61.幸せを運ぶ手紙

 絶対に私、太った気がする。朝の支度で項垂れた。ワンピースの上から、太いベルトを嵌めるのだけれど、以前使っていた穴だと苦しい。仕方なく、一つ緩くして留めた。


 どうしよう、太ったのよね。ぶくぶくになったら、嫌われてしまう。


「姫様、少し……」


 そのさきは言わないで! 私が叫ぶより早く、クロエは笑顔で頷いた。


「背が伸びましたね。ベルトも成長された証拠です」


「背が?」


 わからないと首を傾けたら、ワンピースの裾をつんと引っ張られた。屈んだクロエが、膝の下に手を当てる。


「以前はこの辺でしたが、裾が上がっています。成長された証拠ですわ。これから服のサイズが変わってきますよ」


「……ええ」


 クロエによれば、昨日見つけた新しい服はすべて、サイズが大きいとか。成長を見越して送ってくれたのだろう。ただの過保護が原因じゃないみたい。


 今後は胸が大きくなって、腰ももっと括れて、背も高くなるんだわ。エル様と釣り合うには、あと拳三つくらい成長したい。希望に胸を弾ませ、今日も木箱の開封に立ち向かった。


 季節物から、普段使いの小物まで。昨日諦めた五個目の箱は、いろいろと詰まっていた。綺麗に包まれた品を確認していると、文箱と手紙が出てくる。文箱の上に封筒を乗せたのなら、読んでほしいという意味?


 休憩にしましょう、とセリアが気を利かせてくれたので、言葉に甘えた。デジレの差し出すペーパーナイフで開いた封筒は、アルドワン王国の紋章が入っている。開いた私は、目を見開いた。


 びっしりと細かな文字が並ぶ手紙によれば、それぞれに一枚という制限で手紙を書いたらしい。父も母も姉も兄も、誰もがたくさん書こうと文字を小さくした。


 体のことはもちろん、私の気持ちを気遣う文面が続く。無理なら帰ってきてもいいぞ、と父が書けば、母は幸せになりなさいと締め括る。兄も姉も、私を愛していると伝えてきた。胸がいっぱいになり、目の奥が熱くなる。


 文字が滲んで、こぼれそうになった涙を瞬きで誤魔化した。そのまま上を向いて、手紙の上に落ちないよう乾かそうとするも……。


「姫様、手紙の返事を考えられてはいかがですか?」


 クロエに促され、部屋の窓際に置かれた椅子に座る。テキパキと働く侍女達に申し訳ない気持ちになるが、立とうとすれば止められた。


 用意された紅茶に口をつけ、もう一度手紙に目を通す。胸がいっぱいで、幸せがあちこちから溢れ出しそうだった。お昼からは自室に戻り、手紙の返事を書く。ありがとうと愛していますを散りばめて、一人ずつ返信を用意した。


 書き終えたら、何かの申請書類みたいな厚さになっていて……驚いた侍女達と顔を見合わせて笑った。手紙は綺麗な箱に入れて、すぐにアルドワン王国へ送られる。


 その夜は胸がいっぱいで、食事は少なめに済ませた。食後にエル様ともう一度手紙に目を通し、土産も添えれば良かったと微笑み合う。エル様の提案に従い、何か特産品を贈ることに決めた。

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