第23話 新たな道を示して・・・
イバヤ遺跡で囮役として見捨てられた女性の魔術師であるミレイユさんを救い、クエスト達成した俺達は彼女を捨てたパーティーらを追及して、ギルドマスターであるカルヴァリオさんの介入によって解決へと動いていた。
そうして2日が過ぎた――――。
「やっぱりこうなるよな」
「そうですね……」
「……」
俺達は一つの掲示物を見て割り切り納得した様子を見せた。
ミレイユさんはこの二日間、冒険者としての活動を休んでいたため、今の服装は冒険に出るような装備ではなく、一般の市民が着ていそうな軽装に身を包んでいた。
だが今は、少し気が重いような表情だったが…。
〈仲間の一人を強引に囮役にして退路を奪ったパーティー。冒険者の復帰は絶望か?!〉
そう見出しにあった掲示物にはミレイユさんを追放したパーティーメンバーの名前と顔写真、そして事の経緯が張り出されていた。
ギルドマスターであるカルヴァリオさんの指示で職員らが調査、俺達をはじめこの件に関わった人物の事情聴取を行った結果、ミレイユさんがいた元メンバーらは全員相応の処分を受ける流れになった。
その内容は、囚人奴隷落ちと言う刑罰だ。
話によると、今回のミレイユさんに酷い所業をした連中みたいに「クエスト実行中にメンバーを囮や犠牲役として置き去りにする」「明らかに貢献したメンバーに分け前を与えないもしくは不当な利益しか及ぼさない」などと明らかに冒険者もとい人としてのモラルやマナー、何より定められた法令や規則に反する所業をしでかした人物には相応の罰則やペナルティを与えられる。
それでも内容次第では「加害者と被害者同士で示談にする形で水に流し、互いの社会的信用を守る」「損害を及ぼした相手に払うべき賠償金を納めれば前科を付けずにランクを一つ下げて冒険者としての復帰を許す」などの条件付きだが、情状酌量の余地ありとして再起をするチャンスのかかった話をもらえる例も多いとの事だ。
「気に病む事はないですよ……」
「あの時のあいつらの振る舞いは目に余ったからね……。カルヴァリオさんがあんなに怒るのも納得だよ」
しかし、ミレイユさんが元いた連中は身勝手な理由で囮役を押し付けて逃げられないようにして見捨てたばかりか、ギルドにも彼女が死んだ事及び自ら殿を務めたと嘘の報告を行い、挙句に生存が判明しても自分達は悪くないと被害者面みたいな振る舞いや逆ギレまでしたから非常に悪質と見做された。
結果、囚人奴隷落ちとなったと言う流れだ。
詳しい調査によると、今回のミレイユさんを置き去りにした事件だけでなく、過去に数回も同じような卑劣極まりない行動を起こしていた事実も判明した。
要するに、今回みたいなトカゲの尻尾切りをミレイユさん以外の人物相手にやっていたって事だ。
ミレイユさん以外の時は置き去りにした後にそのまま死んでしまったからバレなかったものの、今回は不運にも露見した。
本当に酷い連中だな。
囚人奴隷とは、冒険者が悪質な所業を犯した者に与える重大なペナルティにして手痛いレッテル貼りとの事だ。
奴隷と言う言葉の通り、鉱山や農村などへ一定期間赴き、作業員として勤務させられる。
もちろん、奴隷期間を終えても冒険者として復帰する事そのものは不可能ではない。
しかし、各所にある冒険者ギルドにも犯罪を起こした冒険者に前科が付く情報が流れてきてしまうため、当然その信用と信頼が地に落ちている状態であるのは明白だ。
そうなるとFランククエストさえ受ける事も難しくなり、冒険者として再起や生計を立てるくらいまで持ち直せるのはごく僅かになる。
ミレイユさんの元パーティーメンバーは3人合わせて賠償金を支払う事になり、少なくとも10年以上は奴隷として鉱山で働かされるとの事だ。
囚人奴隷として働かされる者は食事と睡眠以外のほとんどが仕事に充てられるため、過去の栄光も何もないまま機械のように働かされるのは、地獄以上の苦痛としんどさだろう。
でも、自業自得だから何も響かないし、とにかく罪を償ってもらうほかない。
どんな国や世界でも、悪い事はするものじゃないな。
「ミレイユさん、調子は大丈夫でしょうか?」
「はい、少し良くなりました」
「そうですか」
俺達はギルド併設の食事スペースにいる。
俺とセリカは昨日、モンスター討伐系ではなく、採取系のクエストをほどほどにこなしたが、今日はクエストを受けるのはお休みにして、彼女と色々話し合う機会を設ける事にした。
ミレイユさんは元パーティーからもらったいくらかの迷惑料や賠償金を使って格安の宿を借りて一人で過ごしていたが、無表情の中に少し気持ちの整理がついたような表情だった。
あんな理不尽な元メンバーに酷い扱いをされる苦痛から解放されたと思って、心が軽くなったのだろう。
「トーマさん、セリカさん。今回は助けていただき本当にありがとうございます」
「当然の事をしたまでですって」
「無事なのがなによりですから」
ミレイユさんは改めて俺とセリカに向かって頭を下げて感謝した。
俺はセリカと一緒に「いえいえ大丈夫です」みたいなポーズを取った。
「それはそうとして、ミレイユさんはこれからどうしていくかは……?」
「まだ決めていないんですよね」
「冒険者はお辞めになるのでしょうか?それとも違うお仕事を始めるとか……?」
「それは、えっと……」
俺とセリカがミレイユさんの今後について質問をすると、彼女は答えを出しかねていた。
