第6話冤罪

 



 俺達はギルドを出た後森林に向かった。



「懐かしいなぁ」

「え?」



 あれから数日しか経っていないが、目が覚めた時此処に居た時の衝撃をどうしても思い出してしまう。


 それからも歩き続け森林を抜けると、渓谷が見えてきた。



「なぁレイナ。此処にドラゴンは居るのか?」

「その筈よ」



 うーん。そう言われても、ドラゴンがいる形跡は全くない。

 あまりにも静かで、風の音だけが聞こえてくる。


 ビューンっ!!ビューンっ!!!


 いや、本当に風つよいな!?

 あまりの強さに、目を開けるのも辛いくらいだ。

 そう思っていると突然、風が一箇所に集まって行き、大きな竜巻が形成された。



「来たわね!」

「えっ!?あの竜巻が!?」



 ガアァァァァッッ!!!


 レイナの言葉に竜巻を見つめていると、その中心から竜巻を割るようにしてドラゴンが叫び声と共に出てきた。



「す、すげぇ!」



 風を纏ったドラゴンのそのあまりのかっこよさに、目が釘付けになる。


 ギロッ



「ヒィッ」



 不意にドラゴンが睨みつけるようにして此方に視線を向けてきた。

 俺は恐怖で思わず悲鳴を上げてしまう。



「大丈夫よ」



 そんな俺に優しく声を掛けるレイナだったが、次の瞬間、目の前からレイナが消えた。

 消えたレイナを探すように視線を彷徨わせれば、いつの間にかドラゴンの目の前まで迫っていた。



「ウィンドミル」



 レイナがそう言うと手から風の塊が形成されドラゴンに向かっていき、纏った風を吹き飛ばした。

 纏っていた風が無くなったドラゴンに、腰にあった剣を抜き、また俺の目から消えた。

 また目を彷徨わせれば、そこには剣を振り抜いた格好のレイナと、首が落ちたドラゴンが目に入った。

 首が無くなったドラゴンは、そのまま地面に落下した。



「おおおおお!」



 それを見た俺は言葉にならない声を上げていた。

 まさか、こんな一瞬の内にドラゴンを倒すとは思わなかった。

 レイナ、こんなに強かった。



「ふぅ、こんなものね」

「すげぇ!かっけぇ!すげぇ!」

「......そ、そう?そう言われたのは初めてだけど、そんなに喜んで貰えたら悪い気はしないわね」



 レイナの凄さが初めてわかった瞬間だった。

 暫くはしゃいでいた俺だったが、落ち着きを取り戻す頃に一つ気になった事を聞いた。



「そういえば、このドラゴンどうするの?」

「解体して持って帰るわ」

「......こんなデカいの、解体出来るの?」

「私がやるから大丈夫よ。もう何度もやっているから。ウィンドドラゴンの皮は頑丈な素材として高く売れるのよ。それに、お肉は凄く美味しいのよ?」

「食えるのか!?」

「ええ。持って帰って今日ステーキにでもして食べましょう」

「おお、ドラゴンの肉!楽しみだ!」

「ふふ。私も、シュナイダーと居ると本当に楽しいわ」



 ドラゴンの肉とはどんな味がするのだろうか。

 レイナが美味いというのなら、きっと美味いのだろう。

 その後、レイナが解体作業をしているのを、横で騒いで見ていた。


 俺、本当何の役にも立ってないな。

 まあ、いいか。

 俺がはしゃいでいると、レイナも楽しそうだし。



「終わったわ。それじゃ、帰りましょうか」

「思ったより早かったな。分かった」



 想像以上に手早く解体されていく様は面白かったが、終われば後は帰るだけだ。

 俺達は再び森林に向かった歩き出した。



 ◇



「帰る前にギルドに報告に行きましょう」

「分かった」



 街に戻ると、俺達はギルドに依頼達成の報告に向かった。

 そうして、ギルドに着くと何やら様子がおかしく騒がしかった。



「あ、帰って来ました!あの女です、騎士団の皆様!」



 ギルドの中に入ると、突然マリーがそう叫んで、その指差した場所には、何故かレイナが居た。

 そして、マリーの側には大勢の騎士団が居た。

