへ攻撃を開始した。


 エルフも慌てて応戦しようとしたけど、耐えられなかったみたい。まずチャラそうなエルフの人が吹き飛ばされた。ポーンって。


 そこからは一方的だった。エルフの隊長さんみたいな人がギリギリ耐えているけど、多分、時間の問題。


 みんなはともかく、アンリはこれ以上何も出来ない。だからボスらしく胸を張っておく。ポーズは大事。


 みんなはあっという間にエルフ達を全員叩きのめした。もう立っているエルフはいない。安全が確保されたので、スライムちゃん達に木から降ろしてもらった。


 早くフェル姉ちゃんのところへ行こう。助けに来たってちゃんと言わないと。


 でも気になる。なんでフェル姉ちゃんは頭を抱えているのかな?

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