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木嶋さんの下で働き出して二週間が過ぎ、ようやく仕事のルーティンが掴めてきた十月の半ばだった。夜九時半、廊下で私はばったりと、一か月前まで新人研修をしてくれていた生村さんに鉢合わせをした。
「あ、佐々木さんじゃん。久しぶりだね」
生村さんは以前と何も変わらない様子で、私に微笑みかけた。
「フロア分かれちゃうとぜんぜん会わないね。どう? 頑張ってる?」
その変わらない優しさに――こらえていた涙腺が崩壊した。
泣いちゃだめだ。もう社会人なんだから。大人なんだから。そう言い聞かせるのに涙は止まってくれなくて、私は咄嗟に顔を伏せる。カーペットに一滴二滴、染みが落ちた。まずい。どうしよう。逃げなきゃ。一人にならなきゃ。
「佐々木さん」
生村さんがどんな表情をしていたのかはわからない。けれど、背を押すように、ぽんと手が置かれた。その声は静かで、安らかだった。
「外行こうか」
声を出したら嗚咽が漏れそうで、私は黙って頷いた。
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