蝶つがいの羽ばたき

蒼「古夏。」


古夏「…!」


逃げ出そうとする小さな背を呼ぶ。

すると、律儀に立ち止まってくれた。


投票の結果、藍崎さんが吊られて翌日のこと。

午後になって特別教室を覗くと

古夏が1人で食事をとっていた。

ちょうど終わったところだったのか、

どこかから持ち寄ったお弁当のような箱に

蓋をしている時に声をかけた。


恐る恐る振り返る彼女は

私が過去見たことある

自信ありげな姿とは似ても似つかなかった。


蒼「少し話をしない?」


古夏「…。」


憧れの存在へ物理的に近づくのは

できる限りしたくなかった。

私のせいでその存在の神聖さが

削れてしまう気がした。

けれど、この校舎に

捕らえられている期間の中、

話もせず1人で居続ける古夏に

声をかけたくなってしまった。

気が狂ってしまわないか。

声を出せない。

それだけが理由ではないだろうが、

1人静かに莫大な不安を抱え

時間が経つのを待つのは

あまりにも苦しすぎる。


それが嫌なほどわかるから

放置しておくにも気が引けた。

古夏は首を小さく振ろうとした。


蒼「手話はわからないけれど、手書きでもなんでも…あなたと会話がしたい。時間がかかってもいいから古夏の言葉が聞きたいのよ。」


どうかしら、と伝う。

すると彼女は左右を見て

ひとつ頷いたのちどこかへ走り去ってしまった。


しばらくがらんとした

特別教室内を眺める。

黒板に時間割が書いてある。

それも1人分だけじゃない。

あまり目を向けてこなかった範囲のことで、

もちろん入ったことがなかった。

総合等の時間は皆と授業を受ける。

他はここで授業を受ける。

普段あまり肌で感じなかった

教室内での出来事が、

今ではありありと感じられた。

ここで生活しているのだ、と

見えないものを見た気分だった。


少しして足音が聞こえたかと思えば、

お弁当らしきそれを手放した反面

何枚かの紙とペンを持っている

古夏の姿があった。


向かい合わせになるよう席に座ると

緊張するようで肩に力が入っていた。

お話とはいえ雑談は得意ではない。

無言のまま向かい合って座っていると

古夏の手が拙く動く。


古夏『同じクラスですよね。』


蒼「ええ。1年間よろしく。」


古夏『よろしくお願いします。』


手が止まると自然と目があった。

が、おどおどして紙に目を落とされた。

その動きからは想像できないくらい

字は堂々とした性格をしている。


蒼「字、綺麗ね。」


古夏『書道部なので。』


蒼「書道部に入ったから字が上手くなるわけじゃないわ。才能か努力したかでしょうよ。」


古夏『園部さんは演劇部だって聞きました。』


蒼「ええ、そうよ。」


古夏『楽しいですか。』


会話の間には書く時間が挟まるせいで

随分とテンポの悪い会話だった。

が、言葉を少なくして

できる限り早く話そうと

気を遣ってくれているのは伝わる。


その言葉を書いた彼女は

すぐにそれを消そうとしたが、

紙に、言葉の上に手を重ねた。


蒼「消さないで。忘れるわ。」


古夏「…。」


蒼「楽しいわよ。どこを磨いても受け取り手によってアラができる。それを埋める試行錯誤をしている気分で。」


けれど、と

紙から手を離して続ける。


蒼「そうして考えずとも演技ができる人は羨ましいわ。言葉以上にフィーリングで役を掴むのよ。」


きっとかつてのあなたのように。

そう言いかけて口を噤む。

尊敬はしている。

が、優しい針で刺すつもりもない。

今彼女は声を出せない。

演技ができない。

それが事実だろう。


蒼「杏はそのタイプなのよ。中学の時演劇部で一緒だったのだけど、彼女の役を見るとその舞台の雰囲気全体がそれとなく掴めるの。」


古夏『園部さんは軸ですか。』


蒼「軸?面白いことを言うわね。」


軸どころか端くれよ。

そう形容して笑う。

言葉に詰まってしまったのか

それとも言葉を考えているのか

彼女の手が止まる。


時計の秒針が1周した頃、

俯いた彼女のまつ毛を見て口を開く。


蒼「校舎に閉じ込められて以降、何か変なことに気づいたり、実は伝えたいことがあったりはしないかしら。」


ぴくり、と彼女の手が揺れる。

『靄は知りませんでした』と書かれ、

その後ペンを持ったまま

紙から離れなかった。

少ししてまたペンが動く。

書いている音が、机をペンで叩く音が

学生の香りを放っている。

そこには。


古夏『霊媒師です。』


ひと言そう書き加えられていた。

はっとして彼女を見る。

私が紙を見たのを確認して、

その文字をぐしゃぐしゃに塗りつぶした。


蒼「忘れろってことかしら。」


古夏は首を振る。


古夏『証拠隠滅です。』





***





もう2度と放送はされないと思っていたが、

夜になって杏の声で

『話し合いたいことがあるから

体育館に集まってほしい』と響く。


杏「明日投票でしょ?その前に吊る人のことを少し話し合っておきたくない?」


皆が集まり次第

杏はそう口を開いた。


杏「みんなって正味人狼やりたい寄り?やりたくない寄り?」


いろは「やりたい人が人狼だー、とか言わない?」


杏「ないない。言うつもりないけど、どっちなんだろうって思って。人狼賛成派って最終局面で牙向いてきそうだし。」


湊「牙って言ったら人狼じゃないかい!」


詩柚「例えでしょお。」


杏「こうして話し合いで吊る時に集中的に他の人が吊られるよう仕向けるなんてこともありそうだしさ。」


詩柚「そういう杏ちゃんはどうなのかなあ。」


杏「全然やるよ。人狼。」


もしそれが必要になればね、と

ひと言付け加える。

杏は極めて冷静な立ち振る舞いをしている。

まるでかかってくるもの全てを

倒してもそこに立っているから、と

宣言しているようにも見えた。


杏「うち、霊媒師。」


一叶「…。」


杏「これまで吊った人たち人狼じゃなかった。」


蒼「人狼はしない話じゃなかったかしら。」


杏「他の手段もありそうだし一旦止めとくって話だった。それだろうと思うものが見つかってそれを選択しなかった時点で人狼は進めても問題はない。途中からやろうって言ったって手遅れになったら意味ないでしょ。ね、一叶。」


