第7話聴取
「では、本当に貴方は誘拐も脅迫もされていないんですね?」
「だから何回もそう言ってるだろ」
詰所での事情聴取は、何度も同じようなやり取りが続いていた。
俺が好き好んでレイナと居るのが、こいつらからすればよっぽど異常な事なのか、何度も本当は脅されてるんじゃないのかと聞かれ、その度にそんな事実はないと突っぱねるの繰り返しだった。
「......分かりました。では今回は完全な誤認逮捕という事ですね」
「そうだ。俺達は何も悪い事はしていない」
「はい、申し訳ございませんでした」
やっと納得してくれたらしく、騎士の1人が俺に深々と頭を下げた。
だが俺は全くこれっぽっちも納得出来ていない。
「俺に謝るんじゃなくて、ちゃんとレイナに謝れよ」
「し、シュナイダー?私はいいから」
「何もよくないだろ。こいつら、事実確認もせずにレイナを捕まえようとしたんだぞ。レイナは許しても、俺は絶対許さん。謝るまでな」
今回1番迷惑を被ったのはレイナだ。
それに此処で簡単に許してしまえば、また同じような事をされるかもしれない。
レイナには悪いが、これだけは譲れなかった。
彼女に頭を下げるまでは何があろうと、俺は許すつもりはない。
「...‥‥‥レイナ・ラーヴァンテさん。この度は本当に申し訳ございませんでした」
「よし、許そう」
俺は頭を下げる騎士を速攻で許した。
そりゃ謝ってもらえれば許しますとも。
「‥‥‥ふふ、何でシュナイダーが答えるの?ええ、謝罪は受け取ったわ」
確かに。
しかし、やっとレイナが笑ってくれたな。
仮面のせいで顔は見えないが、笑い声を聞けば悲しい顔をしているという事はないだろう。
あの騒ぎからずっと、大人しかったからな。
「ありがとうございます。それで、あのマリーという受付嬢の事なのですが」
「?マリーがどうかしたのか?」
「どうやら先日の貴方を襲おうとした連中と繋がりがあったらしく、あの事件の計画を立てた主犯の1人でした」
「え!?」
「その前から彼女達と手を組み色々と悪事を行ってきてたようで、もう二度と受付嬢には戻る事はないかと思います」
「‥‥‥そうだったのか」
マリーは顔はタイプではなかったが、それでもギルドでは世話になっていた。
そんな彼女がソフィア達と組んで俺を襲うとしてたなんて...。
ショックで......あれ、思った程何も感じないな。
彼女が奴隷になろうが死のうが、正直どうでもいい。
俺は自分が思ってる以上に冷たい人間だったらしい。
「‥‥‥ちっ、それが分かってたら殺したのに」
あれ、さっきまで自分の事では一切怒りを見せなかったレイナさんが滅茶苦茶怒ってるんですけど。
何か物騒な言葉まで聞こえてきたので、正直いって怖い。
...‥‥‥まあ、聞かなかった事にしておこう。
「教えてもらってありがとうございます。それで、もう帰っても大丈夫ですか?」
「はい、勿論です。今回は本当に申し訳ございませんでした」
「謝罪はもうもらったので大丈夫ですよ。帰ろうレイナ」
「ええ、そうね」
何とか無事に終わった事で安心した俺は、自分がやった事を振り返って、つい敬語に戻ってしまった。
俺、騎士様相手にめちゃくちゃな事言ってたよな...。
捕まったりしないよね?
途端に怖くなった俺は、早足でレイナの家に帰った。
◇
家に着いた後はお互い水浴びをしてレイナが作った夕食を食べていた。
「‥‥‥今日は本当にありがとう」
「ん?なんだ急に」
ふいにレイナがお礼を言ってきた。
俺は何の事か分からない...事はないが、急だったので困惑した。
「私、絶対捕まると思ってたもの」
「そんな事絶対させるか」
「今まで、顔の所為で誰からも相手にされてこなかったし、私の言う事なんで信じてもらえなかった」
レイナの語りに、俺は黙って聞く事にした。
「だから、今日本当に嬉しかったの。ありがとう。私を助けてくれて」
「......まあ、俺の方がレイナに助けられまくってるからな」
「ふふ、そうね」
レイナの真っ直ぐな想いに、俺は気恥ずかしくなり誤魔化すように返してしまう。
こう真っ直ぐにお礼を言われるのは慣れていないから仕方ない。
ふと、今ならいけるんじゃないかと思った事を言う。
「仮面取ってくれるか?」
「それは嫌」
まだ無理だったようだ。
好感度がまだ足りないのか?いや、焦らずいこう。
レイナに素顔を見せても大丈夫だと思われるように。
何せ、この世界で醜女だと言われているレイナの素顔なら、俺にとっては美人に違いないのだから。
「しかし、もう冒険者もやり辛くなったなぁ」
「どうして?」
「だって、あんな事があったし」
「別にギルドにとってはあんなの日常茶飯事だから気にしなくていいと思うけど」
ギルドではあんなのが常日頃から起きているのか。
なんて恐ろしい場所なんだ。
でも、そうだよな。レイナが今までどれだけ冒険者として活動してきたか分からないが、レイナに取ってはあの扱いが普通なんだろうな。
だからあんまり、家から出たがらないのか。
「でもそうね。やっぱり貴方は家から出ない方がいいわ」
「......やっぱそうなる?」
「ええ。今回もだけど、皆どうにかして貴方を手に入れたいのよ」
「でもレイナは違うじゃん」
「わ、私は無理だって分かってるから」
そう言うレイナの声からは、やはり何処か諦めを感じた。
レイナからたまに感じるこの諦めが俺は好きではない。
好きではないが、今までの俺では理解出来ないような経験から来るものだと思えば、直ぐにどうこう出来るようなものでもないだろう。
「俺レイナの事好きだけど」
「か、揶揄わないで」
「別に揶揄ってないけど」
「...嘘よ」
やはり拒絶される。
まあ無理して今の関係を壊すのは嫌だしな。
時間はあるしゆっくりやっていこう。
何れはレイナの素顔を見せてもらえるように。
そう思っていた俺は、まさか思わぬ形でレイナとの関係に亀裂が生じるなど知る由もなかった。
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