第5話同棲
レイナの家の転がり込むように住まわせて貰って、数日が経った。
その間、俺はこれといって何もしてない。
本当に何もしない生活を送っていた。
「おはようシュナイダー。朝食なら出来てるわよ」
「何してるの?掃除?私がやるからそんな事いいわよ」
「仕事がしたい?どうして?お金ならあるから大丈夫よ」
「貴方は何もしなくていいの。居てくれるだけで助かってるんだから」
というように、俺はレイナによってダメ人間のような生活を送っていた。
居るだけで助かるってなんだ。
俺はまねきねこ的な何かか?
まるで女に養ってもらうヒモのような、というかヒモそのものであるのだが、俺はこの生活も意外と悪くないと思っていた。
俺は基本物ぐさだ。外に出る用事がないなら引き篭もりたいし、家の事も大体後回しで部屋がゴミ屋敷になってから慌てて掃除をし出す。
やる必要のない事はやりたくない俺にとって、俺の身の回りの世話をしてくれる存在がいるこの状況は、まさに理想の生活だ。
なんて事だ。
前の世界の世のモテ男達はこんな羨ましい毎日を送っていたのか。
いや、ここまで何もしない奴はいないだろうけど。
飯と風呂とトイレ以外でベッドから出る事ないからね。
だけど、こんな生活も数日もすれば流石に飽きてくる。
俺は今、無性に冒険がしたい。
折角冒険者になったのに、冒険が出来ないなんて間違っている。
俺1人だと採取系や雑用しか出来ないらしいが、何もしない事に飽きている今なら何でもいい。
そうと決まれば、早速レイナに伝えよう。
「ダメよ」
俺の冒険はたった一言で終わってしまった。
いやいや、終わってたまるか。
「......なんで?」
「外は危ないもの。また誰かに襲われるかもしれないでしょ」
「いや、今度はもっと気をつけるから」
「無理よ」
「無理なの!?」
またもや、断言されてしまう。
「だって貴方、無防備だもの」
「いや、そんな事はないが」
「いいえ、そんな事あるわ。女にも平気で近づいたり、う、薄着で私の隣に座ってきたり。そんな事してたら普通の女は興奮して襲ってくるの」
「......でも、レイナに襲われた事ないけど」
「わ、私は普通の女じゃないの!」
そんな事を言われるが、どうにもピンとこない。
いや、ソフィアの件があるから、男が女に襲われる可能性がある事は理解している。
だが、前の世界の感覚が抜けきらないのか、どうしても気を付けていればどうとでもなると思ってしまう。
「いい?女はケダモノなの」
「なら、依頼の時は誰かに同行を頼めばいいだろ」
「誰に頼むのよ」
「それは、ギルドで適当に...」
「そうやって前に襲われたんでしょっ。もう!」
「うっ‥‥‥」
ぐうの音もでないとはこの事だった。
レイナの言う通り、これでは前と同じ失敗を繰り返してしまう。
認識をもっと改める必要があるだろう。
しかし、それでは冒険できないぞ。
俺は考える。要は、絶対に俺を裏切らない人に同行してもらえばいいのだ。
そこまで考えて、ある事に気がついた。
「なあ、レイナ」
「なにかしら?」
「レイナって、もしかして結構強い?」
「‥‥‥何でそう思ったの?」
「あの時俺を助けてくれたって事は、ソフィア達を1人で倒したって事だろ?なら相当強くないと無理だろ」
そうなのだ。あの時4人居て、他の3人の能力値は分からないが、ソフィアはB +。
B +1人と恐らくそれに近い実力だろう3人を相手にして勝ったとしたら相当な実力者の筈だ。
「‥‥‥やっぱり、強い女は、嫌?」
「え、何で?」
「男の人は強いと怖がるじゃない。それに私、醜女だし‥‥‥」
「いや弱いより強い方がいいだろ。それに俺は醜女とか気にしないって」
「‥‥‥そうなの?」
「そうそう。それで、能力値は幾つ?」
「‥‥‥‥‥‥S+」
「は?」
え、S+ぅぅぅぅっっっ!?!?!?
おい、それって最高ランクじゃないか。
え、レイナってそんな強いの?
まじかよ。なら決まりじゃん。
「よし、レイナ。俺と結婚しよう」
「え、あ、はい。...えっ......け、けけけけけけ結婚!?!?!?」
「あ、ごめん間違えた。俺に同行してくれ」
やばい。あまりにも守ってほしい欲求が強すぎて、思わず求婚しちまったよ。
「ま、間違い......そうよね。まあ、同行するのは別にいいけど」
「本当か!よし、なら今日行こう!」
「え、今日?......まあ、それで貴方が喜ぶのなら。分かったわ」
「喜ぶ喜ぶめっちゃ喜ぶ」
こんな身近な所に居るとは思わなかったが、お陰でやっと今日待ちに望んだ冒険が出来る事になった。
◇
「久しぶり、マリー」
「し、シュナイダーさん!?無事だったんですか!?」
冒険者ギルドに入ると、受付嬢であるマリーが居た。
彼女に挨拶すると、何故か驚かれた。
「いやいやいや。シュナイダーさんあれから1度も顔出してなかったじゃないですか。あの日、ソフィアさん達に襲われかけたと聞いて、私...」
「ああ、なるほど」
そういえば俺、ギルドに報告してなかったな。
「シュナイダー、本当に申し訳ございませんでした。私が依頼を受けたばかりにあんな事になってしまって」
「いやいや、マリーのせいじゃないから」
報告がべきだったかは分からないが、少なくともマリーには無事を伝えるべきだったな。
そりゃ、自分が受付したせいでと気に病んでしまうよな。
だが、あれは俺の無警戒が招いた自業自得だと思っているので、マリーを責めるつもりは全くなかった。
「でも...」
「本当気にしないでくれ。俺が警戒してなかったのがわるいんだから」
「はい...分かりました。シュナイダーはお優しいですね」
優しいも何も本当にマリーに責任はないと思ってるからな。
「それで...その後ろの人は?」
「ああ。依頼受けたいんだけど、その時に同行してもらう事になった。レイナだ」
「ああ、疾風ですか」
「......疾風?」
「彼女の二つ名ですよ」
「二つ名、だと?レイナ!」
「......何?」
なんて事だ。レイナにそんな二つ名が付いてたなんて。
「お前、そんなかっこいい二つ名持ってるなんて!何で言わなかった、ずるいぞっ!」
「え?あ、ごめんなさい?」
疾風とは何と厨二チックな響きだろうか。
正直言って羨ましい。
「俺も欲しい!」
「...えぇ。そんないいものかしら?」
俺のテンションについていけないのか、レイナは若干引き気味だった。
いけない、あまりのかっこよさに我を忘れてしまった。
「シュナイダーさん。彼女、大丈夫なんですか?」
「え?ああ、大丈夫だよ。ソフィア達から助けてくれたのも彼女だし」
「っ。......そうですか。彼女が」
騎士団の詰所に行った時のように、マリーはレイナを疑わしげに見ていた。
とことん立場が弱いんだなレイナって。
俺からすれば、こんないい人他に居ないと思うんだが。
「それで、依頼ですよね?」
「ああ、何かいいやつある?出来れば討伐系で」
「疾風が同行するとなると...この辺りとかどうでしょうか」
そうして出された依頼書を受け取ると、俺はそこに書かれた魔物に目が釘付けになった。
「ドラゴン、だと」
「あっ、すみません!間違えていつも疾風に依頼するレベルの依頼書を出してしまいました...」
そこに書かれたいたのは、ウィンドドラゴンの討伐だった。
「レイナ」
「‥‥‥もしかして、これ受けたいの?」
「......やっぱダメか?」
正直ドラゴンがいるなら、一度でいいから見てみたい。
ランクはS+と書かれているので、相当強いのだろう。
めっちゃ怖い。でも見てみたい。
そんな二律背反が俺の中で葛藤していた。
「まあ、いいわよ」
「いいのか!?」
まじか。絶対ダメだと思っていたが、驚いた事にレイナから了承を貰えた。
「疾風!」
「......何かしら」
「っ!そ、そんな高ランク受けて、もしシュナイダーを守らなかったら」
「守れないと思う?私が」
「っ...‥‥‥」
やばい。レイナが滅茶苦茶カッコいいんだけど。
マリーがレイナを穴が開くんじゃないと思うくらい睨めつけていた。
俺が言い出した事なので申し訳ない気持ちになってくるが、ドラゴンを見たい気持ちの方が強かった。
「よし、なら行こう。レイナ!」
「ふふっ。貴方が喜んでくれるならウィンドドラゴンくらい訳ないわ」
ギルドに来てからレイナがかっこよすぎるんですけど。
まあ、それは置いておいて、俺の我儘によりウィンドドラゴンの討伐を受ける事になった。
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