第2話ギルド


 


 あれから宿に案内されて、1日寝て疲れがある程度取れたので、俺はこれからの事を考える事にした。


 どうやってこれから生活していくかもそうだが、俺をこの世界に呼んだであろう紙の持ち主は、俺に何を求めているのだろうか。

 何もなければ呼ぶ事はないだろう。

 何かを成してほしいから呼んだのだと思うが、紙にはその事に関しては書いてなかった。

 故に、これから何をするかは自分で考えなければいけないだろう。

 正直、生活だけならどうとでもなる。

 補助金もあるし、仕事は選ばなければ幾らでもありそうだ。


 硬貨の価値は俺が貰った大銀貨は、どうやら日本円にして1枚10万といった所だった。

 宿代は補助の内で自分で払う必要は無いらしいので、生活するだけなら何とかなるだろう。

 だが、今後の事も考えると仕事はするべきだろう。

 この世界の男がどんな仕事に就くのかは分からないが、どうせなら異世界ならではの事がしたい。


 昨日、冒険者という仕事があることも確認した。

 冒険者の主な仕事は、冒険者ギルドを介して街の人々や国からの依頼を受けて魔物を狩る事らしい。

 前の世界でも碌に運動などしてこなかったが、どうせ働くなら冒険者になりたい。

 強い魔物の討伐は無理かもしれないが、簡単な依頼なら出来るかもしれないからな。


 それとこれが一番重要なことなのだが、やはりこの世界は男性が少ないようだ。街で歩いている人を見ても、今の所女性しか見た事がない。

 その女性達は個人で差はあれど、皆見た目が良くない人ばかりだった。

 つまり、不細工しかいなかった。


 もしかすると、この世界は男性が少ない上に美醜まで逆転しているのかもしれない。

 そう思い至った理由としては、不細工な女性ばかりが堂々と顔を晒して歩いていたのに対して、俺が見た限り少数ではあったが、顔を仮面などで隠してこそこそと道の端を歩く女性がいた。


 彼女達が元の世界の基準で美人なのだとしたら納得が出来た。

 今度仮面の女性を見かけたら声でも掛けてみたら真偽が分かるだろう。


 もし仮に、美醜が逆転していたとしたら俺の人生大逆転にならないか?

