エイプリルフール

菜の花のおしたし

第1話 4月1日に嘘はつかない

パソコンを起動する。


おっ、来てる、来てる。

マルミからだ。


マルミは本当はルミなんだけど、少しぽっちゃりしてて、笑うと、ほっぺにたこ焼きをくっつけてるみたいだったから、マルミって

呼ぶようになったんだ。


高校一年の時に同じクラスになって、帰り道が一緒だったのもあって、仲良くなった。


俺はマルミを女の子として意識し出してたんだ。

ふたりで図書館で宿題やテスト勉強したり、

映画も観たりするようになった。

マルミも俺に好意をもってくれてると思うようになったんだ。


高ニの夏休みに、マルミが言ったんだ。

「あのね、アメリカに留学することにしたんだ。」

俺はびっくりしたけど、マルミが空港で働きたいって夢をもってたのは知ってたから。

そうなのかとも思ったんだ。


「あのね、パソコンでね、メールしようよ。

ほら、時差とかあるからさ。

スマホより、パソコンのがいい。

ねっ、お願い。」

マルミは手を合わせて、ペロっと舌を出したんだ。


俺は電話とかしたかったけど、マルミの言う

時差って言葉に納得させられたって言うか。


マルミは二学期にはいなくなった。

なんだよ、見送りくらいさせろよ!

俺は、俺の存在はマルミにとって、そんなモンなんかよって頭に来たんだ。


パソコンを起動したら、マルミからのメールがあった。

「行ってくるね。

私、頑張るよ、絶対にリョウに会いに帰ってくるからね。」


なんだぁー?

大袈裟だなぁ。

まあ、そりぁ、ひとりでアメリカなんて

怖いっちゃ、そだな。


「マルミ、無理すんなよ。

いつでも、俺は応援してるぞ。

マルミが英語ベラベラで帰るの待ってんぞ!」

俺は、そう送信した。


こうして、メールを毎日、毎日した。

一年過ぎて、俺達は高校三年。


今年になってからマルミからのメールは

短くなってきた。

マルミの気持ちが、日本から離れてアメリカに行ってしまったような気持ちになった。

終わりなのかもな。


最近は毎日のメールも時々になり、俺は益々

そう思うようになったんだ。


もう、一週間もメールの返事が来ない。

なんだよ、どうなってんだよ。

アメリカ人の彼氏でもできたんかよ。

なら、そう言えよ。

くそっ。


そう言えば、今日は4月1日、エイプリルフールだ!よーし、メールでやってやれ!


「マルミ、元気か?

最近、メール無いよな?

アメリカ人のカッコいい彼氏ができたんだろ?

ハッキリ言ってくれていいぞ。

俺もさ、下級生の女の子からコクられたんだ。

マルミの事、好きだったんだぞ、俺。

でも、マルミが好きな人が出来たなら

俺は応援する。」

俺は送信した。

今日はエイプリルフールだならな。

冗談だよーって誤魔化せるって思ったんだ。


メールはその夜に来たんだ。


「リョウ君へ。

ルミの母です。

リョウ君、ルミは昨日の夜に旅立ちました。

きっと、ルミはリョウ君に留学するなんて

嘘をついたんでしょうね。


白血病だったの。

骨髄移植の順番を待ちながら、ルミは

キツい治療を受けてました。


リョウ君のメールをね、楽しみにしてたの。

リョウ君、鳥や山や川、季節の花とか

美味しい食べ物とか部活の写真を送ってくれたでしょう?


それをね、眠れない夜にずっと見てたわ。

あの子、、、。


リョウ君、ありがとう。

ルミ、きっと、もう一度、リョウ君に

元気な姿で会いたかったんだと思います。


リョウ君、ルミは貴方を応援してますよ。」


俺、これ、嘘なんだよなって、、。

エイプリルフールだから、、、。


数日して、ルミのお葬式があったんだ。

ルミの顔を見たんだ。

そん時、本当だったんだって分かった。


あれから、俺は4月1日に、嘘をついたことはない。

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エイプリルフール 菜の花のおしたし @kumi4920

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