15.登城を催促されたそうです
私が隠しておいてとお願いしたから、誰も話してないわよね。涙の跡をクロエが隠してくれた。
「お待たせ、そろそろ帰ろう」
エル様に微笑み返し、伸ばされた手を取る。と同時にまた抱き上げられた。
「お姫様、子どもみたい」
笑う子ども達に、エル様が明るい声で言い放った。
「違うぞ、お姫様は自分の足で歩いたりしないんだぞ」
「絵本には書いてなかったわ」
小さな女の子が、大切そうに絵本を掲げる。この本にお姫様の話が書いてあるみたい。私が知らない絵本だわ。この国の本かしら。
「それはそうだ、これは秘密だからな。大人に言ったらダメだぞ」
上手に誘導して、エル様は馬車に乗った。もちろん私はお膝の上。いつ迎えに来てもらったのか、首を傾げる。
「エル様、いつ馬車を呼んだのですか」
「ああ、予定がわかっているから、ここへ来るよう伝えておいた」
そうなのね。確かに事前に予定と時間がわかっていたら、迎えを頼むのも簡単だわ。頷いたけれど、やっぱり膝からおろしてもらえなかった。
「私は膝の上ですか?」
「アン、この国では婚約者は常に膝の上や抱っこだ」
「知りませんでした」
そんなルールはありません。クロエは屋敷に帰るなり教えてくれた。でもエル様が抱っこしたいと言うなら、私は従うわ。だって大好きな人が「私に触れていたい」と態度に出しているんだもの。
クロエは「そうですね、姫様はそれでいいと思います」と賛成した。妻は夫を支えるものですわ。ふふっと笑って、お風呂を出た。屋敷に戻って用意された風呂に入る。次は食事だった。
外で朝食も昼食も済ませたので、夕食はお屋敷の料理人が腕を振るうと聞いた。とても楽しみだわ。エル様は食堂で待っているので、私は鏡の前で最終チェックをした。くるりと回って、赤と白の衣装を確認する。白いワンピースの腰を赤い太めのリボンで絞り、細い赤ストライプの柄が入っていた。
お気に入りの服に合わせ、赤いリボンで髪を結ぶ。口々に可愛いと褒めてもらい、廊下へ出た。食堂まで階段を降りて左へ曲がり、あと少し。そこで通り過ぎる侍女の一人に睨まれた? 気のせいかも。
振り返りながら確認してしまい、クロエが首を傾げる。彼女が気づかないなら、私の勘違いだわ。決めつけて、食堂に入った。さっと立ち上がったエル様が、私の手を引いて奥の椅子へ誘う。
椅子に大きなクッションが用意されて、抱き上げて下された。お膝の上と同じくらいの高さで、テーブルにぴったり。エル様も満足そうに頷いた。
「ぴったりだ」
「はい、ありがとうございます」
用意されたカトラリーを使い、作法に従ってゆっくりと食べ進める。どの料理も美味しく、用意されたジュースも甘くて好みの味だった。すべてに満足しながら、デザートも口に運ぶ。エル様の前はコーヒー、私は紅茶。
大人になったら、きっと私もコーヒーを飲むんだわ。それまでに何回か練習しておこう。
「国王陛下から、早めに登城するよう連絡があった。悪いが、二、三日で準備してもらえるか?」
「はい。明日でなくてよろしいですか」
「無理を言ったのは陛下の方だ。待たせても問題ない」
頑なに兄上と呼ばないのは、私には不思議です。でも、仲が悪いのとも違う感じで。私はわかりましたと了承した。
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