 俺は相当な不細工なのだから、美醜が逆転すれば相当なイケメンという事になる。

 昨日の憲兵の1人に家に誘われたように、モテる人生が始まるかもしれない。

 いや、憲兵みたいな見た目の人はごめんだが。

 自分も不細工なのを棚に上げて、随分と好き勝手な事を考える。

 まあ今は考えても仕方がない。


 取り敢えず、今日は冒険者ギルドに行ってみよう。



 ◇



「少しいいだろうか」


「はい、なんでしょう...え、男性?」



 憲兵にそれとなく聞いた冒険者ギルドの場所を頼りにして来てみたが、外観も中身も割と想像通りという感じだった。

 中身は荒くね者が居そうな雰囲気があり、受付では受付嬢が笑顔で待ち構えていた。


 ただ想像と違った点は、中に居た人は皆女性であり、冒険者らしき人も受付嬢も見た目が宜しくない人しかいなかった事だろう。

 特に受付嬢は酷いな。

 昨日案内してくれた憲兵よりも不細工しかいない。

 やはり、美醜が逆転しているのだろうか。


 そんな事を思いながら、受付嬢でもまだ見た目がマシ・・な人に声を掛ける。

 見た目が女性なのにイカツそうな人が居るため、舐められたらいけないと考え、敬語を使う事は辞めておいた。

 こういうのは最初が肝心だと小説でも書いてあったからね。


 そうしたら、最初は笑顔で返されるが、男性である事に気付けば憲兵の時と同じ様に驚かれた。



「この通り男なんだけど、冒険者登録って出来る?」

「はい、それは大丈夫ですけど。え、冒険者になるんですか?」



 やはり男性が冒険者になる事は少ないようだ。



「出来るならお願いするよ」

「...かしこまりました。ただ、登録の前に現時点の能力値を測らせて頂きますが宜しいですか?」

「能力値?」

「はい、人や魔物との戦闘における能力値を測るんです。それをしないと、登録は出来ないので...」

「分かった。測ってほしい」

「かしこまりました。その前に、お名前をお伺いしても宜しいですか?」

「あぁ...」



しまったな。名前の事を全く考えてなかった。

本名を使ってもいいが、どうせなら心機一転という事で新しい名前にしたいな...。



「じゃあ、シュナイダーで」

「シュナイダーさんですね。それでは準備いたしますので、少々お待ち下さい」



この場で考えた名前を口にしたが、あっさりと受け入れられたな。

取ってつけたような言い方になってしまったので、偽名だとバレたかと思ったのだが...。

もしかすると、偽名でも問題ないのかもしれない。


 それにしても、戦闘能力を測るなんて事が出来るんだな。

 街並みを見る限り、科学はあまり発展して無さそうに見えたが、やはり代わりに魔法的になものが発展しているのだろうか。



「はい、準備出来ました。此方にどの指でもいいので入れてください」

「分かった」



 一度中に引っ込んだ受付嬢は、再び戻ってきた時に手には拳より少し大きいくらいの半球体上の物を持ってきた。

 球体の半分は指を入れられるくらいの穴が開いており、言われた通りに手を入れる。

 すると、チクリと僅かな痛みを感じた。

 どうやら、俺の血を取っているみたいだ。



「はい、完了致しました」

「能力値が出たんですか?」

「もう少しお待ちください。はい、出ました。なるほど、貴方の能力値はですね」

「俺の能力値は」



 無駄に溜める受付嬢に、俺は内心ドキドキしていた。

 やはり、男であればこういうのはワクワクしてくる。

 あまり期待は出来ないが、少しでも高いと嬉しいのだが。



「...F -です」

「......それはどのくらいなんだ?」

「.........そうですね。1番下になります」

「1番下...」



 受付嬢は何処となく言いずらそうに教えてくれた。

 ...まぁ、そりゃそうだよな。

 今までまともに運動してこなかったんだから、戦闘能力が高い訳がない。

 それでも、ここが異世界であるなら何らかのチート能力に目覚める事に期待したんだが...。

 異世界であってもそう甘くはないという事だろう。



「F−って、登録は出来るのか?」

「はい、登録自体は出来るのですが、1番下なので基本的に討伐系の依頼は受けられません。採取系や雑用が主な依頼になります」

「討伐系は受けられないのか...」



 うーん、それだと冒険者をやる意味があまりないような。

 やはり、冒険者をやるなら魔物を討伐して見たかったのだが、実力がたいないなら仕方ないよな...。

 ...うん、今度から体を鍛えよう。



「あの...そもそも男性なら、討伐系は受ける必要はないのでは?」

「?どういう事?」

「男性なら補助金も出ますし、女に守ってもらって家に居るのが普通ではないですか」

「...そうなのか」



 やはり、俺の仮説は正しいようだ。

 しかし、男性は女性に守られて家から出ないから外に居なかったのか。

 なるほど。

 ...そういう生活も結構アリかもしれない。



「特に貴方は見た目が良いですし、モテますよね。...もしよければ、私が養ってあげてもいいですよ?」

「え?いや...それはちょっと」



 受付嬢にそう言われて、俺は返答に困った。

 受付嬢の中で1番マシとはいえ、この子も相当な不細工だ。

 養われるのは嬉しいが、この子とずっと一緒に居るのは嫌だな...。


 どうやって断ろうかと考えていると、横から声を掛けられた。



「なんだい。あんた男の癖に、討伐系の依頼が受けたいのかい?」



 声を掛けてきたのは、ギルドの中で1番イカつい見た目をしている冒険者だった。

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