父ちゃんが人間やめて天使になったからちょっとたすけて
天晴(あっぱれ)
第1話 いつもとどこか違ういつも通りの朝
いつもと変わらないいつも通りの朝。
親父が作る少ししょっぱい味噌汁をすすり、親父が作ったたまごが少し焦げた独創的な形状のオムライス(これでも半年前よりは上達したほうだ)を口に運びつつ、なぜかいつもと何処かが違う親父の違和感についてぼんやりと考えていたオレは、『頭が真っ白になる』とは、なるほどこう言う体験かと、しかし何処か冷静に考えていた。
「えっと……オヤジ、もっかい…いってくれる?」
「だからな、父ちゃん…
ーー人間辞めて、天使になったんだ」
その数秒後に、平和な住宅街の安アパートに、小学2年のまだ世間を知らないクソガキの怒鳴り声が、響き渡った。
「ーーっざけんじゃねえよ!!おい。母ちゃんに先立たれて親父がまいってたのは子供のオレでもわかる!けどオレは、そんな親父だから、オレだってなにか役に立とうと思って、親父を支えなきゃって……思って!なのに、なんなんだよこのていたらくは!天使?はあ?メルヘンか?!ファンシーか?!……オレが憧れてた親父の背中をけがすな!鏡をみろ!親父の背中には翼なんてはえてねぇよ!鏡と現実を見ろ!
そして時計もみろ!」
「シン……」
「オレは、今日の親父はだいきらいだ!……たのむから、オレが支えるから…せめてオレが就職できる年になるまで、折れないで、くれよ…オレのだいすきな親父の背中をみせててくれよ…っ!」
「ちがうんだ、シン!」
「もう学校いくわ。親父、帰ってきてからちゃんと話きくから。りりがもう迎えに来る時間だから、行かなきゃ…親父、だいきらいって言っちまってごめん。オレはいつだって、親父の味方だから、ずっとそばにいるから、たのむから、生きる事を辞めないでくれよな。いってきます…」
「シン…」
困ったような泣きそうな顔の親父を残して、ランドセルをさらうように持ち、靴を突っかけて外へでる。
階段を降りると、こっちはいつもどおりの、いつもどおり間の抜けた声のりりが
オレを見るなり破顔する。
オレにとって妹でもあり姉でもありペットのように大事な存在…りり。
いや……ペットは、失礼か?
「シンくんおはよ。ふふ、寝癖ついてるーかわいいなあ」
「えっまじか。どこ?目立つ?」
「んー。りりちゃんはシンくんのことだいすきだから気づくけど、他の人は気づかないレベルだから全然大丈夫ー」
「あのなぁ…りり姉は簡単にすきっていうけど、それどうなの?他の人から勘違いされてめんどくさいことになったりしねーの?」
「えー?りりちゃんはシンくん以外にこの言葉使わないから大丈夫だよー。あれ、もしかして、やきもちやいてくれてるの?」
「はいはい、そうそう。やきもちやきもち。りり姉は高校生にもなってふわふわしてるから、オレが守ってやんなきゃいけないの」
「ふふ。シンくんたのもしーなあ。流石りりちゃんの王子様候補」
りりが高校でどんな友人たちに囲まれているのかは知らないが、こんなりりは、どうやら高校一年生にして生徒会長をしているらしい。
『なんかよくわかんないけど気がついたらなっちゃってた』、と笑っていたりりは、
それでもオレの前ではいつもこのりりだ。
だからオレも深くは追求しようとしない。
誰にだって、表と裏の顔がある。
母ちゃんを見てたからわかる。
だから、表と裏の顔が同じ親父だから、オレと母ちゃんは親父を支えてやんなきゃって…そうやってオレの家庭は父ちゃん中心で回ってた。ーー半年前までは。
父ちゃんが人間やめて天使になったからちょっとたすけて 天晴(あっぱれ) @ronoann369
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