 一体何が起きているんだ。



「お、おい。マリー、これはどうなってるんだ」

「シュナイダーさん、もう大丈夫です!」

「っ!は、離せっ」



 マリーに事情を聞こうとすれば、俺に向かって走り寄って思いっきり抱きしめて来た。

 突然の事に気持ち悪さを感じて、俺はそう叫んでしまった。



「っ!やっぱり、あの女に騙さてれているのね!」

「......どう言う事だ?」

「レイナ・ラーヴァンテだな。お前には男児誘拐、及び脅迫の疑いが掛かっている。同行願おう」

「な!?」

「‥‥‥私は誘拐なんてしてないわ」

「それは調べれば分かる事だ。お前は大人しく私達に連行されろ」

「...‥‥‥仕方ないわね。分かったわ」



 何が起きているのか分からなかった。

 見たままの事情を言えば、レイナが騎士団に手を抑えられ連れていかれようとしていた。

 そして、レイナは何処か諦めたような声でそれに同意していた。



「な、なんでレイナをっ。どう言う事だよ!」

「もう大丈夫ですよ。貴方を騙した悪い女は消えて居なくなりますから」

「悪い女、だと?ふざけるな!離せ!」

「きゃっ!シュナイダーさん!?」



 何故レイナを連れていこうとしているのかは分からない。

 だが、彼女をそのまま連れていかせる訳にはいかなかった。

 そうすると、もう二度と会えないような気がした。



「おい、レイナを離してくれ!彼女が何をしたっていうんだ!」

「い、いや。我々はこの女が男児を誘拐して脅迫していると通報を受けて来たんですが」

「誘拐だと!?そんな男、何処に居るっていうんだ!」

「あ、貴方では?」

「俺は誘拐なんてされてない!自分の意思で、レイナと一緒に居るんだ!」



 話を聞けば馬鹿げた冤罪に、俺は怒りのままに叫んだ。

 何処をどう見たら俺が誘拐されているように見えるのか本気で分からなかった。



「......これは、どういう事だ?」

「そ、その女が騙しているに決まってるでしょ!?じゃないと男がこんな醜女と一緒に居るわけないじゃない!」



 マリーの言葉が腹立たしい。

 レイナの何処が醜女だ。

 お前達の方が醜いだろうが。


 そう叫びたいのに、それがこの世界の常識なのだと理解してやりようのない感情が湧き上がる。



「レイナは醜女じゃない!」

「し、シュナイダーさん。わ、私は貴方の為を思って言っているんですよ?」

「余計なお世話だ!とにかく、俺は好きでレイナと居るんだから放っておいてくれ!」

「そ、そんな」



 そうだ、俺はレイナが好きだから一緒に居る。

 何故それをお前なんかに邪魔されなければいけない。



「...シュナイダー」



 レイナから悲痛な声が聞こえてきた。

 俺は再び怒りが湧いた。

 何故、こんなに心優しい女が、こんなに悲しまなければいけないんだ。



「その受付嬢からはまた詳しく話を聞くとして、本当に貴方は誘拐されてないんですね?」

「ああ、俺は誘拐なんてされていない」

「‥‥‥分かりました。ですが一応、貴方達からも事情聴取させて頂きます。宜しいですか?」

「分かった、幾らでも話してやる。だからお前ら、今すぐレイナから手を離せよ」

「わ、分かりました。おい、彼女を解放しろ」

「は、はい!」



 漸く解放されたレイナに駆け寄る。



「し、シュナイダー。私」

「大丈夫だ。レイナは堂々としていてくれ。何も悪い事していないんだから」

「......ありがとう」



 レイナが悲しんでいる姿を見たくない。

 ドラゴンと戦っていたときのように、格好よく堂々といて欲しい。

 今のレイナの弱々しい姿を見て、本気でそう思った。



「それでは、一旦詰所に来て頂けますか?」

「分かった」



 俺は騎士団の詰所に行く事になった。

 レイナが捕まらないように証言する為に。

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