第19話 逆転を覆す一手
俺達はイバヤ遺跡と言うダンジョンの調査のクエストを遂行している最中、ミレイユと言う元いたパーティーに囮役を押し付けられて傷付いた魔法使いと出くわし、一度戻る決断をして出口へ向かう途中、レア度Dの”オーガナイト”と遭遇していた。
「トーマさん、ここは……」
「あぁ、そうだな……」
もう息がピッタリになってきた俺とセリカ…。
「「まずは逃げの一手―――!」」
「きゃあぁぁぁーーー!」
俺達はとりあえずその場を走って逃げた。
俺とセリカは【脚力強化】を発動させ、ミレイユは俺が肩に担いだ形でだ。
“オーガナイト”はドスドスと音を立てながら走って来るが、流石に逃げに徹した俺達には追い付く事ができず、何とかその場を撒く事には成功した。
「はぁ…はぁ……」
「何とか撒けた……」
「お二人ともスキル込とは言え、凄い身体能力ですね。トーマさんも私を抱えてあのスピードとは……」
「それほどでも……」
「私は魔法使いだから身体能力を強化するスキルを余り覚えられなくて……」
「私は軽戦士ですから、素早さには自信があるもので……」
息は上がっていたけど、”オーガナイト”を撒く事には成功した。
だが、”オーガナイト”があの場にいる以上、最早倒す以外に道はないと察した。
「にしても参ったな、あんなモンスターがいるなんてね。」
「”オーガナイト”はオーガの上位種ですからね、強力なパワーと頑強さが自慢でして、Dランクの冒険者パーティーも手こずるって話です」
セリカの言葉通り、あれほどに大柄かつ筋骨隆々なモンスターが大きな武器を振り回すなんて、相当厄介になるのは目に見える。
鬼に金棒なんて言葉があるけれど、さっきの”オーガナイト”を見たら本当にその通りだとハッキリ思わざるを得なくなる。
「でも、このまま一カ所に留まっていると見つかる可能性高いと思うんだよね、どうする?」
「すぐには見つからないと思いますけど、何か対策を打っていかないとその場しのぎの繰り返しでジリ貧になりかねないですね」
「そうですね……」
あんなモンスターが遺跡を巡回しているんだとしたら、一カ所に留まったままなのは悪手である。
どうしたもんかのような状況でいた。
「そう言えばミレイユさんって、どんな魔法が使えるのかな?」
「え?」
「もしも可能であれば見せてもらいたいんですけど……」
「この状況を打破するための突破口を開けるヒントが得られると思うんだ」
「わ、分かりました……」
俺とセリカは今行動を共にしているミレイユさんが魔術師である事とDランク冒険者である事以外の情報はない。
情報開示の許可を求めたところ、ステータスを見せてくれた。
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名前:ミレイユ・パプリフォス
性別:女
種族:ヒューマン
属性:無
年齢:20
職業:魔術師
レベル:25
冒険者ランク:D
スキル:
〈ベーススキル〉
【魔力探知LV.1】
モンスターや人の気配を半径100M以内の範囲で察知できる。
〈ジョブスキル〉
【炎魔法LV.1】
炎魔法を使用できる。
【水魔法LV.1】
水魔法を使用できる。
【水魔法LV.2】
LV.1より強い水魔法を使用できる。
【氷魔法LV.1】
氷魔法を使用できる。
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「流石は魔術師、三種類の魔法が使えるなんて……」
「羨ましい。」
「いえ、そんな事はないです!これだけの種類があれば戦術の幅が広がりますよ。程度に差はあれど、いくつもスキルや魔法があるのは大きなアドバンテージですから……」
「…ッ!」
俺とセリカはミレイユさんの魔術師らしく3種類も魔法が使える事を羨ましく思った。
俺はともかく現時点のセリカは魔法が1種類しか使えないため、彼女も誉めたくなってしまうのは分かる気がする。
「…嬉しいです」
「本当だって、魔法をまだ習得できない俺から見れば羨ましいったらありゃしない……」
「【氷魔法】を習得している魔術師に出会うのって、かなり久しぶりですか……。」
「……」
俺とセリカがべた褒めしているとミレイユさんは頬を赤らめていた。
前のパーティーでは手頃なコマ扱いしかされていなかったんだなって想像がついた。
できる事が多くある冒険者を重宝しようとしないなんて、どれだけ酷い連中なのやらと再度思ったが、今はそれを考えている場合じゃない。
「あのミレイユさん、一つ聞きたい事があるんだけど……」
「はい?何でしょうか?」
「【氷魔法LV.1】ってあるんだけど、実際にどんな事ができるか確認したいんだ」
「文字通り氷を撃つだけなのか、冷気を浴びせる事もできるのか……」
「えっと、それでしたら……」
俺は素朴に思った質問をぶつけ、ミレイユさんは具体的に説明した。
聞いたところ、良くても直径1メートルの氷の刃物や着弾したらその周りを少しだけ凍らせる弾丸を撃つもしくはかなり冷たい冷気を放てるところまで知る事ができた。
「なるほどね……」
「トーマさん、どうかしましたか?」
「セリカ、魔力回復のポーションってまだ残ってるかな?ミレイユさんに飲ませたいんだけど……」
「数本残ってますけど、何をするのでしょうか……」
「ミレイユさん、セリカもちょっと耳を貸して欲しいんだけど……」
「「…ッ?」」
「もし、”オーガナイト”がね……」
俺はセリカとミレイユさんに耳を借りるような形でボソボソと呟くように話した。
それから少しの時間が経って……。
「トーマさん、”オーガナイト”が来ましたよ……」
「予想以上に早く来たな、ミレイユさんも準備は……」
「大丈夫です、できてます!」
セリカの【気配探知LV.1】で”オーガナイト”が近くまで来ている事を補足してもらい、俺とミレイユさんは一緒に近くの物陰に隠れていた。
ミレイユさんにはセリカが持っていた魔力回復のポーションを飲ませ、彼女の魔力をいくらか回復させておいた。
この作戦は、彼女の魔法なしでは成し得ない事だから。
ほどなくして、”オーガナイト”が近くまで重い足音と共にやってきた。
「グゥゥゥ。」
そして…。
「【炎魔法LV.1】『ファイアーボール』!」
「グゥゥゥ!?」
不意に”オーガナイト”の顔に火の玉が飛んだ。
飛ばしたのはミレイユさんであり、さっきまでとは打って変わって何か決意したような表情をしていた。
「さぁ、かかってきなさい!」
「ウゥゥゥッ!」
“オーガナイト”はミレイユさんを見るなり、唸り声を上げながら突進しようとして来る。
力強く踏み込んで来る事を確認したミレイユさんは逃げるように反転して真っすぐ走る。
「グォォォーー!」
「今だ、【氷魔法LV.1】『フリーズショット』!」
ミレイユさんは杖から【氷魔法LV.1】による攻撃を放った。
それは”オーガナイト”の左足首に命中し、一瞬でその足首周りが凍りつく。
地面に釘付けにするような形で……。
「グオッ?」
「よし!」
「ガァァ!」
すると”オーガナイト”はバランスを一気に崩し、うつ伏せに転げ落ちた。
そして”オーガナイト”の左足首はものの見事に折れ曲がっており、しばらく立ち上がれなかった。
「トーマさん、セリカさん、今です‼」
「よっしゃー!」
「―――…ッ!」
俺とセリカは近くに潜んでいたガレキから奇襲をかける。
そう、これが作戦であるのだ。
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