第3話依頼

 


「...えっと」



 ギルド内でどう考えても1番怖い見た目の人に声を掛けられてしまった。

 175㎝の俺よりも高く、腕などは筋肉質だが腹は脂肪で割と出ている。

 見るからに強そうな冒険者が、何故冒険者登録したばかりの新人に話かけてきたのか分からず、俺は言葉に詰まった。



「何も取って食おうってんじゃないんだ。そんな怯えなくてもいいさ。あんた、名前は?」

「...シュナイダー」

「いい名前だね。アタシはソフィア。宜しく頼むよ」



 ......顔に似合わず、なんて可憐な名前なんだ。

 って違う。そんな事はどうでもいいとして、普通に自己紹介が始まったが、このイカつい冒険者ーーソフィアは何が目的なんだ?



「それで、俺に何か用?」

「ああ。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど、ちょっとばかし会話が聞こえてきたんでね。あんた、討伐系を受けたいんだろう?なら私が連れてってやるよ」

「え?」



 どうやら俺を討伐系の依頼に連れて行ってくれるという事らしい。



「ソフィアさん!」

「何だいマリー。そんな大声出して」

「連れて行くって、ソフィアさんはB +で、彼はF−何ですよ!?危険すぎます!」

「そんな難しい依頼は受けないさ。討伐系の最低ランク、E+なら問題ないだろ?」

「そ、それは...。ソフィアさんが同行するなら大丈夫だと思いますけど...」

「だろ?なら、決まりだね」



 何やら勝手に話が進んでいってるが、俺はまだ何も返事してないんだが...。

 それに、受付嬢ーーマリーというらしいが、彼女は今も不服そうな顔をしている事から反対したいようだ。

 というか、ソフィアってB+なのかよ。

 通りで強そうな訳だな。



「でも、彼は男性なんですよ?もし何かあれば大問題に...」

「マリーは心配症だね。ならパーティー全員で連れて行くよ。それなら文句ないだろ?」

「まあ...それなら...」

「よしっ!それで、シュナイダー。後はあんた次第だけど、どうする?」

「...そうだな」


 ソフィアの説得に、マリーはとうとう折れてしまった。

 どうすると言われても、そんな急には決められないんだが...。



「まだ悩んでいるのかい?採取系なんてチマチマやっても仕方ないよ。討伐系は最低ランクでも、採取系の10倍の報酬はあるからね」

「10倍...だと...」 



 未だに決められない俺に業を煮やしたソフィアから、無視出来ない情報が投げられた。



「あんたは基本見学。報酬も新人から取ろうと思わないからあんたにやる」

「...それであんたに何の得があるんだ?」



 ソフィアの提案は破格の条件だが、どう考えても俺にとって都合が良すぎる。

 何か裏があるのではと、どうしても考えてしまった。



「勿論あるさ。見て分かると思うけど、アタシの見た目は怖いらしくてね。男が寄りつかないんだよ。パーティーの奴らも似たようなもんでね。潤いが欲しいのさ。あんたはアタシを見ても怖がらないみたいだからね」

「そんな理由で...」

「アタシにとっては死活問題だよ。アタシらはあんたと行動を共にできる。あんたは討伐系の依頼が受けられて、その上お金が貰える。それで、どうするんだい?」

「お願いしよう」



 要はモテない男の中に可愛い女が入るみたいなものか?

 まるでオタサーの姫だな。

 だが、それなら分かりやすくて納得できる。

 話した感じ悪い人では無さそうだし、見た目は良くないが、一緒に同行するくらいなら我慢出来る。

 それで本来俺が受けられる依頼の10倍の報酬が貰えるなら安いものだろう。

 そう思い俺は二つ返事でOKする事にした。



「よっしゃ!なら決まりだね。依頼はどうする?今から受けるかい?」

「俺は今からでも大丈夫だけど、そっちは?」

「アタシらも大丈夫だと思うけど、メンバーに確認取ってくるよ」

「分かった」



 その後はソフィアのパーティーメンバーと合流して、すぐに依頼を受ける事になった。


 今回討伐するのは、オルーガという魔物だった。

 所謂、芋虫だ。だが、前の世界の芋虫と違い、大きさが50㎝程ある。

 基本的には攻撃手段も無く、ただ動くだけであることから最低ランクの魔物となっているらしい。

 ただ、弱くとも見た目は気持ち悪い。

 パーティーメンバーの1人がオルーガを見て可愛いのに殺すのが心苦しいと言っていたので、ここでも美醜が逆転しているのかと驚愕した。

 もしくは個人的な趣味趣向かもしれない。


 依頼は順調に進んでいき、何事も無く終わった。

 こんなに順調に終わると思わなかったので、肩透かしを喰らった気分になった。


 その後、約束通り報酬を全額貰ったので、お礼を言った俺は、ホクホク顔で帰ろうとしたのだが、ソフィアに呼び止められた。


 今から依頼達成の祝いをするから一緒に飲みに行こうという事だった。

 正直言って行きたくない。

 行きたくないが、もしかすると今後も討伐系の依頼に同行させて貰えるかもしれないと思うと、無碍に断る事も出来ない。

 そう考えた俺は今回は仕方ないと、その申し出を受け入れる事にした。



 ◇



「それじゃ依頼達成を祝って、乾杯!」



 飲み会はソフィアの音頭で始まった。

 祝勝会と言っても、ソフィア達に取ってはE+の依頼など何の苦労もない事から、それを口実にして俺と飲みたかっただけだろうな。

 俺と飲みたいなどと自意識過剰に思われそうだが、ここはそういう世界だ。

 こういう事は過大でも過小でもなく正確に認識しておいた方がいい。



「ほら、シュナイダーさんも飲んでよ!」

「い、いや、俺あんまり強くないから」

「まあまあ、そう言わず」

「あ、ああ。ありがとう」



 ソフィアのパーティーメンバーの1人はそう言って、俺にお酌する。

 ソフィアも言っていたが、確かにメンバーは全員イカつい見た目をしていた。

 男が寄ってこないと言っていたが、俺から見て不細工に見えるのだから、この世界では美人になるはずだ。

 それでもモテないという事は、やはり怖さの基準はどの世界でも変わらないという事だろうか。



「それで、シュナイダーさんって何歳なんですか?」

「22だよ」

「え!?もっと若いのかと思ってました!」

「全然見えないね。16くらいかと思ってたよ」



 どうやら実年齢より若く見られていたらしい。

 やはり日本人は外国人から見たら若く見えるのだろうか?

 ここは外国ではなく別の世界なんだけどな。

 それにしたって、16歳は流石に見えないと思うが。


 その後も話題は俺の話が多かったが、意外と盛り上がっていった。

 何時間飲んでたか分からないが、酔いも回ってきていたので結構な時間飲んでいた気がする。

 そろそろ頃合いだろうと思い、お暇しようと伝える事にした。



「なあ、そろそろ終わりに‥‥‥あれ?」

「おっと、大丈夫かい?」



 酒に弱いとはいえ、それを踏まえて抑えて飲んでいた筈なのだが、足元がふらついて倒れかけてしまった。

 ソフィアが咄嗟に支えてくれたので大事には至らなかったが。



「フラフラだね。酔ったのかい?」

「おかしいな。まだそんなに酔ってない筈なんだけど」

「自分じゃ分からないもんさ。安心しな、私達が最後まで面倒見てやるからさ」

「いや、そこまでして貰わなくても...っ!?」



 おかしい。

 思った以上に酔っ払っただけなら分かるが、徐々に体が痺れてきて上手く動かせない。



「ふふ、大丈夫かい?シュナイダー」

「っ...」



 嵌められた。

 ソフィアは俺を支えるように肩に腕を回しているが、もう片方の腕で俺の尻を撫で始めた。

 その顔は企みが上手くいったというように笑っていた。

 ...恐らく、酒の中に麻痺させる毒を仕込んだのだろう。



「あらら、シュナイダーさんはもうお眠みたいですね」

「でも私達シュナイダーさんの家、知らないですし」

「困ったねぇ。それじゃあ、私達の宿に連れて行くしかないね」



 これは、やばい。

 こいつらにやられる。

 こんな所で、こんな奴らが俺の初めての相手など、考えただけでも鳥肌が立つ。

 だが、逃げようにも体が動かない。


 ソフィアはそのまま俺を担いで飲み屋を出ると、恐らくソフィア達の宿屋の場所に向かっていく。


 俺は誰かに助けを求めて視線で周りを見渡すが、入り組んだ場所だからか誰も居ない。



「だ、だれか」



 口すら上手く動かせなくなってきた。

 それでもこんな奴らにやられるのは我慢出来ない俺は必死に目だけを動かして人を探した。


 いた。

 その人は、仮面で顔を隠して、道の隅を隠れるように歩いていた。

 少し遠いが、もうこの人しかいない。



「た、たすけて」



 絞り出したような小さく掠れた声だったが、仮面の人が此方を向いた。

 そして俺と目が合った。

 この人を逃せば、こいつらに連れて行かれてしまう。

 俺は目で訴えるように、必死で助けを求めた。









「......あの」

「っ!?...なんだい、醜女かい。あんたみたいなのが、アタシ達に何か用かい」

「......その人、は」

「...私達の連れだよ。用はそれだけかい。なら帰んな」



 俺の想いが通じたのか、仮面の人がソフィア達に話しかけた。

 だが、ソフィア達の言葉を受けて、どうしていいか分からないようだ。


 ダメだ、意識が消えそうだ。

 俺は最後の力を振り絞って、仮面の人に言った。



「た、たすけて、くれ」


「分かったわ」



 その瞬間、強い風が俺の意識を奪った。


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