第14話 合流
随分と暗くなってきた。こんな遅い時間に森にいるのはちょっと危険。
そうだ、スライムちゃん達にも話をしておかないと。
「この森は夜になると、沢山の狼を引きつれた大きな狼がうろつくみたいだから注意して。すごく強いみたい」
狩人のロミット兄ちゃんがそんなことを言ってた。もしかしたらアンリが夜に森へ来ないようにするための嘘かもしれないけど、注意はしておいた方がいいと思う。
おんぶしてくれているジョゼフィーヌちゃんがこっちをちょっとだけ見てから頷いた。
分かってくれたみたいだけど、その顔が「ほほう、強いのですか」って感じだった。ジョゼフィーヌちゃんはやる気かもしれない。でも、今日は止めて欲しい。今日の優先順位はフェル姉ちゃんだ。
さらに少し進んだところで、皆が止まった。
「どうかしたの?」
『先行していたシャルロットから連絡がありました。どうやらエルフの森は結界が張ってあるようでして、正規の手順を踏まないと中へ入れないようになっているそうです。ヤト様達がウロウロしているようですね』
「そうなんだ。あ、そうなるとアンリ達も入れない? 合流してもフェル姉ちゃんを助けられないのは問題だね」
『ご安心ください。結界なんて破壊すればいいのです』
そう言う考え方、嫌いじゃない。
「ジョゼフィーヌちゃんは結界を破壊できるの?」
『私ではなくエリザベートがやります。物理攻撃ならエリザベートの方が強いので』
エリザベートちゃんの方を見ると、「まかせてください」みたいな感じの顔で頷いてくれた。なんて頼もしい。
「それじゃお願いします」
エリザベートちゃんに頭を下げてお願いした。例えボスでもこういうのは大事。アンリに出来ないことをやって貰うんだから、ちゃんとお願いしないと。
ちょっと驚かれたけど、やってくれるみたいだ。
ジョゼフィーヌちゃんが地面に文字を書き出した。
『ここでヤト様達と合流しましょう。エリザベートが結界を破壊する代わりに我々も連れて行って貰う、そういう流れにした方が効果的かもしれません』
「うん。なし崩しに連れて行って貰うよりも、一緒に連れて行った方が役に立つと思わせた方がいいかも。それじゃこのままヤト姉ちゃんのところへ行くの?」
『はい。少し近づけばヤト様はすぐに分かるでしょう。おそらくその場に留まってくれるはずです。まあ、もしかしたら、ディア様から既に聞いているかもしれませんが』
ディア姉ちゃん? なんでだろう?
「どうしてディア姉ちゃんが、私達がいるって知ってるの?」
『木と木の間にすぐに切れる糸が張ってありました。糸を調べたところ、糸を切った相手の情報が念話のようにディア様へ届く様になっているようです』
ディア姉ちゃんはやっぱり強いのかな? 普段はお仕事をさぼって格好いいポーズの練習をしてるだけなんだけど。アンリもたまにやる。
『それに先程からヤト様達に動きがありません。おそらく私達の事はバレていて、来るのを待っているのでしょう。ディア様もなかなかやりますね。気付くのが遅れてしまいました』
「そうなんだ。それじゃ待たせても悪いからすぐに合流しよう」
『アンリ様は大物ですね。怒られるとか心配されないのですか?』
「大丈夫。怒られるのも織り込み済み。それくらいの覚悟が無ければフェル姉ちゃんを助けに来ようなんて思わない」
『ご立派です。では、行きましょう』
ジョゼフィーヌちゃんの背中に乗ってヤト姉ちゃん達の方へ移動を開始した。
怒られるくらいでフェル姉ちゃんを助けられるなら安いもの。それに大人しくいい子にしているなんて無理。今のうちから色々やっておかないと。
でも、おじいちゃん達は心配してるかな。それだけはちょっと後悔してる。何にも言わずに来ちゃったから、すごく心配しているかもしれない。帰ったらちゃんと謝って、しばらくは大人しくしてないと。
そんなことを考えていたら、いつの間にかジョゼフィーヌちゃんが止まっていた。
もう、かなり暗いけど、周りを見ると、ヤト姉ちゃんが腕を組んでこっちを見つめていた。ウェイトレス姿で。
そしてヴァイア姉ちゃんはオロオロしてるし、ディア姉ちゃんは「仕方ないな」みたいな感じで笑ってる。
「アンリ、なんで来たニャ。村で留守番してろって言ったニャ。それにジョゼフィーヌ、なんでアンリを連れて来たニャ。これはフェル様にも叱られる案件ニャ。下手したら魔界へ強制送還ニャ」
ここはアンリが言わないとダメだ。
ジョゼフィーヌちゃんの背中から降りて、ヤト姉ちゃんの前に立つ。
「これはアンリがジョゼフィーヌちゃん達にお願いしたこと。怒るならアンリだけにして」
「……それはフェル様に言うニャ」
ヤト姉ちゃんは大きくため息をついた後、アンリの頭を撫でた。
「大人としてアンリの行動を褒める訳にはいかないニャ。でも、フェル様の事を思って行動してくれたのは嬉しく思うニャ……ジョゼフィーヌ、アンリにはかすり傷一つ付ける訳にはいかないニャ。護衛を頼むニャ」
ジョゼフィーヌちゃんはヤト姉ちゃんに「スラララスラスラ」と話してる。多分だけど、「おまかせください」って言ったのかな? あれ? ちょっと分かる様になってきた?
