第24話 広がった可能性
イバヤ遺跡で囮役として見捨てられた魔術師のミレイユを救い、帰還とクエスト達成した俺達は後日、彼女を俺達のパーティーに迎え入れる事になった。
その数日後————————。
「セリカ、そっち行ったよ。」
「ハイ!ヤッ!」
「ゴォォォーーー!」
駆除を依頼された村からモンスターの討伐に勤しんでいた。
“オーク”や”ハイオーク”の集団を討伐と言うDランク向けのクエストだ。
コロニーと言うほどの数や規模ではないものの、悩む町人達だけでは到底どうにもできない内容である事からギルドにクエストとしての発注が来ていたのだ。
俺とセリカ、ミレイユら3人でクエストに赴き、それを実行中だ。
“オーク”とは豚のような猪のような顔をベースにした強面のモンスターであり、筋骨隆々としながら脂肪が程よく乗った身体つきのモンスターである。
その上位種である”ハイオーク”は”オーク”より一回り以上大きく武器を扱う知性があるので、Dランク未満の冒険者が挑むのはかなり無謀な相手である。
「「「「ガァァーー!」」」」
「…ッ!」
「【氷魔法LV.1】『ブリザード』!」
俺とセリカは10体ほどのオークに襲われたものの、新しく入った魔術師のミレイユによる【氷魔法LV.1】による魔法『ブリザード』と言う冷たい吹雪を放つ攻撃でオークたちは凍って動けなくなった。
俺とセリカは剣による攻撃で”オーク”を倒していき、ミレイユも【氷魔法LV.1】による魔法『フリーズランス』で援護する形によって殲滅していく。
「…ッ?後は…。」
「コイツだけだな。」
「ガオォーーーーー!」
最後に残った”ハイオーク”は大きな斧を右手に持ち、負けるわけにはいかんばかりの咆哮を挙げながら俺達に向かって突っ込んで来る。
「【氷魔法LV.1】『フリーズショット』!」
「ヴオッ?」
俺とセリカの背後から、【氷魔法LV.1】による『フリーズショット』がハイオークの右脚首に放たれ、地面と縫い付けるかのような状況となった。
「ガバァーーッ!」
ハイオークの右脚首から鈍い音がなり響き、仰向けに倒れる。
以前のイバヤ遺跡の調査クエストで出くわしたレア度Dにしてパワーと頑強さがセールスポイントの“オーガナイト”に使った戦法を“ハイオーク”にも実行し、見事にハマった。
だが、ここからの決定的な違いがある。
「【ソードオブハート】&【剣戟LV.1】『斬鉄剣』!」
「はぁぁぁーーーーー!」
ザシュッ!
「グォォーーーーーー!」
俺は会得したユニークスキルの【ソードオブハート】による強化でハイオークの背中から心臓を深々と切り裂いた。
ハイオークは魔石を落とした後に、そのまま光の粒子となって消え去った。
「「「やったーーー!!」」」
俺とセリカ、そして加入したミレイユの3名で、Dランク向けのモンスター討伐系クエストに成功し、喜びの声を挙げた。
今まではセリカと二人でクエストに挑んでいたが、最近入ったミレイユの魔法攻撃や知識のお陰で誰も大きな怪我をする事なくやり切れた。
一人増えたと言うよりも、接近戦がメインとなるセリカに中遠距離戦がメインとなるミレイユの戦闘スタイルがパーティーに良いバランスを生み出しており、戦術に幅が凄く広がっている。
セリカは【風魔法】、ミレイユは【炎魔法】【水魔法】【氷魔法】と使える魔法の属性にバラツキがある分、攻めのバリエーションも豊富になっている。
俺も習得して日の浅いユニークスキルである【ソードオブハート】の習得したお陰で、一時的な大幅強化による決定力の上昇もあって、パーティー全体の戦力向上がハッキリ分かるくらいに理解できた。
「ミレイユの魔法攻撃は本当に強くてバリエーションを生み出すきっかけになるな。」
「セリカのあの【風魔法】による殲滅も凄かったですし…。」
「トーマさんの作戦立案のお陰で上手く行っちゃってますから…。」
俺達は互いが互いの長所や働きぶりを褒め称えながらその現場を後にし、依頼してきた町の町長らに討伐完了を報告した。
討伐したモンスターから出てきた魔石を見ると、すごく喜んでくれた。
頑張った甲斐があるってものだ。
そして俺達はギルドに戻って完了報告の手続きを終え、報酬受け取りや魔石の換金を終えて、現時点の拠点であるセリカの家に戻っていった。
道中で屋台や八百屋に寄って、よく食べる唐揚げやシチューの食材を買って帰った。
「うーん美味しい!」
「セリカの作るシチューは美味しいけど、ミレイユが作るシチューもまた美味しい!」
「もぉ、誉めても何も出ませんよ!」
今日の料理についてはセリカでなく、「お世話になっているから役立ちたい。」とミレイユがメインで担った。
ミレイユもセリカがよく俺に振舞ってくれるシチューを作ってくれた。
心して食べると、セリカは身体によく染み渡るような味わいとそれでいてまだ食べたいと思いたくなる感じだったが、ミレイユが作ったモノはパンチが効いて精が付くような素材を活かしたような味わいだった。
ミレイユも確か前にいたパーティーメンバーから雑用を押し付けられていたと聞いており、料理も散々やらされていたのだろう。
だが、俺やセリカが食べても本当に美味しかったので、誉めるコメントを並べてはミレイユも凄く嬉しいと示すような表情を見せてくれた。
あらゆる雑用を押し付けられていたものの、その経験のお陰でミレイユのこんなに美味しい手料理を味わえているから、振舞われる俺達から見れば嬉しい限りだ。
ミレイユを追い出した連中達にはそこだけ一応、感謝してやろうかな。
「他にも何か作れたりするの?」
「はい、他にも煮込み料理とか、焼き物とかでいくらかレパートリーはあって…。」
「他の煮込み料理も興味ある!今度食べたい!」
「私ので良ければ…。」
「トーマさん、今度みんなで作りましょうよ!」
「それいいね!外で焼き物パーティーってのも…。」
そう言うミレイユはエプロンを取りながら恥じらっていたけど、可愛い。
と言うか、セリカもミレイユも端から見て美人な二人と一緒の屋根の下にいるってんだから、正直もうドキドキだ。
ミレイユがセリカの家に住み着いた時には、彼女の部屋で布団を敷いて寝床にしている。
2~3日に一度はセリカとミレイユは一緒のベッドで寝ていたりするくらいに仲良しだ。
同じ世代の女性冒険者と寝食を共に過ごせるのがよっぽど嬉しいのだろう。
そうして3人でDランク向けのクエストを受けてお金を稼いで寝食を共にし始めて生活を始めるようになって数週間……。
一狩りおえたクエストをこなした日が沈み始めた頃
「「「カンパ~イ!」」」
「あー美味しい!冒険者にはエールよねー!セリカ!!」
「そ、そうだね。」
「トーマさんもエールと冒険者って切っても切り離せない、思いません!?」
「確かにね……」
クエスト帰りで営業中の酒場を見つけたセリカの一言をきっかけに、俺達はその酒場に入っていった。
気分を変えて、飲食専門のお店を選んだ。
「ギルド飯は最高ですけど、飲食をメインにしたお店で食事を楽しむのも良いですね~。このジャーキーや焼き物もまぁ美味しい!」
「え?ミレイユ……」
食事を暫く楽しんで一時間、ミレイユは酔いが回ると口数が増え始めていた。
今この状況なら大きな問題こそないものの、この数日でミレイユは俺やセリカよりも酔いやすいのが分かってしまった。
「分かった分かった、じゃあミレイユまずは水を飲んで…。」
「何ですかーーー?!」
「はい、お水」
「あ、どうも」
俺は気が大きくなるミレイユに水を差しだしてどうにか窘め落ち着かせた。
「ゴクゴクゴクッ。プハーッ!」
「あぁ、ちょっと落ち着いた気がします……」
「な、なら良かった……」
「ミレイユさんって酔うと面倒なタイプなんですかね?」
「かもね……」
セリカと小声でやり取りしながら、水を飲んで少し落ち着いたミレイユは机に顔を突っ伏すような姿を見せた。
「すいません、もう一杯お水欲しいです」
「わ、分かった。すみません、もう一杯お冷を!」
冷静になり顔を上げたミレイユのセリフを聞いてセリカがお冷を追加する。
出されたお水をグイッと飲んだミレイユはフーッと息を吐いた。
「トーマさん、セリカ!今日は色々と本当にありがとうございます」
「う、うん。って何かな?急に………」
「私をパーティーに誘っていただいた事に決まってるじゃないですか!遺跡を彷徨っていた時、凄く辛かった。死ぬ事も覚悟しかけていた。そんな中で二人と出会って、また冒険者として再起できて、一緒に笑って、こうしてお酒を飲み交わして。あの時トーマさん達の誘いを受け入れて本当に良かったって心から思います」
ミレイユは俺とセリカと出会った時や今日に至るまでの出来事を思い返していた。
「それを言うなら……、俺も感謝しているよ。ミレイユのお陰でモンスター討伐も凄く助かっているし、冒険が楽しいって改めて思い出せたんだ」
「私も、ミレイユと一緒のパーティーで色んなところへクエストに赴いて、楽しい日々を過ごせているの!」
「トーマさん、セリカ……」
俺達もミレイユが加入してくれた事に感謝の気持ちを伝えた。
魔法攻撃を得意とするミレイユの加入は、俺達に新たな可能性をもたらしてくれたのは紛れもない事実であり、賑やかで楽しいパーティーになったのだから。
「でしたらそんなお二人に、聞いて欲しい事があるんですよ」
「何……?」
「吐き出したい事は吐き出した方がスッキリするよ。」
俺とセリカは寄り添うようにミレイユの言葉を聞く姿勢を整えた。
「そうですか、ありがとうございます。今から言う事、全部本当ですからね……」
そしてミレイユは気を引き締めるように語りだした。
ミレイユの半生や冒険者になって現在に至る今までを……。
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