一叶「確かに一旦って言った。」


湊「穏便に行こうよ、現世組も頑張ってるだろうしさ。」


一叶「穏便に済むとは限らない。それに、私も人狼は肯定派だし。」


湊「何でそんな乗り気なの。待ってようよ。」


詩柚「信用できないんだよねえ。吊られた人が黒だったら?学校組が勝つことを祈って何もしないとかありえるでしょお。」


湊「ゆうちゃんまで。」


杏「賛成はうち、一叶、詩柚で。他は?」


いろは「私はどっちでもいいよ。」


蒼「どっちでもいい?」


いろは「なるようになるさー、です。」


湊「古夏ちゃんはどう?賛成?」


古夏「…。」


湊が古夏に寄って

顔を覗くようにして問う。

彼女は膝を抱えたままより縮まっては

首を横に振った。


杏「否定派が蒼、湊、古夏…中立がいろはね。」


一叶「半々なら進めよう。人狼を1人吊っとくくらいは問題ない。」


一叶は座り直して全体を見回す。

どちらが正しいのだろう。

今目の前のものを全てと捉えるとする。

現世など吊られた後のことは

今私たちから確認できない。

確実性があるのは人狼を進めて勝利すること。

秘密になりえることについて

既に知っている者はいるけれど、

知らない人が過半数。

もしそれが秘密となりえるのであれば

知られないに越したことはない。


蒼「半々ではないわ。人狼は進めるべき。」


湊「でもさっき…!」


蒼「人狼はしない話じゃなかったか、と確認しただけよ。」


杏「他に役職持ちはいない?騎士は一旦出なくていい、もし占いや霊媒対抗がいれば出て。」


少しの間静寂が訪れる。

ただ役職を持っている人が

名乗り出るだけなのに、

空気を読んでいるのが

肌を刺すように伝わってくる。

ややあってから1人、

すっと上に手を伸ばした。


一叶「はい。占い。」


いろは「彼方ちゃんの対抗だねー。占いの結果は?…って、聞いても意味ないっけ。」


一叶「今までの3回分全部占いしてるよ。」


いろは「そうだったんだ?」


詩柚「人狼はしない、全ての役職は何も行わないって言ってたけどお?」


一叶「そんな無駄なことするわけないじゃん。」


嘲るように笑う。

人狼ゲームを停止させている間

自分は秘密裏に情報を集める。

幸か不幸か人狼が強力的だったが故に

まるで裏切るかのような行為に見えた。

最初からこのつもりだったのだろう。


湊「そんな、騙し合いはなしって話じゃんよ。」


詩柚「はなから信じてなかったんだよ、この子は。」


湊「人狼側が報われないのは…」


杏「もう仲良しは終わりだから。」


空気を切るように杏がいう。

湊は口をつぐみ「そっか」と声を漏らした。

心底人狼をしたくなかったのだろう。

電気の光に押されるようにして

丸まった背中が物語っていた。


一叶「これまでの霊媒で人狼なしなら彼方は狂人だね。今まで3回占って、1回目は藍崎七は白。3回目が西園寺いろはは白。2回目なんだけど…羽元詩柚が黒。人狼って出た。」


詩柚「ふうん。」


一叶「私が狂人、人狼の可能性も大いにある。それはわかる。彼方と私を吊ればとにかく黒側は1人吊れるしね。ただその前に詩柚を吊って霊媒で見たら確実じゃない?」


いろは「霊媒師が嘘の可能性はー?」


詩柚「対抗がいないし本物なんだろうねえ。」


ふと古夏の方を見る。

それでも彼女はまだ

膝を抱えて下を向いているだけ。

自分から発信する意思がないのか、

それともしたくてもできないのか

真偽は定かではない。


古夏が人狼側の可能性もある。

私を信じ込ませて

のちに裏切る可能性だってもちろんある。

が、ここで出ないのはどうだろうか。

霊媒師、占い師は出るようにと言われている。

もし古夏が本物だったとして

出なければ損が大きい。

しかし人狼が動き出すとすれば

噛まれる確率はたんと上がる。


ああ。

人狼は綺麗になりづらい。


詩柚「じゃあ私はどっちつかずなんだねえ。」


一叶「自首は?」


詩柚「人狼じゃないのに何を言えばいいのかなあ。」


杏「詩柚を吊って色を見る。それで一叶が偽物かどうかもはっきりする。それでいいね?」


一叶「いいよ。占い師が片方削れてる中で占い結果を言う私も怪しく見えるのもわかるから吊ってもらっても構わないけど、詩柚は必ず吊って霊媒師の結果を見た方がいいと思うよ。」