ヴァイア姉ちゃんがホッとした感じでアンリの方へ近づいてきた。
「よかったね、アンリちゃん。でも、絶対に無理しちゃダメだよ?」
「うん、怪我をしないように気を付ける。でも、いざとなったらこの魔剣七難八苦を唸らせるつもり」
「それは没収ニャ。付いてくるのは仕方ないけど、危ないことはさせられないニャ」
「ヤト姉ちゃん、アンリも身を守る術は必要。それにその剣はアンリの魂と言ってもいい」
「ならこのまま村へ引き返すまでニャ」
ヤト姉ちゃんは交渉事を弁えてる。アンリは今、究極の二択を迫られている。魔剣を渡してフェル姉ちゃんを助けに行くか、魔剣を渡さずに村へ帰るか。
……よく考えたら二択じゃない。やることは決まってる。
「分かった。この魔剣はヤト姉ちゃんに預ける。でも、大切な物だから取り扱いには注意して」
「もちろんニャ。私もナイフを集めるのが趣味だから武器を大切にするのは共感できるニャ。亜空間に入れておくから安心ニャ」
ヤト姉ちゃんもフェル姉ちゃんみたいに空間魔法が使えるんだ。アンリもいつか使えるようになりたい。
ヤト姉ちゃんに魔剣を渡すとそれを何もない空間の中に入れてくれた。でも、まだ不思議そうにアンリを見てる。どうしたんだろう?
「アンリ、その背負っている物は何ニャ? 風呂敷に包まれた箱に見えるニャ」
「これはアンリの夕食が入ったお弁当箱。八大秘宝『パンドラ』。ロモンにある遺跡の名前から取った至高の一品」
花柄の絵がとても素敵。でも、たまにピーマンという絶望が入ってる。そしてトウモロコシという希望も。お母さんはいつも希望だけにしてくれない。
「それも渡すニャ。亜空間に入れておくニャ。私やジョゼフィーヌ達がアンリを守るけど、アンリもできるだけ身軽な方がいいニャ」
そう言われるとそうかも。魔剣も渡しているんだし、これも渡しておこう。衝撃をうけて中身が飛び出したら大変。
ヤト姉ちゃんはパンドラを亜空間にしまうと、周囲を見渡した。
「それじゃ、エルフの森へ足を踏み入れるニャ。でも、言っておくニャ。ここにいるヴァイア、ディア、アンリの三人は命懸けで守るニャ。この三人に何かあったら、私達がフェル様に、その、大変な目に遭うニャ」
皆が頷いた。
「三人とも基本的には私のそばにいるか、エルフに近寄らないようにするニャ」
「うん、分かったよ、ヤトちゃん。遠くから魔法で援護するからね!」
「それじゃ私はヴァイアちゃんのそばで大人しくしてようかな。もちろんアンリちゃんも一緒にね!」
「今のアンリは武器がないから一緒に大人しくしてる。本当は先陣を切って斬り込みたいけど、今回は我慢」
「戦う訳じゃないニャ。こっそりとエルフの森へ行ってフェル様を奪還するニャ。戦いは最後の手段ニャ」
本当は森に火をつけるくらいやった方がいいと思うけど、フェル姉ちゃんを救出するまではそうもいかない。まずはフェル姉ちゃんの安全を確保しないと。
「お、お前達、一体何者だ――ぐあ!」
誰かの声が聞こえたと思ったら、いきなり倒れちゃった。もしかしてエルフ?
そしてシャルロットちゃんが傍に立っている。ヤト姉ちゃんと何か話してるみたいだ。
「エルフ達にバレたニャ。仕方ないから派手に暴れてフェル様を救出するニャ。でも、なんでこんな結界の外までエルフが来ているニャ?」
よく分からないけど、こっそりやるはずが派手にやることになったみたい。アンリとしてはそっちの方が嬉しい。
「それじゃ、エリザベート。結界を破壊してくれニャ」
エリザベートちゃんが頷くと、びょーんと飛び上がって見えなくなっちゃった。
その後に、ガラスが割れるような音が聞こえてきた。もしかして結界が壊れた音かな?
「さあ行くニャ。エルフ共を蹂躙ニャ」
ヤト姉ちゃんの尻尾が荒ぶってる。もしかして、ヤト姉ちゃん、暴れたいからワザとエルフに見つかった? というか、ジョゼフィーヌちゃん達もエルフがいるのを知ってて何も言わなかったのかも。
それに結界が壊れれば、絶対にエルフにバレると思う。そもそもこっそりは無理だったのかもしれない。
……うん、アンリは何も知らない。気付かなかった振りをしよう。そういうのは大事。
さあ、エルフ達を倒してフェル姉ちゃんを助け出すぞ。
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