美醜が逆転した世界で、俺は美女のヒモになる
蘭童凛々
第1話転移
意識が覚醒した時、目に飛び込んできたものは、草木が繁茂した森林地帯だった。
普段凡庸なサラリーマンとして………都内で生活している俺にこのような僻遠の地で目が覚める心当たりは一切ない。
取り出すと一枚の紙が入っており、こう書かれていた。
『彼の地、汝と価値観の異なる世界也。我、汝を呼び出したる者。此処から西に進むべし』
書かれた言葉に首を傾げる。恐らくこの紙を忍ばせた相手は俺を此処に連れてきた元凶だろう。
そしてこの紙には、俺の現状が告げているのだろうが、正直余計に混乱しただけだった。
しかし、今はこの紙を頼りにするしかなく、俺は西に進む事にした。
昔何処かで聞いた、木を使って方角を調べる。
まずは木の枝などの棒を3本用意して、1本棒をまっすぐに立てる。
棒を立てた時にできる壁の頭に、もう一本の棒を立てる。
そのまま15分ほど待って、移動した影の頭にもう一本の棒を立てる。
たったこれだけで方角を知ることが出来る。
最初に影の頭に立てた棒の方角が西だ。
正直うる覚えなので、合っているのか不安だがこの方法しか知らない俺は、木が指し示す方向が西だと信じて進む事にした。
暫くして、街が見えて来た事に安堵した。
遠目から街を見る限り、中世ヨーロッパのような外観をしている。
あの紙を見た時に薄々感じていたが、俺は異世界に飛ばされたのかもしれない。
とはいえ、体感で半日以上歩いていた俺は疲労が限界で早く休みたいので、街に入らないという選択肢はない。
どうやら門に憲兵らしき人がいるようで、言葉が通じるか不安はあったが声を掛けてもらえるよう近づいていく。
「そこのお前、止まれ!......え!?」
憲兵らしき
しかし自分の格好を思い出して、納得する。
やはりスーツはこの世界では、珍しいのかもしれない。
「な、何故男性が街の外から...?い、いえ、それよりも大丈夫ですか!?」
「......?は、はい、すみません。気が付いたら森に居たみたいで、此処まで何とか歩いて来ました」
「え、1人で、ですか?」
「はい、1人です」
「そ、それは、よくご無事で...。ですが、安心してください。男性は手厚く保護する決まりですので、もう大丈夫です」
「...保護?あ、ありがとうございます。宜しくお願いします」
取り敢えず言葉が通じる事に安堵して、憲兵の女性と話を進める。
保護などはよく分からなかったが、どうやら街には入れてもらえるようだ。
憲兵は慌てたように詰所のような所に入っていくと、暫くして3、4人程人を連れて戻ってきた。
「貴方が、街の外から1人で来た男性...でしょうか?」
「ほ、本当に男性が...」
「そ、それに見た事ないくらい、かっこいいわ」
何故か最初の憲兵と同じように、俺を見て驚いていたが、先程と同じように説明をする。
「そうでしたか。もう大丈夫ですよ。この国では男性には衣食住で困らないよう補助が出る制度がありますから」
......もしかして、この世界では男性が少ないのだろうか?
俺に安心させるように笑顔で説明する憲兵もそうだが、先ほどから丁重に扱われている。
それに、衣食住を補償する制度はどうやら女性には適用されないようだ。
「此方は大銀貨2枚です。これだけあればひと月は暮らせます。また次の月の頭に何処の詰所でもいいので来てくだされば、同じ額お渡ししますので」
「ありがとうございます!」
......まあ、理由など今は気にしなくていいだろう。
我ながら現金だと思うが、貰えるものは貰っておいたほうがいい。
貰った硬貨の価値は分からないので、後で聞いてみよう。
「では、街に入りましょう。男性でも安心して泊まれる宿なども手配します」
「分かりました」
街並みの物珍しさに視線を右に左にと動かしていると憲兵の1人に笑われしまう。
田舎から出てきた御上りさんとでも思われたのだろうか。
...恥ずかしいのであまり挙動不審にならないように気をつけよう。
「あ、あの!」
「はい、なんでしょうか?」
たった今俺を笑った憲兵に声を掛けられる。
何処か緊張しているようだが何だろうか?
「も、もし宜しよかったら、私の家に来ませんか?」
「な、何言ってるのよあなたは!?」
「だって、こんな機会滅多にないじゃない!こんな素敵な人、此処で逃したらもう二度と出会えないわよ」
俺は今、誘われてるのか?
いや、普通に俺の境遇を不憫に思って言ってくれているだけかもしれない。
どっちにしても、まともに女性と話した事がない俺には前の世界では有り得ない出来事だ。
しかし、男性が少ないだけで何故こうも好意的なのだろうか?
俺はお世辞にも見た目が良いとは言えない。
それどころか、不細工でも上位の方だと自覚している。
その為、モテたためしなんてないし彼女もいた事はない。
もしかすると、この世界では俺はモテるのか?
まあ何方にせよ、この場での俺の答えは決まっていた。
「そ、それでどうでしょうか?お金も浮くし、こう見えて私、料理も上手なんですよ」
「すみません、色々あってまだ混乱してて。今は1人でゆっくりしたいんです」
彼女の申し出を俺は断った。
正直言ってチャンスなのだろうが、俺はどうしても彼女の家に泊まる気にはなれなかった。
「そ、そうですよね...」
「本当にすみません」
「い、いえ、気にしないで下さい!それで、落ち着いたら、ご飯でも行きませんか?私、奢りますので!」
「はい、それでしたらその時はお願いします」
「や、やった!」
断ると想像以上に落ち込んだ彼女に申し訳なくなり、食事くらいならと彼女の申し出を受け入れた。
「う、嘘でしょ...」
「...羨ましいわ」
「私が最初に声を掛けたのに...」
他の憲兵の人達が喜ぶ彼女に羨ましげに嫉妬の視線を向けているように感じたが、あくまで社交辞令として言ったのであって、多分行く事はないだろう。
その理由は、俺が言うのもおかしな話なんだが、その、彼女達は俺以上に醜い容姿をしていたからだ。
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