詩柚「私からすれば彼方ちゃんが本物だから、一叶ちゃんは吊るべきだよお。」


一叶「誰からも言えることは占いと霊媒に黒側が1人ずついること。詩柚は外から見てる側はわからないと思う。」


詩柚「じゃあ私を吊らなくてもいいんじゃなーい?」


一叶「私目線、詩柚は黒だから吊りたい。人狼は1人削ってても大丈夫だし、むしろここで吊っとかないと人狼と同数になって終わる。」


詩柚「そんなに捲し立てなくてもわかってるよお。」


詩柚は口元を隠して

にんまりと笑った。

人狼ができて楽しんでいるようで、

私の目には異様に映る。

楽しみものではないはずだ。

ただ淡々と自分の陣営が勝つよう

進めるだけに過ぎない。


何を考えているのかわからないままでいると、

突如隣から微弱な力で

袖を引かれるのがわかった。

振り返ると古夏が袖を引き、

何か言いたそうな目で

こちらを見つめている。


一叶「じゃあ今日は解散で」


蒼「待って。」


一叶「何?」


蒼「古夏からひとつ、みんなへの伝言があるわ。」


そこまで口にして再度古夏を見る。

もう目を合わせてくれなかったが、

袖を引く手は離されていなかった。


蒼「今日聞いたのだけど、古夏は霊媒師らしいの。」


湊「え!?霊媒師も占い師も2人ずつ出るってことで…黒側2人は出てるってことじゃん。」


いろは「しかも詩柚ちゃんの占い結果が半々だから、もしかしたら3人出てる?」


詩柚「もう1回整理しなきゃだねえ。」


杏「その前に。古夏はどうしてさっき出てこなかったの?」


蒼「さあ。知らないわ。」


杏「何でか教えてもらうことってできます?」


杏が古夏の前でしゃがんで問う。

その姿勢がまるで暴力を振るう前の

ヤンキーのようで

見てるだけでも圧を感じる。

無論、古夏は縮こまった。


湊「ままま、そんな詰めないであげようよ。言いづらかったとか色々あるんだろうからさ。」


蒼「そうね。彼女にも考えがあるのでしょうし、それなら私がまた個別で聞いておくわ。」


一叶「蒼は古夏の肩を持つの?裏でのやり取りは怪しいでしょ。それならどこが繋がってるか考えやすいけど…どちらを真とするかに寄っては黒側の可能性もあるし。」


蒼「代弁するだけよ。困っている人を助けただけでこの疑われようは心外ね。」


詩柚「今どうなってるのか整理しようよお。もしかして私、吊られなくて済む?」


杏「いいや、それは厳しいと思う。」


詩柚「いじわるう。」


一叶「まず霊媒師、占い師共に2人出てる。黒は確実に2人出てる。」


いろは「古夏ちゃんの霊媒結果ってどうなの?」


蒼「まず、2人を霊媒したかしら。」


すると、古夏は静かに頷く。

それから彼方と七が

人狼だったかを聞くと、

両方とも首を振った。


杏「じゃあ霊媒結果は同じ。彼方が真かわからないけど吊れたとしても狂人。」


詩柚「じゃあ霊媒はどっちが真か偽かわからないねえ。」


一叶「私目線詩柚が人狼だから黒側3人出てる。あくまで個人的視点だけど。」


いろは「彼方ちゃんが本物の可能性だってあるんでしょー?」


蒼「そうね。可能性はある。」


一叶「霊媒師の真偽も今のままじゃつかない。霊媒結果によって見分ける形になる。だから詩柚を吊るのが1番。」


詩柚「あーあ…吊られたくないけど、村のためなら仕方がないかあ。」


一叶「なんで吊られたくないの?」


詩柚「そりゃあ人狼に参加できないからだよお。自分が勝つか負けるか、この先知ることはできないだろうからねえ。」


これまで見ることのできた

迫り来る針だらけの天井を

今度はうつ伏せになって待つのと同義。

見ていても不安、

ただし知ってしまった以上

見ていなくても不安でしかなかった。


霊媒結果はきっと割れる。

それぞれ一叶と同じ陣営か、

彼方と同じ陣営か。

もし両方詩柚を人狼だと言ってしまえば、

確定で詩柚は黒、

同時に真の霊媒師も把握できる。

人狼側が2人割れてあとは1人。

霊媒師を両方吊れば

人狼そのものには終わりが見える。


しかし占い結果が割れたら

その時点で人狼陣営と村人陣営のペアができる。

人狼は霊媒師にいるのか、

それとも村の中に隠れているのか。

そこを探る話し合いになってくるのだ。


詩柚「仕方ないかあ。」


改めて息を吐きながら言う。

心底残念そうだった。


その話し合いがあったからか、

それともムードメーカーだった藍崎さんが

吊られてしまったからか、

空気は些か重たく感じる。

皆別々に過ごしているようだった。


気を紛らわせるために

図書室にあった数学の問題集を手に取ったが

解く気にもなれず

1人自室とは別の教室に座っていた。

窓の外を眺む。

陽が落ちるところを見たかった。

夕日は何故か記憶に濃い。

あの燦々とした黄色が、橙色が

白くなるまで目を突き刺す。

赤色がじんわりと滲んでゆく。

そんな夕日が脳裏に深く刻み込まれていた。


はっとして問題を解こうと

顔を机に向けた時だった。

がらら、と音がした。

横目で確認すると、

そこには湊が入ってきていた。


湊「お、蒼たや。」


蒼「たやって何かしら。」


湊「愛称だよん。」


あおたやでもいいな、と

1人呟いているのが聞こえる。

手を止めて彼女の方を見ると、

湊は3席隣の席に座った。


湊「それにしても今日の話し合い、ちょっとぴりっとしたよね。」


蒼「そうかしら。」


湊「でもでも、うちら炊事組の絆は不滅!」


蒼「そんなことはどうでもいいのだけど。何か用事かしら。」


湊「ううん。ただみっけたからきただけ。」


蒼「そうだ。ならひとつ聞きたいことがあるのよ。」


湊「なになに?」


蒼「詩柚は今回の参加者の中であなた以外に関わりのある人はいるのかしら。」


湊「ゆうちゃん?いいや、うちだけじゃないかな?」


蒼「そう。わかったわ。」


返事を落とし問題にしせんを視線を落とす。

すると湊は前のめりになりながら

声を上げるのが微かに見えた。


湊「ちょいちょい、何でそんなことを?」


蒼「詩柚を吊った場合、現世組の謎解きはどう進むんだろうと思っただけよ。」


湊「さっきは人狼肯定派で今度は謎解きの心配?」


蒼「悪いかしら。」


湊「んなこと言ってないよ。うちらは合鍵持ってる仲だし、うちかゆうちゃんを吊れば2つ情報は手に入れられるんじゃないかなと思ってる。」


蒼「そう。」


湊「あおいんは?」


蒼「一叶、杏と同じマンションだから、管理人に言ってあげてもらう。それで自分も合わせて3つかしら。同じ学校で言えばあとは藍崎さんと古夏。」


湊「おー、力こそパワーだね。」


蒼「何を言っているのかしら。」


けたけた、とひと通り笑う。

それから落ち着くよう息を吐いた後、

声を落としてこう言った。


湊「うちは平和に終わりたいよ。」


蒼「勝負はしたくないのね。思い当たる秘密はないのかしら。」


湊「これだってものは実はないんだ。ゆうちゃんのおやつ摘んだこととかかな?って思ったりはするけど。」


蒼「そのくらい軽いものだったらいいわね。」


湊「確かに。秘密の定義って曖昧だしわかんないね。」


言葉は曖昧だ、と言わんばかりだった。

彼女はくしゃ、と笑う。

自然とペンを置き

問題集を閉じていた。


湊「でもうち、負けてみたい気もして。」


蒼「え?」


湊「うちが何を秘密に思っているか知りたいんだ。もしかしたら無視してるだけで、うちにだって何かしらの異常性があるのかもしんない。」


蒼「あなたは十分異常だと思うけれど。」


湊「わはは、そういう話じゃなーい!」


かたん、かたんと

椅子に座ったまま前後に揺れていた。

椅子の音が空の教室に響く。


湊「人ってみんなちょっとずつおかしいじゃん?だからこそむしろここが変わってるって言われた方が安心するみたいな!」


蒼「へぇ…?」


湊「言葉って難しいね。レッテルを貼られて安心したい…みたいな。病名がついたほうが自分が何者かがわかって安心する、みたいな。」


理解し難いが言いたいことはわかった。

世の中には病名がついた方が

安心するという事例を

何度か見かけたことがあった。

酷い熱があるのに

病名がないとなれば

一体なんなのか気になる。

そこにインフルエンザ等々

病名がつくことで安心する。

それに対しての対処法もわかるのだから。


精神的な病気だったとしても

同様な場面があると聞く。

その反対も然りだけれど。

意識することで余計

気になってしまうことだってある。


「話がそれちゃったね」と

彼女も椅子から立ち上がった。


湊「とにかく、自分についてもうちょっと知りたいなってだけ。けど周りの子達を巻き込んでまで知る必要もないから、ここは穏便にって考え。」


蒼「なら鬼ごっこは?最後の1人だけが秘密を暴かれるのだとすれば、あなたは最適だと思うけれど。」


湊「わはは、そうかも。でももしそうなったとして、ゆうちゃんが結果を知ったら怒りそうだなー。」


豪快に笑う彼女だったが

微かに翳りが見えた気がした。

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