元いたパーティーメンバーに加入して以降、雑で無粋な扱いを受け続けた挙句に危険な場所に無理矢理置き去りにされる過酷な経験もしてしまっては、「また冷遇される、見捨てられる」と不安を抱き、誰かと一緒にまた冒険しようと躊躇ってしまうのは無理もない。
嫌になって冒険者を辞めようと思い至る可能性だって高い。
「じゃあ、俺からも…いや、俺達からも一ついいかな?」
「はい……?」
俺は話を切り出し、セリカも微笑み、ミレイユさんはその顔を見やった。
「俺達のパーティー【トラストフォース】に入らないか?」
「え……?私がトーマさん達のパーティーに?」
ミレイユさんは俺の提案にポカンとしたような表情を見せた。
無論、セリカとも事前に相談したうえでこの話を持ち掛けた。
「今は二人しかいないけど、これから行動範囲やパーティー全体の実力を上げるためにもう一人仲間が、それも中遠距離攻撃が得意な冒険者を探しているんだ」
「私は近接戦がメインになって、トーマさんも今は私と似たような戦闘スタイルですから、魔術師とかがいいなと思ってずっと探してたんですよ」
「それでイバヤ遺跡で出会った君を引き入れたいと思っている」
俺達は今のパーティーの現状や方針、中遠距離攻撃を得意とする冒険者を仲間に引き入れたいと言う考えを伝えた。
「は、話自体は凄く嬉しいです」
「でも、私なんかでよろしいのでしょうか?」
「雑用どころか囮役を押し付けられるような私なんかで……」
ミレイユさんは自信なさげに呟いた。
元パーティー連中の手酷い扱いを受けて自己肯定感が低めになっているならそんなセリフが出てきてしまうのは想定済みだ。
「魔術師を引き入れたいんじゃない!ミレイユ・パプリフォスと言う一人の素晴らしい冒険者を引き入れたいんだ」
「え……?」
俺はミレイユさんの魔法や人間性を見てきた。
魔法も冒険者としてはまだまだこれからだろうが、彼女の本来健気でひたむきな性分を考えれば、伸びしろは凄いあると俺は直感している。
俺がオーガナイトを倒す直前で得たスキルについてもその場で分かるくらいに理論付けて説明しきれるその知性もまた武器になる。
だからミレイユさんを引き入れたいし、セリカも同じ気持ちだ。
そのためにセリカとどうやって切り出し、話していく事を昨日中に打ち合わせておいた。
「君はまだまだ強くなれる。今はただ自分に自信が持てていないだけ。今まではメンバーや一歩踏み込む勇気を持つ機会に恵まれなかっただけ」
「でも今は、俺達がいる!」
「俺達は、君の可能性と未来を信じている!」
俺はミレイユさんを勇気づける言葉をかけ続けた。
セリカは隣で穏やかに笑っているが、「歓迎しますよ」って意思表示も伝えている。
ミレイユさんは俺達と初めて出会った時、ギルド内で自分のために本気で怒り対応してくれた時の事を思い出しながら数十秒ほど考え込んでいた……。
「そうですね。あの時、元パーティーの人達に捨てられて、傷付いて死ぬかもしれないと思ったけど……」
「私はお二人に助けられたから今こうして生きている。そして、ここにいる」
「そんなお二人がこうして誘ってくれたのは、きっと神様が、また冒険者として頑張って欲しいって与えたチャンスなのかもしれません」
「それに……」
ミレイユさんは改めて気づいた言葉を並べた。
そして次第にその表情に明るさが灯っていく。
「私の命を救い、可能性を信じてくれたトーマさんとセリカさんの言葉とお誘いです」
「ですから……」
「私をお二人のパーティーに入れて下さい」
「あぁ、もちろんだ!」
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします!」
ミレイユさんの顔に笑顔が戻り、パーティー加入を快諾してくれた。
俺とセリカもその決断を喜び、ミレイユさんを交えて手を取り合った。
こうして、Dランク魔術師のミレイユ・パプリフォスが新たな仲間となった。
「パーティーに入ったので、お二人にお願いがあります」
「「……?」」
「これからは私の事を気兼ねなく、ミレイユって呼んで下さい。普通に砕けた口調で構いません」
「トーマさんは明らかに年上ですし……」
「分かった。じゃあこれからもよろしく、ミレイユ!」
「はい!」
確かに初めて会ってからさっきまで畏まった口調だったな。
「それだったらミレイユ、私の事も気軽にセリカって呼んで!丁寧な口調も無しでね!」
「うん、よろしくね!セリカ!」
「「…フフフ」」
セリカも一転してミレイユとどこにでもいる仲の良い親友同士のような間柄になった。
セリカにとっても同世代の女性冒険者が仲間になったのを心から嬉しく思っているのか、その表情は喜びに満ちている。
また賑やかなパーティーになってくる予感がして、嬉しさも込み上げるのだった。
そして…
「やっぱりここの唐揚げって食べ飽きないよね!」
「私も思ったけど、もっと種類増えてくれないかなってずっと思ってたのよ!」
「分かる分かる!」
「ねえねえ、今度はあそこのデザート食べてみない?気になるのあって……」
「いいね、それ!後で行こう行こう!」
「賛成!あっ、新発売のもあるじゃん!」
「……」
早めのランチを食事スペースで取ったものの、セリカとミレイユのガールズトークが始まりだした事で、ちょっとだけ蚊帳の外になってしまった俺であるのだった。
これから先、女性が喜びそうな知識を蓄え、それに関係する知見も磨かなきゃダメだと思う自分がいるのでした。
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