第20話 進化の兆し
俺が考えた作戦が成功し、”オーガナイト”は左脚を抑えて呻いていた。
ミレイユさんは【氷魔法LV.1】を習得している事や”オーガナイト”の突進力の凄さから、俺はそれを利用した戦術を思い付いた。
“オーガナイト”が勢いよく突進してきた瞬間、ミレイユさんの魔法でその片足を凍り付かせ、地面に接着するような状況を作った。
勢いよく脚を動かしているところを不意にかつ強引に拘束されてしまったら、そのエネルギーが身体に襲い掛かってくるって理屈だ。
理科の授業で習った覚えがある、慣性の法則って言う物理現象を試みる作戦を試みたのだ。
結果は成功、いや”オーガナイト”の片脚を骨折させる重傷を負わせたから大成功と言っていい中身だった。
大きいガレキに潜んでいた俺とセリカは一気に飛び出し、急所となる首筋や鳩尾を切り裂いてトドメを刺すのが作戦だ。
「オラアァ!」
「【剣戟LV.1】『ブリーズスラスト』!」
セリカは剣を抜いて”オーガナイト”の鳩尾を一突きにし、俺も剣で背中を切り裂いた。
しかし……。
「ガァァーーー!」
「何?」
「トーマさん、危ない!」
“オーガナイト”は不意に激昂しながら、上半身を勢いよく起こしてきた。
俺はその力に逆らえず、ふるい落とされてしまう。
セリカが声をかけた頃には、”オーガナイト”のすぐ側に落ちてた自分の大剣を俺に向かって投げつけてきた。
それは凄まじい回転がかかりながら飛んできており、一瞬で汗が噴き出す。
「グッ……」
俺は気力を振り絞り、【脚力強化】でスピードアップさせながら、身を捩って躱し切った。
「あっぶなー。って痛ッ」
俺の頬には斜め一筋の傷が走っており、髪の毛も数本切られたような気もした。
無理な態勢で避けた上に受け身もろくに取れなかったせいで、俺は脇腹を痛めた。
セリカの方を見やると、咄嗟に剣で防御したものの、”オーガナイト”のパワーの前に彼女も吹っ飛ばされてしまった。
パンチの追撃もどうにか躱したが、彼女もダメージを受けてしまった。
“オーガナイト”の鳩尾に刺し傷はあるものの、身体が想像以上に頑強なのか、深く入り切っておらず、ダメージを与えてはいるが致命傷には至らなかった。
俺が切った首筋も切り傷は付いて緑の血が流れているものの、こちらもまだ致命傷でない。
それでも片脚は折れているから立ち上がれてはいないが…。
「トーマさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「やっぱり、”オーガナイト”の身体はかなり頑強ですね。Dランクパーティーでもすんなり倒せないのがハッキリ分かりました」
「魔法は使ってこないけど、あのパワーとタフネスは単純に脅威ですね。今の私達では……」
セリカはダッシュで俺の下に駆け寄り、近くにいたミレイユさんも近づいてきた。
レア度Dでも屈指のパワーと頑強さを誇ると言われるのも、改めて納得した。
斬りかかる際に【腕力強化】のスキルを使ったにもかかわらずだ。
ミレイユさんも魔力が空に近い状況だ。
逃走もできる内にしようと思ったーーーー。
「グゥオオオオー!」
「「「え?」」」
“オーガナイト”の咆哮を聞いて見やると、何と折れた脚首で立ち上がってきた。
アドレナリンなのかどうかは分からないが、想像以上の精神力を見せる姿に、俺達は驚きを隠せないでいた。
「マジか?」
「メンタルも凄まじいの?」
「本格的にやばいですよ」
何とかしなければいけない。でないとセリカやミレイユさんが危ない。
必死で考えを巡らせ、守る気持ちを強く抱く俺だった。
(俺が絶対に守り抜いて見せる!)
ドクン!
「…ッ!?」
(大切と信じて思わぬ者のために、困難を乗り越えよ)
俺の頭に謎の声が聞こえてきた。
不意に心臓を鷲掴みにされた感覚とちょっとした酩酊感に一瞬襲われた。
そして身体の底から炎のように燃える何かを感じた。
「トーマさん?どうしました?」
「トーマさん?」
俺の機微を感じたセリカとミレイユさんが声をかけてきたが、俺は反応しなかった。
と言うより、込み上げる感覚に取りつかれたように集中するあまりできなかった。
「セリカ、その剣借りてもいいか?」
「え?どうしたんですか急に……」
「頼む。もしかしたら、何とかできるかもしれない」
「は、はあ……」
俺は不意にセリカに剣を貸して欲しいと頼み、彼女は何を思っているのかって表情をしながらも持っている剣を手渡した。
そして俺は”オーガナイト”の下に歩み寄る。
「トーマさん、何を?」
「危ないですよ!」
セリカとミレイユさんの呼びかけにも応えず俺は息巻く様子の”オーガナイト”に近付く。
誰が見ても自殺行為だ。
「グォォォーーーーーーー!」
「……」
“オーガナイト”は腕を振り下ろす。
俺はそれを見て……。
フッ…
ザシュッ!
素早く躱して”オーガナイト”の右腕の腱となる部分を切り裂いた。
「ガァァァーーー!」
「な、何なんですか、あれ……?」
「トーマさん……?」
“オーガナイト”の右腕は力なくだらんと垂れて、痛みで叫び声を上げた。
セリカとミレイユはまるで別人のような動きを見せる俺の姿に見入っていた。
「ギァオーーーーー!」
“オーガナイト”は再び俺に向き直り、残った左腕を振り下ろしてきた。
俺はその場を動こうとせずにその顔を凝視していた。
「「トーマさん!」」
動こうとしない俺を見たセリカとミレイユさんは大声で叫ぶ。
大岩を余裕で壊すほどの大きな拳が俺に迫る。
そして俺は無意識に目を見開き…。
ヒュッ……。
「【剣戟LV.1】『破鉄突き』!」
「ガァァァ……」
俺は”オーガナイト”の喉仏に突き立てた。
自分でも想像すらしていない速さと正確さでそのまま貫き、横薙ぎをした。
すると”オーガナイト”の首がドシンと岩床に落ちていき、光の粒子となって消えた。
「……」
「「……」」
俺は少しの息継ぎをして、見守っていたセリカとミレイユさんは固まっていた。
静寂が続いて数刻…。
「ハッ、俺は一体……?」
「「トーマさーーーん!!」」
「うおお、二人共?」
我に返った気分になった俺にセリカとミレイユさんが勢いよく駆け寄ってきた。
二人は涙目になりながら俺に抱き着いてきた。
「凄いですよ!一体どうなるのかって見守っていたら”オーガナイト”の首を両断して倒すなんてー。」
「もう、凄いですーってさっきから言っているけど、凄いです!アメイジング!」
「お、おぉぉ……」
セリカとミレイユさんはただひたすらに俺を褒めまくっていた。
俺は今の状況と直前まで感じていた何か、そして”オーガナイト”を撃破している事実に若干困惑していた。
俺の新しいスキルかどうかはまだ解明し切れていないが、二人を守れて何よりだ。
今はこの喜びを噛み締めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます